上座
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第一章
上座
竜造寺悠一には叔父がいた、彼の父の兄である。
この叔父の名を義紀という、子供の頃悠一はもの知りの叔父が好きで彼が自分の家である兵庫の実家に彼が奥さんと一緒に毎月一回帰ってくることを楽しみにしていた。おっちゃんと呼んで心から慕っていた。
そして叔父と話すのを好んでいた、だが彼が何をして働いているのかそして彼の家族の状況つまり奥さんとの間柄については全く知らなかったし興味もなかった。
だが彼が高校生の時に大きな転換点が来た、それは。
この叔父が離婚したのだ、彼は父の誠亮にそのことを言われた時に叔父のことをよく聞いた。父は角刈りで長方形の顔に細めで小さな目を持っている。背は一七〇を超えていて色黒である。学生時代柔道をしていたのでしっかりとした身体つきだ。
「おっちゃん働いてなかったんだな」
「ああ、そうだ」
父は悠一にはっきりと答えた、鋭い一重の目にやや長方形の顔でやや色黒の息子の顔を見つつ。悠一の背は一七五程で細い黒髪を七三に分けている、目以外には分厚い真一文字の唇が目立っている。体格は細見だがしっかりしている。
「ずっとな」
「じゃあ奥さんの紐だったんだな」
「うちに来ているのもな」
毎月のそれもとだ、父は悠一に話した。
「うちにいるお祖父ちゃんとお祖母ちゃんからな」
「まさか」
「お金貰う為だったんだ」
「そうだったんだな」
「奥さんは働いてるがな」
自分は働かずにだ。
「それでだ」
「うちからお金貰ってたんだな」
「そうだ、その為に来ていたんだ、他には西宮にいるおばちゃん達からもな」
先程話に出た悠一の祖父の姉達だ、二人いて悠一にとってはいつも自分を可愛がってくれるもう二人の祖母と言っていい存在だ。
「貰っていたんだ」
「奥さん働いてるのに」
「そうして自分の本代とか服代をな」
そうしたものをというのだ。
「手に入れていたんだよ、自分がいい服とか買う為にな」
「働かないでなんだな」
「ああ、ただ離婚は働かないことが理由じゃない」
「奥さんと別れることはか」
「とにかく上から目線で偉そうに言うからな」
それでというのだ。
「奥さんも嫌になってな」
「それで別れるんだな」
「ああ、ただもう別れてな」
それからのこともだ、父は悠一に話した。
「後はお寺に入って修行してな」
「一から性根を叩きなおすんだな」
「いや、そういうのじゃなくてな」
「別のことか」
「人として思いやりとか大事なことをな」
そうしたことをというのだ。
「学んでもらう為にな」
「寺に入ってもらうんだな」
「そうする、それから新しい仕事を紹介するからな」
「働いてももらってか」
「もう四十過ぎだがな」
いい年齢だがというのだ。
「一からやりなおしだ」
「何かそんな人だったなんてな」
働かず人から金を貰いその癖偉そうに言う、慕っていた叔父がそうした人間だと知ってだった。悠一は幻滅を覚えた。だが。
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