戦国異伝供書
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第七十一話 黄色から紺色へその五
「六角家とですか」
「手を切ってな」
「再び独立されたいですか」
「うむ、さもないと当家はな」
「戦国の世においてですな」
「生き残ることが出来ぬ」
これが猿夜叉の考えだった。
「父上はいつも朝倉家に頼れぬと言われるが」
「殿はそれでも朝倉家を頼りにされています」
今度は赤尾清綱が言った、鋭い目の男だ。
「宗滴殿がおられるので」
「あの御仁が大きいな、しかしわしは当家だけでな」
「立ちたいですか」
「少なくとも近江と伊賀だけしか見ておらぬ六角殿の下では」
「危ういですか」
「若し松永殿か斎藤殿がこの近江に来れば」
その時はというのだ。
「やはりな」
「危ういですか」
「うむ」
まさにというのだ。
「そうも思うしな、そして朝倉殿も」
「その宗滴殿ですが」
雨漏り清貞は彼のことを話した、その大きな顔で。
「非常に立派な将ですが」
「もうご高齢でな」
「そして朝倉家のご当主ではありませぬ」
「ご当主殿はな」
猿夜叉は朝倉義景、その朝倉家の当主の話もした。
「武は苦手でな」
「こう言っては何ですが」
「頼りないとじゃな」
「思えまする」
「それじゃ、このことは父上と同じくな」
「朝倉殿は常に頼れぬと」
「そうじゃ、しかしわしは頼りたいが頼れぬのではなく」
久政はこちらの考えであるがというのだ。
「最初からな」
「頼らずに」
「そうじゃ、当家だけで立ち出来れば」
猿夜叉はさらに話した。
「むしろ他の家に頼られる」
「そうした家になりたいですか」
「当家の色は祖父殿が定めた紺色」
その色に武具も旗も鞍も染めている、今自分達が着ている服もだ。そこが六角家とは決定的に違うのだ。
「この紺色に誓ってな」
「自ら立ち」
「そしてな」
「頼られる」
「そうした家になりたい」
他の家を頼るよりというのだ。
「そこまでして戦国の世は生きられるであろう」
「確かに」
月代を見事に剃った男が言ってきた、磯野員昌だ。
「そこまででなければ」
「戦国の世はな」
「生きられませぬ」
「左様、だからな」
「当家はですか」
「六角家から出ていきな」
「強く頼りにされる家になり」
磯野も話した。
「そうしてですな」
「生きたい、そしてわしは信義や人の道はな」
「何としてもですな」
「守りたい」
磯野にこのことも話した。
「必ずな」
「それでは」
一際大きな立派な体格の男だった、遠藤直経だ。
「戦国の世でも」
「人の道を守るにも力がいるであろう」
「はい、武なくしてはです」
「人の道もな」
「そして法も」
四角い顔に濃い顎鬚の男だ、新庄直頼だ。
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