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NARUTO 桃風伝小話集

作者:人魚
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その34

 
前書き
妖狐降臨だってばよ終了後、里帰還前。
サスケ編そのに。 

 
ナルトの真っ赤な顔と潤む瞳を視界に入れないようにしながら、サスケは思う。
確かに、その通りだ。
ここまでサスケがナルトとの付き合いを続けていたのは、ナルトの様子を監視する目的もあったからだ。
それに、女と知りつつ、サスケがナルトの側に居る事が出来たのは、ナルトが周りから男だと思われて居たからだ。
そうでなければ、サスケは四六時中好き好んで女と行動を共にしていた事になる。
その上、ナルトはサスケの家の中の事まで、気付けばあれこれ手を出すようになっているのだ。
正直、助かってもいる。
ナルトの作る飯は旨い。
包み隠さず正直に言えば、出来ればサスケも、飯は三食ナルトの作った飯がいい。
だが、この現状は、端から見れば、それがどういう風に見えるのか、ナルトは気が付いていたと言うのか!?
それを推しても自分の側に居たいとは、ナルトは一体何を考えている!?
ナルトは一切を全く意識してはいないと判断していたからこそ、サスケはナルトの行動を放置していたと言うのに!!!!
思ってもみなかった衝撃に、言葉が浮かばない。
顔に血が上り、動けなくなる。
妙に口の中が干上がり、飢えたような喉の渇きを覚えて、サスケは喉を鳴らした。
「でもさ。サスケ、僕が女だって知ってても、今まで全然態度変えずに僕と一緒に居てくれたし!それって、サスケも僕と一緒に居るの嫌じゃないし、わりと楽しいって思ってくれてるし、私、女のままでも今まで通りサスケと一緒に居て良いって事だよね?僕、嬉しい!」
頬を染めて、心の底から嬉しそうに、女物の装束に身を包んで、花のように笑うナルトに、サスケは否定の言葉をかける事が出来なくなる。
ナルトが本気でそう思っているのが分かるから、余計にだ。
サスケは元々、里の人間にナルトの性別が公になるような事があれば、ナルトと今まで通りの付き合いを続けるつもりは更々なかった。
そもそも、いつの間にか近付いてしまった今のナルトとの距離も、サスケにとっては近すぎて、大分落ち着かない物なのに。
それを誤魔化す物が何もなくなる。
自分の中の何かに流されそうになる。
ナルトと共に居るのは、意外と心地良いのだ。
サスケだって、実はナルトとの関係を気に入っている。
自分に向けられる、何の下心もないナルトの好意はむず痒い。
子供の頃のままの、純粋な好意だろうから、余計に質が悪い。
突き放すのが困難だ。
とはいえ、自分がナルトから疑いようもなく慕われているというのは、悪くない気分なのだ。
何故、ナルトにこんなにも好意を持たれているのかだけは、サスケとしても疑問だけれど。
それでも、どうすれば良いのか分からなくなったサスケは、そんな自分がナルトにバレてしまわないように、にこにこと眩しい笑顔のナルトから、そっと目を逸らした。
その時だった。
少し寂しげなナルトの声がサスケの耳を打った。
「だから、ちょっと受かれちゃってたの。私がサスケを特別に思ってるのと同じように、サスケも私を特別に思ってくれてるって」
「は!?」
誰が誰を何だって!?
