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毛皮の帽子とラム酒

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第三章

「これと店の客達の上等のラム酒の代金にな」
「出来るか、か」
「どうだろうか」
「ああ、この毛皮ならな」
 それならとだ、親父もその見事な毛皮の帽子を見て笑顔になって頷いた。そうしてだった。
 親父は帽子を受け取りクロケットは酒代を工面出来た、だが。
 客達はどんどん飲みさらにと言って毛皮の帽子一つでは彼等の酒代は賄えなくなった。それでクロケットは戦場で培った素早さと抜け目のなさを利用し。
 親父が目を離した隙に手の届く場所にあった帽子を手に取って親父に渡してこう言った。
「もう一個あるからな」
「酒代にだね」
「いいだろうか」
「ああ、いいとも」
 こう言ってだった、彼はまた酒代を手に入れることが出来た。だが客達はまだ飲んだので彼はもう一度だった。
 帽子を手に入れて親父に差し出した、これを繰り返すこと十回に及んだがここでやっと客達は満足した。中にはクロケットの動きに気付いている者もいたが自分達がそれで飲ませてもらっているのであえて言わなかった。こうしてだった。
 クロケットは客達を満足させることが出来て彼等の支持を得ることに成功した、これで選挙に勝てるとことを確信出来る様になった。
 だが彼は当選すると即座に森に向かった、その彼に友人は笑って問うた。
「アライグマを十頭か」
「そうだ、仕留めてだ」
 そうしてとだ、クロケットは答えた。
「店の親父にな」
「細工をして酒代を調達した分の毛皮の帽子をか」
「差し出す」 
 そうするというのだ。
「流石に騙したままだと寝覚めが悪いしな」
「それにあちらも気付くしな」
「その分はな」
「親父さんに出してか」
「よしとする、ではな」
「今からだな」
「行って来る」
 クロケットは友人に笑って話してだった、銃を手に狩りに行き無事に毛皮の帽子を十個手に入れることが出来た。言うまでもなく彼は議員に当選することが出来た。
 デビー=クロケットは映画ではアラモの戦いでの勇敢な戦いぶりと名誉の戦死が有名である、その為ガンマンとして知られているが実は政治家でもあった。むしろそちらが本職であったと言うべきだったかも知れない。
 そして政治家になる際にこうした逸話もあった、この逸話が真実かどうかはわからないがアメリカの歴史に残る人物の逸話の一つとして面白いものではないだろうか。そう思いここに書き残すことにした。真実かどうかはともかくアメリカの歴史の一幕を騙るものとして。


毛皮の帽子とラム酒   完


                 2019・9・15 
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