曇天に哭く修羅
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第一部
運命力
前書き
_〆(。。)
「明日はどっちが勝つかなぁ」
《黒鋼焔》は縁側で呟く。
「あの体調不良は突発的だからね」
《永遠レイア》も《立華紫闇》が何時もの通りなら心配せずともやってくれると言えるのだが、今回は唸るしかない。
「頭痛や発熱が有るのは把握しとる。しかし小僧は儂らにも話していない『何か』を隠しておる気がするんじゃ」
《黒鋼弥以覇》も気にかかるようだ。
紫闇が【神が参る者】であるということが原因なのは察しているが、対処法に皆目見当がつかないので何も出来ない。
【夏期龍帝祭】もいよいよ準決勝。
明日の相手は《クリス・ネバーエンド》
彼女が一年生とは言え、学年序列一位だけあって紫闇の不安要素が表に出てしまった場合には到底勝てるような相手ではない。
「悩ましいね全く」
焔のぼやきに弥以覇は顎髭をなでながら真面目な顔をして見解を述べる。
「クリスとかいう娘の勝負、テレビで幾度か見させてもらったわい。なかなか大したもんじゃ。手数と火力に任せたゴリ押しにしか見えん者は多いだろうて。しかし実のところはと言うと、強かな計算が有ってのこと」
「人格もただ傲慢なように見えますが、勝負に向き合う姿勢は意外に真摯。不調の紫闇が突けるような隙は微塵も無いでしょう」
弥以覇もレイアも何時もと同じであることを祈るしかないがそれは焔も同じ。
「信じよう、彼を」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翌日の朝、紫闇が起き上がる。
クリスとの戦いに思いを馳せた彼は勝てるかもしれないという自信を持っていた。
しかし頭が割れるように痛い。
急にそんな症状が彼を襲う。
更に体が燃えるような発熱まで。
『大丈夫だ』
かつてない程にキツい体調不良。
『問題ない』
「大ありだ馬鹿野郎……」
幻聴を罵倒しなければやっていられないほど切羽詰まっており、朝食など喉を通る筈が無いので会場のドラゴンズガーデンへ向かう。
(こりゃあ不味いな。思うように足が上がんねぇぞ。ちょっと歩いただけで息が切れちまう。むちゃくちゃ体が重い)
地面を這いずりながら辿り着くと警備員に肩を貸してもらいながら控え室へ入った。
「……あんたねぇ。そんな状態でこのクリス・ネバーエンドに勝てると本気で思ってんの? 舐められたもんだわまったく。顔色が悪いなんてもんじゃないじゃない」
紫闇の耳はまともに音が聞こえていない。
彼には今のクリスが何を言っているのかさっぱり理解できないでいる。
目も焦点が合っておらず、像が幾つも重なって見えているような有り様。
(負けるかよ。絶対に勝つからな)
「立華紫闇君。クリス・ネバーエンドさん。これから準決勝が始まります」
二人は控え室から出た。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
舞台までの通路を歩く二人。
「ねえ。あんたどう見ても棄権した方が良いわよ。試合で手は抜けないし」
クリスは油断はしている。
戦うまでも無いと。
「は…はぁ……。勝つぞ……。俺は勝つぞ……」
紫闇は強がって笑う。
「でしょうね。諦めた目じゃないもの。ところであんた『運命力』って知ってる? ある学者が発表した説なんだけど私は信じてるのよ」
曰く、この世界には運命力という概念が有り、それが強い人間ほど困難にぶつかった場合に乗り越えやすいそうだ。
実際に紫闇も覚えが有る。
フィクションの主人公みたいな存在。
彼等は味わう苦労こそ差は有れど、数多幾多の人間が絶対に越えられないとされている壁を都合良く乗り越えてしまう。
中には壁を壁と認識せずに踏み越えたり、跨いだり、壊したりする人間。
そんな人間を近くで見てきた。
「タチバナシアン。あたしから見たあんたも運命力が強いと思う。でもコウガミハルトには敵わないわ。あそこまで運命力が強い人間は世界中を探してもそうそう見つかるもんじゃない。だからこそあいつはブッ壊してやりたい極上の踏み台なのよ」
クリスは優勝して《江神春斗》への挑戦権を手にし、そして勝つことを譲れないのは紫闇のように限界を突破して壁を壊すことで何かを得る為なのかもしれない。
しかし春斗と戦いたいのは紫闇も同じ。
「これでも良い踏み台だって認めてるのよ。だから調子が万全の時に戦いたい。今回はあんたの望み通りにならないんだから」
対抗心に火が点いて反骨心が高まる紫闇からクリスに対しての負けん気が顔を出す。
「お前の言葉を……借りようか……。上から目線がムカつくんだよド畜生……! 彼奴と戦いたいのは俺だっておんなじだ……。それに……江神は『俺』を待ってくれてるんだぜ? だったら大人しく敗北を受け入れるわけにはいかないだろ……!」
クリスと紫闇は途中で分かれた。
互いの入場口に向かう。
「負けてたまるかよ……」
『門はまだ、開ききっていない……か』
またもや幻聴が聞こえてくる。
しかし今はどうでも良い。
彼は歩くことに集中し舞台へ上がった。
後書き
_〆(。。)
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