魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第7章:神界大戦
第228話「潰えた導き」
前書き
久しぶりな優輝side。
今まで何度か冒頭で出番がありましたが、今回はメインです。
「はっ、はっ、はっ……!」
息は荒い。最早、自然と体を動かす事も叶わない。
体は“闇”に覆われ、気を抜けば途端に呑まれてしまう。
物理的な物質で構成された部位はなく、全て理力で補填している。
その上で、膝を付き、なお優輝は意志をぎらつかせる。
「っ、ぎ……!」
立ち上がる。
先程、矢を放った先を見る。
「……こんな、事が……」
矢が通ったそのすぐ横にいたソレラが、呆然と呟く。
優輝が放った矢によって、神々の包囲に穴が開いていた。
それだけではない。
「イリス様……!」
矢となったリヒトは、確かにイリスを穿った。
神々の防御を貫き、神々の体を貫き、果てはイリスすらも貫いて。
神界の彼方へと消えていく程の威力を誇った。
「はぁっ、ふぅっ……っ……は、はは……!」
途轍もない“意志”が込められた矢は、たった一撃で複数の神を倒した。
これは優輝の“意志”だけではない。
優輝とリヒト、そして今はここにいない全員の“意志”を集束させたものだ。
当然、代償はある。
「っ、ごふっ……!」
血を吐く、弓矢を引いた腕から噴き出すように血が溢れる。
元々代償として片腕がなかったが、今度は義手替わりの理力も霧散した。
完全に満身創痍。否、既に死に体だ。
生きているのがおかしい状況でなお、優輝は戦っていたのだから。
「は、ははは………!」
優輝は、それでも笑う。
元凶たるイリスを倒したから………
……否。
それは、希望を見出した笑みではない。
「……ようやく、本体のおでましか」
“ドプン”と、優輝ごと呑み込む泥水のような“闇”が落ちてくる。
「っ、っづ、ぁああああああああっ!!」
気合の雄叫びを上げる。
なけなしの“意志”を振り絞り、その“闇”を跳ね除ける。
「っっ!?」
だが、今度は重圧によってその体が地面に縫い付けられた。
しかも、先程の“闇”よりもそれは重い。
「ぐっ、がぁぁあああああああ………!?」
「本当に、よく足掻きました。あれほどの輝きを見れて……満足です」
降り立つのは闇色の衣を纏った、銀の長髪の女性。
先程までいたイリスなのは間違いない。
しかし、その身に纏う“闇”は、先程までの比ではなかった。
「それにしても、よく先程までの“私”が本体ではないと思いましたね?」
「ぐっ……簡単な、事だ……!お前があの一撃で倒せる訳がない……!そもそも、まだ至っていないあいつらが耐えられる程、お前の“闇”は弱くない……!」
「………」
「それに……神が分霊を持っているのは、当たり前だ。お前は、それを使って、他の神々も身動きが取れないようにしているだろう……?」
重圧に押し潰されないように、優輝は耐えながらイリスの問いに答える。
そう。優輝は分かっていたのだ。“イリスが弱かった事”を。
「………あは♪」
その答えを聞いて、イリスは笑みを浮かべた。
「ええ。ええ!よくわかってますね!そうですよ!その通りです!嬉しい、嬉しいですよ!貴方がそこまで私を理解してくれてるなんて!」
「……チッ、嫌でも分かるっての……!」
嬉しそうに言うイリスに、優輝は苦虫を噛み潰したような顔をする。
「あの時のお前は、あんなに弱くなかったからな」
「………ふふ……思い出してくれたんですね……ずっと、ずっと人間の記憶しかないと思っていましたが………そうですかぁ……思い出してくれたんですねぇ……」
「っづ……!?ぐ、ぉぉ……!」
さらに重くなる。しかし、完全に動けない訳ではない。
これは“性質”によって縫い付けられている訳ではない。
優輝が人のままであるが故に、“闇”の力に気圧されているだけに過ぎない。
「さぁ、今こそ貴方の輝きを染める時です。記憶がないままであれば、少し不満が残る所でしたが……思い出してくれたのなら嬉しいです。……今度こそ、貴方を闇に染められるのですから……!」
身動きが取れない優輝の傍へ行き、妖艶な笑みを浮かべながらイリスは優輝の顎に手を添える。まるで、愛する者を愛でるかのように。
「ッ……!」
「あら」
刹那、“意志”によって優輝が攻撃を繰り出す。
