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戦国異伝供書

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第七十三話 元服前その一

               第七十三話  元服前
 遂に猿夜叉の元服の時が来ようとしていた、久政はそのことを受けて彼に笑顔で話した。
「ではお主にまずは名をじゃ」
「それをですな」
「与えることになる、その名はな」
 それはとだ、猿夜叉に言うのだった。
「新九郎としたい」
「当家の名ですな」
「うむ、それを与え」
 そしてというのだ。
「諱はな」
「六角殿が、ですな」
「与えられそれと共にな」
「正室となる姫君も」
「六角家から来る、平井殿のご息女じゃ」
 その姫はというのだ。
「そうして縁組もしてな」
「そうしてですな」
「お主はこれから生きていくことになる」
「六角家の家臣ですか」
「そうじゃ、元服は当家でするが」
 その後でというのだ。
「それからな」
「六角殿からですな」
「諱と姫君が与えられる」 
 元服の式の後でというのだ。
「それはわかったな」
「わかり申した」
「六角家の家臣といっても」
 このことについてもだ、久政は話した。
「当家は従属という立場でな」
「他の六角家の家臣の方とはですな」
「立場が違う、近江の北は当家のものじゃ」
「南と伊賀が、ですな」
「六角殿のご領地でな」
「そこはですな」
「しかと定められておる、近江の北四十万石は治められるからな」
 これまで通りとだ、久政は我が子に対して宥め落ち着かせる様にして穏やかに話していくのだった。
「そのことは安心せよ」
「承知しておりまする」
「既にな」
「ならよいがな」
「はい、ですが父上」
 ここでだった、猿夜叉は彼に話した。
「それがし前から思っていることですが」
「何じゃ」
「はい、六角家とはです」
「独立すべきか」
「そして朝倉殿とはです」
 この家とも、というのだ。
「出来るだけです」
「遠くなるべきか」
「あまりです」 
 朝倉家のことも話すのだった。
「頼りにしては」
「しかし当家はな」
「当家のみで立っていきましょう」
 こう父に言うのだった。
「これからは」
「それが出来るのか」
「そう思いまする」
 出来ると、というのだ。
「ですから今申し上げているのです」
「そうなのか」
「はい、ですから」 
 それでと言うのだった。
「ここはです」
「独立か」
「それがしにお任せ下さい」 
 猿夜叉は自身の父にこうも言った。
「六角家との戦になろうとも」
「勝つというのか」
「ご安心を」
「しかしじゃ、朝倉殿は六角家との戦になってもな」
 久政は無意識のうちに朝倉家のことを話に出した、そうしてそのうえで自身の息子に対して話すのだった。 
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