ナルトが口を開く度、サスケの心臓が痛いほど跳ね上がる。
それは一体どういう意味かと、ナルトに問い詰めてやりたくなる。
今までのナルトの言動からすれば、ナルトの言っている事は、子供の頃のままごとめいた友達ごっこの延長だろう。
だが、ナルトは女で、サスケは男だ。
ナルトの言葉は、女が男に向かって言うには意味深過ぎる。
嬉々として食事の支度をしたり、家の中の事をこなしている記憶の中のナルトの姿が、嫌でもサスケにナルトを意識させる。
ナルトもサスケも、もう、子供という訳ではない。
忍として公に認められているし、何より、ナルトは、子供から女の仲間入りを果たした。
サスケもそれは同様だ。
もう、お互い、子供のままでは居られない。
サスケは強くそれを感じている。 
現に、目の前のナルトは、鮮やかな薄紅色の女物の衣装を纏っていて、それが良く似合っている。
なのに。
「でも、それは僕の勘違いだったんだよね?」
今まで通りの付き合い方を望んでいると、無言で主張するナルトの問いかけに、サスケはナルトの顔じっと見つめた。
「ごめんね、変な態度サスケに取っちゃって」
そして、申し訳なさそうにしながら、悲しげに表情を曇らせて俯くナルトに、サスケはとうとう抑えきれずに、自分の中のナルトへの疑問をぶつけてしまっていた。
「お前、オレをどう思っているんだ」
「え?サスケの事?」
きょとんとしたナルトの表情に、嫌な予感がサスケに生まれた。
しまったと思った時は遅かった。
目の前で、サスケに対する好意を表すように、花が開くようにナルトか笑う。
「すごく好き!」
あっけらかんと告げられた直球の好意は、サスケの胸を撃ち抜いた。
正直、これからナルトをどう扱えば良いのか、分からなくなる。
手離せないと、ナルトは決して失えないと、自覚して、認めてしまったばかりなのに。
兄への復讐も、まだ、これからなのに。
ほんの少し、サスケが迷いを感じた時だった。
ナルトが更に言葉を重ねて来た。
「今まではさ、僕、サスケに隠し事してたから、バレたらどうせサスケに嫌われちゃうと思って、何も言わなかったんだけどね、僕、サスケか大好き!」
にっこりと笑顔を浮かべたまま、繰り返されたナルトからのストレート過ぎる好意に、サスケの頬に血が上った。
どうにも座りが悪くて落ち着かない気持ちになっていく。
正直に言えば、ここまであからさまな好意は、はっきり言って悪い気はしないし、サスケもナルトは嫌いじゃない。
薄々ナルトから寄せられるサスケへの好意には、サスケも気付いていた。
今までサスケは、様々な事情を鑑みて、敢えてそこから目を逸らして来ていたけれど。
でも、もう、ナルトを失う訳にはいかない自分を認めてしまった。
ならば、サスケも、ナルトをどう扱って、どう思うべきなの か、自分の中の答えを出さなくてはいけない。
柄にもなく、照れ臭くもあるけれど。
ナルトが自分をそう見ているのならぱ、サスケもナルトの見方を変えるべきなのだろうか。
ナルトは、本当は、異性なのだし。
そう逡巡していた時、ナルトが更に言葉を繋げてきた。
「ヒナタよりも好きかもしれない」
落ち着かない気持ちでどんな態度を取れば良いのか迷っていたサスケは、耳を打ったヒナタの名に、一抹の不安を覚えた。
「きっとね、ミコトさんと同じくらいサスケの事が好きだよ!」
そして、最終的に自分の母と同じ所に並べられたナルトの自分への好意に、足元が崩れるような落胆をサスケは感じた。
それと同時に、じわじわとサスケの胸に、今すぐサスケの答えを出さなくても良い猶予に対する安堵が広がっていく。
まだ、サスケはナルトとの関係を、何も変えなくて良い。
いつの間にか入っていた肩の力を、サスケは抜いた。
「この、ウスラトンカチ」
思わず漏れたナルトに対するバトルの言葉には、ナルトの際どい言動に振り回された憤懣によって、大量の呆れが込められていたけれど。
「そういう事を大声で言うな!ガキじゃあるまいし」
何より、サスケの心臓が持ちそうにない。
恥ずかしくて、堪えられなくなる。
衝動的に、何かしたいような気にさせられる。
そんな自分が堪えられない。
