戦国異伝供書
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第七十話 独立その三
「こうなっては今は織田家の虜となっている殿のところに向かうか」
「殿そして今川家の方々をお守りする為に」
「それかな」
若しくは、というのだ。
「他の家にお仕えするか自身がな」
「大名となるか」
「どれかじゃ、それで拙僧は今川家の家臣のうち心を同じくする者達を集め」
そしてというのだ。
「殿のお母上寿桂尼様駿府に残っておられる今川家の子女の方々をお守りしつつ」
「駿府を出て」
「織田家に行こうと思っておる」
「殿をお守りする為に」
「左様、織田殿は確かに殿も彦五郎様も今川家の方々も虜にした」
「しかしお命は、ですか」
「取られぬ様じゃ、それでじゃ」
織田家もっと言えば信長のそうした考えを見抜いてというのだ、雪斎は信長の意図を今はわかっていた。
「拙僧は尾張に赴いてじゃ」
「殿を護られますか」
「そのつもりじゃ、殿はおそらく出家されるが」
「彦五郎様が」
「暫く後で家督を継がれる」
そうなるというのだ。
「その際にな」
「彦五郎様にお仕えしますか」
「織田家の中でな、織田家は数年のうちにとてつもなく大きくなる」
今は確信していた、雪斎も。それで言うのだった。
「尾張一国、六十万石からな」
「途方もないまでに」
「その中で今川家もあるなら」
「織田家に入りですか」
「今川家にお仕えしたい」
「他の家中の方々と共に」
「朝比奈殿も同じ考えじゃ、おそらく駿河と遠江の半分は武田殿のものとなる」
雪斎は今川家の旧領のことも話した。
「北条殿は関東に兵をほぼ全て向けていて駿河には兵を向けられぬが」
「武田殿は違いますな」
「川中島での長尾殿での戦は終わった」
多くの兵が傷付いた、だがそれでもというのだ。
「それで甲斐からじゃ」
「兵を進められますか」
「今の駿河や遠江はまさに空き地、しかも武田殿には大義名分もある」
これもあるというのだ。
「ご嫡男太郎様の奥方のお家や民を護るというな、これは嘘ではないし」
「戦になる相手もおらず」
「もう何の気兼ねもなくじゃ」
後ろめたいものがないというのだ。
「駿河と遠江の半分を手に入れられるわ」
「そうなりますか」
「うむ、武田家はこれによってな」
駿河一国と遠江に半分を手に入れてというのだ。
「さらに強くなる、およそ二百万石を越えるな」
「恐ろしい勢力になりますな」
「して織田家はさらに大きくなる」
この家はさらにというのだ。
「まさに数年のうちにな」
「とてつもなくですか」
「そうなる、拙僧は出家しておるので禄はいらぬが」
それこそ生きていければいい、雪斎はそちらの欲はない。
「しかしな」
「殿をですな」
「お護りする、そしてな」
それでと言うのだった、さらに。
「お主じゃが」
「それがしですか」
「どうするかじゃが」
「そのことは」
「拙僧の見立てでは今川家はもう駿河と遠江の守護を降りられる」
「では三河の吉良殿も」
「そうなる、おそらく武田殿はその話を聞いてから動かれるが」
それでもというのだ。
「問題はな」
「それがしですか」
「どう考えておる」
元康の顔を見てだった、雪斎は強い顔で話した。
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