魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第7章:神界大戦
第230話「パンドラの箱」
前書き
―――開け放たれた真実は、まさに災厄の箱のようで……
「“領域”への干渉の仕方を、私達は知らない。“戦闘”という状況にする事で戦う事は出来ていたけど、それだとこっちが圧倒的不利のまま」
「干渉の仕方としては……私達も“領域”を持って、それをぶつけるとかかな」
奏、緋雪が続けて発言する。
「“領域”を持つって言ったって、一体どうやって取得するんや?」
「取得する必要はないよ。さっき、とこよさんが言った通り、“領域”は自分を自分たらしめるモノなのだとすれば、既に私達全員も持っているはずだよ」
はやての疑問に、司が答える。
「既に、持ってる?」
「私達の肉体、心、魂。そのどれもが“領域”を表している。だって、どれも私達を構成する要素なんだから」
「……なるほど。確かにそうですね」
古代ベルカでも魂や心に干渉する魔法が研究されていたためか、何人かが納得する。
フェイトやアルフなども、漠然とだが理解はしているようだ。
「だとすると、条件としては対等になるのでは?」
「最低条件はね。でも、その“領域”の強度が全く違う。これが、今まで認識していた“格”の違いの正体だと思う」
「“領域”の強度……」
ただでさえ曖昧な表現しか出来ないモノだ。
それの強度が違うと言われても、何をどうすればわからないのが普通だ。
「絶対的な差は、ここにある。……だから、それを“破壊”しちゃえばいいんだよ」
「……えっ?」
聞き返すように誰かが声を漏らした。
緋雪の発言に、事情を知らない者全員がどういう事なのかと視線を向ける。
「差そのものの破壊は出来ないよ。それをするにはこっちの“領域”が弱い。でも、決定的な差と言う名の“壁”は破壊出来る。……そうすれば、手を届かせるチャンスが生まれる」
「そんなの、一体どうやって……」
緋雪の言葉に、フェイトが聞き返す。
「“これ”だよ」
それを、緋雪は“破壊の瞳”を出す事で返答とした。
「“破壊の瞳”……まさか……!」
「戦闘時でなければ、これで概念すら破壊できる。……既に、私と司さん、椿さん、葵さん、そしてなのはちゃんと奏ちゃんの“壁”は破壊したよ」
クロノが声を上げ、プレシアなども目を見開く。
その驚愕の様に緋雪は満足したように大胆不敵な笑みを浮かべる。
「限界の破壊、神界との私達の間にある“壁”の破壊。……これによって、私達は限界を超えた強さを得る事が出来るだけじゃなく、神界の存在を“理解”出来る」
「なっ……緋雪、それは本当なのか!?」
続けた司の言葉に反応したのは紫陽だ。
反応したのは神界の存在を“理解”出来るという部分。
「あの規格外共を……理解不能だったあいつらを、“理解”出来る!?本気で……本気でそれを可能にするというのかい!?」
「ど、どうしたんだ……?」
「どうもこうもないよ執務官!理解するのと出来ないのとでは、大きな差がある……!相手を理解すればするほど、弱点も分かるしどういった存在かも分かる。……けど、神界の連中は全くもって理解が及ばなかった!……それは、実際に戦った皆なら分かるはずだ」
理解さえ出来れば、解き明かす事が出来る。
だが、それが出来ない場合は未知から変える事が出来ない。
その上で、神界の神はまったく“理解”出来なかった。……そのはずだった。
「……可能だよ。実際、私はそれを“破壊”した。……お兄ちゃんだって、何度も限界を超えて、理屈を無視してあの領域に立ったんだもん。……手を届かせるぐらいなら、私にだって出来るよ」
「っ……緋雪!分かっているのかい!?それは、人の身で……!」
「紫陽、それについては私から忠告済みよ。でも、今はそうでもしなければ状況を打開する事は出来ない。緋雪も、覚悟の上よ」
「椿……!」
人の身で神の権能と同等以上の事をする。
その危険性は、神の座を受け継いだ紫陽だからこそよく分かっていた。
だが、緋雪は既に覚悟していると椿に言われ、それ以上は言えなくなる。
「……紫陽ちゃん、緋雪ちゃんを信じよう?元々、緋雪ちゃんにはその素質があったんだから神の権能染みた事が出来てもおかしくはないよ」
「とこよ……分かった。今までの規則や法則に則ってたらダメだね。自分の枠組みを超えるぐらいはしないと、どうにもならないからね」
とこよの言葉に、紫陽はとりあえず納得する。
