英雄伝説~灰の騎士の成り上がり~
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第66話
1月29日――――――
翌日、アトリエに集まったアリサ達はローゼリアからの報告を聞いていた。
~ロゼのアトリエ~
「さて、おぬしらに朗報じゃ。昨日までの奮闘あって、”特異点”も5つまでは固定できたが……不明であった残り二つの場所も、昨夜まででようやく絞れたぞ。」
「本当、お祖母ちゃん……!?」
「して、その場所は?」
ローゼリアが口にした朗報にエマは驚き、ラウラは真剣な表情で訊ねた。
「うむ――――――一つは”帝都ヘイムダル”の地下。もう一つは”クロスベル州”――――――いや、”帝都クロスベル”の近郊じゃ。」
「……………クロスベルはともかく、ヘイムダルは難しい場所だな。」
「帝都方面はエリオットとサラに一度調べにいってもらったけど……」
「うん、でも警戒が強くて市街地しか確認できなかったんだよね。」
「広さもあるし、改めて地下を探るならそれなりに人数が要りそうね。」
ローゼリアの説明を聞いたマキアスは考え込みながら呟き、フィーに話を振られたエリオットとサラはそれぞれ答えた。
「対してクロスベルはヴァイスハイト皇帝から紅き翼がクロスベル帝国領内で活動することが許可されている為、そちらに関しては少人数でも問題はないだろう。」
「うん、それに一度クロスベルで活動している他のみんなの様子も確かめておきたいから、クロスベルに関してはわたしやアンちゃん達が担当した方がいいとは思うけど……」
「問題は本来の歴史のように、今までの”特異点”の時みたいにやり合う羽目になる相手だが……」
「どうせ、今までのパターンを考えると、高確率でクロスベルでもギリアスや結社、黒の工房の関係者達とやり合う羽目になるんじゃねぇのか?」
「おい、チビ猫。てめぇならどうせ”本来の歴史”とやらでクロスベルでやり合うことになる連中も知っているんだろうから、ラマールの時のような出し惜しみをせずにとっとと俺たちに教えろや。」
ユーシスの分析にトワは頷き、アンゼリカが考え込んでいる中クロウは疲れた表情で溜息を吐き、アッシュはジト目でレンに情報を要求した。
「はいはい。――――――とはいっても、クロスベルでやりあうことになるかもしれない人たちが現れる確率は本来の歴史での出来事を考えると正直、かなり低いと思うのよねぇ。」
「それはどういう事なのだろうか?」
「――――――”本来の歴史”で新Ⅶ組がやり合うことになった者達の本当の目的はクロスベルに発生した”試練の場”でルーファス・アルバレアを”金の騎神”の”起動者”にすることであり、新Ⅶ組は偶然その場に鉢合わせてしまったからだ。」
「本来の歴史の兄上が……」
「……恐らく”黄昏”による霊脈の活性化によって”試練の場”が現れたのでしょうね。」
レンの話を聞いて不思議そうな表情をしているガイウスの疑問に答えたレーヴェの説明を聞いたユーシスが複雑そうな表情をしている中、セリーヌは目を細めて推測した。
「フム………しかしそうなると、レン皇女殿下の仰る通り、クロスベルに関しては今までの特異点の時と違って、宰相側の使い手たちと鉢合わせになる可能性は低いだろうね。」
「ああ…………本来の歴史と違ってルーファスは既に討死している上、肝心の”金”はエリス嬢ちゃんを起動者にしてメンフィルが手に入れているから、今の連中にとって”敵地”であるクロスベルに潜入してまで行う目的がないだろうからな。」
レーヴェの説明を聞いてあることに気づいたアンゼリカは静かな表情で呟き、クロウは安堵の表情で答えたが
「ううん……そう決めつけるのは早いと思うよ?」
「それはどういう事かしら、トワ?」
対するトワは真剣な表情で反論し、トワの反論が気になったサラは続きを促した。
「……昨日郷に戻ってきた教官達にも説明したように、ミュゼちゃん達を捕らえるつもりだった鉄道憲兵隊が逆にミュゼちゃん達の罠に嵌まって捕虜になってしまった時なんですが……その時指揮官であるミハイル少佐はエリゼちゃんの”神機”もそうですけどエリスちゃんの”金の騎神”について、情報局はまだ掴んでいないような事を口にしていたんです。」
「……それは本当ですか?既にメンフィル・クロスベル連合が侵攻している事を考えると、その際の戦闘で神機やエル・プラドーもヴァリマール達と共に戦っていて、その情報も情報局がつかんでいると思われるのだが……」
