魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第7章:神界大戦
第232話「BADEND」
前書き
―――既に行く先は決まった
―――結末は、覆らない
「優輝、君……」
今、“格”を昇華している状態では胸を貫かれた程度では死なない。
だが、優輝が完全に敵に回っている。
その事実に司は動きを止めてしまった。
「(どうして……ううん、分かってる。理由は分かってる。でも……)」
イリスに敗北されて、洗脳された。
その事実を司は認識している。理解している。
だが、その上で納得しきれないのだ。
そして、それが大きな隙となる。
「司ちゃん!」
「ッ……!」
遠くにいたはずの優輝が転移して斬りかかってくる。
優輝だけではない。多くの“天使”が司を狙って攻撃してきた。
“格”の昇華をしているのは司だ。戦力の要となるのだから、狙うのは当然だった。
「くっ……!紫陽ちゃん!」
「任せな!」
「ユーリ!」
「はい!」
優輝の剣の一撃をとこよが防ぎ、御札で“天使”に牽制として目晦ましする。
即座に紫陽がカバーし、“領域”で“天使”達を僅かに退ける。
さらにサーラとユーリが“天使”を受け持つ。
「なのはちゃん!フェイトちゃん!」
「っ、奏ちゃん!」
「フォローだね……!」
同時に、いち早く動揺から回復したはやてが叫ぶように指示を出す。
すぐさまなのはが奏を、フェイトがアリシアをフォローするように動く。
「分かっていた事だが、そう簡単に受け入れられる訳ではないって事か……!」
クロノも剣が刺さったシャマルやアインスをフォローするように動く。
優輝と比較的親しくしていた人物は、軒並み動揺で隙を晒した。
その穴を埋めるように、迅速に判断して行動する。
「しまっ……!?このっ!!」
―――“破綻せよ、理よ”
「ぐっ……!?なに……!?」
緋雪も動揺で隙を晒していたが、この戦いに備えて生み出した技がある。
襲い掛かって来た“天使”に普通にダメージを与える事が出来、怯ませた。
だが、数が多いため一人では捌ききれない。
「緋雪!」
「っ、ありがとう!」
そこでクロノが魔力弾でカバーし、その僅かな隙に体勢を立て直す。
物理的攻撃がダメージにはならないとはいえ、牽制にはなる。
クロノはその事を理解し、上手く牽制に使っていた。
「(速い……!)」
一方で、襲い掛かって来た優輝の相手をするとこよ。
紫陽による支援を受けながらも、優輝の方が上を行っていた。
「(特訓の時は、支援ありなら負けなしだったのに……神界での戦いで、さらに成長したっていうの!?)」
とこよと優輝の実力は、大門以降ではほぼ互角だった。
導王流の有無で優輝が僅かに上回っていたが、今では圧倒されていた。
紫陽の支援もかなり強力だというのに、それでも押されていた。
「クロノ君!私もお兄ちゃんを……!」
「分かった!僕は司を援護しにいく!」
「任せた!」
立ち直った緋雪がそんなとこよを助けに入る。
障壁を張り、“領域”で耐える司を、クロノが援護する。
「とこよさん!」
「緋雪ちゃん!」
「緋雪も来たか。強化なら任せな!」
幽世で共にいた事から、緋雪ととこよの連携は上手い。
加えて、紫陽の強力な支援がある。
「ッ!?」
「嘘っ!?」
だが、それでも優輝はその上を行った。
二人の攻撃を受け流し、創造魔法による剣で攻撃してくる。
即座に魔力及び霊力でその剣を弾き、追撃して来た所を防ぐ。
「(嘘だろう!?単純な実力……だけじゃない!あの導王流にも磨きがかかっている……!とこよの動きすら容易く受け流すなんて……!)」
「このっ!!」
紫陽が霊術で創造魔法による武器を撃ち落としながら戦慄する。
そこで、緋雪も負けじと魔力弾を優輝へ放ち、牽制とする。
「とこよさん!」
「無茶しないで!」
導王流を使わせたままではいけない。
そう判断した緋雪は即座に優輝の前に躍り出る。
とこよも緋雪の意図を即座に理解して、いつでも動けるように構える。
そして、繰り出された一撃を敢えて受け止めた。
「ぐっ……!」
体に突き刺さる剣を持つ手を、その剛力を以って緋雪は掴む。