「……とにかく、その決定的な差をどうにか出来たとして……その上でどうするのか、だ。その“領域”とやらの問題をどうにか出来るとして、それで事態は解決できる訳じゃない」
「その通りです。緋雪さん達が言ったのは、飽くまで最低条件を満たしただけ。……その上でさらに対策を練らない限り、どうにもなりません」
クロノ、サーラが未だに残る問題を示す。
言わば、足場が存在しない状態から足場を作っただけでしかない。
それだけでは、向こう岸に着ける訳ではない。途中で落ちてしまえば無意味だ。
「限界の壁と、絶対的な壁の破壊。これさえすれば、ただ強くなるだけでもかなり戦況はマシになると思うよ。でも、それだけでは足りないのも確か」
「私の祈りで何とかしても、それでも足りないだろうね」
限界がなくなり、神との差を明確に理解する。
その上で、司の祈りと共に強化を施せば、以前の戦いよりはマシになる。
だが、それで打倒できるのかと問われれば否となる。
「最低でも、一つは概念的攻撃の手段が必要だと思う」
「概念的攻撃……私達のように霊術を扱えるならともかく、魔法だと相当難しい事じゃないの?それって……」
アリシアの言う通り、霊術であれば概念に干渉する方法はある。
しかし、魔法の場合は物理的なものが多いので、概念への干渉は難しい。
「だから、何としてでも覚えてもらうよ」
「……避けては通れないって訳だね」
もう“別の手段を取る”といった遠回りな事は出来ない。
次の戦いまでに、何としてでも皆は概念的攻撃を覚えなければならなかった。
「“格”の差については、私がある程度は何とかするつもりだけど……それぞれで出来るだけの事はしてほしいかな。緋雪ちゃんのおかげで枠組みから外れて強くなれるんだし、もしかしたら“格”を昇華させる必要がなくなるかもしれないし」
「概念的攻撃に関しては、この中だと紫陽さんが一番詳しいんじゃないかな?」
「うーん、かやちゃんも十分詳しいと思うよ?」
「そっか、椿は神の分霊だから、知っててもおかしくないんだったね」
「確かに知ってはいるけど……習得できるかは別よ?」
概念的攻撃に関しては、紫陽や椿を中心とした神関連のメンツが教える事になる。
しかし、“格”の差……つまり、“領域”の強度は懸念が残る。
「攻撃が通じる所まで“格”を昇華させる……つまり、“領域”を強化するんだけど、問題は私と皆の器が耐えられるか、なんだよね」
「可能なのかではなく、“耐えられるのか”が問題なのか?」
「うん。“領域”を認識できたおかげで、そこまで強化する道筋も理解できた。……でも、無茶苦茶な強化には変わりないから、先に体がダメになるのかもしれないんだ」
司の言う懸念に、全員が少し黙り込む。
攻撃が通じるようになっても、その時点で戦闘不能な可能性もあるからだ。
「ま、その点は限界の壁を破壊すれば何とかなるわ。今までは物理的に鍛えても器は変わらなかったけど、緋雪の破壊があればそれも変わるわ」
「物理と非物理の境界が曖昧になるから、だっけ?まぁ、そんな感じだから皆も雪ちゃんの破壊で枠組みを破壊してもらっておいた方がいいよ」
体を鍛えるのと、器を鍛えるのは本来別だ。
肉体を鍛えるだけでも少しばかりは器も強化されるが、本格的に鍛えるのは無理だ。
だが、そんな本来は別アプローチが必要な器の強化も、緋雪が限界と“壁”を破壊する事で、かなり簡略化出来る。
「だけど、忠告が一つ。……一度緋雪に破壊してもらった場合、もう元に戻るとは思わない事ね。最悪、人の枠組みからも外れてしまうわ」
「……椿の言う通りだね。さっきは言い損ねたが、緋雪の力も、それによって齎されるものも、人から外れたものだ。神の目につくのはもちろん、“普通”には戻れないよ」
しかし、そこで椿と紫陽による忠告が入る。
そう。神に目を付けられるだけでは終わらない。
“人”という枠からはみ出て、一生元に戻れなくなってしまう。
「……覚悟はあるのかい?そうなってしまってもいいという、覚悟が」
「………」
沈黙が下りる。
危機的状況とはいえ、人を止められるのかと聞かれて応答を躊躇してしまう。
だが、答えられない訳ではない。
「……あるよ。覚悟は、ある。もう、決まってるよ」
「……そうね。ここまで来て、引き下がれるものですか」
アリシアが、絞り出すように言う。
それに追従するように、アリサもそういった。
さらにそれを皮切りに、次々と紫陽の言葉を肯定していった。
