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ゲート ジェダイ彼の地にて斯く戦えり
【お試し版】ゲート ジェダイ彼の地にて、斯く戦えり(……分離主義に乾杯!)
ここで新共和国から満身創痍の<リオ・グランデ>へオープン・チャンネルで通信が入った。わざと周囲に聞かせるためだ。その上、銀河中に生中継する念の入れようである。
これは策略であった。皇帝が無様に打倒される様子を全銀河に中継することで、銀河帝国の威信に致命傷を与える。だから、あえて撃沈せずに中継を入れた。
「皇帝。無駄な抵抗はやめよ」
――が、それは最悪の選択であった。
「死ぬなら一人で死ね。周りを巻き込むな」
挑発気味に降伏を呼びかけられた<リオ・グランデ>から、通信に応じたシェーンコップは毅然とした態度を崩さなかった。
降伏に対する返答は、断固拒否。そして、堂々と言葉を続けた。
「私は貴公の才能と器量を高く評価しているつもりだ。同僚を持つなら、貴公のような人物を持ちたいものだ。だが、共和国を守る軍人にはなれん。ヤン・ウェンリーも、貴公の友にはなれるが、共和国の犬にはなれん」
皇帝の醜態を衆目に晒すはずだった司令は、予定と違う反応に俄かに動揺する。嫌な予感が止まらない。
「なぜなら、えらそうに言わせてもらえば、分離主義とは集団からの独立をつくる思想であって、独立なき集団をつくる思想ではないからだ」
まるで分離主義が共和制に勝るかのような主張。司令は息をのむ。
そしてあろうことか、グラスを掲げるとビュコック他ブリッジのクルーと唱和したではないか。
「……分離主義に乾杯!」
してやられた! これでは分離主義者の士気を上げるだけではないか!
そう。未来を予測できるシェーンコップの罠だったのである。入れ知恵したのも当然銀河帝国が送り込んだスパイ、弁舌に長けたアンドリュー・フォークの手腕によるものだった。
今回の作戦。何から何までシェーンコップの掌の上だった。もちろんシスのフォースと強化された<未来福音>が大いに役立ったのは言うまでもない。
「今すぐ撃て! 撃沈しろ!」
「ら、ラジャー」
すぐさま無数の砲撃が<リオ・グランデ>へと吸い込まれて行き、皇帝もろとも爆沈したのであった。
「……司令、これでは中継は逆効果でしたね。分離主義運動は活発化するでしょう」
「今更悔やんでも遅い。皇帝を打倒した。ひとまずそれで満足しよう。被害状況は?」
「はっ、4個艦隊が半壊状態であります。その他も無傷とは言えません」
「たった1個艦隊にここまでしてやられるとは……敵ながら天晴よ。ん?」
「警報音がなぜ」
激戦を経て最後にへまをしたものの。どこか弛緩した空気が漂う中、突如警報が鳴り訝しむ。それは共和国最悪の時と呼ばれる惨劇の幕開けであった。
「やれやれ、給料分の仕事をするとしようか」
「後方よりワープアウト反応多数、艦隊です! <ヒューベリオン>を確認。ヤン・ウェンリーです!」
「はああああ!?」
ブリッジは大混乱に陥る。悲報は続く。
「無理な行軍に感謝する。今は一夜の睡眠より、無限の未来が欲しい心境だ。それに、少しでも敵の兵力を削っておくにこしたことはないからな」
「さらに反対方向に艦隊がワープアウト。<ネルトリンゲン>を確認。メルカッツ艦隊です。完全に包囲されました!」
「馬鹿な。ありえない! これは夢だ。夢にちがいない」
「司令!」
思わず茫然自失とする司令官だが喝を入れられ正気を取り戻した。
しかし、機雷と小惑星帯に囲まれ、出口は塞がれ挟撃されている。教本に載ってよいほどの見事な包囲殲滅である。
「ははははは! 皇帝を囮にしていたとは!」
気づいてしまった。新共和国の主力艦隊を壊滅させるために、銀河帝国は皇帝を囮にしたのだ。司令官は優秀だった。優秀故に敵の罠に見事にかかってしまたことを看過し、かえって混乱してしまった。
「ええい、まずはヤン艦隊に対応するぞ、後ろへと回頭しろ!」
「司令、無茶です! 相手に隙を晒してしまいます!」
「黙れ! このまま一方的に殴られろとでもいうのか!?」
無防備に回頭する相手のミスを見逃すほど奇跡のヤンは甘くなかった。
「敵を目前に回頭するとはね……。チャンスだ」
戦艦が次々と爆発していく。混乱のせいか指揮を間違えたことで、英雄になる夢を抱えたまま司令は散った。
こうして、新共和国軍は艦隊の7割を失う大打撃を受け逃げ帰っていくのだった。
まさかの番狂わせに新共和国上層部は揺れに揺れ、混乱の最中に銀河帝国側から和平の締結を打診される。主力艦隊を失った新共和国に申し出を断る余裕はなかった。
こうして結ばれた銀河協約は、銀河帝国と新共和国が対等に等しい内容だった。史実ではこの協約は銀河帝国の死亡証明書といってよかったが、この世界では相互に不可侵を結ぶに留まった。
マル・アデッタの戦いで、主力艦隊を喪失した新共和国と皇帝を失った銀河帝国。その損耗はどちらが大きいのかは一概には言えない。
打倒銀河帝国に燃える新共和国内には、対等の協約に反発するものが多かった。しかし、穏健派はこう言ってなだめた。
「皇帝という絶対者を失った銀河帝国は、内乱に揺れ勝手に倒れるだろう」
彼らの言うことは正しい。事実帝国内では反乱の兆しがあった。だがそのすべてを回避して見せた。大宰相トリューニヒトの手腕である。もともと主戦派を率いていたトリューニヒトは、銀河協約を渋る勢力を、持ち前の弁舌で説得。ひとまずの平穏は保たれた。
その政治手腕からして怪物の二つ名を得ることになる。
「さて、銀河の平和は守られました。とんだ茶番ですな、陛下」
トリューニヒトはこの盛大な茶番を仕組んだ皇帝に苦笑するのだった。
なにせシェーンコップは生きているのだから。
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