| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

無印編
  第10話:マジックショー、開幕

 
前書き
どうも、黒井です。

今回は皆さん待ちに待った、颯人の初変身シーンです。 

 
 颯人の使ったテレポートの魔法により一瞬でノイズ出現地点に飛ばされた奏達は、最初自分たちが何処に居るのかを理解できなかった。

 が、少し周りを見渡して少し離れた所にノイズが居るのを見て、そこが今正につい先程ノイズが出現したと言われていた場所であることに気付き驚愕に目を見開く。

「こ、ここはッ!?」
「まさか、ノイズの出現地点ッ!?」
「えっ!? えっ!?」

 突然の状況に困惑する奏と翼、理解が追い付かずオロオロとする響。

 3人の様子を見て、颯人は小さな悪戯が成功した事を喜ぶかのような笑みを浮かべると右手の指輪を別の物に取り換えてベルトのバックルに翳した。

〈コネクト、プリーズ〉

 困惑しつつもシンフォギアを起動させようとする奏と翼、それに遅れる形で同じくギアを纏おうとする響の前で、颯人は赤い魔法陣に手を突っ込み2年前にライブ会場での戦闘に乱入した時の物と同じ大型の拳銃──ガンモードのウィザーソードガン──を取り出し、迫りくるノイズの集団に向けて数発発砲した。

 銃弾は真っすぐ飛んでいき、彼らの近くまで接近しつつあったノイズを次々撃ち抜いていく。

 それを、この時初めて目にした響は信じられないと驚愕に目を見開く。

「えぇっ!? 何で!? それ、シンフォギア?」
「うんにゃ、シンフォギアじゃないよ。ただの銃弾でもないけどね」

 この銃弾は銀魔法の銃弾と呼ばれるもので、言ってしまえば魔力を固めて銃弾としたものである。颯人の魔力がそのまま銃弾となっているので、基本的にリロードせずに魔力が続く限りは何発でも撃てる。

 とは言えこの程度でノイズを倒しきれるとは颯人自身思っていないし、これだけで倒すつもりも毛頭なかった。何しろこれだけでノイズを倒してしまっては、何のお披露目にもならない。
 そんな面白くもなんともない展開を、颯人は絶対認めなかった。

 故に、ここからは本気を出す。

「んじゃ、ウォーミングアップはここまでにしといて…………そろそろ本番、行くとしますか!」

 そう言うと彼は右手との指輪を別のものと交換した。腰のバックルと同じ形状の装飾の指輪だ。

 その間にもノイズは近付いてくるので、手近の奴から撃ち抜いていく。

 そしてある程度近場が片付いたところで、彼は右手をハンドオーサーの前に翳した。

〈ドライバーオン、プリーズ〉

 彼が右手を翳すと、ハンドオーサーを起点にして腰の周りにベルトが形成される。ウィズが装着している物に非常によく似ているが、黒に銀のラインが入ったあれに比べて彼のベルトはハンドオーサー以外銀一色だ。

 突然彼の腹に巻かれたベルトを奏達が注目しているが、彼はそれに頓着することなくノイズの迫る方に体を向けると、ハンドオーサーの左右にあるレバーを操作しそれまで右手の形をしていたハンドオーサーを左手の形に変えた。

 瞬間、ベルトから歌が流れる。

〈シャバドゥビタッチ、ヘンシーン! シャバドゥビタッチ、ヘンシーン!〉

 奇妙な歌が流れるの中、颯人は左手に白いハンカチを被せる。一秒にも満たない刹那の時、颯人がハンカチを取り去るとそこには中指に装飾が赤い宝石の指輪が嵌められた左手があった。いつもながらの見事なスピードマジック、だがそれに拍手を送るものは誰も居ない。

 手品に何の反応もない事に少しつまらなそうにしながら、彼は中指に嵌めた指輪の装飾を動かした。まるでカバーを掛ける様に装飾を動かすと、指輪の装飾がまるで仮面の様な見た目に変わった。

 そして彼は、その言葉を口にする。愛する者を守る為、己の身を変える為の呪文を。

「変身」
〈フレイム、プリーズ。ヒー、ヒー、ヒーヒーヒー!〉

 呪文と共に左手をハンドオーサーに翳し、その手を真っ直ぐ真横に上げた。すると左手の先に赤い魔法陣が現れ、ゆっくりと移動して彼の体を通過していく。

 光と炎で描かれた魔法陣が彼の身を通過したその時、彼の姿は変わっていた。

 カジュアルなスーツは黒いロングコートに変わり、頭は銀の縁取りがされた赤い宝石のような仮面で覆われている。

 弦十郎達二課の者達は、モニター越しにその姿を凝視していた。シンフォギアとは異なる、未知なる力を。

 その未知なる力を最も間近で感じているのは言うまでもなく奏達だ。颯人はまだ姿を変えただけだと言うのに、その身からは今までに感じた事のない力強い何かを彼女たちは全身で感じていた。