「―――まったく、ここまで言われちゃ、あたしには何も言えないね」
「元より、このままだといけないんだ。……僕らが人の身を捨てるだけで、何とかなるのかもしれないのなら、躊躇いなく人の身から外れよう」
何度も殺され、心すら蹂躙された。
その経験から、人の身がどうなどと、最早気にする程の事でもなくなっていた。
クロノの言った通り、今この場に人の身を捨てる事を躊躇う者はいない。
いるとすれば、それは神界の戦いに参加していなかった者ぐらいだろう。
しかし、その一人であるリンディも、それしか方法がないのならば受けいれる覚悟は既に出来ている。
「では、今後の方針は緋雪さんの破壊を使いつつ、態勢を整える事。……そして、万全な準備ができ次第、志導優輝及び王牙帝の両名の救出に向かいます。……よろしいですね?」
具体的どうするのか、どうしていくのかが決まっていく。
最後はリンディが締め、会議は終了する。
『艦長!』
各自が思い思いに席を外している中、リンディに一つの通信が入る。
「どうしました?」
『……聖王教会から通信が入っています』
「っ、すぐに向かいます」
それだけ言って、通信は終わる。
慌てたようにリンディは部屋の中を一瞥する。
「はやてさん、ユーリさん、少しついてきてもらってもいいかしら?」
「リンディさん?どうしたんや?」
「何か御用でしょうか?」
声を掛けられたはやてとユーリがリンディの元へ集まる。
つられるようにアインスとサーラも同行した。
ディアーチェ達やヴォルケンリッターは少しばかり離れた場所で待機していた。
「聖王教会からの通信があったの。それで、古代ベルカに関係している貴女達にも同行してもらいたいのよ」
「聖王教会から……もしかして、カリムから?」
「おそらくはね」
急ぎの通信となれば、相応の用件の可能性が高い。
そこから、はやての友人でもあるカリム・グラシアからの通信だと推測した。
彼女の持つレアスキル“預言者の著書”に関する事だろう。
「古代ベルカに関する事でしたら……私よりも、緋雪さんの方が適任じゃないですか?」
「……それもそうね。緋雪さーん!」
緋雪はかつてシュネーとして生きた記憶がある。
シュネーは古代ベルカ戦乱時代真っ只中の人物だ。
その記憶があるのであれば、確かに同行もするべきだろう。
すぐさまリンディが緋雪を呼び出す。
「どうかしたんですか?」
すぐに緋雪も来て、リンディは簡潔に用件を説明する。
「なるほど、そういう事なら……」
緋雪も同行する事になり、早速リンディは通信のために移動を開始した。
「……やっぱり、預言に関してね」
移動後、リンディは通信を開いて、データを受け取った。
その際の会話で、予想通りの内容だったと呟く。
「通信したのがカリム本人じゃないのが気になるんやけど……」
「向こうも忙しいのかもしれないわ。とにかく、内容を確認しましょう」
そういって、リンディは受け取ったデータをその場に展開する。
「っ、これは……!?」
「ぇ……何、これ……?」
「これは……」
そのデータを見て、ユーリと緋雪は驚愕する。
リンディも声を上げるが、それは単に読めないながらも意味不明だったからだ。
なぜなら、その預言の内容の一部が、明らかに同じ文字を羅列しただけだったからだ。
「何か、まずい内容でもあったのかしら?」
「……違います。そういうのじゃ、ありません……!」
「あの、そのカリムっていう人、無事なんですか……?」
緋雪の問いに、ますますどういうことなのかと疑問に思うリンディ。
「どういう事?」
「……預言の内容、写しますね。先に言っておきますけど、これはそのまま訳して書き写しただけです。改変も、何もしていません」
そういって、ユーリがあっという間に現代語訳した預言を書き写す。
「これは……!?」
―――“可可能性ののの 灯火火火は 堕堕堕ちち”
―――“世世世界はは闇闇闇闇 覆われれ るるる”
―――“希望…………潰え………”
「……これ以上は翻訳不可能です」
ユーリ曰く、他は文字が潰れているか、文字化けのような状態だと言う。
辛うじて翻訳できたのが、預言の冒頭部分だけだった。
それだけでもあまりに不自然な内容になっていた。
「まるでコンピュータのバグのような文章……今までの預言で同じような事は?」
「私の知る限りないわ。ただ、今までは古代ベルカ語を簡単に訳す事が出来なかったから、もしかすると同じような事も……」
「騎士カリムと連絡は?」
