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NARUTO 桃風伝小話集

作者:人魚
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その40

 
前書き
木の葉の外にお出かけだってばよ!1のガールズサイド 

 
波の国での任務を終えて休暇三日目。
サクラは気晴らしに里をあてもなくブラついていた。
何度となく込み上げてくるのは、先日、敵に塩を送ってしまった後悔と焦りと落ち込みだけだ。
余りにもあっけらかんとし過ぎなナルトの様子と、それに何か言いたげなサスケの様子に居たたまれなくなって、思わずおせっかいを焼いてしまったのだ。
大分無邪気で可愛らしい笑顔に絆されて、ナルトを着飾ってやってみたいと思ったことも嘘ではないのだけれど。
「はぁ。やっぱりサスケ君は、ナルトの事が好きなのかなぁ…」
日を追う毎にそうとしか考えられなくなって、サクラはズドンと影を背負った。
元から妙に距離の近い二人に怪しいと睨んで警戒してはいたのだけど、ナルトは男だからこそ、本気で二人の仲を怪しんだ事なんてサクラには無かった。
でも、これからは事情が違う。
それがサクラを追い詰め、沈ませる原因になっていた。
先日、嫌がるナルトを引きずって連れてきたお洒落なブティックの店先に吊るされた着物に目を落とす振りをしながら、サクラは波の国で知った忘れられない衝撃的なアレコレを思い出す。
ナルトが死にかけ、サスケの悲痛な慟哭を耳にしてしまった事が一つ。
そしてナルト自身、何故か性別を偽って生活していたと言うことが一つ。
しかも、それは里長である火影命令だった事が一つ。
下忍就任に伴い、一応その命令は解除されていると、サクラ達の担当上忍であるカカシから、ナルトが貧血で気を失った直後に、ナルトの事情と共にそう聞かされた。
スリーマンセル組まなきゃならないからね、と言われて、サクラは嫌な物を感じたのは確かだ。
そのカカシの口振りでは、まるで、スリーマンセルを組まないのであれば、ナルトの性別はずっと秘されなければならないとでも言いたそうだった。
サクラには正直、そんな事を秘密にしなくてはならない意味が全く分からない。
何のために、どうして、と、疑問ばかりが膨れ上がっている。
それに。
実はサスケは、どうやら大分昔からそれを知っていて、だからこそ共に居て、陰ながらナルトのフォローを入れていたようなのだ。
その事情を知ってからサスケの行動を思い返してみると、サスケに取って、ナルトは特別な女の子だったのだろうという証拠が、次から次へと出てくるのだ。
第一に、あのサスケがナルトといつも行動を共にする事を認めているという事がまず一つ。
次に、意外と自分に無頓着なナルトの世話を、消極的とはいえ、サスケ自身が自主的に焼いているという事が一つ。
ナルトの事が絡むと、善きにしろ悪しきにしろ、サスケが纏う雰囲気が極端に変わリ、感情的になるという事が一つ。
気付いてみれば、むしろ気付かなかったのが不思議なほどに、サスケの目線の先にはナルトの姿があった。
これでナルトがサスケを嫌っていたり、サスケがナルトを嫌っていたりするようなら、サクラも期待を持ち続ける事が出来たのだが、どう考えてもナルトはサスケの事が好きにしか見えない。
サスケに至っては言わずもがなだ。
ナルトの場合は、少々、その好きに疑問が浮かぶけれど。
なんとも言えないもやもやを抱えながらも、幼馴染み故の距離感だろう、と、必死に自分を騙して波の国での任務を乗りきったが、任務を離れた後のナルトの行動には参ってしまった。
まるで、捕らえられた動物が、知らない人間を警戒するかのように、サクラに対して距離を取り始めたのだ。
それだけならまだいい。
その逃避先にナルトはサスケを選んでいた。
もう一つあげるなら、ナルトにそんな態度をとられるのは、サクラだけではなくてカカシもだと言うことだ。
サクラとて、初めは自分への当て付けか、嫌がらせの何かなのかと思った。
けれど、自分と同じようにナルトに避けられているカカシが、人に懐かない野良猫と、その子にうっかり餌をやって懐かれちゃった通行人みたいだね、と、ナルトに盾にされたサスケとナルトのやり取りを見て苦笑しながら零したのを見て、ふと気が付いたのだ。
ナルトは、あんなに懐いているサスケにだって、一定の警戒を滲ませていて、こっそりサスケの機嫌を伺っているような所があると。
そして、そうなって初めて見えてきた物があった。
ナルトの、自分やカカシを見る瞳の奥には、怯えがあった。
それに気付いた時、サクラは頭を殴られたような衝撃を受けて、訳が分からなくなった。
だって、ナルトには、下忍として班が同じになってから、キツい事ばかりを言われて来ていたのだから。
そんな張本人が何故?と疑問を募らせて、突然ナルトに声をかけたカカシに驚いたナルトが、サスケの背中に隠れてカカシを見上げた時の表情に気が付いた。
サクラにも覚えのある表情だった。
アカデミー時代のナルトは、いつも笑顔で人当たりが良い振る舞いばかりだったから、全然気付かなかった。
本当に、ちっとも気付かなかったのだ。
ナルトの表情は、イノの背中に隠れていた時のサクラと全く同じ物だった。
思い返してみれば、ナルトは里全体の人間から爪弾きにされていた。
アカデミー在学前に、里の女の子達に爪弾きにされていたサクラと同じように。
そんなサクラが変わる事が出来たのは、全身でいじめられているサクラを庇ってくれるイノが居たからだ。
