魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~
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無印編
第18話:解き放たれる魔弓
時は少し遡り、ウィザード達がメイジと戦闘に入っていた頃、翼はネフシュタンの鎧を着た少女を相手に苦戦を強いられていた。
「ガハッ?!」
「翼さんッ!?」
ネフシュタンの少女の蹴りが、一瞬の隙を突いて翼の腹に突き刺さる。翼はその一撃を諸に喰らってしまい、苦悶の声を上げながら吹き飛ばされた。
「ネフシュタンの力だなんて思うなよ? あたしの天辺は、まだまだこんなもんじゃねぇぞ?」
蹴り飛ばされた先で蹲る翼に対し、ネフシュタンの少女は余裕の表情を崩さない。口元に笑みを湛え、翼を見下した目で見ている。
堪らず翼の援護の為に飛び出そうとする響だったが、少女が向けた杖から放たれたノイズによりそれは阻まれてしまう事となった。
「お呼びじゃないんだよ、こいつらの相手でもしてな」
「えっ、ノイズが操られてる!? どうして?!」
「そいつがこの、ソロモンの杖の力なんだよ。雑魚は雑魚らしく、ノイズと戯れてな!」
矢鱈と背丈が高く、天辺には丸い頭部と鳥の嘴の様な突起が付いている。トーテムポールとダチョウが融合したような姿のノイズだ。
そのノイズの嘴から放たれた粘液により絡め捕られ、響は身動きを封じられてしまった。
「うえぇっ!? 何これ、動けないッ!?」
響が完全に身動きを封じられたことに少女は勝ち誇ったような笑みを浮かべるが、次の瞬間体勢を立て直した翼が大剣にしたアームドギアを手に突撃した。
「はあぁぁぁっ!!」
「ッ!? くっ!?」
咄嗟に鞭を両手で掴み翼の一撃を防ぐ少女。相手が守勢に回ったと見て、翼は更に追撃した。
「油断したな! その子にかまけたのが命取りだ!!」
「このっ!? 調子に、乗るなぁッ!!」
勢いに乗せて何度も振るわれる大剣を何度か防いだ少女は、鞭を翼の足元に向け突き刺すように投擲する。その攻撃を僅かに下がる事で回避した翼だったが、少女は地面に鞭が突き刺さったその反動を利用して逆にその場から大きく距離を取った。彼女の狙いが攻撃ではなく大剣の間合いからの退避であることに気付いた翼は逃すまいと接近しようとするが、それより早くに少女が地面に突き刺したのとは逆の方の鞭から白いエネルギーの球体を放った。
「ちょせぇっ!!」
[NIRVANA GEDON]
自身の接近にカウンターで放たれた球体を、翼は大剣を盾にすることで何とか防ぐ。だがこの攻撃が意外と威力が高く、防ぐ為にはその場に踏み止まらざるを得なかった。
それこそが少女の狙いであった。彼女は地面に突き刺した方の鞭を回収するとそちらから今のと同じ技を放ったのだ。
「もってけ、ダブルだッ!!」
先程の奴にこれが直撃すれば、2つのエネルギーが爆発して凄まじい威力になる。それは分かっているのだが、前述した通り今の翼は踏み止まるので精一杯であり回避の為に動くことが出来ない。
そのままエネルギー球が翼に迫り──────
「ん? うおぉぉぉぉっ!?」
「どわぁぁぁぁっ?!」
何の偶然か、転移したウィザードと奏が翼とエネルギー球の間に現れた。迫るエネルギー球に気付いた2人は咄嗟に防御態勢を取り、2人で受け止めたことでエネルギー球を押し退ける事に成功する。
「ッ! ハァッ!!」
それを見て気合を入れ直した翼も、何とかエネルギー球を打ち払う事が出来た。
窮地を脱した翼。だが転移した直後に敵の攻撃に曝されることとなった奏は、とんでもない所に出たウィザードに猛然と抗議した。
「あ、あっぶねぇぇぇ……」
「何で敵の攻撃のド真ん前に出るんだよッ!? しず〇ちゃんちの風呂場に出口繋げた〇び太かッ!?」
「しょうがねえだろッ!? 穴掘った先に何があるか分かるモグラが居るかッ!? つかあっちは明らかに確信犯だろうがッ! 普通だったら玄関先とかに出口繋げるわッ!!」
「じゃあ颯人も公園の入り口に出れば良かったじゃないか。それが何で公園の中で、しかも敵の攻撃のド真ん前なんだよ? 馬鹿かお前はッ!?」
「と、止めなくていいんでしょうか?」
