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英雄伝説~西風の絶剣~

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第64話 踏み出す一歩

side:フィー


 ロレントにて自身の思いを打ち上げたエステル、彼女はヨシュアを追いかける覚悟が出来たみたい。ならここからする事はカシウスに協力してもらうことになるね。


「どうして父さんの協力がいるの?」
「ん、流石になんの情報もなしに行動するのは無謀。カシウスの様子を見るに絶対に何かを知っているはず」
「でも昨日は父さんなんて関係ないって言わなかった?」
「それはカシウスの言う事を聞く必要はないって意味。流石にあの人の助けなしでヨシュアを探すのは無理がある」
「あっ、それもそうよね」


 ヨシュアの事を一番知っているのは恐らくカシウスだ、だから彼の協力は絶対に必要なものになるはず。


「でも父さんはあたしに関わるなって言ってたわ。とても協力してくれるとは思えないけど……」
「カシウスはエステルが心配なんだと思う、わたしも猟兵になりたいって団長に言っても長い間認めてくれなかった」
「そうなんだ……ならどうやって認めてもらったの?」
「団員の皆に助けてもらったっていうのもあるけど一番はやっぱり何度断られても諦めない事かな。あっちが折れるまで何度でもお願いするといいよ」
「そんな事で上手くいくのかしら……」
「だいじょーぶ、父親は娘に弱いから。あの光の剣匠や風の剣聖、更には赤い戦鬼も娘には弱いのを何度も見てきた」
「えっと、風の剣聖は聞いたことあるけど後の二人は誰?」


 わたしは光の剣匠や赤の戦鬼について説明をするとエステルは目を丸くして驚いていた。それがちょっと面白くて口元が緩んじゃった。クスクス。


「フィーって大物と知り合いなの?」
「まあウチの団は最高ランクの実力を持ってるし依頼も偉い人からの物が多いから結構な有名人との出会いも多いよ」
「話には聞いていたけど相当なのね、西風の旅団って……リィン君やフィーも優しいし猟兵って皆そんな感じなの?」
「わたし達は感情で動くことも多いけど猟兵は基本はミラで動く者だよ。どんな汚れ仕事でもするから相対したら油断は禁物、絶対に仲よくしようとはしないでね」
「そうなんだ。でもフィーみたいな優しい子もいるし遊撃士だって良い人ばかりじゃないからあたしは自分の目で見て判断するわ」
「やっぱり変わってるね、エステルって」


 基本的にエステルは自分の直感を信じるタイプなので相手が猟兵や悪人でも差別しないで接しようとする。お人よしだし甘いとは思うけどそれがエステルの魅力なんだろうね。


「じゃあ直ぐにグランセルに戻ろっか、一応アイナには話してあるから連絡はいっていると思うけどきっと皆心配してるよ」
「えっ、いつのまにアイナさんに話したの?」
「ケビンが軽く事情を話してくれたみたい。昨日も夜訪ねてくれたしここを去る前にキチンとお礼を言っておいた方が良いよ」
「そっか、あたしってば本当に駄目ね。皆に迷惑ばかりかけちゃって……」
「気にしない気にしない、エステルはまだ子供なんだから甘えられるときに甘えておくべき」
「年下のフィーに言われちゃったら恥ずかしいわね……」


 その後エステルと一緒にアイナの所に挨拶をしてきたよ。ケビンも教会にいたから声をかけたけど頑張れって応援してくれた。


 因みになんでそんな喋り方なのって質問したらクセだって言われた。ゼノも気が付いたらあんな話し方だったらしいしそういうものなのかな。


 それから定期船に乗ってグランセルに戻ったんだけど、ギルドに入るなりシェラザードがエステルを抱きしめた。


「エステル!良かった……アンタの様子からして自暴自棄になっちゃったんじゃないかと心配したけど無事で良かったわ」
「シェラ姉……ごめんね、心配かけちゃって」


 ギューッとエステルを抱きしめるシェラザード、その目には涙が浮かんでいた。このメンバーの中ではヨシュア以上に付き合いが長いから相当心配したんだろうね。わたしもマリアナに会いたいな……