理力によって構成された剣が、イリスの首を刎ね飛ばそうとして……
「いいですねぇ……なおも諦めないその輝き。本当に、いいです」
「ぐっ……!」
闇色の理力を纏った片手に、軽々と受け止められていた。
まるで子供が振り回すおもちゃの剣を受け止めたように、いとも容易く。
「ここからどう窮地を脱しますか?貴方の“可能性”を魅せてください……!さぁ、早く、早く……!さぁ、さぁ、さぁ!」
「っづぁ……ぁあっ!!」
優輝の姿が掻き消える。
神界において会得した瞬間移動で、拘束から脱したのだ。
「そこですね」
「っご!?ぅ、ぐっ……!」
直後、スライムのような“闇”で優輝は地面に叩きつけられた。
イリスは瞬時に優輝の移動先を感知し、そこに攻撃を繰り出したのだ。
辛うじて、着地は成功させた優輝だが、ダメージをさらに負った。
「ッッ……!」
顔を上げれば、そこには一面の“闇”の弾丸が。
さらに、頭上には強大な理力の気配。
細かい理力も四方八方から感じられた。
「(逃げ場は……ない……!?)」
完全に包囲されていると悟った優輝は、即座に前に駆け出す。
最低でも、頭上からの攻撃は躱すべきだと、突貫する。
「ぉ、ぉおおおおっ!!」
理力を振り絞り、剣を振るう。
雨霰のように迫る“闇”の弾丸は、当然その程度では防ぎきれない。
………否。
「ぉ――――――」
……そもそも、優輝に回避や防御の余裕はなかった。
「―――――――ぁ」
塗り潰すかのように、“闇”が優輝を呑み込んだ。
そのまま、上空から鉄槌のように“闇”が振り下ろされる。
さらに弾丸が突き刺さり、漏れ出た“闇”が瘴気のように広がった。
「ご、ぁ……が、ぐ、ぅ………!」
「嫌ですねぇ、貴方相手に手を抜く訳がありませんよ。貴方は、倒して、染めて、完全に従えるまで……絶対に手を緩めません。油断も慢心もしませんよ」
「っづ……イリ、ス……!」
弾丸のように殺到した“闇”が槍となっていたのか、優輝は縫い付けられる形でいくつもの槍に貫かれていた。
それでも、優輝の目は死んでいない。
「多勢に無勢な所を、よくここまで足掻きました。しかし、もう終わりです」
「っご……!?」
さらに“闇”が殺到する。
それだけではない。他の神々の攻撃も優輝へと突き刺さる。
既に、体を動かす事もままならないというのに、僅かな慈悲もない。
「先に四肢を落としておきましょうか」
「っ、ぁあぁあああああっ!?」
「斬り飛ばす、なんて真似はしませんよ。その場で斬るだけです。手足だけで動かれる“可能性”も無きにしも非ずなのですから」
手足が斬られ、その断面を“闇”で塞がれてしまう。
これによって、理力で補填する事も出来なくなった。
不可能ではないが、今の優輝では“闇”を突き破って補填する力が残っていない。
「さぁ、どこまで耐えるか、見せてください……!」
―――“深淵なる闇”
刹那、闇よりも深い闇色が、優輝を呑み込んだ。
=優輝side=
「っ、ぁ………」
気が付けば、辺りが全て暗闇の空間にいた。
自分の姿ははっきりと認識できるにも関わらず、目の前すら見えない。
「(……さすがに、表層意識も限界だったか)」
今この場にいるのは、イリスの“闇”も関係している。
しかし、根本は僕が意識を失ったからだ。
表層の意識が失い、さしずめ今は心の中と言った所だろう。
今までが物理的な戦闘だというのなら、今度は概念や意志の戦闘になる。
「出来る限り時間を稼ぐつもりだったが………もう、限界か」
深層意識で出来る事、される事など限られている。
既に、僕の精神は疲れ果てている。抵抗すらほとんど出来ないだろう。
その上で、イリスによる精神干渉。
いくら足掻こうと、もう抜け出せない。
「……あれだけの“輝き”を魅せたというのに、なぜ諦めるのです?」
「自分の限界はよく理解しているからな。そもそも、表層意識での足掻きはこちらの力も回した結果だ。その表層意識が落ちたのなら、もう後はない」
イリスが姿を現す。
暗闇にも関わらず、イリスの姿ははっきりと見える。
「例えこの場でお前を倒したとしても、攻撃を跳ね除けた程度でしかない。詰んでいる状態から引き延ばしただけで、結果は覆らない」
「だから、ここで諦めると?」
「“僕は”な」
イリスが若干不機嫌になる。
……当然だ。あいつは、僕の“可能性”を見たがっていた。