「……止まると思う?」
「う……」
「………………お~い」
互いにヒートアップしてきたのか、2人の言い争いは続いた。翼と響のみならず、ネフシュタンの少女も間に割って入ることが出来ず2人の口喧嘩をジトっとした目で見ている。声を掛けても無視されていた。
「んなもんお前が翼ちゃん達の危機に焦ってると思ったから、直ぐに戦闘に参加できるようにしてやろうとしただけじゃないか。それに結果的に翼ちゃん助けられたんだから御の字だろうがッ!」
「開き直んなッ!? 一歩間違えれば何もせぬままにお陀仏だって分かってんのかお前はッ!?」
「…………おい」
「いいだろうが、結局間違いは起こらなかったんだし。過ぎた事を何時までもグダグダ言うなッ!?」
「あ、お前それ言ったらお終いだろうがッ! 結果論で反論封殺とか汚ねえぞッ!?」
「封殺じゃありません~、事実です~。危なかったのは確かだけどお陰で翼ちゃんの窮地助けられたんだからそれでいいだろうが。なぁ翼ちゃん?」
「へっ!? あ、まぁ…………はい」
「ほら?」
「この野郎────!?」
「……おい!」
「大体なッ!? 転移する時いきなり腰掴むな、ビックリすんだろうがッ!?」
「だ~か~ら、一緒に転移する時は接触してれば確実だったんだよ。緊急時の人工呼吸みたいなもんだ、いちいち目くじら立てんなッ!」
「触るだけなら手ぇ掴むだけで良かったろうがッ! 腰掴んで引き寄せるとか、下心見え見えなんだよ馬鹿ッ!?」
「ねぇよ、下心なんてッ!? ガキじゃねぇんだからあの程度で騒ぐなッ!?」
「何をぉっ!?」
「やるかッ!?」
「オイッ!?」
「「さっきから何だよッ!?」」
自分を無視して2人だけで喧嘩を続けるウィザードと奏に、業を煮やしたネフシュタンの少女は大声で2人に声を掛ける。間に割って入られたことで2人揃って怒鳴り返すと、それに腹を立てたのか少女は再び2人に向けてエネルギー球を放った。
「無視すんなッ!?」
[NIRVANA GEDON]
放たれたエネルギー球を、2人は防御せず翼の傍にまで飛び退くことで回避する。半ばやけくそ気味に放った攻撃を回避され、ネフシュタンの少女は盛大に舌打ちした。
一方、翼の傍まで飛び退いた2人はそれまでの険悪な雰囲気を一瞬で霧散させ、息の合った動きで響を拘束しているダチョウ型ノイズを一瞬で始末し2人を庇う様に立ち塞がる。
「やれやれ、気性の荒いお嬢ちゃんだ。まるで警戒心の強い猫だな」
「猫云々はともかく、あいつがネフシュタンの鎧を使ってるってことは大問題だ。こいつは意地でもお縄についてもらわないとね」
「んじゃ、あのお嬢ちゃんの相手は俺に任せてくんな。ああいう輩は俺向きだ。奏は周り警戒しといてくれ。多分さっきの奴、俺らを追っかけてきてるだろうから」
然も当然のように且つ素っ気なく奏を下がらせるウィザード。だが彼女は彼の言葉の裏に別の意図があることに気付いていた。
「……その心は?」
「少し休んでなッ!」
言うが早いか、ウィザードはネフシュタンの少女に向けてソードモードにしたウィザーソードガンを手に突撃した。向かってくる彼に、ネフシュタンの少女は先程無視され続けた怒りも乗せて鎖鞭を叩き付ける。
「ちょせぇっ!!」
自身に向けて迫る紫色の鎖鞭、ウィザードはそれを受け止める事はせず紙一重で回避すると一気に懐に入り込み少女に剣を振り下ろす。武器の相性的に考えて、中距離ならともかく近距離ならば少女はロクな反撃も出来ない筈であった。
「もらった!」
「ッ!? んの──!?」
だが彼の予想に反して少女は対応して見せた。素早く鎖鞭を両手で掴み受け止める体勢を取ってウィザードの斬撃を受け止めると、その状態で足を振り上げウィザードを蹴り上げようとする。
寸でのところでそれに気付いた彼は、軸をずらして横に転がるようにして蹴りを回避。そこから膝立ちになったままガンモードにしたウィザーソードガンの引き金を数回引く。無数の銃弾が少女に向け飛んでいくが、彼女はそれを回転させた鎖鞭で全て防いでしまった。
ここでウィザードは、少女への攻撃を一旦止めた。彼は素直に、少女の反応速度や対応力に舌を巻いていた。単純に装備の力に頼っていては出せない強さだ。威勢が良いだけではないらしい。
