ヘルウェルティア魔術学院物語
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第十話「二重魔術」
「次!エルナン・ハルフテル!」
「俺の番か」
漸く俺の番が来た。既にGクラスの半分が行われた。その為かFクラスの生徒すらおらずこの演習場にいるのは教師とGクラスのクラスメイトだけであった。
「それじゃあ、お願いするよ。ルナミスさん」
「はい」
俺はかねてからの予定通りにルナミスさんに声をかけ右手を差し出す。それをルナミスさんは返事をして握る。ルナミスさんと触れた事により魔力抵抗が消えたのが感覚で分かる。まるで体の周りに出来ていた分厚い層が消えた感じがする。初めてルナミスさんの力を借りて上位魔術を発動した時と同じ感覚だ。
俺は息を一つ吐き一歩ずつ踏み出す。俺の番にも関わらずルナミスさんも一緒に出てきたことにクラスメイトはざわめく。
「あれってルナミスさんじゃない?」
「今はエルナン君の番でしょ?どういうこと?」
「テストは支援を受ける事は禁止のはずなのに……」
「お前ら少しは静かにしろ!エルナンとルナミスの行動は教師の許可を取った正当な行いだ!ルナミスが一切魔術を使わないことを条件に許可しておりもし少しでも魔術の反応を見せれば失格とも伝えてある」
ディートハルト先生の言葉にクラスメイトは静かになる。しかし、奇異の目で見られている事は後ろから感じるたくさんの視線によって分かる。
だが、今は魔術に集中するんだ。俺は右手を出し一気に魔力を注いでいく。使う属性は火、そして風だ。
属性を複数使用する事は二重魔術と呼ばれている。一人前と認められる条件の一つでもありこれが出来なければ魔術師の資格はないと判断されるほど重要な物だ。現在俺と同級生でこれを使える物はAクラスですら数人といった具合だろう。
中心に炎、その周りを風が包み込む。やがて二つの属性は混ざり合い強力な熱風へと姿を変えた。この魔術にクラスメイトとディートハルト先生は驚いているのが分かる。俺は彼らに注意を払うことなく魔術に更なる魔力を注ぎ込む。既にこの熱風はかなりの熱を持っている。この風を浴びた物は一瞬にして焼き尽くされる程だ。
「ルナミスさん、危なくないとは思うけど一応俺の後ろに隠れて」
「は、はい!」
「……よし、行くよ。二重魔術クリムゾンテンペスト!」
上級魔術のクリムゾンスフィアと同じく上級魔術のアーク・テンペストの合わせ技。全ての物を焼き尽くす熱の嵐は寸分たがわず的を飲み込み一瞬にして的を焼き尽くした。そして、嵐は止まることなく的のあった周辺に猛威を振るった。嵐が止むころには灰すら残さずに消えた的と煙と火が立ち込める演習場に炭と化し役割を全う出来ず太陽の光を屋内へと居れる屋上があるのみだった。
……やばい、少しやりすぎた。
「……え、エルナン。お前……」
「え、エルナンさん……」
後方から怒りをまき散らすディートハルト先生と心配そうに声をかけるルナミスさんがいたが俺は振り返る事は出来なかった。
「こ、の、大馬鹿野郎がぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
瞬間、ディートハルト先生の怒鳴り声と共に頭に拳が落ちる。頭の天辺から足先まで響く激痛に俺は涙目で頭を抑える。そんな俺にディートハルト先生は怒りが収まらない様子でお説教を始めた。
「あれって、二重魔術って奴じゃない?」
「二重魔術!?俺らと同じ年でもう使えるのかよ!?」
「しかも俺らと同じGクラスなのに……」
「もしかしてエルナン君って実はすごい?」
「実際ステータス見た時も能力全部俺らよりとびぬけてたからな~」
「じゃあなんでGクラスにいるんだ?先生のミス?」
「さぁ?」
後方ではクラスメイト達が俺の使用した二重魔術について考察している。いくら落ちこぼれと言っても魔術師の卵たちだ。こういう考察は好きなんだろう。実際、俺も好きだし。
「おい、聞いているのか?」
「は、はい!ちゃんと聞いてます!」
そう考えているとディートハルト先生の顔がドアップで映し出される。どうやら別の事を考えていたことがバレたようだ。先生の顔は既に人ではなく悪魔の如き形相となっていた。直視できない様相だ。
「……ったく、ほら!お前らは何時までそうしているつもりだ!次の奴は前に出ろ!エルナン、お前は罰としてテストの手伝いだ。先ずはあそこの備品室から新しい的を持ってこい!」
「はいっ!」
俺はディートハルト先生の怒鳴り声にビビり走って備品室まで行く。情けないけどディートハルト先生は本当に怖い。今後は起こらせないようにしないと。
備品室から的を取ってきて先ほどと同じ距離の場所に置いたことで再びテストは再開された。その後は特に何もなく終わりクラスメイトはそれぞれ帰路についた。
「あ、エルナンはこのまま残れ。演習場をこのまま半壊にさせておくわけにはいかないからな」
「はい……」
どうやら今日はいつ帰れるかは不明のようだ。こんなことならもっと出力を抑えるなり別の魔術にしとくんだった。調子乗って二重魔術なんて使わなければ……。
「あ、あの!ディートハルト先生」
「何だルナミス?」
「私も手伝っていいですか?」
「何?」
「流石にこの量を二人でとなると大変だと思うので……」
クラスメイトが帰路につく中ルナミスはディートハルト先生に掃除の許可を貰っていた。確かにこれを二人でとなると朝まで終わらなそうだな。
「……いいだろう。だが下校時刻はきちんと守れよ」
「はい!」
「なら私達も手伝うよ」
「……」
「いいだろう。許可する」
ルナミスの後ろからレギーナさんとアンネさんが顔を出す。ああ、これなら少しは早く終わりそうだな。俺は三人の申し出に心の中で涙と感謝の言葉を言うのであった。
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