けれど、そんなサクラとナルトの違いは、サスケはナルトを全面的には庇っていないという事。
そしてナルト自身も、サスケを頼る事を良しとしていないという事。
それでも、無意識の逃避先としてナルトはサスケを選んでいて、サスケもそれを承知していて、ある程度の目溢しをしている。
何となく、そんな関係のように見えた。
カカシの言う、野良猫と、うっかり餌付けしちゃった通行人とは、言い得て妙だとサクラは思っている。
でも。
「ナルトって、何者なんだろう…」
体型を誤魔化すあれこれを取っ払い、きちんと身体にあった下着を着けさせ、サクラがサスケに選ばせた服を着せて、サスケの前に押しやった時にサスケに浮かんだ表情を思い出し、サクラは思わず零す。
意外とナルトは出る所がしっかり出ていて、なかなかスタイルが良かった。
思わず素直に妬ましさが浮かぶほどに。
火影命令だったとはいえ、よくもまあ、あれだけのものを、いつもあそこまで抑え込んでいたものだ。
騙されてしまっていた。
とは言え、サクラ自身も成長期真っ只中だ。
いつか必ず肩を並べたり、あるいは勝ち誇れる程の物を手に入れられるはずだ。
多分、きっと。
おそらくは。
普段、取りすました表情で毒舌を吐いてばかりいるナルトが、女物の下着や服装に戸惑いと困惑を隠さず、面白いくらいに取り乱して狼狽える姿が面白くて、ついついナルトを着飾らせる事に夢中になってしまったが、あれは失敗だった。
今でも少し後悔している。
せめて、サスケは巻き込むべきではなかった。
まだ、幾らかの緊張が残るナルトとの関係の緩衝材として、スリーマンセル仲間という関係を盾に、ナルトとの仲が良いサスケも巻き込んだ行動を取ったのだけれども。
着飾ったナルトの姿を目にしたサスケを見たサクラの胸に浮かんだ、とてもとても不穏な捨て置けない予感が、いつまでもいつまでも消えていかない。
目を見張ってナルトに見惚れて、うっすらと柔らかい微笑みすらサスケは浮かべていたのだから。
サスケ自身、気付いていなかったのだろうけれど。
しかも、サクラがサスケに何かを促す前に、サスケはナルトに肯定的な感想を述べていた。
自主的に。
ナルトはそんなサスケの感想に、疑心暗鬼になっていたようだけれど。
本来の性別通りの姿で、アカデミー時代から続く息の合った仲の良さを見せるそんな二人の間にいるのが辛くなって、その場で解散して逃げ出してしまったのだが、今更ながらに後悔が浮かんで来る。
サスケを巡る、最大最強のライバルを、自分の手で作り上げてしまったような、そんな懸念が消えていかない。
ナルト自身を着せ替え人形にするのは楽しかったので、そこに後悔はないのだけれど。
でも。
深々と溜息を吐いて、項垂れた時だった。
「あーら、サクラじゃなーい。何してんのよ、こんなところで一人で」
サクラにとって、とても大切で、だからこそ負けたくないと思う大切な親友に声をかけられた。
「イノ…」
「どうしたのよ。アンタ、なんか元気ないんじゃないの?」
一方的にイノに喧嘩を売って、そんなサクラの相手を律儀にしてくれているイノが、気の乗らない素振りを見せるサクラに僅かに心配そうに眉を潜めた。
サクラに気遣いを見せてくれるイノのそんな姿に、ふと、サクラの気が緩んだ。
「うん。ちょっとね…」
「本当に元気ないわね。何があったって言うのよ。任務中に失敗でもしたの?」
「違うわよ!でも、中らずと雖も遠からず、ってとこかも…」
「……私でよければ、アンタのその失敗談、聞いてあげなくもないわよ?話してみなさいよ」
「……うん」
イノにそう促され、同時に、イノもまたある意味サクラの同志である事を思い出し、だからこそ無関係ではないとサクラは思った。
イノも、知るべきだろう。
イノも、サクラと同じようにサスケの事が好きなのだから。
「サスケ君って、もしかしたらナルトの事が好きなのかもって。結構本格的に現実味を帯びて来ちゃったっていうか。私がサスケ君の背中を押しちゃったっていうか…。そういう感じの失敗で、ちょっと落ち込んでたのよ」
「え。サ、サスケ君絡みなの!?ちょっと、サクラ!どういう事よ!詳しく話しなさいよ!」
「あのね、ナルトって、本当は女の子だったらしいの」
「なあんですってえええ!?」
「なのに私、サスケ君の前でナルトを女の子らしく着飾らせちゃったのよね。あの子、実は結構胸があって、腰は細くてスタイル良かったし。サスケ君、ナルトに見とれちゃっててさ。ちょっと、失敗したなあって、さ」
ふう、と溜息を吐いた時だった。
「ナルトは、ナルトはどこよーーーー!!!!許さないわよーーーーー!!!!」
「って、イノ!?」
突然、雄叫びをあげて駆け出していったイノの背中を呆然と見送り、サクラははっと我に返った。
そういえば、ナルトの本当の性別については、火影命令が関係していた。
迂闊に誰かに漏らすべきではなかったかもしれない。
そうじゃなくても、本当は臆病で警戒心が強いらしいナルトにとっては、かなりデリケートな問題である事には間違いない。
ナルトの了解も得ず、誰かに話すべきでは、絶対になかった。
「ど、どうしよう……」
思い込みが激しく、猪突猛進な所があるイノのあの勢いだと、まず、確実にナルトを問い詰めて騒動を起こすに違いない。
時、既に遅しではあるのだが。
思わずサクラは重ねてしまった失敗に、更なる自己嫌悪に襲われる事になった。 
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