戦国異伝供書
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第六十九話 善徳寺にてその一
第六十九話 善徳寺にて
雪斎は武田家と上杉家の戦を止めて和睦を結ばせると駿河への帰路についた、そしてその途中の宿で酒を飲みつつ元康主従に問うた。無論彼等も飲んでいる。
「さて、この度武田殿と長尾殿にお会いしたが」
「どちらの方も何といいますか」
元康は飲みつつ雪斎に応えた。
「かなりのです」
「資質の方々であられるな」
「殿とはまた違った」
「うむ、殿ならばこそな」
雪斎は義元の器をわかっている、何しろ彼自身が育てたからだ。そのことからこう言うのだ。それも確かな声で。
「お二方にも対することが出来る」
「逆に殿と対することが出来る」
「お二方はそうした方々じゃ」
「ですな、武田殿は文武も備えられた」
元康はまずは晴信のことを話した。
「人としての深みと厚みのある」
「そうした方であられるな」
「戦だけでなく政もお見事というのは」
「左様、常に書を読まれていてな」
「そして国をいつも見ておられる」
「人もな、それが武田殿じゃ」
「元々優れた資質をお持ちと思いますが」
それに加えてとだ、元康は話した。
「さらにですな」
「学問に鍛錬を重ねられてな」
「あの様な方になられましたな」
「左様、あの方は確かに城を築かれるが」
「城よりも人ですな」
「人こそが城であり石垣であり堀であると言われておる」
この言葉もだ、雪斎は話した。
「そうした方じゃ」
「まさに人を見られる方ですな」
「そして信濃も見ておるな」
「これだけ治められているとは」
「このことを見てもわかるな」
「はい、戦の布陣も見事であられ」
「政もである」
「まさに文武の方、しかも家臣の方々も」
晴信に仕える彼等の話もするのだった。
「優れた方が多いですな」
「智将、猛将、名臣、能臣の方々ばかりじゃ」
「左様ですな」
「それが武田家でありな」
「武田殿ですな」
「大器であられる、殿がおられねば」
雪斎は飲みつつ話した、そうしつつ元康にも彼の家臣の者達にも酒を勧める。気配りも忘れていない。
「天下人になられるやもな」
「甲斐からですな」
「甲斐は遠い」
都にというのだ。
「しかしな」
「それでもですな」
「あの方ならばな」
「まさに殿がおられねば」
「上洛されてな」
そうしてというのだ。
「天下人になられる」
「そこまでの方ですな」
「そうじゃ、そしてわかるな」
「あの方もですな」
「天下を見ておられる」
天下人、それになることをというのだ。
「あの方は甲斐の守護であられ」
「今川家と同じ源氏ですが」
「甲斐源氏でありな」
こちらの源氏でというのだ。
「足利将軍家の流れではない」
「だから将軍職には就けませぬ」
「あくまで甲斐の守護であられ」
「天下人になられても」
「管領じゃ」
この役職で止まるとだ、雪斎は言い切った。
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