「ああ、あの”鉄屑”達ならエレボニアに侵攻した時に使ったのはリィンとリアンヌのだけで、エリゼとエリスはまだ使っていないから敵はまだ知らないかもしれないね。」
「ヴァ、ヴァリマール達――――――”騎神”が”鉄屑”って…………」
「まあ、エヴリーヌ君はオズギリアス盆地で機甲兵を魔術による炎で一瞬で溶かしたベルフェゴールさんと同じ”魔神”との事だから、彼女にとっては”騎神すらも鉄屑”なんだろうねぇ…………―――それはともかく、レン皇女殿下。今の話は本当なのですか?」
トワの話を聞いたラウラが眉を顰めて推測を口にするとあることを思い出したエヴリーヌの答えにその場にいる多くの者達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中アリサはジト目で呟き、疲れた表情で呟いたアンゼリカは気を取り直してレンに尋ねた。
「ええ。双龍橋の制圧戦や第四機甲師団への奇襲も、出撃した騎神は”灰”と”銀”だけよ。」
「……そうなると、情報局も”金の騎神”が既にメンフィル・クロスベル連合側である情報を掴んでいない可能性は十分に考えられるな。」
「で、”金”に既に起動者がいることを知らない連中が”金”を手に入れる為にのこのことクロスベルに現れて俺たちと鉢合わせしてやり合うことになるのが目に見えているじゃねぇか……」
レンの説明を聞いたマキアスは考え込み、クロウは疲れた表情で溜息を吐いた。
「その…………ちなみに”本来の歴史”で新Ⅶ組がクロスベルでやり合った人達はどういうメンバーなんでしょうか?」
「直接新Ⅶ組がやり合った者達は”道化師”、”かかし男”、そして”死線”との事だ。」
「!それじゃあシャロンがクロスベルに現れる可能性があるんですね……」
トワの質問に答えたレーヴェの答えを聞いたアリサは血相を変えて真剣な表情を浮かべた。
「あくまで”可能性”の上、やり合うことになったとしても”本来の歴史”通りのメンバーとは限らないわよ。実際ラマールのオズギリアス盆地では”紅の戦鬼”を含めた”赤い星座”は現れなかったもの。」
「そうね…………”今”と”本来の歴史”は大筋の流れは同じとはいえど、状況は”本来の歴史”と比べるとあまりにも違う点がいくつもあるのだから、”本来の歴史”による情報を過信して行動することはあまり得策でないことは確かね。」
「それでもシャロンと話せる可能性があるんだったら、私はそれに賭けるわ……!」
「それじゃあアリサはトワ会長達とのクロスベル行きは確定だね。」
「あとは私達Ⅶ組からアリサさんを含めて二人とレン皇女殿下達から一人入れば良さそうですね。ただ……」
レンとセリーヌの忠告を聞いてもなお決意を揺るがさないアリサの様子を見たエリオットは静かな表情で呟き、エマは今後の方針を口にした後ある事実に気づいていた為ローゼリアに視線を向け
「うむ――――――問題は距離じゃな。そもそも前提として、あちらの方に転位石があるわけでもないからの。」
「あ…………」
「当然、その問題はあるか。」
ローゼリアの話を聞いたその場にいる多くの者達が血相を変えている中トワは呆けた声を出し、ガイウスは真剣な表情で呟いた。
「元々シュタットの森から各地方に出ることだけを想定しておるからな。じゃが徒歩で行くわけにもいくまい。何か手立てを講じる必要があろう。」
「とはいえクロスベルに行くまでの駅でTMPの臨検がある大陸横断鉄道は使えないし……」
「オリヴァルト殿下と別行動中の今の状況ではアルノール家所有のカレイジャスを勝手に動かす訳にもいかないね。」
ローゼリアの話に続くようにマキアスとアンゼリカはそれぞれ考え込みながら呟いた。
「どうせオリビエの事だから、勝手に自分の船を動かしても気にしないと思うし、そもそも”オリビエなんか”にわざわざ気を使う必要はないと思うけどね。」
「エヴリーヌお姉さま、オリビエお兄さんは”あんなのでも一応エレボニア帝国の皇族”だから、エレボニア帝国の人達はオリビエお兄さんに気を使わないといけないのよ、クスクス♪」
エヴリーヌとレンのオリヴァルト皇子に対するぞんざいな扱い方にレーヴェを除いたその場にいる全員は冷や汗をかいて表情を引き攣らせ
「まあ、放蕩皇子の扱いはともかく、放蕩皇子の性格を考えると自分が乗船していない状況かつ無許可でカレイジャスを動かしても特に文句は言わないと思うがな。――――――ましてやその目的は自分の弟を奪還する為なのだから、むしろ賛成するくらいだろう。」
