運命
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第四章
「そうしているな」
「ご自身で淹れておられますね」
「そうだ、それが一番美味いからな」
「それは僕も知っていますが」
「これがだ」
ベートーベンはトカイを飲みつつ甥に話した、彼の父もそうだったが実は彼も酒は結構飲む方なのだ。
「残酷な運命を感じたのだ」
「残酷な、ですか」
「お前はコーヒーを飲む時に豆が多く入ればどう思う」
「豆がですか」
「私は六十粒使うが」
毎朝飲むコーヒーにだ、自分で一粒ずつ数えているのだ。
「しかしだ」
「そこで、ですか」
「飲み終わった後で気付いたのだ」
ワインを飲みつつ言うのだった。
「今朝は一粒多く使ってしまったのだ」
「間違えて、ですか」
「そうしてしまったのだ」
甥にこう話した。
「全く、私としたことが」
「それはまた」
ここで一粒位と言うと不機嫌の度合いが戻ってしまう、甥は叔父のそんな困った性格を知っているのでこう返した。
「大変でしたね」
「全くだ。しかもだ」
「しかも?」
「昼前に作曲の気分転換に外に出たが」
さらに話すのだった。
「ある伯爵殿が昼前だというのに娼館に入っているのを見た」
「そうでしたか」
「昼前からふしだらな」
やはり怒った顔で言うのだった。
「しかも貴族だ」
「貴族の人がですか」
「だから貴族は嫌いなのだ」
「昼前から娼館ですか」
「全く以て駄目だ」
ワインをごくりと飲みつつ言った。
「娼館に行くのはまだいいが」
「それでもですね」
「貴族が行くのもいいが」
しかしというのだ。
「昼前だ、全く以てな」
「その場面をご覧になられたので」
「私は怒ったのだ」
「そうでしたか」
「昼食を忘れるまでにな」
「それはまた」
「全く、世の中というものはだ」
今度は社会についての不満も漏らした。
「間違いが多い、それを見ることも私の運命か」
「叔父さんの」
「そう思うと腹が立つ、私の運命は何か」
こうも言うのだった。
「一体」
「よくそう言われていますね、叔父さんは」
「耳のこともあるが」
悪いそれのこともというのだ。
「しかしだ」
「それだけでなくですね」
「コーヒーの粒の数を間違え」
今朝のこともというのだ。
「しかもだ」
「お昼前にですね」
「貴族が娼館に入る」
「そのこともご覧になられて」
「不本意極まりない、あとだ」
「あと?」
「このチーズマカロニのチーズは美味いな」
今度はそれの話をするのだった。
「実に」
「そうですね、このマカロニは実際に」
甥も食べてみてわかることだった、茹で具合もチーズの絡め具合も実にいい。食べていて美味いとはっきり言える。
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