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戦国異伝供書

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第六十九話 善徳寺にてその十

「その御仁は」
「尾張の百姓の子で足軽からはじまり」
「今ではですか」
「織田家の直臣だとか」
「足軽からそれとは」
「小柄ですばしっこく頭の回る御仁で」
 それでというのだ。
「何をしてもです」
「頭が回るのですか」
「そうした御仁だとか」
「その木下殿もですか」
「丸根そして鷲津に入られて」
「こちらに備えていますか」
「それがしは手勢を率い全力で攻めまする」
 元康はこのことを約束した。
「ですが」
「それでもですか」
「はい、下手に攻めますと」
「攻め落とせませぬか」
「容易には」
「ここはしかとです」
 まさにとだ、元康は話した。
「攻めていきまする」
「そうして下さいますか」
「そして拙僧も」
 雪斎も言ってきた。
「攻めまする」
「そうしてですな」
「織田家を降し斎藤家もです」 
 美濃のこの家もというのだ。
「降しましょう、実は美濃は武田殿も狙っておられます」
「あの御仁もですか」
「上洛をお考えとのことで」
「だからですか」
「はい、この上洛を機に」
「美濃もですな」
「手に入れ」
 そしてというのだ。
「後は近江となりますが」
「尾張と美濃を手に入れますと」
「近江の六角殿は幕府の忠臣、お話をすれば」
「戦をせずとも」
「近江を通ることも出来ますので」
「尾張と美濃ですな」
「そうなります、何とかこの二国を手に入れて」
 そうしてというのだ。
「必ずです」
「都に着かれますな」
「そう致します」
 雪斎は確かな声で話した、そしてだった。
 彼もまた上洛の用意をしていった、義元はその間彼自身も当主としてそれに氏真と共にあたっていた。
 その合間に氏真は蹴鞠もしたが元康は彼の蹴鞠の相手をしてその妙技に目を丸くしてこんなことを言った。
「いや、前よりも」
「よくなっているでおじゃるか」
「さらに、彦五郎様の蹴鞠は」
「子供の頃から得意でおじゃるが」
「鍛錬を積まれて」
「この通りでおじゃる、蹴鞠と剣は」
 まさにというのだ。
「麿の好きなものでな」
「それで、ですか」
「得意でな」
「鍛錬もですか」
「好きじゃ、しかし」
 氏真はこうも言った。
「やはり麿は好きなものは得意で」
「のめり込まれますか」
「しかし」
「お好きでないと」
「得意でなくな」
 そしてというのだ。
「苦手なままでおじゃる」
「それが、ですか」
「麿の悪いところでおじゃる」
 こう言うのだった。
「自分でわかっているでおじゃるが」
「それでもですか」
「なおらず」
 そうしてというのだ。 
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