「エステルお姉ちゃん!帰ってきてくれて良かった!」
「エステルさん、ご無事で何よりです。ヨシュアさんがいなくなってその上エステルさんにまで何かあったら……うぅ……」


 そこにティータが涙目でエステルに抱き着いてクローゼが側に寄ったの。でもクローゼも目に涙を溜めていてエステルが無事だったことを喜んでいる。


「エステルちゃん!無事に帰ってきてくれて良かったよー!私本当に心配しちゃった!」
「ごめんね、アネラスさん……」
「良いんだよそんなこと気にしなくって!それにしてもヨシュア君ったらこんな可愛い女の子を泣かせちゃうなんて……もし帰ってきたらお説教しないといけないわね、可愛いは正義だって!」
「あはは……」


 アネラスは消えたヨシュアに対してプンプンと怒っていた。わたしも思う事があるしチョップでもしてやろうかな?


「エステル君!無事で本当に良かったよ!君までいなくなったらと思うと僕の胸は張り裂けそうに……さあ!再会を記念してハグしようじゃないか!カモン!」
「ごめんね……あたし皆に心配ばっかりかけちゃって……」
「気にしなくていいのよ、あれは先生が悪いわ」
「えへへ、エステルお姉ちゃん暖かいねー」
「ふふっ」
「ティータちゃん、私ともハグしようよ!」
「……」


 全員に無視されたオリビエはジンに肩を叩かれていた。まあオリビエはいつも通りだね。


 エステル達のやり取りを見ていると、不意に体が宙に浮かんだ。どうやら団長が猫を摘まむようにわたしを持ち上げているみたい。猫扱い……


「なにも言わないで何処に言っていたんだ、このいたずら猫は。おかげで昨日帰るはずだったのに予定が遅れちまったじゃねえか」
「ん、ごめんね。迷惑かけちゃった」
「まあいいさ、お前が何も言わずにエステルの嬢ちゃんを追いかけたって事はそれだけあの子が追い詰められていてって事だろうしな。今の嬢ちゃんの様子を見るにどうやら吹っ切れたみたいだな」
「うん、バッチリだよ」
「そうか、よくやったな」


 団長に向かってVサインを送ると団長はニカッと笑ってわたしを褒めてくれた。


「団長、ちょっとフィーに甘すぎないか?一応心配はかけたんだしさ……」
「フィーはお前と違って嘘はつかないからな。それにお前がそれを言える立場か?」
「うぐっ……」
「まあ仕方ないな、そなたは心配をかけさせることにおいては他の追随を許さないほどだ」
「ラウラまで……」


 リィンが団長にジト目でそう言うが逆に団長に呆れた視線を返されてたじろいでいた。まあラウラの言う通りリィンは一人でどうにかしようとする癖が強いから改めるべき。


「ほらよ」
「わわっ!?」


 団長はわたしをリィンの方に渡すと彼の腕の中にスポッと収まる。リィンは急にわたしを渡されたからビックリしていたけどちゃんとキャッチしてくれた。

「ん、ナイスキャッチ」
「まったく……おかえり、フィー」
「ただいま、リィン」


 リィンはそう言ってギュッと抱きしめてくれた。本当はこのままキスでもしたかったけど流石に恥ずかしかったので自重する。


「エステルさんを助けてくれたんだな。俺も心配していたから本当に良かったよ」
「ん、ご褒美はちゅーでいいよ」
「調子に乗らない、心配はしたんだからな」
「ちぇっ、残念」
「本当に反省しているのか?」
「あうっ、いふぁいよ」


 地面に下ろしてもらうとほっぺをむいーっと引っ張られた。痛いよー。


「それでエステル、お前はどうする気なんだ?」
「決まってるわ。あたしはヨシュアを追う気でいる」


 アガットの質問にエステルはヨシュアを追うと返答する。


「でも先生に反対されたでしょ?それでもヨシュアを追うつもりなの?」
「当たり前よ。あたしはヨシュアが大好き、だから父さんに止められてもあたしはヨシュアを追うつもりよ」
「良く言ったわ!それでこそ私の妹分ね、今回の件については私はアンタの味方よ、エステル!」
「わ、私もお姉ちゃんを助けたい!だから力にならせて!」
「私もエステルさんの力になりたいです。一緒にヨシュアさんを探しましょう」
「勿論私もエステルちゃんの味方だよ!」
「シェラ姉、ティータ、クローゼ、アネラスさん……ありがとう!」


