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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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無印編
  第4話:迫る分岐点

 
前書き
まさか投稿機能が止まっていたとは知らず、公開されない作品を三話まで投稿していました。どうも、黒井です。

今回からやっとまともに投稿できる(;´Д`) 

 
 皆神山での惨劇から、3年後────

 その日、奏はとある大きなライブ会場の舞台裏で来るべき本番に備えていた。

 希望をすべて失ったあの日から、奏は今や1人の歌手となっていた。人気アーティストの一角、ツヴァイウィングの片翼として、その歌声で多くの人々を魅了しているのだ。

──────ただし、表向きは、だ。

 彼女には裏の顔がある。

 ノイズの脅威から人類を守護する為、人知れず戦う1人の戦士──シンフォギアの装者としての顔だ。彼女はその力で日夜、誰に知られることもなくノイズと言う人類共通の脅威と戦ってきた。

 それと同時に、彼女が行ってきたことがある。颯人の捜索だ。

 あれから奏はシンフォギアの装者として戦う傍ら、彼女が所属する特異災害対策機動部二課の協力を得て颯人若しくは仮面の男の行方を探っていた。二課は元々政府の諜報部であった。故に、こう言った人探しなどの調査はお手の物の筈だった。

 にもかかわらず、成果は芳しくなかった。3年も探しているにもかかわらず、颯人に関しても仮面の男に関しても全く情報が集まらないのだ。

 その事実に、奏は内心で苛立っていた。何が政府の諜報部、何が二課か。

 とは言え、その事を二課の職員や相方の翼にぶつけることはもうしない。
 確かに最初の頃は、仰々しい名前の割に大したことないと、失望にも似た思いを抱きその事で周囲に辛く当たったりもした。

 翼なんかは、あちらが彼女の事を少なからず恐れていたこともあり、オドオドとした様子を見せられ奏は苛立ち、いい関係だとはとても言えなかった。

 だが、今となっては彼女も周囲の人物を仲間と認めていた。
 それは単純に、3年と言う時間が奏の心の棘をゆっくりと丸くしたと言うのはあるだろう。怒り続けるというのは存外疲れるものだし、何より奏は元来他人への面倒見がいい少女だ。

 そんな彼女が気弱な面を持つ翼と長い間接していれば、自然と彼女の方から徐々に歩み寄っていくのは至極当然のことであった。

 だが何よりも最大の切っ掛けは、ある戦闘の後で助けた自衛官に言われた言葉にあった。それまで奏は復讐を最大の理由に、その為の道具として歌を歌ってきた。だのに、その自衛官はその歌から勇気を貰い救われたと言ったのだ。
 復讐の為の、憎悪を孕んだ歌にだ。

 それは彼女にとって正しく青天の霹靂であった。こんな自分が歌う歌で、誰かを助ける事が出来る。
 いや、復讐の為とやってきた行為が、誰かの助けとなっている事実をこの時彼女は漸く実感したのだ。

 この一件以降、奏の中で戦う理由の中には復讐だけでなく人々をノイズの脅威から救うというものが追加された。ツヴァイウィングの結成もその心境の変化の表れであった。

 しかし、それでも彼女の中では仮面の男に対する怒りが未だに渦巻いていた。彼女にとっての希望を、彼女の手から遠くへと連れ去った事を、彼女は未だに忘れずにいたのだ。

 そんな彼女の目が、舞台裏でスタッフの邪魔にならない場所で座り込んでいる相方の翼の姿を見つけた。

 本番を前に、緊張しているのかその表情は愁いを帯びている。
 それを見て、彼女の中に悪戯心が芽生えた。

 奏は一度その場を離れ自販機で冷たい缶ジュースを買うと、気付かれないように翼の傍に近寄り彼女が着ているレインコートの首筋にそれを突っ込んだ。

「うひゃいっ!?」
「あっはっはっ! どうした翼、そんな辛気臭い顔して?」
「か、奏ッ!? もう、止めてよこういうのッ!」

 突然首筋に走る冷たさに思わず悲鳴を上げる翼の様子に、奏は堪らず笑い声を上げる。対する翼は、相方からの突然の悪戯に抗議の声を上げる。

 翼の抗議を聞き流し、奏は自分用に買った缶ジュースの蓋を開け勢いよく口に流し込む。それを見て翼もこれ以上の抗議は無駄と諦め、大人しく首筋に突っ込まれた缶の蓋を開けた。

「んぐ、んぐ……ぷはぁっ! いけないねぇ、そんなに油断してちゃ。防人たる者、どんな時でも気を引き締めていかないと。例えそれが、ライブの本番前だろうとね」
「ん……はぁ。ご忠告どうも」
「どういたしまして」

