戦国異伝供書
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第七十一話 黄色から紺色へその一
第七十一話 黄色から紺色へ
家康は自分の話を終えた、そうして言うのだった。
「いや、それがしも振り返りますと」
「色々あったのですな」
「今話した通りに」
羽柴に笑って応えた。
「そうなのです」
「左様でありますな」
「今川家にそのままいても」
それでもというのだ。
「やはりよかったと思いますが」
「今もですな」
「まさか百六十万石の大身になるとは」
「拙僧の言った通りでしたな」
その雪斎が笑って言ってきた。
「徳川地緒のは大身になられました」
「百万石の」
「さらに六十万石も多い」
「そこまでの者に」
「全くでおじゃる」
氏真も飲みつつ笑って話してきた。
「麿も竹千代殿は大きくなるとでおじゃる」
「思われていましたか」
「左様、ただそれは」
「今川家のですか」
「中のことと思っていたでおじゃるが」
それがというのだ。
「まさか百六十万石の主とは」
「思われず」
「驚いているでおじゃるよ」
「そうですか」
「ほっほっほ、しかし麿にしても」
氏真は笑って自分の話もした。
「大名でおじゃるからな」
「今もでありますな」
「よいでおじゃる」
十万石の大名だ、その家臣として雪斎やかつての今川家の家臣の多くがいて今も共にいるのである。
「全く以て」
「左様ですな、ただ」
「ただとは」
「あの時大殿と彦五郎様のことは」
「心配でおじゃったか」
「無事で何よりでした」
桶狭間の時のことを話すのだった。
「まことに」
「そういえば竹千代殿は麿達の助命を願ったでおじゃるな」
「当然のことです」
家臣としてとだ、家康は微笑んで答えた。
「そのことは」
「そうでおじゃるか」
「彦五郎様もそうされましたな」
「言われてみれば。ただ様付けはよいでおじゃる」
「それは、ですか」
「もう主従ではないでおじゃるからな」
それ故にというのだ。
「だからでおじゃる」
「そのことはよく」
「砕けた呼び方で頼むでおじゃる」
「では殿で宜しいですか」
「それでいいでおじゃる」
「では彦五郎殿にはよくして頂いたので」
「父上についてもでおじゃるか」
氏真は義元、出家して寺に入りこの場にもいない自身の父のことも話した。
「左様でおじゃるか」
「はい、ですから」
「上様に助命を願ったでおじゃるか」
「そうしました」
「そうでおじゃったか」
「そして今もですか」
「こうして共にいるでおじゃるな」
氏真は笑って述べた。
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