 3人は直感した。あれが魔法なのだと。

 自然と、奏の口は動いていた。

「それは……その姿は…………?」
「ウィザード…………魔法使いウィザードさ」

 奏の問い掛けに、颯人──ウィザードは仮面の奥で自信に満ちた笑みと共にそう告げた。

「さぁ、タネも仕掛けもないマジックショーの開幕だ」

 迫りくるノイズの群れを前に、ウィザードは余裕を感じさせる声色で告げるとウィザーソードガンを構え引き金を引く。次々と放たれる銃弾がノイズを撃ち抜き、炭素の塵へと変えていった。

 だがノイズが居るのは地上だけではない。上空にも飛行型のノイズは居る。無数の飛行型のノイズ、フライトノイズが上空から体を捻りその身を槍の様に変えて一気に地上のウィザードへと突撃していく。

「ッ!? 颯人、上だッ!」

 上空から迫る危機を奏が警告する。それにウィザードは上を見上げ、迫る脅威を確認すると慌てず騒がず右手の指輪を別の物に付け替えて新たな魔法を発動した。

〈ディフェンド、プリーズ〉
「よっ!」

 ウィザードが真上に手を翳すと、魔法陣と共に炎の壁が形成されノイズの突撃を防ぎながら焼き払う。その間にもフライトノイズが更に上空から彼に突撃するが、炎の障壁はその何れをも防ぎ逆に炭化させていった。

 だが上への防御に集中し過ぎたのか、他の地上を移動するノイズの接近を許してしまう。カエル型や人型のノイズがウィザードに迫り、周囲から攻撃しようとする。

 あれは銃撃だけでは凌ぎ切れない。そう判断した奏と翼がシンフォギアを纏おうとした。

 だがそれは早計だった。
 ウィザードは接近したノイズが銃撃では迎撃が間に合わないと瞬時に判断すると、ウィザーソードガンのグリップを銃身に対して真っすぐになるように倒した。すると折り畳まれていた刀身が伸びて一本の剣──ウィザーソードガン・ソードモード──に変形した。

 そのまま彼は周囲に近付いてきたノイズを次々と切り伏せる。

 射撃、防御に加えて今度は剣を用いての接近戦。しかも剣だけでなく蹴り技まで用いてノイズを全く寄せ付けない。しかも彼はまるで舞台の上で踊っているかのように、軽くステップを踏みながら時にフェイントを混ぜてノイズを翻弄しているのだ。

 明らかに戦い慣れた様子に奏は彼から目が離せない。それは翼も同様であった。ただし両者の目が離せない理由は全く別の物だ。

 奏は、幼馴染の意外では済まされない一面に衝撃を受けて。

 翼は、新たな強者の存在に闘争心を刺激されて。

 因みに響もウィザードの戦いに目を奪われていたが、それは2人の様な複雑な思いからくるものではなく純粋にシンフォギア以外の力によるノイズとの戦いに圧倒されただけである。

 その後もウィザードは剣技に銃撃、更には多様な魔法を織り交ぜてノイズを仕留めていく。

〈バインド、プリーズ〉
「ちょっとじっとしてな!」

 時には魔法陣から鎖を出してノイズを拘束し────

〈コピー、プリーズ〉
「「もう一丁」」
〈〈コピー、プリーズ〉〉
「「「「死角は無しだ!」」」」

 時には自分と全く同じ動きをする分身を作り出して円陣を組み、自身を取り囲むノイズを一掃したりした。

 そうこうしていると、気付けば残るノイズは大型の巨人型ノイズのみとなっていた。巨人型は、その長い腕を振り下ろしてウィザードを叩き潰そうとしてくる。

〈ビッグ、プリーズ〉
「よぉっ! ぬぅぅぅぅっ、どりゃぁぁぁっ!!」

 デカいものにはデカいものをとばかりに、ウィザードは自らの腕を魔法で大きくし巨人型の腕を受け止め逆に押し返した。まさかの反撃にたたらを踏むノイズ。

 この期に及んで体の一部とは言え巨大化までして見せた彼に、奏達は最早驚くこともしない、と言うかできない。

 その様子を肩越しにチラリと見て、3人(観客)の反応が悪くなったと見た彼は勝負を決めに掛かった。

「そろそろ幕引きかな」

 呟きながらウィザードはソードモードにしたウィザーソードガンの左側に付いている、握り拳のハンドオーサーを開かせる。

〈キャモナ・スラッシュ・シェイクハンズ〉

 拳を開かれ手の平となったハンドオーサー。詠唱が鳴り響く中、ウィザードはハンドオーサーに左手を翳した。ちょうど握手する形になる。

〈フレイム! スラッシュストライク! ヒーヒーヒー! ヒーヒーヒー!〉
「はぁぁぁぁ……」

 ウィザードがハンドオーサーに手を翳すと、刀身に赤い魔法陣が展開され炎に包まれる。炎を上げる刀身の剣を構え、巨人型ノイズを見据えるウィザード。

 そして、巨人型が立ち上がろうとした時、彼は巨人型に向けて駆けながら魔法を使用した。

〈バインド、プリーズ〉

 彼が魔法を使用すると、巨人型ノイズとの間の上空に赤い魔法陣が出現。そこから伸びた鎖は巨人型ノイズではなくウィザードの方に向けて伸びた。

 彼はそれに特に驚くことなく、寧ろ自分から伸びてきた鎖に左手を伸ばすとその手に鎖を巻き付かせた。

 左手に鎖が巻き付くと、ウィンチで巻き取られるように彼の体は上空に引き上げられていく。更には走る勢いがそのまま乗り、ウィザードはまるで振り回される振り子のように巨人型ノイズに向け引き上げられていった。

