レーヴァティン

　　　　　　　　　　　　　　　　第百三十七話　　肝
　英雄は当季と謙二そして護衛の者達を連れてそのうえで鹿児島の街に入った、街は薩摩の武士達が護っているが。
　その彼等は英雄達の姿を見て驚きの声をあげた。
「自ら来たか」
「敵の総大将自ら」
「まさかそうして来るとは」
「何という大胆な」
「恐ろしい肝っ玉だ」
　こう言って驚いていた、そしてだった。
　隙あらばと思う者もいたがすぐにだった。
　その思いを消して言うのだった。
「ああした男は通すべきだな」
「そうだな」
　周りの者達も言うことだった。
「敵の本城に乗り込んで来るんだ」
「あれだけの手勢だけでな」
　十人もいない彼等も見て話された。
「凄い肝だ」
「そんな肝の奴はな」
　それこそというのだ。
「それなりの礼を以て相手せんとな」
「いかんわ」
「そうだな、じゃあな」
「馬鹿な真似はしないでな」
「殿のところに行かせるか」
「後は殿が何とかしてくれるわ」
「そうだな」
　こう話してだった、そしてだった。
　彼等は英雄達に手出しはしなかった、勿論英雄達も彼等を見ている。英雄は鹿児島の街の大路の真ん中を堂々と歩きつつ言った。
「薩摩隼人は来ないな」
「おまんの肝が見てじゃ」
　それでとだ、当季はその英雄に話した。
「それでじゃ」
「襲って来ないか」
「総大将が敵の本城に乗り込むにはじゃ」
　それこそというのだ。
「相当な肝っ玉があってこそじゃ」
「出来るからか」
「おまんのその肝を見てじゃ」
「そうか、しかしな」
「襲って来てもじゃな」
「別にいい」　
　これといってというのだ。
「返り討ちにするだけだ」
「その肝じゃ」
　それがというのだ。
「薩摩モン達も見てのう」
「来ないか」
「そういうことじゃ、薩摩モンはこの世界でも肝を重んじる」
「肝がある奴を認めるか」
「そういうことぜよ、そしてじゃ」
「このことはだな」
「敵の総大将も同じぜよ」
「薩摩者だからか」
「そうじゃ、それでじゃ」　
　その為にというのだ。
「もうこの度のことはじゃ」
「俺達にとってだな」
「かなり傾いているぜよ」
「そうか、ならだ」
「降らせるんじゃな」
「そうさせる、ここまで長かったが」
　それでもというのだ。
「鹿児島の戦もせずに済んでな」
「そしてじゃな」
「終わらせることが出来る、戦になれば」
　この鹿児島でというのだ。
「そうなれば民を巻き込む」
「そうなってしまうことがじゃな」
「俺としてはな」
「避けたいんじゃな」
「それはしない」
　決してと言うのだった。