──正面切っての戦いはチョイとばかし厳しい、か。なら!!──
何時までもこの少女の相手をしていては、先程のメイジが乱入してくる可能性が高い。確定情報ではないが、彼女とあのメイジは無関係ではないだろう。タイミング的に考えて、仲間である可能性は非常に高い。
ウィザードの知る限り、“例の組織”は魔法使いのみで構成されていた筈なのであの少女とメイジの関係性がイマイチ不明瞭だが、一口に無関係と断じるには出現のタイミングとメイジの動きが不可解過ぎる。関係があるという前提で考えた方が危険は少ないだろう。
時間を掛けるのは得策ではない…………早々に決着を付けなければ。そう考えたウィザードは左手の指輪を赤から青い物に変えた。
〈ウォーター、プリーズ。スィー、スィー、スィー、スィー!〉
左手を翳すと青い魔法陣がウィザードの体を包み、仮面は青いひし形となり全身の各赤い部分も同色・同形に変化する。
司るは水の属性、4つあるウィザードのスタイルの内最も魔力量に優れたウォータースタイルとなったウィザード。その姿にネフシュタンの少女が警戒していると、彼は右手の指輪を別のと交換した。
〈リキッド、プリーズ〉
「チィッ!?」
ウィザードが右手の指輪を交換した時、“それが何を意味しているかを理解している”少女はウィザードに行動させるのは不味いと鎖鞭を振り下ろした。今度はウィザードは避ける気配も防ぐ気配も見せない。その事に奏達は焦りの表情を浮かべ、対する少女は逆に怪訝な表情を浮かべた。
双方の表情が変化したのは次の瞬間、鎖鞭がウィザードに直撃した瞬間だった。紫色の鎖鞭が彼の体に触れた瞬間、彼の体はその部分が液状化し鎖鞭は彼の体を素通りしていったのだ。
「なぁっ!?」
「えぇっ!?」
「うそ……」
「おいおい、マジか」
奏達3人とネフシュタンの少女は目の前の光景に各々異なる反応を見せていたが、共通しているのは全員が驚愕しているという事だ。それはそうだろう、まさか体を液状化させて相手の攻撃を無力化するなど、想像できる訳がない。
その驚愕こそ、彼が待ち望んだものだった。
「隙ありッ!!」
「あ、しま──」
驚愕のあまり僅かに動きが鈍ったネフシュタンの少女。ウィザードは彼女に一気に接近すると、体を液状化させ一瞬少女の体に纏わり付き────
「あだだだだだだだっ?!」
その状態から少女にバックブリーカーを極め、体を元に戻した。液状化している時は力が入っていなかったが、液状化を解除すると一気に力が掛かり一瞬で関節技を決められた少女は予想外の痛みに悲鳴を上げた。
「はっはっはっはっはっ! どうだいどうだい子猫ちゃ~ん?」
「お、お前──!? 女相手にこんな事して、恥ずかしくないのかよッ!?」
「ん? 全然? 何だったらこんなこともしちゃうもんね」
言うが早いか、ウィザードは再び体を液状化させると少女の体勢を変化させ別の技を決めた状態で再び実体化した。今度は卍固めと言う技だ。肩・脇腹・腰・首筋に走る痛みに、先程以上の悲鳴が少女の口から飛び出した。
「いだぁぁぁぁぁだだだだっ?!」
「ほ~れほれ、こうなったら鞭も蹴りも使えないだろ? 大人しく降参しちまいな」
「傍から見てるとかなり問題あるぞその光景」
「通報待ったなしですね」
効果的ではあるが、少女相手に一端の男性がプロレス技を掛けると言う光景はそこはかとない犯罪臭が漂っていた。と言うか、状況が状況なら普通に事案だ。警察に通報されても文句は言えない。
だがそんな事はウィザードにとってどこ吹く風、全く気にした様子を見せなかった。
「うるせぇな、恥ずかし固めを使わないだけ良識ある方だろうがッ!!」
「い、いや~、あんまり大差ないような気が…………」
因みに恥ずかし固めとは、早い話が女性相手に使う股を大開脚させた状態でホールドする関節技の一種である。キン〇バスターなどが想像しやすいだろうか。
技の形からして想像できるだろうがこの技は威力も然る事ながら女性が相手の時のビジュアルが他の技に比べて殊更にえげつなく、特にスカートを履いた女性相手に使うと見た目がとんでもない事になる。確かに彼の言う通りこれを年頃の少女相手に極めないのはある意味良識はあるように思えなくもないが、それ以外の技も男性が女性に掛けるのはビジュアル的に問題大有りなので響の言う通りあまり差は感じられなかった。