頼むから、控えてくれ。
そんな切実な気持ちを込めてナルトに忠告した時、サスケはふと、ナルトの境遇と育ちを思い出した。
ナルトには家族はおらず、人との繋がりも酷く欠けていた筈だ。
ナルトの行動が幼いのも、仕方ない事なのかもしれない。
これまでサスケは、敢えてそこからも目を逸らしていて、ナルトの忍としての、上手く周囲に溶け込む技術になるべく誤魔化されて来てやっていたけれど。
思い付いた事を確める為に、サスケはじっとナルトを観察しだした。
まるでサスケの推測を裏付けるかのように、ナルトはサスケに向かって頬を膨らませて口を尖らせる。
「どうして?サスケも僕の事嫌いなの?サスケも僕がサスケの事を好きなのは迷惑?僕は好きなものを好きって言っちゃダメって、サスケも言うの?」
子供っぽくサスケに駄々を捏ねるナルトの態度に、サスケはナルトからの自分に対する甘えを見付けて、直視出来なくなって視線を逸らした。
思えば、ナルトは、自分の些細な好意すら、誰かに碌に伝えられないような環境に居たのだ。
そういう場所だったのだ。
サスケとナルトの暮らす、木の葉の里は。
そうして、ナルトの抱える里への鬱屈を、サスケは今初めて全てを理解した気がした。
ああ、そりゃあ、憎くもなるだろう。
こんな些細なありふれた事すら、満足にする事が出来なかったのなら。
そして、今。
恐らくナルトは、生まれて始めて、気兼ねなく素直に自分が感じた好意をサスケに伝えて来ているのだろう。
人柱力である事を知っていて、性別を偽るという大きな隠し事までしていたのにも関わらず、ナルトを嫌わず、今まで通りに扱ってやっていたサスケに、心の底からの安堵をして。
それを敏感に感じ取り、サスケの推測は誤りでは無いことを確信したが、だからこそサスケは、照れを感じるのを止められなかった。
ナルトの事を思うなら、サスケはここで、ナルトからのこの好意を受け止めてやらねばならない。
しかし、サスケの立場では、十分に、ナルトに同じものを返してやれない。
返してやる訳にはいかない。
何故なら、サスケはうちはだ。
いずれ、必ず、サスケはナルトの側から離れるか、ナルトを物理的に害するかを選ばなくてはならない時が来るのだから。
だから、ナルトの為を思うなら、今ここで、ナルトを突き放すべきだとサスケは思った。
ナルトは、うちはの人間ではないのだから。
でも。
そうは思いつつも、サスケの心が何かに縛られたように動けなくなる。
ナルトの言う通り、自分はナルト中で特別なのだと自覚したからだ。
その自覚が、自分でも震える程の快感をサスケの中に生んだのだ。
そのせいで、ナルトの事が突き放せなくなった。
突き放すのは、勿体ない。
そう思う自分のずるい気持ちを自覚した。
自覚に添って、言葉も態度も今までのサスケの物とは変化する。
それでも、後ろめたくてナルトと目を合わせる事はできなかった。
必死に顔を背けて、声にも感情が乗らないように留意する。
「別に、迷惑でもねえし。ダメとも言ってねえだろ」
「本当!?」
それでも。
血を吐くような羞恥を堪えて、精一杯のサスケの本音を返してやれば、不機嫌そうな表情から一転、輝くような笑顔を見せたナルトに、何だかサスケの毒気が抜けた。
釣られるようにサスケの表情も緩み、小さく笑みが浮かぶ。
何かに流されないように、サスケ一人が気を張っているのが馬鹿らしくなる。
まだ、その時じゃない。
ナルトの嬉しそうな笑顔を前に、そう、自分を納得させた。
「じゃあさ、じゃあさ!」
嬉々として、自分に纏い付いて来るナルトが、素直に微笑ましくなる。
その時だった。
「サスケは私の事、どう、思ってる?」
うっすらと頬を羞恥で染め上げて、期待と不安に瞳を揺らしたナルトに、縋るように見上げられながら問われ、サスケは思わず息を止めた。
常々薄々疑いはしていたが、サスケは先程のやり取りで、ナルトは見た目相応ではなく、幾分か幼い心を持っているだろう事を確信した。
だからこそ、この問いかけに、殆ど意味はない。
子が親に問いかける類いの代物だ。
だから、サスケは、素直に応じてやればそれでいい。
分かっている。
分かっているが!