見た上で、叩き潰そうと考えている。
だけど、今の僕は既に抵抗する意志をほとんど見せなくしている。
あいつの意に反する行為だ。不機嫌にもなるだろう。
「まぁ、なるべく抵抗はするさ。それだけ、勝ちの目が増える」
「……よもや、“無限の可能性”の貴方が、他に譲る、と?」
「そうだ。僕一人では限界がある。“無限の可能性”?はっ、的外れな。どんな存在にだって、一人では限界があるに決まっているだろう」
まったく。身に余る通り名だな。
神であろうと、誰かが必要になる。
全知全能や創造神でさえ、世界に住まう人々が必要なのだから。
しかし、どうやらイリスにはそれが気にくわないらしい。
「……ふざけないでください。私は!貴方の“可能性”が見たいというのに……!なぜ他の有象無象などに託すのです!?私は、私はこんなにも貴方を……!」
「……再三言うぞ。……人の可能性を舐めるな」
なけなしの理力を纏う。
さらに、魔力と霊力も。……当然、焼け石に水だ。
この場は深層意識ではあるが、既にイリスの“領域”だ。
いくら小細工をしようと、その上から叩き潰される。
「……あぁ、そうですか。他の存在に目を向けるのですね。……でしたら、否が応でも私を見てもらいます。貴方は、私だけのモノです……!」
「っづ……!?」
体が締め付けられるような重圧に襲われる。
身動きは取れない。元より、イリスの“領域”の時点で動けはしない。
「どの道、貴方にこの“闇”から逃れる術はありません……!さぁ、さぁ!私を、私だけを見てください!乗り越えようと、倒そうとしてください。貴方の可能性を、輝きを見せてください!私はそれを見たいからこそこうまでして貴方を追い詰めているのです!さぁ、さぁ、さぁ!さぁ!だから―――」
「ッ……!」
刹那、イリスが真正面に肉薄してくる。
そして、耳元に囁きかけるようにしなだれかかって来た。
「―――お願い。私だけを見て」
「っ、く……お断り、だ……!」
“闇の性質”から、イリスからは魔性の気配もする。
闇へ堕とすだけでなく、人を魅了する事も出来る。
神夜に魅了の力を与えたのも、この側面からだろう。
今のもその一端だ。明らかに、僕を魅了しようとしていた。
「……どうして?なぜ?どうして私を見ようとしないのですか?なぜ、貴方は私の愛を悉く拒もうとするのですか?なんで、どうして、なぜですか……!?」
「ふざけるな……!一方的に無理矢理押し付けて、拒まれないと思ったか……!」
「……そうですか……」
一歩離れ、イリスは俯く。
その様は、まるで告白して断られたかのようだ。
だが、実際の本質はそんなものではない。
「……他に目を向けるから、そんな事を言うんですね。でしたら、私にも考えがあります。ええ、最初からこうすればいいんです。貴方を手に入れるにはやはり外堀から埋めるべきだと。そのためにもまずは……」
「お前、まさか……!」
「無理矢理にでも、貴方には堕ちてもらいます」
「がっ……!?」
顔を掴まれ、泥のような“闇”が押し当てられる。
まるで染み込むように、それは僕の中へと入ってきて……
「っづ、ぁ……ぁ……あ゛……!?」
「堕ちろ、堕ちて、墜ちなさい……!」
「が、ぁああぁああぁあああああぁあああああぁぁぁあああああああああ!?」
侵蝕される。意識が、意志が、魂が、心が、何もかも。
黒く、暗く、昏い闇へと、無理矢理引きずり込まれていく。
そこに、抵抗の余地はほとんどない。
辛うじて踏み止まるだけで、決して振り払う事は出来ない。
「貴方は私だけを見てればいいの。それ以外はいらない。必要ないの。だから、私を見て、私だけにその輝きを見せて。さぁ、早く……早く……!」
「ぐ、がぁ……ぐ、ぎっ……!」
“違う”と、“ふざけるな”と、心で叫ぶ。
しかし、それは深淵の闇へと呑まれるように、届かない。無意味に終わる。
それでも、最後の一線だけは超えないように心で藻掻き続ける。
「ねぇ、私は貴方を愛したい、愛したいの。そのためだったらなんだってする。貴方が応えてくれるのなら、私も精一杯愛する。だから―――」
「っづ、ぁ……!」
「―――早く、堕ちて……!」
さらに深淵へと引き込まれる。
底なしの奈落に落ちるように、心が堕ちていく。
だけど、これでもまだ一線は超えない。
超えて、堪るものか……!