「例えそうだとしても、殿下を含めたアルノール家の方々が不在の状況でアルノール家所有のカレイジャスを動かす事はできないな。」
「それだったらもういっそ、そこのチビ猫達を利用したほうがいいんじゃねぇのか?期間限定とはいえ、一応”協力者”なんだろう、そいつらも。」
レーヴェの指摘に対してユーシスが答えるとアッシュがある提案をしてレン達に視線を向けた。
「確かにそれは盲点だった。」
「そうね…………メンフィルから飛行艇の手配をしてくれるなり、転位でクロスベルに送る事をしてくれるべきなんじゃないかしら、”協力者”なら。」
アッシュの提案を聞いたフィーは目を丸くし、サラはジト目でレン達に視線を向けて要求した。
「仕方ないわねぇ……そういう事だからエヴリーヌお姉さまは今回はクロスベル組に協力して、トワお姉さんたちを転位魔術でクロスベルまで連れて行ってあげて。」
「えー、何でエヴリーヌがそんなめんどくさい事を……」
アッシュの要求に対して溜息を吐いたレンはエヴリーヌに頼み、レンの頼みに対してめんどくさそうな表情で答えたエヴリーヌの答えにその場にいる多くの者達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「仕方ないでしょう?レーヴェは転位魔術を使えないし、レンの魔力じゃ、この郷からは結構距離があるクロスベルまで6人も連れて転位できないもの。――――――それに、クロスベル組の方が楽しめると思うわよ。何せリベールの異変でグロリアスを制圧する際に”仕留め損ねた道化師に止めを刺せる絶好の機会”があるかもしれないわよ♪」
「そういえばそんな奴もいたね。それならちょっとは楽しめるかな?キャハッ♪」
「な、なんて物騒な会話だ……」
「実際こうして接しているとぶっちゃけ、”紅の戦鬼”よりも残虐な気がしてきたね、”殲滅の姉妹(ルイン・シスターズ)”は。」
レンとエヴリーヌの物騒な会話にその場にいる多くの者達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中マキアスは疲れた表情で呟き、フィーはジト目で呟いた。
「……それにしても今回の件で異世界の異種族達の中でも”最強”を誇る”魔神族の化物っぷり”をつくづく思い知らされるわね。」
「6人も連れて余裕で遠方に転位できる程の莫大な霊力に、宇宙より隕石を呼び寄せると言った”天災クラス”の魔術を易々と扱えるからの……そのような連中を纏めて敵に回す羽目になった”黒”が哀れに思える程じゃの。」
「そうね…………それにエヴリーヌさんの好戦的な性格を考えると、ベルフェゴールさん自身が言っていたように、ベルフェゴールさんの方がよほど温厚な性格ね…………」
「フン…………そもそも”化物”共を俺達”人間”と同じ尺度に考える時点で間違っていると思うがな。」
気を取り直して呟いたセリーヌの言葉にローゼリアは真剣な表情で頷き、複雑そうな表情で呟いたエマの言葉にユーシスは鼻を鳴らして呆れた表情で指摘した。
「あの、レン皇女殿下。……ラマールでトワ会長達がステラさん達に会った時に、ステラさんが僕の知らない”婚約破棄後のトリシャ姉さんの事実”があると仰って、レン皇女殿下はそれをご存じとの事ですが……一体レン皇女殿下はトリシャ姉さんの何をご存じなのでしょうか?」
するとその時あることを思い出したマキアスがレンに訊ね
「知っているも何も、”トリシャ・マーシルンはレンの親戚の一人”なのだけど?」
「……………………へ。」
「な――――――」
「ええっ!?マキアスの親戚のお姉さんがレン皇女殿下の……!?」
「それもメンフィル皇家の姓である”マーシルン”の名があるということは、間違いなくその人物はメンフィル皇家の人物に嫁いでいるのだろうな。」
「ちょ、ちょっと待って!?確かマキアスの話にあった従姉のお姉さんって、死んだんじゃなかったの!?」
マキアスの質問に対して小悪魔な笑みを浮かべて答えたレンの答えを聞いたマキアスが呆けている中、ラウラは絶句し、アリサは驚きの声を上げ、ユーシスは信じられない表情でマキアスに視線を向け、あることが気になったエリオットは困惑の表情で訊ねた。
「確かに”トリシャ・レーグニッツは婚約破棄の件でショックのあまり、川に身を投げて自殺したけど遺体は未だ見つかっていない”――――――そうでしょう?」
「は、はい…………」
「え……お姉さんの遺体は見つかっていないの?」