如何に攻撃を受け流す導王流と言えど、動きが封じられれば意味を成さない。
これまでの経験でそれをよくわかっているからこそ、すぐに実践出来た。
「ここ―――ッ!?」
そして、よく知るのは優輝自身も例外ではない。
緋雪が動きを止め、とこよが優輝を攻撃しようとした、その瞬間。
僅かな一瞬で、優輝は創造した剣を射出し、自分の腕を切断した。
直後に残った片腕でとこよの刀を受け流し、カウンターの蹴りを食らわせた。
「っ……!?ちぃっ……!」
「させない!」
自傷を厭わない行動に、ほんの僅かに動揺で動きが止まる。
その間に優輝は転移でとこよを追撃しようとする。
慌てて紫陽が重圧を仕掛ける霊術を、緋雪が破壊の瞳で攻撃を妨害する。
「(捉えきれない……!)」
「(信じられないけど……私達の意識の領域に踏み込んでる……!)」
動きを制限しようと、重圧や広範囲魔法を仕掛ける。
その上で狙い撃っているのだが……それすら当たらない。
緋雪達の攻撃する意識を感じ取り、寸での所で攻撃範囲外に逃れているのだ。
「(どこかで突破口を見つけないと……!)」
「(このままだと、ジリ貧……!)」
現状、優輝の攻撃には全て反応して防御か回避は出来ている。
だが、こちらからの攻撃も通用しないというジリ貧でもある。
吹き飛ばされたとこよも戻り、再度前衛二人後衛一人で戦うも、変わらない。
押し切れない時点で、不利になるのは緋雪達だ。
「司!」
「っ、クロノ君……!」
「動揺している暇はない。なんとしてでも、今の状況を打破しないと……!」
「分かってるよ。その方法も、さっき試そうとしたんだけど……」
「優輝に邪魔された訳か」
背中から刺さった剣を抜きつつ、司は“領域”を維持する魔力を放出する。
以前の戦いと違い、限界の壁を破壊して“領域”を認識できる今なら、“天使”の攻撃は防戦に徹すればかなり防げる。
しかし、当然ながらだからと言ってどうにかなる訳ではない。
むしろ、数の関係上既に司の顔は苦しさに耐えるように歪んでいた。
「ぐっ……このっ、まだっ!」
「これ以上は……“行かせない”!!」
だからこそ、牽制を捨ててクロノも司を援護するしかなかった。
言霊のように叫んだクロノは、同時に結界魔法の応用で魔力を広げる。
クロノの“領域”と司の“領域”を重ね合わせ、より強固な守りとした。
「シャマル!アインス!」
「はい!」
「分かっています!」
はやての指示により、さらに二人分の“領域”が追加される。
これにより、八束神社とその周辺は神界からの攻撃に耐性が出来た。
「(これで、“性質”による干渉に耐えやすくなった。……後は、こっちの“領域”に引きずり込んで、倒しきる……!)」
物理的な戦闘という形に持っていく事により、自分達の“領域”に引きずり込む。
そこで叩き、相手の“領域”を砕く。
それが、今までの短い期間の間に立てた、神界に対する戦法だった。
「(奇襲された状態からそれをするのは厳しいけど……それ以外に打開する方法もない。最低でも、上から抑えつけている連中だけは倒す……!)」
現在、司達全員は上空にいる神とその眷属の“天使”から“性質”による拘束で、上から抑えつけられるような力が働いている。
それを、司達の“領域”で耐えている状態なのだ。
包囲もされているため、逃げ出す事すら難しく、何とか打開するしかない。
「“落ちて……来いっ”!!」
祈りも込めた重圧の魔法が、その神と“天使”達へと放たれる。
言霊に似た“意志”の力が、相手の“領域”へと食い込む。
「そこやぁっ!!」
それだけでは墜とすには足りない。
そこで、リインとユニゾンして控えていたはやてがさらに広域殲滅魔法を放つ。
物理的な攻撃とはいえ、相手は司達の“領域”に干渉している。
カウンターの要領で攻撃を返せば、同じように“領域”にも干渉できる。
少ない情報から編み出した戦法。
それは、確かに神界の神達にも通用した。
「―――そこまでです」
……しかし、だからと言って希望が見える訳ではなかった。
「ぐ、っ……!?」
「は、ぐっ……!?」
「っ、主……!」