「出来るかどうか、今確かめているわ」
通信とは違い、メッセージでアポイントメントを取る。
しかし、返答はすぐに返ってきた。
「……“昏睡状態”、ですって?」
「なんやって!?カリムが……!?」
その内容は、件のカリムが昏睡状態に陥っているというものだった。
友人でもあるはやては、その内容に驚愕する。
「……無理もないかも」
「緋雪さん?」
「多分、預言は神界に関する事なんだと思う。規格外の存在を預言しようとして、その反動で昏睡状態に……って事だと思う」
「……なるほど……」
少なくとも、しばらくの間カリムが目を覚ます事はないのだろう。
「……それにしても、この内容は……」
「読み取れる部分だけでも、良い内容とは言えませんね……」
分かる部分を要約すれば、希望が絶たれて世界が闇に覆われる事が分かる。
普段の預言とは違う事態になった上でこの内容だ。
気にしないという選択肢はないだろう。
「緋雪さんは、私が訳した部分以外は分かりますか?」
「……ううん。私から見ても、同じ所ぐらいしか読めないよ。古代ベルカ語って言っても、私とユーリちゃんの時代で違いもあるし、地域の訛りとかもあるから、一概には言えないけど……」
「少なくとも、今一番読める二人がこんなけしか読めへんって事やな……」
何かの手がかりになりそうだからこそ、はやてはもどかしく思った。
すると、そこへ二人の来客が来る。
「あ、緋雪ちゃんここにいた」
「探したわ」
「あれ?なのはちゃんと奏ちゃん?」
来客したのはなのはと奏だ。
どうやら、緋雪を探していたようだ。
「どうしたの?」
「皆の“壁”を破壊せずにどっか行っちゃったから、探してたの」
「あー、そうだった。リンディさんに呼ばれてついて行ったから忘れてた……」
これ以上自力で成長するのは難しい。
そのため、緋雪の破壊が必要なのだが、その緋雪が席を外していたため、なのはと奏が代表して探しにきていたのだ。
「あれ?リンディさん、それって……」
「これは……聖王教会から送られてきた、預言の内容よ」
「ほら、前に話した事あるやろ?預言のレアスキルを持つ人の事」
「その預言がこれなんだ?」
「まぁ、肝心の内容はおかしくなってるんだけどね」
どうせ古代ベルカ語なのでなのはには読めないだろうと、預言の内容を見せる。
一通り目を通したなのはは、やはり首を傾げたが……
「“可能性の灯火は堕ち、世界は闇に覆われる。希望の輝きは潰え、人は絶望に呑まれる。無限を内包せし可能性は闇に転じ、全てを蹂躙する”」
「……えっ?」
「“……此れを覆すは、人が紡いで来た新たな可能性。鍵となりしは、天の羽を持つ不屈の魂と音を奏でし魂、草の神と共に在る薔薇、天に祈る二人の巫女、緋き雪の姫、守り守られし女神姉妹、叛逆せし傀儡、夢想を追い求める者、そして可能性の半身。十二の輝きが揃う時、堕ちた可能性を止める者あり。さすれば、闇が可能性の光を示し、無限の可能性は再臨せん”」
一瞬聞き間違いだと緋雪は思った。
しかし、紡がれる言葉は止まらなかった。
……間違いなく、なのはは預言の内容を“読んでいた”。
「なのは、さん……?」
「……読めちゃったんだけど……」
「ど、どうして?なのはちゃんって、古代ベルカ語は読めなかったよね!?」
「う、うん……でも……」
でたらめで読んだようには、とても見えなかった。
なのは自身、読めた事に戸惑っている程だ。
そして、それはなのはだけではない。
「……私も、読めるわ……」
「奏ちゃんも!?」
奏も驚いた様子で読めると言う。
どういう事なのかと、二人に緋雪達の視線が集まった。
「……“天使”ね」
「あっ……そっか、神界の事を預言したから、文章も普通じゃなくなった。でも、“天使”が宿ってる二人なら、神界関連の文字も読める……って事?」
「多分、そうだと思うわ。私となのはが読めて、それ以外の人が読めないのなら」
見るからに文字化けしたような文字を読んだのだ。
緋雪と奏の言う通りだと、その場の誰もが思った。
「……この際、読めた理由はどうであれ構わないわ。問題は、今なのはさんが読んだ預言の内容よ。一度、書き写した方がいいわね」
〈それなら私が録音しておきました。文字のデータとして映し出します〉
エンジェルハートがなのはの読み上げた際の音声を記録し、文字として映し出す。
漢字などはその都度なのはと奏が指摘して変換する。
そして、改めて預言の内容を確認した。
