戦国異伝供書
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第六十九話 善徳寺にてその十一
「今もでおじゃる」
「そうしたところは」
元康は氏真に実直な声で話した。
「今川家の主になられます」
「だからでおじゃるな」
「不得意、嫌いなものも」
「身に着けるべきでおじゃるな」
「彦五郎様は政については非の打ちどころがありません」
全くと言うのだった。
「そちらは」
「そうでおじゃるか」
「しかも人のこともわかっておられます」
彼についてもというのだ。
「そちらも」
「そうでおじゃるか」
「はい、しかし」
それでもというのだ。
「やはり戦国の世なので」
「麿自ら兵を率いてでおじゃるな」
「戦うこともあります」
「出陣はしているでおじゃるが」
「ご自身が兵を率いられ」
そしてというのだ。
「戦われることもです」
「あるでおじゃるな」
「その際は剣よりも」
氏真の得意なそれではなく、というのだ。
「采配ですので」
「兵法でおじゃるな」
「それを持たれれば」
その時はというのだ。
「勝てまするし」
「だからでおじゃるな」
「学ばれて下さい」
兵法、それもというのだ。
「是非」
「読んでおるでおじゃるが」
「それでもですか」
「身に着いておらぬと」
どうしてもというのだ。
「思うでおじゃるし」
「ですが」
「それでもでおじゃるな」
「これからも」
是非にと言うのだった。
「学ばれて」
「戦の場にも出てでおじゃるな」
「学ばれて下さい」
「それではでおじゃる」
「はい、この度の戦も」
上洛、それもというのだ。
「学ばれて下さい」
「わかったでおじゃる」
こう話してだ、そのうえで。
氏真は蹴鞠を止めて兵法の書を読んでいった、そして出陣の日になると。
馬に乗ってだ、先陣の方に行く元康に話した。
「ではでおじゃるな」
「はい、今から」
「そなたは先陣に行くでおじゃるな」
「そしてです」
「先に尾張に入るでおじゃるな」
「そうなります」
「承知したでおじゃる」
氏真は元康に確かな声で答えた。
「そちらは任せるでおじゃる」
「それでは」
「では麿は本陣で」
氏真はさらに話した。
「父上をお護りし」
「そうしてですな」
「兵法を戦の場で」
まさにその場でというのだ。
「学ぶでおじゃる」
「そうして頂ければ」
「よいででおじゃるな」
「今は」
「それではでおじゃる」
「そして」
元康はさらに話した。
「周りにはです」
「注意をでおじゃるな」
「はい」
こうも言うのだった。
「そうされて下さい」
「承知したでおじゃる」
「特に尾張に入り」
敵の国にというのだ。
「そしてです」
「進んだところで、でおじゃるか」
「地の利は敵にあるので」
「尚更でおじゃるな」
「ご注意を」
こう氏真に言うのだった。
「くれぐれも」
「そのことも承知したでおじゃる」
「そうして頂ければ」
「用心には用心でおじゃるな」
「そうなります」
「わかったでおじゃる、では」
氏真は元康の言葉に頷いてさらに言った。
「麿はでおじゃる」
「ご無事であられて下さい」
「父上と共に」
「お願いします」
「その様にするでおじゃる」
氏真はまた頷いた、そうして彼も出陣した。今川軍は尾張に入り丸根と鷲津の砦で進軍が止まり桶狭間で惨敗した、それが元康の大きな運命の分かれ目となった。
第六十九話 完
2019・10・8
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