レンの確認にマキアスが戸惑いの表情で頷くと、トワは不思議そうな表情でマキアスに訊ねた。
「ええ。姉さんが投身自殺をした日はちょうど大雨の日でして…………もしかしたら雨で増水した影響で河の流れが激しくなって、海まで流されたんじゃないかって憲兵達や父さんが姉さんの遺体の捜索を依頼した遊撃士が言っていたらしいんですが……」
「それが何で実は異世界にで生きていて、メンフィルの皇族の嫁になっているっていう超展開になってんだよ?」
トワの疑問にマキアスが答えるとアッシュが疲れた表情でレンに訊ねた。
「さあ?”自殺したはずのトリシャ・レーグニッツがディル=リフィーナに異世界移動した理由は未だに不明”だけど、”この世界もそうだけどディル=リフィーナもが並行世界の零の御子によって改変された世界”であると判明しているのだから、死んだはずのトリシャ・レーグニッツが実は生きていて、しかもロレントの大使館にある異世界転位門を経由もしていないのに異世界に流れ着いた”心当たり”はあるでしょう?」
「!まさか……!」
「――――――並行世界の零の御子による”因果改変の奇蹟”か?」
アッシュの疑問に対して肩をすくめて答えた後意味ありげな笑みを浮かべたレンの指摘を聞いて事情を察したセリーヌは目を細め、ローゼリアは真剣な表情で推測を口にした。
「恐らくそうでしょうね。――――――ちなみに、ディル=リフィーナに流れ着いて気を失って倒れているトリシャ・レーグニッツが発見されたのは今から6……いえ、7年前よ。」
「7年前って事はマキアスの姉貴が自殺した年とも一致しているんじゃねぇのか?」
「あ、ああ…………あの…………それ以前に本当にその人は”姉さん”なんでしょうか?」
レンの答えを聞いてあることに気づいたクロウの指摘に戸惑いの表情で頷いたマキアスは困惑の表情でレンに訊ねた。
「うふふ、こんなこともあろうかと”アレ”を用意しておいてあげたわ。というわけで、マキアスお兄さんに昨夜ツーヤのところに取りに行った”アレ”を渡してあげて、エヴリーヌお姉さま♪」
「ん。――――――はいこれ、ツーヤから。」
小悪魔な笑みを浮かべたレンの言葉に頷いたエヴリーヌはマキアスに写真を渡した。
「…………………………………………え。」
マキアスはエヴリーヌに手渡された写真にツーヤやサフィナと一緒に写っている金髪のまさに”貴公子”を現すような貴族の青年と貴族の子女らしき幼い女の子に挟まれてドレスを身に纏い、赤ん坊を抱いて幸せそうな表情を浮かべている自分にとっては見覚えがありすぎる女性を見て呆けた。
「あ、あれっ!?こ、この人……!」
「以前のマキアスの話にあった姉君に非常に似ているが…………」
マキアスの隣に座っていた為マキアスと共に写真に写っている女性を見たエリオットは驚いてラウラと共に幼い頃のマキアスやかつてのレーグニッツ知事と共に写っている女性を思い出した。
「――――――トリシャ・マーシルン。サフィナ元帥の一人息子にして現ミレティア領主であり、ルクセンベール卿とセレーネの義理の兄であるエリウッド・L・マーシルン公爵に行き倒れの所を救われ、様々な経緯によってエリウッド公に”正妻”として嫁いだ記憶喪失の女性との事だ。」
「な、ななななな……っ!?」
「ええっ!?ということは話にあったマキアスさんのお姉さんはセレーネさんにとっては義理の姉にも当たる方なんですか!?」
「しかも記憶喪失で身分もわからぬ女性が、皇家の一員かつ公爵家の当主の”正妻”として嫁ぐ等、信じられん出来事だな……」
「一体どんな経緯があって、マキアス君のお姉さんはそのような事になったんですか?」
レーヴェの説明を聞いたマキアスが混乱している中、エマは驚きの声を上げ、ユーシスは信じられない表情をし、アンゼリカは目を丸くしてレンに訊ねた。
「レーヴェの話にあったように、当時自分の名前が”トリシャ”である事以外は何も覚えていない記憶喪失で身元も不明で途方にくれていた彼女をほおっておけないエリウッドお兄様が彼女をメイドとして雇う事にしたのよ。記憶喪失で身元がわからない事から、最初はどこかの国の刺客かと怪しまれていたけど……気立てが良く、誰よりも働き者な性格だったから、周囲の人達も段々と彼女の事を信用し始めて、3年後に互いに相思相愛の間柄になった二人はめでたく結婚したのよ。」
「……………………」
「エリウッド公爵閣下のご両親や他のメンフィル皇家の方々、それに貴族の方々は反対しなかったのですか?」
