曇天に哭く修羅
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第一部
Round Zero
前書き
というわけでやっとです。
【夏期龍帝祭】の決勝戦。
《立華紫闇》と《橘花 翔》の試合。
紫闇は[音隼]を発動し、背中から黄金の翼にも見える【魔晄】の粒子を放出する。
翔は左足を一歩踏み出す。
軽く膝を曲げると脚を肩幅に開く。
右のかかとを浮かせて少し前屈みに。
左拳は目の位置より少し高くしながら左肩で顎を隠すようにガード。
右腕は肘を脇腹に付けてボディーのガードをさせながら右拳で顔面を守る。
顎にパンチを貰わないよう顎を引く。
目は紫闇を見据えて放さない。
説明が長くなってしまったが翔が何をしているか解った方は居るだろうか?
(ボクシング)
紫闇だけではない。格闘技に興味が無い人間でも見たことが有る基本的なフォーム。
会場がざわつく。
何故なら翔は準決勝まで構えを取ったことが無い上にスタートと同時にKOしてきたから。
「そうかい。準決とは違うってことだな。じゃあ俺も見せてやる」
(クリスの時とは一味違うことを)
魔晄によって形成された一対の翼を生やした紫闇が床を蹴り、その推進力に身体強化した脚力まで加えて猪突猛進に激走。
その勢いで空気が引き裂かれていく。
合わせて翔も動いた。
風切り音が鳴る。
直後、紫闇の体に衝撃。
「!」
翔の姿が無い。
気付いた時には居なかった。
(何処に……)
そうこうしている内に叩き付ける雨のような勢いで衝撃が繰り返され、どんどん紫闇の体が弾かれていく。
「何時まで持つかな?」
翔はフットワークとステップで動きながら左腕一本のみのジャブを当てているだけ。
しかし紫闇にとっては大問題。
何せ翔の姿が殆ど視界に入らないのだ。
死角から攻撃が飛ぶ。
(ただのジャブなら耐えられるのに……!)
翔の繰り出すジャブは重かった。
腰が入り腕がしなって唸りを挙げる。
紫闇の体に触れる寸前で拳に[禍孔雀]のような魔晄が練り込まれ、見た目からは測れないような威力を出す。
魔晄の流れが滑らか。
魔晄による恩恵の入れ切れも早い。
翔の魔晄操作は紫闇より上だ。
紫闇は思い出していた。
以前戦ったあの男を。
「こいつに勝てたら《江神春斗》の速さに対抗できるかもしれないな。悪いが慣れるまで付き合ってもらうぜ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
兎にも角にも動いて逃れようとする紫闇と影のように貼り付きジャブを浴びせ魔晄防壁を打ち続けることで魔晄を消耗させていく翔。
今の二人がしている動きは普遍的な【魔術師】であれば魔晄による身体強化が有ろうとも肉眼で捉えることは叶わないだろう。
だが紫闇なら見えるはずだ。
さんざん格上と戦ってきたのだから。
(慣れてきた)
紫闇は離れようとする逃げの挙動から足を止めて翔の方に振り向く。
徐々にジャブを防ぎ、躱しだす。
カウンターで蹴り返してやろうと思った彼だったが出鼻を挫かれる。
翔はハンドスピードを上げてきた。
カウンターに割り込み足を使わせない。
翔にとって今の速さは序の口。
まだまだ遊びのようだ。
しかし対する紫闇も慌てなかった。
想定していたのは江神春斗。
速さと技が自慢の超が付く凄腕の剣士。
「想定内だよこの野郎」
紫闇の足裏からも音隼。
重力に逆らう機動で踵を落とす。
トリッキーでファンブルなアクション。
しかし翔は苦にしない。
フットスピードを上げて僅かに体を後ろに下げると左フックのようなジャブを落ちてくる足に引っ掛けながら体を右へと回し気味に退避。
(江神の前に良い練習台が出来たな)
時間を掛けて修得した【打心終天】や寝技への持ち込みを試すには最低でも今の翔くらい速い相手でないと意味が無い。
江神はそれほどに速いのだから。
(俺を叩き台にするつもりか。良いだろう。俺はあの男ほど優しくないぞ)
後書き
【最低で最高なクズ】と世界は違うけど、翔君の戦闘スタイルは特に変わらない。
あっちと違って魔力の代わりに魔晄で余裕が有るからエンジョイバトルしてますけど。
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