“領域”を防御として使っていた司達三人が苦悶の表情に顔を歪める。
直後、三人は膝を付き、同時に防いでいた分の“領域”の干渉が全員を襲った。
後衛として広範囲殲滅魔法を多用していたはやてやプレシアがまず墜とされる。
「っ、しまっ……!?」
「緋雪ちゃん!」
「支援が、途切れる……!?」
その影響は優輝を相手にしている緋雪達や、他の“天使”達を相手取っているなのは達、サーラ達にも及ぶ。
「……っふ……!?」
突然の戦況の変化。それは大きな隙となる。
その隙を優輝が見逃すはずもなく、一瞬の内に掌底で緋雪の心臓を潰された。
同時に、レーザーのように放たれた理力が緋雪の額を貫く。
「(“格”の昇華と……生死の境界が壊れてなかったら、死んでた……!)」
「まずっ……!?」
さらに創造した剣で壁に縫い付けられ、一時的に緋雪は動けなくなる。
不幸中の幸いと言うべきか、現在は“死の概念”が壊れているため死ぬことはなく、その気になればすぐにでも復帰できた。
だが、その間にも優輝はとこよと斬り合い、とこよの刀を弾き飛ばした。
「ふぐっ……!?(速い……!)」
刀を弾かれ、すぐに槍に持ち替える。
だが、一瞬間に合わずにレーザー状の魔力弾が心臓を貫いた。
直後の追撃の剣の一撃は防ぎ、御札をばらまいて優輝を後退させる。
「ッッ!!」
しかし、後退と同時に優輝は弓矢に持ち替えており、矢が放たれる。
矢は槍で弾くが、咄嗟の判断だったため、僅かに意識が優輝から逸れる。
「がぁっ!?」
「紫陽ちゃん!」
「(障壁をものともしないのか、こいつ……!)」
その僅かな隙で優輝は転移し、紫陽に肉薄。
強固な障壁ごと理力の刃で紫陽を袈裟斬りにした。
「フェイト!」
「奏ちゃん!」
「レヴィ!」
スピードを生かして攻撃を引き付けていたフェイト達も撃墜される。
フォローに回っていたアリシアやなのは、ディアーチェ達も直後に墜とされる。
「くっ……!」
「皆さん……!」
サーラとユーリがフォローに入るが、最早自衛で精一杯な状態だ。
無尽蔵な魔力と、堅実且つ力強い動きで耐えているが、多勢に無勢。
防御の上からサーラが吹き飛ばされ、ユーリも弾幕を抜けられて吹き飛ばされた。
「ッ、ぁあああああああっ!!」
ジュエルシードを全て身近に召喚し、司が魔力を全力で放出する。
“天使”を吹き飛ばすためでもあったが、本命は別だ。
「……なるほど、耐えますか」
「ぐっ、く……!この……!」
本命はイリスの“闇”への抵抗。
呑まれれば、以前と同じように洗脳されてしまう。
それだけは避けようと、司は必死に“領域”を保つ。
「リニス……!」
「かふっ……っ、耐えてください、司……!」
『アルフ!私より、司を守って……!』
『フェイト!……っ、分かった!』
『ザフィーラもや!司ちゃんを守って!』
『……承知……!』
天巫女の特性を生かした防御だからこそ、イリスの“闇”を何とか凌ぐ。
だが、その分他の神や“天使”の攻撃が殺到した。
リニスがいち早くそれに気づき、司を庇う。
続けてフェイトがアルフに、はやてがザフィーラに指示を出す。
「どうやら、耐え方を学習したようですね。……ですが」
「う、ぐっ!?」
「まだ、弱いです」
さらに強い理力が押し付けられる。
先程の司達三人の“領域”を押し込んだのもイリスの力だ。
イリスは洗脳した神々から少しずつ理力を借り、それを使って攻撃していた。
一部分とはいえ、イリスはこの場にいる全ての神の力を一点に集めているのだ。
そんな攻撃を、強いとはいえ一個人の人間の“領域”で防げるはずがない。
「ぐっ、ザフィーラ!っ、ぁああああああっ!?」
「ぬぅっ……すまない!」
「えっ……!?」
咄嗟に、アルフが一歩前に出てその身で理力を受け止める。
それにより生じた僅かな間に、ザフィーラが掌底で司を遠くに吹き飛ばす。
直後、傍に倒れたままのシャマルとアインス諸共三人は理力に呑まれた。
「っ……!」
“自分を庇って攻撃に身を晒した”。それを理解するのは一瞬だった。
司の思考が一瞬で真っ白になる。
「(……っ、動揺してる暇はないっ!!)」
だが、それも一瞬だった。