「無駄です。無駄ですよ……!私の“闇”からは決して逃れられません……!逃がさない。逃がさないんだから……!」
「ぐ………がはっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
心身共に“闇”へと染められる。
手が顔から離れ、視界が戻るも、黒く滲んでいる。
その中に、恍惚と妖艶と必死さが混ざったような顔をしたイリスが見える。
「んっ……!」
「ッ……!?」
直後、今度は口を塞がれた。
手や“闇”でではない。
「(こいつ……!?)」
「ん……ちゅ……」
まさかキスをしてくるとは思わなかった。
だけど、当然普通のキスじゃない。
「(まずい……!)」
舌も絡めてくるソレは、かなりディープなものだ。
それこそ、恋人以上の相手にやるような。
だけど、同時に流し込まれている。
「(こいつが、ここまでするとは……!)」
イリスは、“闇の性質”から相反する“光”を嫌う。
僕のような気質の相手は、本来触れる事すら嫌がるはずだ。
だけど、今のイリスはその正反対。
むしろ求めるように、恍惚とした表情でキスを続ける。
「(まさか、本気で………!)」
“その考え”に至った時には、もう遅かった。
流し込まれる“闇”が、完全に僕の全てを侵蝕する。
「(イリス、お前は……―――)」
―――その思考を最後に、僕の意識は途絶えた。
=out side=
「ぷぁ……っ!」
イリスが優輝から口を離す。
離れた口と口の間に、透明な糸がひかれる。
「ふふ………」
口を離したイリスは、まるで愛する者を見つめるように、優輝を見る。
「………」
対して、優輝は無表情になっていた。
目は虚ろになり、イリスを見つめ返している。
そして、どこか頬も赤く染まっているように見えた。
「ようやく……ようやく、私のものになりました……」
愛しい者に接するように、イリスは優輝の頬から顎にかけて撫でる。
「もう、離さない……!私の、私だけの愛しい人……」
抱きしめ、もう一度口づけを落とす。
それを、優輝はなすがままに受け入れる。
「……でも、まだ貴方が目を向ける人間がいるのですね……」
「ぁ………」
「その人間の名前……教えてくれます?」
そう言って、イリスは優輝にキスをしながら額同士をくっつける。
そこから、優輝の“大事な者”の名を読み取る。
「……そう、貴方の妹、親友、家族……それと、貴方を恩人と思っている少女に、ああ、あの物語の主人公……あら?なるほど……周りの人達は皆大事なのですね……」
緋雪、司、椿と葵、奏、なのはと、次々と優輝の中にある“大切な者”の名前を読み取っていく。彼女達だけではない。聡や玲菜、学校の友人達や、クロノやユーノなど、優輝の周りにいた人物は全て読み取られた。
「ふふ……あれ程やって、まだ記憶を読み取られまいと抵抗したようですね……でも、無駄です。貴方の全ては既に私のものなのですから……」
優輝は、意志も自我も失った状態で、それでも抵抗していた。
だが、当然耐えられるようなものではない。
あっさりと、明け渡すように読み取られてしまった。
「……あの忌々しい“天使”の情報はありませんか。どうやら、貴方も知り得ない場所にいるようですね。……好都合です」
「………」
ぽつりと呟いた言葉が、優輝の耳に入る。
イリスにとって忌々しい“天使”。
それは、かつての神界での戦いにおいて猛威を振るった神の眷属の事だ。
それがこの場には来ないと分かり、イリスはほくそ笑む。
……同時に、優輝の口も僅かに弧を描いたように見えた。
「では、まずは貴方の大事な存在を潰しに行きましょうか。……協力、してくれますよね?貴方は私だけのものなのですから」
「………あぁ」
虚ろな瞳のまま、優輝はイリスが差し伸べた手を取った。