「……前半は、明らかに悪い事を暗示していますね……。おそらく、文章にある闇はイリスの事で間違いないと思います」
「可能性は……お兄ちゃんかな?最後、お兄ちゃんは可能性についてよく口にしていたから、堕ちたとか、闇に転じたっていうのは……多分……」
前半部分をまずは読み解いていく。
分かりやすく世界が危機を迎える事が書かれている事が分かり、おそらく優輝が敵の手に堕ちる事も予想できたため、緋雪は拳を握りしめた。
なんとしてでも兄である優輝を助けなくちゃいけないと、改めて思っていた。
「後半……私達にとって、逆転の一手となるのでしょうね」
「でも、鍵となる十二の輝きって……誰の事なの?」
比喩を使った表現なため、十二の輝きとなる人物が分かりにくい。
一部は分かりやすいが、大体が不明だった。
「天に祈る巫女……これは、司さんの事よね?でも、二人……?」
「司さんは末裔ではあるけど、唯一ではないよね……もしかして、私達が知らないだけで、どこかにもう一人天巫女がいるの?」
緋雪達が知る天巫女は司ただ一人だ。
しかし、天巫女は一子相伝と言う訳ではない。
そのため、地球かプリエールにもう一人天巫女が存在するのだと考えた。
憶測の域は出ないが、今はそう考えておく事にしたようだ。
「“緋き雪の姫”……多分、私の事だと思う」
「……名前ね」
「うん。姫……だなんて、上等な身分ではないけどね」
“緋き雪”という、普段表現しない漢字で態々表現しているのだ。
名前に共通点がある緋雪の事を表しているのだろうと、あたりを付ける。
「“天の羽を持つ”の二人は、なのはちゃんと奏ちゃんなんちゃうか?“天使”を宿しているのと、奏ちゃんは魔法の名前が音楽用語やったやろ?」
「不屈の魂っていうのは、なのはちゃんを表していそうだしね。確か……レイジングハートの起動ワードに“不屈の心”ってあったし」
「……言われてみれば」
“天の羽を持つ”という表現から、なのはと奏の事だろうと推測する。
他の表現も二人を表すのに比較的的を射たものだ。
「“草の神と共に在る薔薇”は分かりやすいね。椿さんと葵さんだよ」
「椿さんはそのまま草の神。葵さんは式姫としての名が薔薇姫だから……ね」
一方で、椿と葵を表す表現は分かりやすかった。
だが、そこまでだ。それ以上は、見当もつかない表現ばかりだ。
「女神姉妹って……神界の神の事?味方になってくれる神がいるのかな?」
「どうやろか……そういう表現って可能性もあるけど」
以前の戦いにおいて、味方として戦ってくれた神はいなかった。
いたのは、洗脳されていて騙していた二人と、警告してくれたディータだけだ。
「それ以外も、よくわからないわね。“可能性の半身”は……“可能性”が優輝さんを表しているとしたら、その優輝さんに関連する人物だとは思うのだけど……」
「半身……リヒト、とか?相棒でもあるんだし」
「……多分、違うわ」
緋雪の予想を、奏が否定する。
「優輝さんは、神降しの代償として女性になっていた時、一つの人格を創造していたわ。もう一つの人格となれば、それは半身も同然。だから、多分……」
「その人格が、“可能性の半身”……」
この場においては、奏しか知らない事だ。
緋雪も召喚後は特訓で忙しかったため、聞かされていない。
「……一旦この話はおいておきましょう。また後で、別の場を用意してそこで推測する方がいいわ。とりあえず、緋雪さんは皆さんの“壁”を破壊しに行くように」
「……そうだね。まずは、そっちを優先しなくちゃ」
推測はそこで一旦止められる。
預言の内容にばかり構っていては、それこそ時間がなくなってしまう。
まずは、今出来る事をするための行動をする事に切り替えた。
後書き
パンドラの箱(神話)についてですが、よく知らない人はWikiでも見てください。
サブタイトルはつまり、そういう事です。
カリムは預言した直後、発狂しかけて昏睡状態になりました。
緋雪達のように、“壁”を破壊せずに無理矢理預言によって理解しようとした結果、キャパオーバーし、発狂しかけたという事になっています。
気絶するのが数秒遅れていたらSAN値直葬されていたぐらいにはギリギリだったレベルです。
預言について、どれが誰を表しているかですが……ヒントとしては、全員既に過去の話で登場済みのキャラクターです(かなりのヒント)。
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