 女性陣はエステルの味方をしてくれた。まあそうだよね、恋する女の子を応援したいのは同じ女の子として当たり前だもん。


「父さんは今どこにいるの?」
「先生ならレイストン要塞にいるわよ。それを聞くって事は先生の元に向かうの?」
「多分父さんしかヨシュアの事情を知らないと思うからね。駄目だって言われてもそんなの関係ないわ!」
「なら早速行きましょう、多分忙しいとは思うけど娘にあんな言い方した先生の都合なんて無視よ無視!」
「いいのかなぁ……?」
「まあここは乗っておきましょう」
「勢いは大事だからね!」


 エステルとシェラザードはレイストン要塞に乗り込む気マンマンのようだ。一番年下のティータが不安そうな表情を浮かべるが意外とクローゼも乗り気のようでアネラスは相変わらずだった。


「俺達はどうする?」
「俺も行こう、ヨシュアが心配だしな」
「じゃあ俺も行くか。おっさんの困惑したツラを拝めるかもしれねえしな」


 ジンとアガットも付いてくるみたいだね。


「団長、わたしも行っていい?」
「どうせ駄目だといっても行く気だったんだろう?俺も一緒にいくさ」
「リィンとラウラは?」
「俺も行くよ。ヨシュアさんは友達だからほうっておくことは出来ない」
「なら私も同行しよう」


 団長、リィン、ラウラも一緒に来てくれるみたいだね。じゃあ皆でカシウスの所に乗り込もっか。


 仕事の関係上残ったクルツ達を除いたメンバーでレイストン要塞に向かう事になった。レッツゴー。



―――――――――

――――――

―――


「ごめんくださーい!」
「エステル、遊びに来たんじゃないんだから……」


 レイストン要塞に着いたわたし達はまずエステルが大きな声で挨拶をした。シェラザードも突っ込んでいたがエステルらしいとわたしはコロコロと鈴のような声で笑った。


「やあ、よく来たね。待っていたよ、エステル」
「あっ、貴方は前にあたし達を助けてくれた少佐さんじゃない。マクシミリアンさんだったよね」
「覚えていてくれて光栄だ。この国の危機を救ってくれてありがとう、あの時君たちを助けて本当に良かったよ」
「あたしも感謝してるわ、ありがとうね」


 どうやらこの人は前にエステル達がレイストン要塞に忍び込んだ時に手助けしてくれた人みたいだね。


「アンタ、待っていたと言ったがどういうことだ?」
「カシウスさんからエステルが来たら案内してくれと言われていたんだ」
「ということはカシウスさんはエステルがここに訪ねてくることを予め予想していたという事か」


 アガットの質問にマクシミリアンはカシウスが絡んでいると説明してくれた、それを聞いたジンはあらかじめこういう展開を予想していたカシウスに感心した様子を見せる。


 まあわたしもあの人なら予想していてもおかしくないとは思うけど、本当にチートだよね。


「だったら話は早いわ。少佐さん、父さんの所に案内してくれる」
「勿論だ、着いてきてくれ」


 マクシミリアンはそう言うと要塞の中に入っていったのでわたし達も後をついていく、初めて要塞の内部を見たけどこうなっていたんだ。意外と広いね。


 それから少し歩いていくと軍服を着たカシウスがいた。


「父さん……」
「来たか、待っていたぞエステル」
「その言い方だとあたしがここに来ると予想していたのかしら?」
「あくまで予想だ。もしあの時お前が折れたり俺に頼ることなく勝手にヨシュアを探しに行くようだったら俺はお前を今回の件に一切関わらせるつもりはなかった。だがお前はこうやって俺の前にちゃんと来たじゃないか。あの考えなしに行動するが基本のお前も少しは成長したようだな」
「あたしの大事な友達、仲間達があたしを支えてくれたの。だからあたしはここにいる」