 奏の忠告、翼はやや不貞腐れ気味に返すが、奏は全く気にしていない。

 暖簾に腕押しな反応に、翼はまたしても諦めの溜め息を吐く。

 もうこのやり取りも何度目だろうか。
 共にノイズと戦うシンフォギアの装者としてチームを組み始めた当初はそれこそ、手負いの獣もかくやと言うくらい周囲に敵意を振りまいていたというのに、今はこれだ。

 狂犬もかくやと言う凶暴性に距離感が掴めず辛く当たられたこともあったが、時が経ち彼女との間の壁がある程度無くなるとそこからは一気に距離が近付き、今では友であり姉のような存在となっていた。
 彼女が変わる切っ掛けとなってくれた、あの自衛官に感謝だ。

 あの頃に比べれば今は付き合いやすさで言えば大分マシだが、正直事ある毎に悪戯を仕掛けてくるのは勘弁願いたかった。

 翼の内心を知ってか知らずか、奏は背後から彼女に抱き着き話し掛けた。

「ま~ったく、相変わらず翼は固いぞ! そんなにいつも真面目やってると疲れるだろ? 少しは肩の力の一つも抜けって」

 な? と言って軽くウィンクする奏に、今度こそ翼は本当に肩から力を抜いた。こう言うところが奏は上手いと、翼は思っていた。
 何と言うか、線引きが上手いのだ。こちらが本当に嫌がったりする境界を絶妙に見極めていた。

 敵わない。翼は心からそう感じた。こういう駆け引きで、奏に敵う者はいないだろう。翼はそう信じて疑わなかった。

 だが彼女は知らない。その奏を以てして、駆け引きで敵う事が出来ない相手が居るという事を。

 そして、その人物ともう間もなく出会うことになるという事を。




 ***




 それから数十分後、奏と翼のライブは順調に進んでいた。一曲目は大歓声に包まれ、早くも二曲目に移ろうとしていた。

 その時、突如としてライブ会場となっているドームの中心が爆発し、黒煙が立ち上った。それと同時に姿を現す無数の異形、ノイズ。

 ライブ会場は一瞬で地獄絵図と化した。そう、まるで3年前の皆神山での惨劇の再現の様に、ノイズが人々に襲い掛かり次々と炭素の塵に変えていく。

 阿鼻叫喚響くライブ会場となっているドームから少し離れたビル、その屋上に────颯人は居た。彼は黒煙を上げるドームを見て、焦りを滲ませた顔で周囲を見渡している。まるで誰かを待っているかのようだ。

 と、その時、彼の隣に光と共にウィズが現れた。突然のウィズの出現に、しかし颯人は驚くよりも先に漸く着た事への不満を口にした。

「遅えぞッ!?」
「すまんな。こちらも少し忙しかったのだ」
「チッ…………それでウィズ、例の物は?」
「こいつだ。問題なく使えるぞ」

 颯人は、ウィズの手から二つの指輪を受け取った。宝石部分が大きい装飾となっている、全く同じデザインの指輪である。
 それを受け取り、颯人は満足そうに頷く。

「これを使えば、奏を助けられるんだな?」
「理論上は、可能ではある。後はお前の体が持つかどうかだ。念の為聞くが、本当にやるんだな?」
「へっ、愚問だぜ。もうとっくの昔に覚悟は決まってるんだ」
「…………まぁ、こちらとしては約束を果たしてくれるなら文句はない。好きにすればいい。死なない限りはな」
「安心しろ。お前の期待には応えてやる」

 颯人はそう告げると、右手に二つの内の一つを嵌め掌型のベルトのバックルに翳した。ウィズが身に着けているものと似たデザインのバックルだが、こちらは掌型のバックルの縁が金色だった。

〈ボンズ、プリーズ〉

 彼がベルトのバックルに手を翳すと、そんな音声が鳴り響き同時に彼の体を魔法陣が包む。それ以外に特に変わったことはなかったが、彼は特に不満そうにするでもなく再び満足そうに頷いた。

 そして彼は何らかの決意を固めたように顔を引き締め、今正に惨劇の場となっているドームに目を向けた。

 周囲には警報が鳴り響き、2人の上空を何かが通り過ぎて行った。航空機ではない。それは飛行型のノイズだ。

 頭上をノイズが通り過ぎて行ったのを見て、彼は右手の指輪を付け替えた。

「先に行くぜ、ウィズ!」
〈テレポート、プリーズ〉

 ウィズからの返事も聞かず、颯人は嘗て己を連れ去ったのと同じ効果の指輪──転移の魔法でその場を後にする。

 その場に残されたウィズは、暫しドームを遠くから眺めていたが、不意に上空に目を向けると右手に嵌めている指輪を付け替えてベルトのバックルに翳した。

「少し、数を減らしておいてやるか」
〈エクスプロージョン、ナーウ〉

 音声が響きウィズが上空に手を翳すと、無数の魔法陣が現れ次々と爆発。それにより上空からドームに向かおうとしていたノイズは次々と撃ち落とされ、空からドームに近づこうとしていたノイズはその数を見る見るうちに減らしていくのだった。




