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曇天に哭く修羅

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第一部
  片鱗

 
前書き
_〆(。。) 

 
準決勝第一試合。

《クリス・ネバーエンド》と《立華紫闇》

今にも倒れそうな紫闇。

対するクリスは至って元気。

始まる前からこれだ。

果たして勝負になるのか。


(あいつは勝ちを疑ってないだろうな。死に体みたいな相手に負けると思う筈が無いから当然だ。けど今の俺にとってそこがチャンス)


紫闇が右腕に黒い腕部装甲を顕現させる。

クリスも自分より大きな甲冑の手にも見える【魔晄外装】を三つ出現させた。


(あっちは初手を中途半端な攻撃で来るはず。全力を出すまでも無いってな。だからいきなり『あれ』を使ってやる。でなきゃ無理だ)


紫闇は理解していた。今の自分では速攻を仕掛けて決着を付けるしかない。

そうしなければ勝てないと。

それほどに紫闇の調子は悪い。


「本音を言うとあの力は春斗と戦う時まで取っておきたかっただろうにね。今の紫闇でもクリスに勝機を見出だせるくらいのものだから」


紫闇の師匠を勤めてきた《黒鋼焔/くろがねほむら》には既に試合展開が見えている。

クリスが押し切るか紫闇が不意討ちを決めるかのどちらかになる確率が非常に高く、それ以外での勝敗になることはまあ無いだろう。


「私達の想像する以外でこの試合の勝敗が左右されることが有るのなら、間違いなく【神が参る者/イレギュラーワン】の不確定要素によってだな。あれは本人にも解らないものだし」


永遠(とわ)レイア》も焔と同意見。

勝率で言えばクリスが圧勝している。

そして、試合が始まった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


召喚(サモン)ッ! 灰塵ト滅亡ノ三壊器(ヴァニシング・カタストロフ)ッッ!!」


開始直後に動いたのはクリス。

紫闇は先手を取られた。

彼女は巨大な鎧腕に乗って一気に浮遊すると上空から地上を見下ろしながら指差す。


「焼ケ果テテ死ネ」


焔が不味いと思った途端にクリスから死刑とも思える非情な宣告が飛び出した。


「プロミネンス・オーバー・タイフーン」


発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射─────


クリスの操る三つの外装から弾丸・弾頭・光線を主体とした光と熱の超火力が雨霰の如く降り注ぎ、天災となって肌を()く。

紫闇は[盾梟(たてさら)]で強化した魔晄防壁で防ぐことしか出来ず、全く身動きの叶わないまま魔晄だけがガリガリと削られていく。

紫闇は虚を突かれた格好だ。

まさかあの、人一倍プライドが高いクリスが戦う前からフラフラの相手を開幕と同時に全力で潰しに来ることなど想像もしていなかった。

このままだとジリ貧。

物量で押し切られる。


(負けたくない)

『門が』

(ここまで来て)

『少しだけ』

(認めたくない)

『本当に』

(何か手はないのか)

『少しだけ』

(負けたく、ない……!)

『開く』


紫闇の幻聴が何かを知らせるように告げた。

それにどんな意味が有ったのかは解らない。

しかし明らかな異変。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「……あれ?」


目を(つぶ)ってクリスの攻撃を耐えていた紫闇は急に静寂となったことにそっと目を開いて確認すると呆然となってしまう。


(何で攻撃を止めたのかと思えば)


そういうわけではない。


「時間が止まってる……のか?」


紫闇が今まで何度か体験した感覚と同じだが今回は自分の意志で動けるようだ。

クリスの攻撃は空中で静止している。

弾頭も、光線も、起きた爆発や飛び散る破片も固定されたようにピクリともしなかった。

紫闇はそれらを躱してクリスの元へ。


「攻撃しても良いのかこれ。まあ戦ってるんだから許されるだろうけどさ」


貫手で喉仏を潰す。

自身の手が彼女の脛椎(けいつい)へ触れると時が針を進め、クリスは白目を剥き失神。

彼女の【古神旧印(エルダーサイン)】が光の筋として紫闇に入ると彼の刻印が半分まで完成。

左手のそれを感慨深く見詰める。

試合時間は1ラウンド10秒。

会場の人間は殆ど何が起こったのか解っていないので拍手も歓声も焔とレイア以外では一切起こることは無く、紫闇もそれを納得していた。

彼自身釈然とせず、勝者でも敗者でもない複雑な気持ちで舞台を去っていく。

しかし紫闇の闘志が()えることは無く、どんどん燃え盛って先の相手を見据える。


「この際どうしてクリスに勝てたのかなんて理由はどうでも良い。優勝っていう土産を持って《江神春斗》への挑戦権を得るまであと一つ」
 
 

 
後書き
霰・あられ

 
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