ナルトの見た目は、中身相応の幼い物じゃない。
紛れもなくサスケと同年代の女の物だ。
それに、今のナルトは、いつものように、どこか少し野暮ったい少年のような姿ではなく、見慣れない形ではあるけれど、女物の愛らしい装束に身を包んでいて、安心させる為だけだろうと、口先だけでもナルトに対する好意を伝える為の言葉を口に乗せるのが、普段よりも、尚更困難だ。
それに、こうして改めてナルトを見ていると、常々、ナルトが男物に身を包んでいるのは、何か勿体ないような気がした。
普段の野暮ったいあの格好は、ナルトには似合っていないことに気付く。
今までナルトは、男として生きる為に、合わない物に自分を合わせる努力を必死にしてきていたのだろう。
サスケとの仲違いを、心底厭って。
そんな無駄で、明後日な努力を何年もし続けたナルトは、心底馬鹿で、ドベなウスラトンカチだとは思うけれども、それでも、そんなナルトがいじらしいと思う気持ちが無いでもない。
自分の側からサスケなんかを失いたくないと、本気でナルトがそう思ってくれた証拠だから。
ナルトと出会って、サスケがナルトと付き合うようになってから、早六年。
その間、ナルトがサスケの為に費やした、ナルトの時間は決して少なくはない。
それに、多分。
きっと、そんな風に。
ナルトは、ナルトには合わない努力を、まだまだこれからもし続けるだろう。
サスケと同じく、復讐者として、ナルトが修羅たらんとしている限り。
生き物が傷付く事を嫌い、慈しんで育む事こそを好んでいるナルトには、逆立ちしても到底無理な、徹底的にナルトに合わない道なのに。
それでも確かにナルトの置かれた境遇では、そうするしか無いのもサスケにも理解できる。
ナルト本人の気質はどうあれ、サスケに食らい付いて来れるほどのナルトの努力は認められる。
素直にサスケもその貪欲さを見習おうと思う時がある。
だからこそ、目の前のナルトの、見慣れた真っ直ぐにサスケを見つめる青い瞳が、サスケに対する期待と不安で揺れている様から目が離せなくなった。
ナルトを抱き寄せて、胸の中に抱え込んで抱き締めたいという欲求が浮かんで来てしまっていた。
先日、九尾のあれやこれやのどさくさの最中に、無我夢中でサスケがしてしまった時のように。
恐らく、拒絶はされないだろう。
ただ、そうしてしまえば、サスケはナルトに、サスケの行動の理由を問われる。
ナルトには、サスケにそうされる理由など、見透かされて居ない筈なのだから当然だ。
この前のあれは、あくまでも緊急時故の事だと理解されている筈だ。
こうやって、ナルトがサスケに対して甘えるようになった引き金を、あれが引いてしまったのだとしてもだ。
だからこそ、それを見極めようとナルトもしているのだろう。
だから、サスケは、いつも通りにナルトをはぐらかしてやればそれでいい。
けれど。
サスケがナルトに向き合い、今、ナルトを受け止めてやれば、幾分かは、ナルトが己を偽って生きていかなくても良くなるのではないだろうか。
己を偽り、ナルトが歩もうとしている道は、ナルトにとって、破滅しかないようにサスケには思える。
それは、忍であるなら、大なり小なり誰しもが抱える物だし、ナルトに関わり続ける気の無いサスケが口出しできる問題でもない。
何故なら、サスケにも復讐が。
うちはの因縁と、一族の仇を。
兄との、訣別と決着が。
そして、その為に、必要な物は。
そんな風に揺れるサスケが、心のままに、ナルトに触れるべきではない。
そう、サスケは思うのに。
何も知らないナルトは、無邪気にサスケなんかに催促するのだ。
「私の事、嫌い?」
真っ直ぐに自分を見つめて、不安げに揺れるナルトの視線に追い詰められて、サスケは再びナルトから視線を逸らした。
けれど、見慣れた青い瞳が、見慣れない様に揺れるのを、サスケはどうしても許容出来なかった。
あんな風に揺らしたくはないと、強い気持ちに押されて、口から言葉が零れ出た。
「別に、嫌いじゃない」
素直に吐露してしまった本音のぎりぎり具合に、サスケは内心ひっくり返る。
そこまでナルトに伝える気は、サスケにはなかったのに。
これでは、サスケがナルトを切り捨てる時、ナルトをより傷付ける事になってしまう。
それに、ナルトは意外と鋭い。
今のサスケの言葉から、サスケの中の何かを敏感に察されても仕方ない。