 そしてある程度距離が近付くと、彼の体は鎖から解き放たれ巨人型ノイズに向けて飛んでいく。一気に近付く巨人型ノイズ、ウィザードはそれに臆することなく手にした燃え盛る剣を振り下ろした。

「ハァッ!!」

 刃を振り下ろした瞬間、赤く燃え滾る斬撃が一直線に巨人型ノイズを切り裂いていく。燃え滾る斬撃は、見上げんばかりの巨体を誇る巨人型ノイズを脳天から股下まで縦一文字に切り裂いた。

 真っ二つに焼き切られ、切断面から灰となって崩れ落ちていく巨人型ノイズ。

 その様子を一瞥してからウィザードは構えを解き、踵を返して奏達の所へと戻っていく。未だ手に持ったウィザーソードガンの刀身で左手をポンと叩き、溜め息一つと共に変身を解除した。

「ふぅん。ま、こんなもんかな?」

 正に一仕事終えた、と言う感じの様子で奏達と合流する颯人。その彼の姿を、奏は若干悲しそうな目で見つめていた。




***




 颯人がノイズを倒し、奏達と共に二課本部に戻っていく。その様子を、ある場所で見ている者達が居た。薄暗いそこは、どこかの屋敷の中のようだ。

 その屋敷のある部屋の中に、3人ほどの人影が見て取れる。
 1人は椅子に座っており、1人はその人物の背後に控える様に佇んでいた。残る1人は少し離れた壁に寄りかかっている。

 椅子に腰かけている人物は、見た目だけで言えばウィズと瓜二つだった。ただ彼とは違い、身に付けているローブの色が夜闇のように黒い。

 ウィズと瓜二つの姿をした人物の前には、鏡のようなものが宙に浮いており颯人達の姿を映している。

 3人は暫しその光景を眺めていたが、颯人がテレポートで姿を消すとウィズ似の人物が手を軽く振った。すると鏡のようなものは空気に溶ける様に消え、最低限の照明しかない部屋は一気に暗さが増す。

 互いのシルエットしか見えないほどの薄暗さの室内。そんな中で、それまで椅子の近くで立っていた人物が右手を腰のバックルに翳した。

〈イルミネーション、ナーウ〉

 ウィズの物と同じ音声が響くと同時に室内の照明に明かりが灯り、一気に明るさが増す。

 室内が明るくなったところで、部屋に明かりを灯した人物が口を開いた。どこかアラビア風の衣服に身を包んだ、長い黒髪の美女と言って差し支えない人物だ。

「ウィザード…………もうこの日本まで来ていたとは」
「へっ! そりゃ来るだろうさ。あいつとウィズは俺達がよほど邪魔らしいからな」
「正確には、ウィズが我々を排除したいのだろうさ」

 美女の言葉に髭を生やした粗野な男が獰猛な笑みを浮かべながら答え、椅子に腰かけた人物──声からして男がそれに付け加える。

 椅子に腰かけていた男は立ち上がると、背を向けたまま背後の女性に指示を出した。

「まぁ、日本でも我々の邪魔をしてくるというのならそれでも構わん。邪魔立てするなら排除するまでよ。ヒュドラ、部下を招集しておけ」
「りょ~かい」
「メデューサは引き続き例の奴の捜索を続けろ。日本に居る事は確実なのだ」
「畏まりました、ミスター・ワイズマン」

 ウィズと瓜二つの人物…………ワイズマンの言葉に、ヒュドラと呼ばれた男とメデューサと呼ばれた女は恭しく頭を下げ部屋を出ていった。

 2人が出ていくのを見て、1人部屋に残されたワイズマンは再び椅子に腰かけ軽く上げた右手を静かに下ろした。

 するとそれを合図に照明が一斉に消え、ワイズマンの姿は闇の中に消えていくのだった。 
 

 
後書き
はい、という訳で第10話でした。楽しんでいただけましたでしょうか。

今回は颯人の初変身&戦闘シーン。とは言え相手はただのノイズのみなので、ちょっと薄味気味。ウィザード原作で言えば、第一話冒頭の対グール戦みたいなものです。今後更に濃厚で見応えのある戦闘シーンを描いていきたいと考えておりますので、どうかお楽しみに。

で、最後に登場したのはこの作品における悪の組織です。彼らが今後どんな出来事を起こすのか? それは今後の展開をお待ちください。

最後に、次回更新は折角の年末年始と言う事で大晦日と元旦の二日連続での更新を予定しています。時間は同じです。

感想その他お待ちしてます! それでは。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