とは言え、ビジュアルがどうだろうと効果的であることに変わりはない。こうも綺麗に関節技を極められてしまっては少女に出来ることは降参だけとなるのは誰の目にも明らかである。
だと言うのに、少女の目には微塵も諦めの色が見られない。それどころか徐に笑みを浮かべ始め、ウィザードは思わず技に掛けている力をほんの少し緩めてしまった。
「く、くくく……」
「あん? 何がおかしい?」
「あぁ、おかしいさ。これで勝った気になってるお前らのお気楽さがね」
「────何?」
少女の言葉に首を傾げるウィザード。その言葉の意味を問い掛けるよりも早くに、少女が予想外の行動を起こした。
「こういう事さ…………アーマーパージだぁッ!!」
瞬間、少女が纏っていた銀色の鎧が弾け飛んだ。四方八方に高速で弾け飛ぶ鎧の欠片は密着していたウィザードに容赦なく襲い掛かる。リキッドの魔法の効果でダメージこそ無かったが、至近距離で受けた衝撃は凄まじく液状化したウィザードの体が彼の意思に反して遠くに吹き飛ばされてしまう程だった。
「うぉわぁっ!?」
吹き飛ばされた先で実体化したウィザードは、アーマーパージの衝撃で舞い上がった土煙を睨みつけながら立ち上がった。
「お~、びっくりした。ったく、何だよそれ。アーマーパージって、どこぞの脱皮かライジングか? そう言えばロボットにもこんな事する奴いたな」
ボヤキながら土煙の向こうを凝視するが、見えるものなど何もない。だがあの少女は現在文字通りの丸腰の筈だ。何しろ鎧と一緒に唯一の武器である鎖鞭も吹き飛ばしてしまった。その状態で攻撃はしてこないだろう。
となると、この土煙に乗じて逃げられたか? 彼が半ば本気でそんな事を考えだし、僅かにだが警戒を緩めた………………その時である。
「颯人、危ないッ!?」
「ん? うをっ!?」
突然背後から飛んできた奏の警告。それに疑問を抱くよりも前に背筋に走った寒気にウィザードは考えるよりも早くに行動を起こし、土煙の向こうから突如奇襲を仕掛けてきたメイジの攻撃をなんとか回避することが出来た。
間一髪のところで危機を回避できたウィザードは、一度背後に下がり奏達と合流すると取り敢えず先程警告を発してくれた奏に感謝した。
「悪い、奏。助かったぜ」
「気にすんなって」
「しかしお前よくこの状況であいつの接近に気付けたな?」
「ん? あぁ、勘でね。なんとな~く、さ」
奏の返答を聞きつつ、土煙の向こうを見つめる。遂に追いついてきたメイジが、再び襲い掛かってくることを警戒しているのだ。
だが、次の瞬間彼らの耳に、全く予想していなかった“歌”が入ってきた。
「Killter Ichaival tron」
「ん!? おい、これって────!?」
「嘘、だろ?」
「まさかッ!?」
「聖詠────?」
ウィザード達が驚愕する中、視界を覆い隠していた土煙が風に流され晴れていった。
そこに居たのは、先程からウィザードと奏の前に立ち塞がる1人の白い仮面のメイジ。そして──────
「歌わせちまったな? あたしに…………この雪音 クリスに!!」
「あれは…………」
「シンフォギア──!?」
先程とは打って変わって、胸元と肩を露出させた赤いドレスのような姿をした、それでいて何処か奏達と似通った装備を身に着けた少女──クリスの姿があった。
「こうなっちまったらもう止められないぞ? お前ら全員…………覚悟は出来てるんだろうな!!」
両手にボウガン型のアームドギアを持ちそう告げるクリス。それは即ち、新たな戦いの始まりのゴングでもあった。
後書き
と言う訳で第18話でした。
前回の後書きでも言いましたが、クリス周りのストーリーは大分弄っております。今回クリスが早々に歌ってシンフォギアを使ったのもその一環です。意外かもしれませんが、今作ではクリスは自分の歌に対してそこまで嫌悪感を抱いておりません。
その理由については後のストーリーで明かしていく予定ですのでお待ちください。
執筆の糧となりますので、感想その他描写や展開に対する指摘も受け付けておりますので、どうかよろしくお願いします。
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