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戦国異伝供書

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第七十三話 元服前その二

「兵を出してくれぬぞ」
「そこで朝倉家ですか」
「やはり当家はな」
「朝倉家あってですか」
「そうであるからな」
 だからだというのだ。
「それならばな」
「今のご当主殿はですか」
「兵を出されぬ方じゃ」
 朝倉義景、彼はというのだ。
「だからな」
「それで、ですか」
「わしはよくないと思う」
「ですが父上」
「いや、当家だけでは勝てぬ」
 久政の言葉は揺るがないものだった。
「だからな」
「どうしてもですか」
「朝倉殿のお力は欠かせぬが」
「朝倉殿が動かれねば」
「宗滴殿が動かれると言われても」
 朝倉家の武を司る彼がというのだ。
「それでもじゃ」
「ご当主の孫次郎殿が」
 猿夜叉はここで義景の名を出した。
「どうしてもですか」
「一向一揆を気にされており」
 そしてというのだ。
「とかく越前の政にばかり目がいかれてな」
「他の国のこと、近江のことも」
「二の次とされていてな」
「それで、ですか」
「動かれぬのでな」
「だからですか」
「浅井家の兵は一万、六角家は二万でじゃ」
 それにというのだ。
「従えておる山城や伊勢の国人衆から兵を借りればな」
「二万以上の兵も動かせる」
「流石に三万は無理にしても」
 それでもというのだ。
「兵を雇うなりもして二万五千はな」
「出してくるからですか」
「わしとしてはな」
「相手に出来ませぬか」
「到底な」
 こう我が子に言うのだった。
「だからじゃ」
「六角家とはですか」
「ことを構える訳にはいかぬ」
「それがしが家督を継いでも」
「家が滅びるぞ」
 六角家の大軍に敗れてというのだ。
「そうなっては元も子もないからのう」
「このままですか」
「左様じゃ、よいな」
「ですか」
「血気に逸ってもじゃ」 
 久政から見た猿夜叉はそう見えた、かなり危ういと。
 だからこそだ、我が子を咎める様にしてあえてこうも言うのだった。
「何も得ぬわ」
「むしろ失うと」
「そうなるからじゃ」
「六角家には従いませぬか」
「このままでよい、それに六角殿はな」
 到底と言うのだった。
「近江そして伊賀から出られぬ」
「だから戦もですか」
「起こらぬわ」
 久政は近江そして伊賀を主に見て話した。
「美濃からも来ぬしのう」
「斎藤家はあくまで美濃のみですな」
「道三殿は確かに悪人であったが」
「美濃一国で満足されていた」
「だからじゃ、近江にも来なかったのう」
 確かに斎藤家とも悶着はあった、だがそれでも全面的にぶつかったことはなかったというのだ。
「まあ都の方は気になるが」
「三好家そして松永家ですな」
「幕府を好き勝手にしておるが」
 それでもというのだ。 
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