レンの説明を聞いたマキアスは口をパクパクさせ、ラウラは信じられない表情で尋ねた。
「勿論あったそうだけど、直に彼女と会って彼女の人柄やエリウッドお兄様と相思相愛の間柄である事を悟ったエリウッドお兄様の母親であるサフィナお姉さまやパパ、それにシルヴァンお兄様も認めたから、二人の結婚は認められて多くの人達に祝福されて結婚したわよ。」
「な――――」
「母親もそうだが、リウイ前皇帝陛下や今のメンフィル皇帝もマキアスの従姉とエリウッド公爵という人物の結婚を認めたのですか……」
「前メンフィル皇帝の”英雄王”どころか、現メンフィル皇帝まで認めたら、さすがに二人の結婚を反対していた連中も認めざるを得ないでしょうね………」
「皇家の分家の当主と身元不明かつ記憶喪失の女性の結婚を皇帝が認める等、常識で考えれば信じられない出来事だがな。」
「フム………そのような普通に考えればありえない事に対する貴族たちの反対の声すらも黙らせるとは、ヌシ達マーシルン皇家はあらゆる意味で”強い力”があるようじゃの。」
レンの説明を聞いたマキアスは驚きのあまり絶句し、ガイウスは信じられない表情で呟き、セリーヌは呆れた表情で呟き、ユーシスは静かな表情で呟き、ローゼリアは興味ありげな表情でレンに視線を向けた。
「当り前でしょう?パパは何といってもメンフィル帝国初代皇帝にしてメンフィル建国の父だし、シルヴァンお兄様はパパと”メンフィルの守護神”と称えられたシルフィアお姉さんの息子だし、そもそも前から言っているようにメンフィルは”血統主義”のエレボニアと違って”実力主義”だから、”尊き血”は重視していなくてその人自身の実力や人柄を重視するし、メンフィル程の大国になるとわざわざ政略結婚をする必要もないから、基本レン達―――メンフィル皇家の人達は自分達で決めた伴侶との結婚が認められているのよ♪現にエリウッドお兄様の少し前に別のメンフィル皇家の分家の当主が傭兵の女性と恋仲になって、その傭兵を自分の正妻にしたわよ。」
「ええっ!?よ、傭兵がメンフィル皇家の分家の当主の正妻に!?」
「そっちもそっちで、色々な意味でありえなさすぎよ……」
レンの答えを聞いたエリオットは驚き、サラは疲れた表情で呟いた。
「何はともあれ、自ら命を断ったと思われていた”家族”が生きていてよかったね、マキアス君。」
「は、はい。……えっと、姉さんは記憶喪失との事ですが、少しでも姉さんの記憶は戻ったのでしょうか?」
トワの言葉に明るい表情で頷いたマキアスはレンに訊ねた。
「いいえ。後のメンフィルの調べでトリシャお姉さんの親類であるレーグニッツ知事やマキアスお兄さんの事が判明して、それをトリシャお姉さんに教えても、トリシャお姉さん本人は他人のようにしか感じなくて、未だ記憶は戻っていないそうよ。」
「”トリシャ・レーグニッツという人格は消え、新たなトリシャという人物として生き続けている”ということになるから、そういう意味では”トリシャ・レーグニッツが死んだ”という事はあながち間違いではないだろう。」
「……………………それでも……それでも”姉さん”が生きていて幸せになっていることだけは本当によかったです……」
「マキアス……」
レンとレーヴェの話を聞いて少しの間黙り込んでいたマキアスは安堵の表情で呟き、マキアスの様子をガイウスは静かに見守っていた。
「その…………今回の戦争の件が終わってからで構いませんので、姉さんと会わせて話をさせてくれないでしょうか?」
「戦争中の今だったら即断っているけど、戦後だったら別に構わないわよ。後でパパに事情を話して、トリシャ・マーシルンと実際に会って話をする機会を設ける手配をすることを伝えてあげるわ。」
「!あ、ありがとうございます……!」
自身の頼みに応じたレンの答えにマキアスは明るい表情をした。
翌日、レンからメンフィル帝国の本国より届いたウィル作の真新しい武装を受け取ってそれぞれ装備したトワ達はクロスベル組に選んだアリサとガイウスと共にエヴリーヌの転位魔術で帝都クロスベル近郊の街道に到着した後、まずはクロスベルで活動しているトールズの面々の状況を確かめるために空港に停泊しているカレイジャスを訪ねると、パトリックとセレスタンが対応し、トワ達はブリーフィングルームに案内されるとこれまでの出来事を説明した――――――
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