そして、闇の世界が収束していき、二人は現実へと戻る。
「……ふ、ふふ……あはははははははは!!これで、これで!私の目的の半分は達成されました!ようやく、ようやく彼が私のものになったのですから!」
現実の神界。そこでイリスが哄笑を上げていた。
先程までの出来事は、ほとんど一瞬で終わっている。
時間操作か術式に干渉しない限り、それは神界の神にとっても変わらない。
故に、周りからは闇に呑み込まれた瞬間、優輝がイリスへと倒れ込んだようにしか見えない事だろう。
「イリス様、これからどうなさるので?」
「……そうですね……まずは態勢を整えましょうか。他の神の状況も知りたい事ですし……ね。その後は、改めて彼のいた世界へ攻め込みます」
ソレラに尋ねられ、イリスはこれからの方針を言う。
イリスが展開した包囲網は、飽くまで優輝を追い詰めるため。
他の状況にも対応出来るように、一度態勢を整える必要があった。
「………なるほど、概ね上手く行っているようですね」
しばらくして、イリスは収集した情報を纏めていた。
「“英雄”、“勇者”、“救世主”……様々な“逆転の一手”足り得る“性質”を持つ者は最低でも抑え込んでいる……と。無力化も時間の問題と言う訳ですね」
神界のイリスと敵対している神も、もちろん戦っている。
ディータだけでなく、様々な神が手を組んで徒党を組み、戦っていた。
しかし、善神だけでなく悪神もいる神界で、イリスの復活は封印を見守っていたサフィアによって無差別に知らされた。
その時、悪神がイリスに便乗したため、神界は大混乱に陥った。
結果、イリスに対抗する勢力は散り散りになり、イリスに便乗する悪神が対抗勢力を後ろから刺すなどをして、徐々に追い詰められていた。
「ですが、油断は禁物です。私の分霊も派遣しますので、確実に潰すまで決して目を離さないように。絶対に逃げられてはなりませんよ」
逆転される可能性がある“性質”。
その“性質”を持つ神相手に、イリスは油断しない。
逃走される事すら、後に逆転されるかもしれないと断じ、逃がさないように指示を出して、確実に潰しにかかる。
「尤も、彼よりは断然マシです。……如何に英雄、勇者、救世主であろうと……負けない訳ではありませんから」
例え主人公だとしても、その主人公が敗北しない訳ではない。
同じように、その類の“性質”を持とうとも、負ける可能性はある。
それこそ、“可能性”に干渉しない限りは。
「……さて、“壁”を破るために準備を始めましょう。これより、彼の大切な者を壊しに行きます。……そのついでに、その世界の“壁”を壊してしまいましょう」
そう宣言すると共に、イリスの眼前にエネルギーが集まっていく。
それは、“世界”と言う境界を破壊するための力。
地球に逃げ帰った緋雪達を、さらに絶望へ叩き落とすための力だ。
「……さぁ、逃げられませんよ?覚悟してください」
―――既に、絶望へと王手は掛けられている……
後書き
深淵なる闇…イリスによる闇への誘い。その闇に呑まれた者は、ほぼ例外なく闇へと染められてしまう。耐えきるには強靭な意志か闇の力に匹敵する理力で抵抗するしかない。本来なら負の側面を見せられて闇堕ちする形なのだが、今回は優輝に執着するが故に直接イリスが堕としに来た。
ヤンデレっぽいけどちょっと違う。そんな感じのイリスです。
いや、単にヤンデレっぽさが描けてないとも言うんですけどね。
ちなみに、今回イリスが優輝に繰り出した闇堕ちさせる技ですが、イリスが直接向かわなければ優輝はずっと耐えていました。尤も、抜け出す事も出来ないため、ジリ貧ですが。
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