曇天に哭く修羅
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第一部
ダークホース
前書き
_〆(。。)
【夏期龍帝祭】の準決勝で優勝候補の筆頭だった一年の序列一位《クリス・ネバーエンド》を倒した《立華紫闇》が控え室に戻った後。
「あれ。兄さんは帰らないの?」
朝から調子の悪かった弟子である紫闇の様子を見に来ていた《黒鋼焔》は観客席から腰を上げない《永遠レイア》に声を掛ける。
「うん。今日は紫闇の試合を見に来た理由が一番なんだけど、もう一つ同じくらい大事な用事が有るんだ。次の試合でそれが解ると思うよ」
次に行われる準決勝第二試合で勝った方が決勝で紫闇と戦うことになるので気にするのは解るが今の紫闇なら普段の実力さえ出せればクリス以外に苦戦するような対戦相手は居ない。
そう考えていた焔は今日の準決勝に至るまでまともに試合を見てきていなかった。
しかしレイアは本戦に残った選手の中で気になる名前を見付けたので、その選手の試合だけは紫闇のものと同じように見続けていたのだ。
だからこそ確信する。
(あの人が手を回したな)
【龍帝学園】の生徒会長《島崎向子》
紫闇を成長させるために『壁』となる人間を大会へ送り込んできたことを。
「へぇー……。兄さんが気にする程の逸材だって言うなら興味が有るね。それじゃあ予定を変更してあたしも付き合うよ。紫闇が決勝で戦う相手が気にならないわけじゃないし」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◆◆◆◆◆◆◆◆
控え室に戻った紫闇は何時もなら試合が終わるとあまり長居はせず帰るのだが、ちょっとした気紛れが起きたのか部屋に備え付けられたモニターで準決勝第二試合を観戦することにした。
注目している出場者はクリスしか居なかったので焔と同じく今までの試合を見ていなかった紫闇だったのだが今日は自分の気紛れに感謝することになる。
「おいこらちょっと待て」
思わず腰を浮かせ立ち上がってしまう。
彼にとっては噴飯ものの試合内容。
とても悪い意味で。
自分と同じく三軍の底辺から上がって来たと聞いたがこの選手は自分のような落ちこぼれとは明らかに違うと解ってしまう強さから受ける紫闇の印象はというと。
「こいつ、基礎能力だけならクリスよりも全然上で間違いないだろ。しかもとんでもない舐めプっつーかハンデ付けて勝ちやがった」
その選手は【魔術師】の武器であり、【異能】を発動させる媒介となっている【魔晄外装】を出さず、魔晄防壁も張らず、左拳にだけ付与した【魔晄】だけで相手を粉砕。
「やってるのは開始と同時に一撃当てるだけ。三回戦までは3秒。準々決勝は2秒。そして今回は1秒。おまけに【天覧武踊】の歴代最速KOタイムを更新……か」
この選手ならクリスと戦っても普通に勝っていただろうと紫闇は思う。
同時に何故わざわざ三軍に甘んじていたのかという疑問も湧いてきた。
「クリスを倒して楽できると思ったが、世の中上手く行かないもんだな。まあコイツを倒しての優勝なら江神も文句ないだろ。悪いが手加減してやれないぜ」
視線の先に映し出された容姿と名前は紫闇の記憶に確りと刻み込まれる。
《橘花翔/たちばなしょう》
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
黙り込んでいた焔が口を開く。
「兄さん。何だいあれは」
「私が気にしてた選手だよ。名前を聞いたことは有ったから試合を見てたんだけど」
レイアは焔に翔のことを伝えていない。
「橘花は《江神春斗》の側だね。『人』であって『鬼』じゃない」
そう言う焔だが解っている。
今の紫闇よりも圧倒的に強い。
見ただけで悟ってしまう程には。
「正直、紫闇が戦うには早すぎるステージに居る闘技者なんだよね彼」
二人は首を傾げ困ってしまう。
「『真眼』無しの黒鋼流だけで戦ったらあたしでも厳しい難敵だし……」
「真眼有りでもどうだろうな」
出来るのは今までの修業と同じく基礎能力の向上しかないがどうしたものか。
「まあ解っているのは橘花君が普通の魔術師ではなくもっと厄介ってことだ」
「兄さんは情報有るの?」
焔がレイアの方を向く。
「彼は魔術師としてだけではなく超能力者としての力も持っている。魔晄が有ろうが無かろうが戦うことが出来てしまうんだよ」
「どんな能力かは?」
「いや知らない。得意とするのは体術で近距離を主軸にしているくらいか」
今日のように手を抜いてくれれば勝ち目は有るが真剣に戦えば勝ち目は無い。
「はぁ……」
「頑張れ焔」
後書き
_〆(。。)
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