 エステルは臆することなくカシウスにそう話す。


「父さん、ヨシュアは一体何者なの?父さんなら知っているんでしょ?」
「……そうだな、お前には知る権利がある。ヨシュアと俺がどう出会ったのか、それを今話すとしよう」


 カシウスはヨシュアとの出会いを話し始める。でもわたし達も聞いていていいのかな?気にはなるけどかなり込み入った話になりそうだし……


 でもカシウスはわたしの方に視線を向けるとコクリと頷いた。これは聞いてもいいって事かな?なら遠慮なく聞かせてもらおう。


「あれは俺が遊撃士の仕事で国外にいた頃の話だ。夜の街道を歩いていた俺の頭上から音もなく襲い掛かってきたのがヨシュアだった」
「襲った……!?ヨシュアが父さんを……!?」


 いきなりの衝撃的な話にエステルは驚いていた。そりゃそうだ、まさかヨシュアがカシウスを襲ったなんて思いもしなかったからだ。


「本当に紙一重だった、後一瞬気が付くのが遅れていたら俺は死んでいただろう」
「奇襲とはいえおっさんに傷をつけるとは……最初に出会った時から何か普通じゃねえなとはとは思っていたがとんでもない奴だな」
「気配の消し方、奇襲のタイミング、身のこなし……全てが子供とは思えないほどに鍛え上げられていた。まさに殺し屋という言葉を体現したかのような子だった」
「ヨシュアさんがそんな……」
「信じられないよぅ……」


 アガットやジンは奇襲とはいえカシウスに傷をつけたヨシュアに改めて驚いていた。わたしもヨシュアの戦い方に何か猟兵のような感覚を感じたけど、殺しに特化した訓練をされていたのかもしれないね。


 でもそれは戦いに慣れたわたし達の感想、それとは無縁の生き方をしてきたクローゼやティータは信じられないという表情を浮かべている。


「奇襲をかわした俺はヨシュアと戦い勝利した。そして俺は気絶したヨシュアを連れて行こうとすると新たに数人の刺客が現れて俺とヨシュアに襲い掛かったんだ」
「えっ、ヨシュアさんにもですか?」
「口封じか……」


 リィンは恐らくヨシュアの仲間であるそいつらがヨシュアも始末しようとしたことに驚くと団長が口封じが目的だと話す。いくら失敗したからって即殺そうとするなんて……猟兵もかなりブラックな職業だけどそいつらも負けてないくらいブラックだね。


「その刺客達も倒した俺は全員を縛り上げようとしたんだがそいつらは既に息絶えていた。調べてみると即効性の毒を飲んでいたようだった」
「毒を……」
「恐らく口内に自決用の毒を仕込んでいたんだろう。それを即座に実行できる辺りまともな集団じゃないだろうな」


 毒と聞いたエステルは苦しそうな表情をしてアガットが迷うことなく自決した集団の異常性を話す。一応わたしも敵に捕まった際に情報を話さないように訓練はしているが、即自決なんて真似は出来ないよ……


「そいつらの腕には蛇の模様が刻まれていた。それを見た瞬間俺はこの集団、そしてヨシュアが『身喰らう(ウロボロス)』だと確信した」
「身喰らう蛇……」


 カシウスが言った身喰らう蛇という言葉……理由は分からないがその名を聞いたとき、背筋が凍るような気持ちになった。


「身喰らう蛇……聞いたことが無いわね」
「俺もないな」
「いや、俺はあるぞ」


 シェラザードとアガットは聞き覚えが無いそうだがジンだけは知っているみたいだね。


「身喰らう蛇はゼムリア大陸の闇に存在すると言われている謎の組織だ。その勢力や所属している者達については一切も明かされていないが強大な力を持った危険な組織だと言われている。過去に起きた大事件の陰にはこの身喰らう蛇が暗躍していたんじゃないかと推測もされているほどだ」
「そんな奴らがいたのか……」


 リィンは新たに知る裏の組織に驚いている。こういうことは団長なら知ってるかも。


「団長は知っていたの?」
「噂ぐらいは知っているぞ」
「団長でも噂くらいしか知らないの?」
「調べるのもタブーなくらいだ。理由もなしに余計な火種に突っ込む気はないだけさ」