すぐに体勢を立て直し、転移。理力による閃光を躱す。
「(幸い、今の理力の攻撃は洗脳の効果がなかった。一撃一撃は途轍もなく強力だけど、あれはイリスだけの理力じゃない。……だから、まだ何とかなる……!)」
それが気休めでしかないのは、司も本能で理解していた。
だけど、まだ心が諦めきれていない。だからこそ、足掻く。
「っ、ぁあああっ!!」
祈りの力を以って槍を振るい、迫ってきていた“天使”二人を吹き飛ばす。
上空からの理力の攻撃に対しては、同時に用意していた魔法陣から砲撃を繰り出す事で相殺ないし軽減させ、転移で間合いを離す。
「っづ、このぉっ!!」
一方で、緋雪も剣による拘束から無理矢理脱し、優輝に対し防戦一方になっていたとこよに助太刀に入る。
「まだ、やれる……!」
緋雪だけじゃない。
奏やなのは、フェイト達。致命傷を負っても死なない状況だからこそ、再び立ち上がり、足掻き続ける。
「先の戦いであれほどの敗北をしていながら、しぶとい……!」
「……そりゃあ、それ以上に悔しいからな。負けたままだというのは」
「ッ!!」
支柱だったはずの優輝がいないというのに足掻く緋雪達に、イリスは苛立つ。
そんなイリスに語りかけるように斬りかかる者がいた。
「貴方は……!」
「散々俺を無視してくれたな。……そんなに、用済みな俺は興味なしか?」
「っ、利用されてただけの癖に、調子に乗らない事ですね……!」
斬りかかったのは神夜だ。
二人の英霊の力を宿す神夜は、その事もあって“領域”も丈夫だ。
持ち前の防御力活かし、単独で攻撃に耐えていた。
そのまま、イリスの懐まで接近していたのだ。
「どの道、お前の動きは止めないといけないんでな……!」
「なるほど。確かにその通りです」
連続で斬りかかる神夜だが、対するイリスは涼しい顔だ。
「ですが」
「ガッ!?」
「貴方程度、単純な力でも抑えられます」
闇で形作られた盾で神夜の一撃を受け止め、直後に腕を掴んで地面に叩きつける。
さらに、同じく闇で作られた槍が次々と神夜へと突き刺さった。
「がぁあああっ!?」
「例え特典が強くとも、神界では通用しません。どうやら、それが理解出来ていないようですね。ならば……」
「……っ、ッ……!!」
「っ……!?」
体で理解させようと、理力の槍を構えるイリス。
だが、地面に縫い付けられながらも神夜はイリスの脚を掴む。
「理解?……んなもん、する訳ないだろうが……!俺は、俺にあんな力を付けたお前が許せない。……それだけだぁっ!!」
「なっ……!?」
格下に見ていた。それがイリスの最大の隙だった。
足を引っ張られ、バランスを崩した所へ神夜の拳が迫る。
「させません!」
「っぐ……!?」
だが、その千載一遇のチャンスも、ソレラの“性質”によって無効化された。
“守られる性質”をイリスに適用させ、優輝を間に割り込ませたのだ。
その優輝も即座に神夜の拳を受け流し、斬り飛ばしてしまった。
「お前ら……!」
「所詮は私が授けた力。元々が大して強くない貴方など、イリス様の敵ではありませんよ。それに……」
「っ……!?」
ソレラが指を鳴らすと、途端に神夜の体が重くなった。
否、重くなったのではなく、今の今まで漲っていた力が消えたのだ。
「私が授けた力なら、それを無くすのも自由自在です」
「………!」
「ふっ!!」
「ごぁっ!?」
Fateシリーズにおけるランスロットとヘラクレスの力。
それが瞬時に剥奪された。
今まで鍛えてきた力はそのままだが、それでも大幅に力が削がれてしまった。
その事に動揺し、そこを突いた優輝の掌底が神夜を吹き飛ばす。
「(ほ、他の皆は……!?)」
吹き飛ばされながらも、意識を他の皆に向ける。
少なくとも、優輝の相手をしていた緋雪達は状況が変わっているはずと信じて。
「っ……!」
「祈梨さんが相手にしていますよ。……残念でしたね?」
見れば、そこには流星群の如き閃光を次々と放つ祈梨の姿が。
司やユーリ、紫陽はその閃光を凌ぐのに精一杯となっていた。
そして、緋雪やとこよ、サーラなども結界などで守りを固めた祈梨を突破出来ずに抑えられている。
「最早、全滅は時間の問題です」