ナルトと居るのが苦痛ではない要因の一つではあるが、それでも今は。
サスケが自分の失態に、動揺仕切っていた時だった。
目の前にあったナルトの不安げな表情が、あからさまに安堵の表情に変わった。
「嫌われてなくて良かった~」
本当に、それ以上気付いて居ないらしいナルトの、心底嬉しそうなナルトの笑顔に、サスケの胸に、ちりり、とした不快感が芽生えた。
「ありがとう、サスケ」
「別に」
にこやかに笑い、機嫌良く歩きだしたナルトの軽い足取りに、何だかサスケは不機嫌になっていった。
サスケ自身の抱える事情を思えば、ナルトがサスケの失言から深く察して来なかったのは僥倖だった。 
これがきっかけで、変にナルトと気まずくなるよりは、まだ良かった筈だった。
それこそサスケが望んでいた筈なのに、何だかそれが面白くない。
自分は一体、何をしたいのだろう。
良く分からない苛立ちをサスケが抱えた時だった。
「えへへへ。ねえ、サスケ。私ね、いつかサスケにも、私と同じくらい好きになって欲しいなって思うの。そう思ってても、サスケは嫌な気分にならない?大丈夫だよね?」
受かれていると良く分かるふにゃけた声で、ふざけた事を宣い始めた不安げにこちらを見てくるナルトに、サスケは反射的にそれはこちらの台詞だと言いたい気持ちをぐっと堪えて飲み込んだ。
苛々と、訳もない腹立ちが込み上げてくる。
ナルトの境遇を思えば、ナルトのこの反応も順当だし、サスケ的にも助かる筈なのに、ウスラトンカチなナルトの反応に、サスケの不機嫌が蓄積していった。
ナルトは決して鈍くはないし、察しも悪くは無い筈なのに、どうしてこう、肝心の所がどうしようもなくドベでウスラトンカチなのか!
それに救われていない時が無いとは言わないが、何故なんだ!?
理不尽な不満をサスケが抱え込んでいた時だった。
「あのね、サスケ」
あからさまにサスケに向かって、ナルトの甘えた声が掛けられた。
「僕、サスケにお願いがあるの」
「な、何だ!?」
初めて聞くような甘ったるいナルトの甘えた声に、サスケは度肝を抜かれた。
反射的にナルトの声に反応を返す。
挙動不審なサスケの反応には頓着せずに、ナルトは願いとやらを口にしていく。
「あのね、私、本当は女でしょう?だからね、本当はくの一としても修行しなくちゃいけないんだ」
くの一の修行。
そう聞いた瞬間、サスケは妙に嫌な予感を覚えた。
ナルトの言葉は、忍の物としては当然なのだが。
ナルトの言わんとする事が掴めず、サスケはナルトに聞き返す。
「それがどうした」
「ミコトさんがね、少しだけ私に基本を教えてくれてて」
ナルトの口から出てきた母の名に、ついついサスケは真顔でナルトを見つめた。
「ヒナタが今まで補則してくれてたんだけど」
ナルトの説明に、サスケは長らく疑問だった、母とナルトの距離の近さと、ナルトが母にあれほどまでに懐いていた理由を漸く掴んだ。
成る程。
だからか。
とても腑に落ち、ナルトの中にも、料理と調薬以外の、うちはの忍としての何かが、母の手によって、幾分かは受け継がれていたのだな、と。
ふとサスケが改めて思い立ったその時だった。
「実践が足りてないの」
実践。
その言葉に、サスケが感じた嫌な予感が爆発的に膨れ上がる。
ナルトの願いと、サスケに持ち掛けたこの話。
まさか!
サスケが勘づいたその瞬間。
「独りで修行してても良く分かんないし。だからさ」
「断る!!」
皆まで言わせず即座に断りを入れたサスケの反応に、ナルトがむっと不機嫌そうに唇を尖らせた。
「僕まだ最後まで全部言って無いじゃないか!」
普段通り、不満を告げるナルトの姿にいつも通りを感じ取って、深く安堵する気持ちも無いではないが、ナルトに負けず劣らず不機嫌を露にサスケは断じた。
「オレにその修行に付き合えって言うんだろ!?断ると言っているんだ!」
ナルトの女を武器にしてくるような修行になど、サスケが付き合える訳が無い!
ナルトは一体、サスケを何だと思っているのか!
男として気にならないと言ったら嘘になるが、そんな事を知られるのはサスケにとっても屈辱でしかない。
何より、その場合、サスケが何もせずに居られるかどうかなど、保証などないのだ。
そんなものには、サスケは決して付き合う訳には行かない。
ナルトが相手だからこそ、絶対に!