 ***




 一方、騒動の現場であるドームは酷い有様だった。突然の爆発と同時に姿を現したノイズにより、観客は次々と炭に変えられ分解されていく。

 さらには逃げようとする観客同士が互いに押し退け合った事で押し潰されるなどの二次災害が発生し、被害は加速度的に広がっていった。

 そんなドームの中心で、ノイズの群れを相手に立ち回る二つの人影があった。
 言わずもがな、装者である奏と翼である。彼女達はたった2人ではあったが、ノイズを相手に正に一騎当千の活躍をしていた。

 奏は手にした槍を振るい、次々とノイズを切り裂き穿ってその数を減らしていく。が、唐突にその槍から輝きが失われていった。

「クソ! 時限式はここまでかよッ!?」

 奏は投薬治療により無理矢理装者となった。それ故の弊害か、彼女が全力を出して戦える時間には制限があったのだ。

 しかも今回は、その肝心の薬品であるLiNKERを使用していなかった。それ故、いつもより早くに制限時間を迎えてしまったのだ。

 それでも彼女は戦い続けた。全力を出すことはできずとも、ノイズを倒すことはできる。そう考え槍を振るいノイズを切り裂き続けたのだが────

「きゃぁっ!?」
「ッ!?」

 突然背後の客席が崩れ、それに巻き込まれたのか観客の少女が1人ステージ近くに落ちてきた。幸い大きな怪我はないようだが、彼女の存在に気付いたノイズが襲い掛かろうとしている。

「んなろうっ!!」

 奏は素早く少女の前に躍り出ると、彼女に襲い掛からんと向かってくるノイズを次々と切り裂く。

 だがノイズ共は、まるで奏が思うように動けなくなっているのを理解しているかのように彼女を……正確にはその背後に居る少女を重点的に狙い始めた。

 奏も負けじと槍を回転させてノイズの突撃を防ぐのだが、その攻防の最中、戦闘の余波で飛び散った破片の一つが少女の胸に突き刺さり少女の胸に赤い花が咲いた。

「あっ!? おい、しっかりしろ!?」

 力なく倒れぐったりとした少女を、奏は抱き起し必死に声をかける。その状況に奏は既視感を覚えつつ、今にも死にそうな少女に声をかけ続けた。

「死ぬな! 死んじゃ駄目だ! こんな、こんな────!?」

 血を滴らせ、身動ぎしない少女に、奏は3年前の颯人の姿を重ねた。

 その瞬間、彼女の口は自然に動き『あの言葉』を口にした。

「『こんなところで生きるのを諦めるなッ!!』」

 その言葉は、嘗て己が言われた励ましの言葉。家族を目の前で失い、生きる気力を失いつつあった自分の心を奮い立たせてくれた、魔法の言葉だった。

 嘗ての自分に掛けられた魔法が少女にも通じたのか、少女は薄らと瞼を開く。

 その事に奏は僅かに安堵するが、状況が最悪なことに変わりはない。このままでは少女は出血で死ぬか、ノイズに炭にされて死ぬ。そうなる前に、決着をつけなければならない。

 そこまで考えた時、奏の中で決心がついた。一つだけあるのだ。この状況を打開する手立てが。
 だがそれは、奏自身の命を引き換えにした行為だ。やってしまえば、彼女は助からない。

 だがそれでいいのかもしれない、と奏は思っていた。このままでは被害は広がる一方だ。
 ならば、ここで『最後の歌』を歌って会場に居る全てのノイズを道連れにしてやればいい。

 勿論心残りがないとは言わない。相方の翼の事は心配だし、未だに見つけること叶わぬ颯人の事だって心残りだ。

 しかし、ここで我が身可愛さに取れる手段を取らずにいたら、その方が後悔する。それだけは許せなかった。

 ──ごめん、颯人。見つけてやれなくって。あたし、お前の希望にはなりきれなかったよ──

 奏は心中で颯人への謝罪を口にし、そして、諸刃の刃とも言える歌を口にした。 
 

 
後書き
と言う訳で第4話でした。

正直、ちょっと展開を急ぎ過ぎてるかな? という気もしましたが、必要以上に原作と関わらない話をグダグダやっても退屈でしょうしテンポ優先という事で勘弁してください。

感想その他お待ちしています。それでは。 
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