「っ……くそがっ!!」
悪態をつく神夜だが、もう何もする事が出来ない。
力を消失した今、イリスの理力によって完全に抑えつけられてしまった。
「――――――」
「――――――」
「……おや?」
その時、祈梨とソレラが動きを一瞬止めた。
「っ、そこっ!!」
「奏ちゃん!」
「……しまっ!?」
その一瞬の隙で、とこよが祈梨の防御障壁を斬り、緋雪が祈梨本人を斬る。
同時に、ソレラに対しても奏が仕掛けた。
「ッ……!(惜しい……!)」
「……何をやっているのですか?」
「っ、すみません……」
だが、それすらも決まらない。
祈梨は辛うじて緋雪の攻撃を槍型の理力で防ぎ、奏の方はイリスが撃ち落とした。
「まったく。悠長な事をしていては、逃げられますね」
呆れたように言うイリス。
だが、同時に起こした行動は緋雪達を絶望させるのに十分なものだった。
「う、そ……?」
「私も、早く私のモノになった彼と楽しみたいのです。終わらせますよ」
空を埋め尽くす程の“闇”の極光。
それが、落ちてくる。
「こ……のっ……!!」
―――“破綻せよ、理よ”
「無駄です」
緋雪がその極光を破壊しようと、瞳を握り潰す。
だが、あまりにも物量が違いすぎる。
神にダメージが与えられる程度の概念的攻撃では、到底相殺できない。
「なら……!!」
火力には火力と判断し、動ける全員で相殺しようと試みる。
なのはやフェイト、司、緋雪などは集束砲撃で。
とこよやサーラなどは、一点に集中させた斬撃を。
それぞれが全力で攻撃を放ち……
「―――無駄だと言っているでしょう?」
……その悉くが極光に呑まれ、無意味と化した。
「ッ……!?」
そして、成すすべなく緋雪達は極光に呑まれる。
後には何も残らない。八束神社も、それが立っていた山も消え、更地となった。
「っ……ぁ……!」
それでも、“死の概念”が壊れている今、死ぬことはない。
瀕死でありながらも、緋雪は立ち上がろうとして……
「ぁ、が……!?」
その体をいくつもの剣で貫かれた。
緋雪だけじゃない。他にも立ち上がろうとした者、全員が優輝による剣で貫かれた。
「――――――っ!」
倒れながらも魔法を唱えようとする司だが、当然隠し通せる訳ではない。
中断させるように地面から生えた剣に貫かれ、打ち上げられた所をさらに飛んできた剣で壁に縫い付けられた。
「最早洗脳の必要すらありません。疾く消えなさい」
“死の概念”がない今、死ねないというのは拷問でしかなかった。
優輝の剣で体を縫い付けられ、その上から闇の極光が何度も体を貫く。
「ぁ、ぁあああああああああああああああああああああああああ!!?」
絶え間なく襲いくる攻撃に、緋雪達は悲鳴を上げる。
どれだけ打ちのめされようと、攻撃の気配が止む事はなかった。
「………」
それが、どれだけ続いたのか。
イリスが攻撃を止めた時には、もう誰も立っていなかった。
「終わりですね」
存在そのものを消し去った訳ではないので、緋雪達の体は残っている。
だが、立ち上がる事はない。既に、その気力すらなくなっていた。
「………」
「呆気ないものですね」
倒れ伏す緋雪達を見下ろしながら、イリスはそういう。
そんなイリスの隣で、優輝は黙ったまま緋雪達を見ていた。
「さぁ、これで貴方の心を占める者はいなくなりましたよ……?」
「…………」
洗脳された優輝は何も喋らず、表情も変えない。
……しかし、ふと見れば優輝の頬を一筋の涙が伝っていた。
「もう彼女達を見なくてもいいのですよ。貴方は私だけを見ていればいいんです。……いいえ、私だけを見ていなさい。さぁ……」
そんな優輝を、イリスは自身へと向き直させる。
自分だけを見るように、そう囁きながら………
―――もう、イリスに立ち向かう者はいない
後書き
対策らしい対策はしていましたが、それは飽くまで万全を期して迎え撃てた場合の話でした。奇襲を受け、先手を取られた時点でその前提は成り立たなくなり、結果的に大して足掻く事も出来ずに敗北した……という訳です。
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