そんな気持ちでナルトの願いを突っぱねたサスケは、ナルトが自分を射抜く、冷たい視線に晒され、身を強張らせた。
ナルトからの挑発だと分かっていても、だからこそ無視する訳にはいかない、蔑み交じりのサスケを見下す非常に気に入らないナルトの目。
「逃げるの?」
挑発その物のナルトの言葉に、サスケの反感は刺激される。
「何だと?」
挑発だと分かっていても、だからこそサスケには反応せずには居られない。
最早条件反射だった。
そしてそれはナルトもだった。
「サスケはこういう事では僕に勝てないって認めるんだね?」
にやり、と、いつものように不敵に笑いながら続いたナルトの挑発の言葉に、それが指す意味に気付いたサスケは思わず硬直した。
そういう面が何かしらあることは、サスケ自身、否定しきれない。
他でもない、ナルト相手だからこそ、だ。
「ねえ、サスケ。それってどうして?僕が女だから?だからサスケは僕に勝てないって、そう思うの?へえ~?サスケって、戦う前から尻尾巻いて僕から逃げちゃうくらい、僕に負けちゃうって思ってるんだ!ふふふ、かわいい」
ころころと見たことの無い表情で笑うナルトに、どう反応するべきか、サスケが計りかねたその時だった。
「えいっ!」
「なあっ!?」
実力行使だと言わんばかりに、ナルトがサスケの左腕に飛び付いて来た。
温かく、柔らかい感触の、ナルトの膨らみがサスケの二の腕に押し付けられ、包み込まれていた。
その温もりと感触に、一瞬でサスケの頭に血が上る。
「はっ、放せ、ナルト!何をする!気は確かか!?」
サスケの混乱など知らぬとばかりに、ナルトはいつものように、術の疑問点を尋ねるようにサスケに問う。
「あのね、私の胸って結構大きいみたいなんだ。どう?」
「知るかそんな事!」
確かにナルトの申告通り、結構な質量をナルトは備えて居たようだった。
サスケの二の腕はすっかり埋もれて温もりの中に埋もれている。
初めて感じる女としてのナルトの温もりと感触に、どんどんサスケの意識がそちらに向かって向いてしまう。
意外とでかい。
知らなかった。
普段、これをどうやって隠しているのか。
考えたくもない下世話な疑問が、ナルトによって問題無用でサスケの思考を埋め尽くそうとする。
そこにナルトが一筋の糸を垂らすように話題を提示してきて、サスケはこれ幸いと考える事なくそちらに飛び付いた。
「どうしてもサスケが協力してくれないんなら、さっきみたいにしてもいい?」
「は!?さっき?なんの事だ!良いから、放せ!!」
「ヤダ!!サスケに女だってバレちゃうからずっと我慢してたけど、僕だってサスケにくっつきたかったんだもん!!ヒナタと手を繋いだり、ぎゅうってしたりすると、温かくって嬉しくって、胸がぽかぽかするんだよ?僕、サスケとももっといっぱいそうしたい!」
反射的に返したサスケの言葉が引き出した、ナルトの変わらぬ無邪気な言葉に、サスケの頭には血が上っていった。
「ふざけるな!お前の都合にオレを巻き込むんじゃねえ!!」
第一、ナルトと手を繋いだり、抱き合ったりなど気軽に出来る訳が無い!
サスケはヒナタと同じように、ナルトと同じ女ではないのだ。
男のサスケが、気安くナルトに触れていい訳が無い。
ナルトがそれを望んでいても、何の気なしにほいほい触れるべきではないのだ。
サスケはヒナタと違い、男だから。
なのに一体、ナルトは何を勘違いしているのか!!
余りの事に、何から咎めてどこから正せばいいのか良く分からない。
がっちりと組付かれた利き腕から、ナルトを引き離そうとする度に、訳の分からない気持ちになっていく。
いっその事、このまま徹底的に男と女の違いをナルトに叩き込んでしまえば、ナルトは二度とこんな真似をサスケにしなくなるだろうか。
そうすれば、サスケからナルトを遠ざける事も同時に出来る。
それはサスケの目的には則しているが、そうしてしまえばナルトは傷付く。
泣かせてしまうかもしれない。
いずれその日が来るとしても、今は未だサスケの踏ん切りもつかない。
何より、ナルトの涙など、サスケは見たくない。
だがしかし。
このままでは。
サスケは自分に絡み付くナルトへの対処をどうしたらいいのか、ほとほと途方にくれて、困り果ててしまった。
 
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