曇天に哭く修羅
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第一部
決意は固く
前書き
_〆(。。)
《江神全司》が孫の春斗は【古神旧印】を完成させて【魔神】に、【古代旧神】が選ぶ者になれないと思っているのには訳が有る。
そしてそれは全司が春斗のことを剣の道から、『闘技者』としての生き方から外したがっている理由でもあった。
[魅那風流]の剣士としては歴代最高と言っても良い武才とそれに見合った肉体・精神を有し、江神家に栄光をもたらすことが約束されている麒麟児に対して何故そんな思いを持っているのかと言うと。
(俺は『鬼』に成れない。『人』の道を外れるどころか逸脱することすら出来はしないだろう。だがそれで良いんだ。俺の目指すは人を超えた『超人』の域なのだから)
《江神春斗》は自分の祖父である全司が自身のことを欠陥品であると思っていることなど当の昔に悟っていた。
人としては愛せても、闘技者としては軽蔑されていることなど百も承知。
毎朝の稽古で本気を出さない全司に言いたいことは有るが、春斗にとって祖父の全司は【魔術師】や闘技者としては既に『越えてしまった壁』であり、祖父として以外の彼にはそこまで時間を割く必要が無い。
故に変わらず接している。
「時に春斗へ聞きたい。お前の心に変化が見られるが何か有ったのか? 今日の気配は少し熱を持っていたように感じたのだが……」
「当代の黒鋼と会いました」
絶句する全司に《エンド・プロヴィデンス》は押し殺したように笑う。
エンドは自分が黒鋼で修業していたことを全司に話しているものの、全司は気にすること無く受け入れ魅那風流剣術を伝授している。
「彼奴の名は《黒鋼焔》と言い、自分の通う龍帝学園の二年生です。しかし全く登校していない様子だったので知る由も無かった」
全司は静かに耳を傾ける。
何か感じ入っているようだ。
無理もないだろう。
江神全司にとって黒鋼は【邪神大戦】で出逢い鬼の血が騒ぐような闘争を繰り広げた相手であり忘れ得ぬ好敵手なのだから。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
沈黙していた全司が天井を見上げる。
「彼奴の……我が好敵手《黒鋼弥以覇》の孫は如何なる者であった?」
「途轍も無く強い。底が見えぬ程に。学生はおろか、例え軍属であっても比肩する【魔術師】が居るのか疑問です。かつて俺が挑んだ魔神、『愚者のマリア』こと《白鳥マリア》をも凌駕するやもしれません」
「左様か……。くくっ、修羅から生まれるのは修羅のみということかよ」
春斗も《エンド・プロヴィデンス》もこんな上機嫌の全司を見るのは久し振りだ。
しかし笑みは数秒で終わる。
表情を無に戻した彼は厳然に問う。
「立ち会ったのか?」
「いえ、弟子がおりましたので其方と」
「儂の知る限り、黒鋼に弟子入りする人間の悉くは特異な存在であるからのう。勝負が預かりになるのも無理は無かろうて」
全司は実に懐かしそうだ。
彼は弟子についても尋ねる。
「あ、そいつについては俺が」
エンドとは幼馴染みだった。
「名前は《立華紫闇》。俺や春斗と同じ十五才。才覚で言えば三流以下です。しかし魔神になることを諦めない狂気を持つ。龍帝に入学した当初は学年でも最弱に近い生徒に手も足も出なかった。しかし一月半で生まれ変わりましたよ。昔からあいつを知ってる身としては驚かざるを得ません」
それには春斗も同意する。
諦めること無く困難を乗り越え地獄を耐え抜いた紫闇は凄まじい、尊敬に値する男だ。
心の底から思う。
未来の好敵手だと。
「奴は此方の心を熱くする不思議な男。あの者にだけは負けたくないという想いが有る。故に成長を促すような真似をしました。力を完成させた立華紫闇を叩き伏せ、己が強さを証明する為に。とは言ってもあの男が【夏期龍帝祭】で優勝することが前提になりますが」
柄にも無く熱くなった春斗だったが、全司の方は彼を冷然とした目で見る。
「そうか……。どうあっても考えは変わらぬのだな。しかし今一度繰り返させてもらおう。江神春斗は半端にしか狂気を受け継いでいない。人と鬼の狭間を彷徨うばかりで先に進むこと能わず。ならばいっそ剣を捨てて常道を歩んだ方が幸せであろう」
春斗に哀れみの目が向く。
春斗を信じていない。
何の期待も抱いてはいないのだ。
亡き父母も同じ目をしていた。
彼等にとって、いや、江神という一族にとってどんなに剣才が有ろうと春斗は欠陥品。
鬼の狂気に染まれない失敗作。
(ならばそれで良い)
自分は人のままで鬼の江神を超える。
魅那風流以外の力に手を出してでも。
(既に自分のことを応援し、認め、支えてくれている人達もおり、彼等の力も有って世界でも上から数えられる領域に入った実力の俺は、もはや江神という枠には囚われないし縛られない)
成長した立華紫闇を倒す。
春斗の闘技者としての集大成はそれを成し遂げて漸く完成を見たと言えるのだ。
後書き
_〆(。。)
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