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曇天に哭く修羅

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第一部
  勝ち目は有るか

 
前書き
更新は休んでたけど、年末年始はあんまり休みという感じにならなかった。
_〆(。。) 

 
江神春斗(こうがみはると)》に敗れた《立華紫闇(たちばなしあん)》は黒鋼の屋敷へ戻った後、《黒鋼焔(くろがねほむら)》とこれからどうするかの方針を話し合う。


「学園で『今日の江神』に勝つなら最低5年は掛かると言ったのを覚えてるかい?」


紫闇は悲痛な顔で頷く。


「実は勝つ方法が有る。但し、あくまでも『今日の』江神に対してだから、明確に上の力を出されるとどうしようも無い。それをようく頭に入れておいてくれ」


紫闇は思わず目を見開く。


「あ、有るのか……? 明らかに本気でないとは言っても俺からすれば今日の江神も到底敵わない強さだったぞ」


あれ(・・)で『人』に留まっているのだ。

もしも紫闇と同じように『鬼』となり、全ての攻撃に無差別で軽々しく殺気や殺意を込められるようになれば間違いなく死ぬ。


「あくまでも、江神が今日の調子で戦ってくれた場合なら『勝てる可能性』が有るだけで真面目に戦られたら負けるからね? 十中八九、大丈夫とは思うけど」


焔が見出だした勝機。

それは本人(はると)にとって只の癖。

無意識でやっているのだろう。


「解ってる筈だよ。あいつの戦り方を」


恐らく春斗に対する焔と紫闇の考えは一致している。これは間違いない。あれだけ堂々とやられて解らないなら(にぶ)すぎるというものだ。


「江神は相手に合わせて(・・・・)力を出す。実力を引き出そうとする。その上で本気になった相手を倒す傾向に有るんだよな」


紫闇の認識に焔は笑う。


「普通、自分が上だという自信が無ければそんな真似をする奴は居ない。もし居たら負けたがりか勝敗を無視して場馴れしたい奴だろう。つまり江神は『負ける』という考えを極一部の相手以外に持っていないということだ」


焔の言葉から受け取れるのは、江神春斗が立華紫闇のことを経験値稼ぎ、遊び相手くらいにしか見ていないということに他ならない。


「それでいて俺が【魔術師】や[闘技者]として成長したのは認めている。そして将来性を見込んで戦うことで俺に格上との実戦経験を積ませ成長させようってことか」


春斗は単純に戦う相手が決まった限られた者しか居ない上に、自分と競い合い、高め合える者も、着いて来れる者も、その限られた相手しか居ないのだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「江神のことは何となく解った。でも彼奴(あいつ)に勝つ方法なんて、手加減してもらう以外に存在するのか?」


紫闇も焔も春斗が手を抜いて戦うことが当たり前になっているのは理解している。

問題は手加減した状態にすら紫闇が着いていけないことと、どうやって戦えば良いのか。


焔は一つの案を示した。


「江神の持つ一番の武器は『速さ』だけど、その速さが彼の(あだ)となる。紫闇との戦いを見るに、彼は高速移動中に殆ど減速しない。制動(ブレーキ)に到っては全く使われない」


紫闇はどういうことか理解する。

その身に春斗の斬撃を嫌と言うほど喰らい、まるで流れるように攻撃を(かわ)す、舞うような身のこなしを散々目に焼き付けてしまったから。


「減速も制動もしない高速移動中ならさぞかしカウンターは効くだろうな。つまり奴が俺に向かって近付いたら必殺の一撃を叩き込む」


正解だったようだ。

焔は首を縦に振る。


「そんなわけである技を教えるよ」


焔に呼ばれた祖父の《黒鋼弥以覇(くろがねやいば)》が対峙。

二人はズレも無く、共に致命傷を狙える位置にまで踏み込むが弥以覇だけが吹き飛ぶ。


「成る程……。相手と同時に勢いよく前へ出て、体術での攻撃が確実に届く間合いに入る。そこから【禍孔雀(かくじゃく)】を発動して胸に一撃か」


見えていたことに安心した焔が一息吐くと弥以覇は何事も無かったように立ち上がった。


「小僧が言った通り、この技は相手と自分が前に出る『推進力』を利用したカウンターじゃ。武術で言うと【交差法】と【後の先】が近いんかのう?」

「自分だけの勢いだけでなく相手の勢いも使えば通常の数倍から数十倍の威力を見込める。ここで自身の攻撃を禍孔雀にすることによって威力を更に何十倍にも高めるんだ」

「黒鋼流体術では【打心終天】と呼ぶ」

「原理的には【魔晄(まこう)】を操作する技術以外、普通の人間にも出来るよ。互いに助走を付けてクロスカウンターするか相手に紙一重早く攻撃を出させてから自分が紙一重早く攻撃を当てるかっていうシンプルな技だし」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


(簡単そうに言ってるけど、普通の人間なら何十年と武術に打ち込んできた達人に近い人が格下相手に対して使った場合でも完璧に決められるかどうかっていう技術のはずだぞこれ……)


打心終天は互いに推進力が有るほど強い。

もし江神春斗が高速移動と突進技を合わせて使ってきたところに当てれば終わる。


しかし躱されたなら───


「紫闇の想像した通り、失敗すればジリ貧か即座に負けるだろうね。そもそも江神は本気のあたしと戦えそうな感じがしたから」


地力が違うのだ。

春斗は無理をして攻めずとも、時間を掛けて丁寧に戦っていれば良い。

それだけで紫闇をあしらえる。


「打心終天を決める為の過程(プロセス)が要るな。手を抜いているとは言え、僅かにでも江神を慌てさせるくらいしないと焦って攻めて来ないだろう」

「紫闇の言う通り。手抜きの相手を少しで良いから圧倒できなければならん。そうでなければ小僧が江神の孫を相手に勝つ見込みは無い」


焔と弥以覇の作戦。

剣士の春斗を寝技に持ち込む。

そこから腕を一本折る。

これで剣技の性能を落とす。

更に小細工無しの一閃を正面から仕掛けてきた春斗へ打心終天を入れて終わり。

真っ向からの実力勝負が好きな春斗は必ず正直な攻め方をしてくれるはずだ。

簡単な流れだが恐ろしく難しい。

今の紫闇は素直に春斗とぶつかったとしても凌ぐ実力が無いので不可能。


「基礎能力の向上は必須。技の修得も有る」

「修業の厳しさは跳ね上がるぞ立華紫闇。今までと比べ物にならん程にな。それでも江神の孫へ挑むか? まあ奴と戦う前に【夏期龍帝祭】を優勝せねばならんのだが」


紫闇は二人に即答。


「地獄を味わってでも勝ちたい。だから頼む」

(よろ)しい」

「覚悟せい」


紫闇はふと思った。

今年の夏は暑くなる。
 
 

 
後書き
_〆(。。) 
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