 団長も詳しくは知らないみたいだね、残念。


「そんなヤベェ奴らならもっと情報が出ていてもおかしくねえだろう。何で誰も知らないんだ?」
「身喰らう蛇についての情報は最高クラスの機密とされている。遊撃士でもA級以上でなければ名を聞く事すら禁止されているはずだ」


 なるほど、この中でA級以上なのはジンとカシウスだけだからアガットやシェラザードは知らなかったんだね。


「いいんですか?私達にそれを話しても?」
「どの道避けては通れない道だ。お前たちは既に身喰らう蛇という組織に触れてしまったんだからな」
「……どういうことですか」
「あのクーデター事件も身喰らう蛇が関わっていると俺は思っている」
「あのクーデター事件が……!?」


 エステル達が解決したクーデター事件、それに身喰らう蛇が関わっていたというの?


「リシャールや空賊たち、ルーアンの市長といった事件を起こした者達は全員が記憶を失っていた。こんな真似ができる組織などそうはあるまい。それにリシャールは俺の行動をまるで知っていたかのように把握していた」
「確かにあのタイミングでクーデター事件を起こしたのって父さんがいなかったからよね、実際に本人も父さんを一番警戒していたし。でもなんでそんなことが出来たのかしら?」
「ヨシュアだ」
「……えっ?」
「ヨシュアが情報を流したのかもしれん」


 ヨシュアが……でもどうして彼が?……あっ、そうだ……ヨシュアは身喰らう蛇の……


「そんな……嘘よ!ヨシュアがそんなことをするわけないわ!」
「だがヨシュアは姿を眩ませた」
「……ッ」


 わたしもヨシュアがそんなことをしていたなんて信じたくない、でも彼はあまりにも出来過ぎたタイミングで姿を消してしまった。これでは彼がスパイかもしれないという疑惑を晴らすことはできない。


「待てよおっさん、アンタそれを知っていてヨシュアを放置していたのか?何であいつを放っておいたんだ」


 アガットの言葉にカシウスは黙ってしまう。確かにそこまで知っていたのならヨシュアを捕まえたり監視しておくこともできたはずだ。でもカシウスはそれをしなかった。


「……信じたかったんだ、ヨシュアの事を」


 カシウスは目を閉じて悲しそうな声色で話し出す。


「ヨシュアを保護した後、俺は事情を聞き出そうとした。だがヨシュアは記憶を失っていたんだ」
「記憶を……」
「最初は演技だと警戒した。だがヨシュアの虚ろな目がレナの亡骸を抱いていたエステルの目と重なってしまい疑うことが出来なくなってしまった」
「あっ……」
「先生……」
「……」


 カシウスの言葉にエステルは悲しそうな表情を浮かべてシェラザードとリィンも何かを感じ取ったかのような神妙な表情を浮かべる。レナって言うのはエステルのお母さんなのかな……


「俺はずっと後悔していた。妻を守れなかったことを、娘に深い悲しみを味合わせてしまった事を……その罪滅ぼしも含めて俺はヨシュアを義息子として育てようと思ったんだ。エステルと共に成長していくヨシュアを見て俺はいつかエステルと特別な家族になり幸せになってくれることを夢見ていた」
「父さん……」
「だがヨシュアは姿を消してしまった、俺の甘さが今回の件を招いたんだ」


 カシウスはそう言うとエステルの元に行くとジッと彼女の目を真剣な表情で見つめる。


「エステル、俺がお前に今回の件に関わるなと言ったのはヨシュアが俺達と過ごしたあの時間は演技でのものでしかないかもしれない、もしそれが事実だった場合それを知ったお前が耐えがたいショックを受けるのが分かっていたからだ。だから俺は自分でケジメをつけようとした」
「……」
「エステル、お前はこの話を聞いてそれでもヨシュアを追うのか?お前と過ごした思い出全てが嘘かもしれないんだぞ?」
「……それでもあたしはヨシュアを追うわ」


 カシウスの問いにエステルはそう答えた。


「父さんの話を聞いてヨシュアはあたしの想像もつかないくらいの何かを背負っているんだって思ったわ。あたしなんかじゃそれを払ってあげることはできないかもしれない、でも一緒に背負うことはできると思うの」
「……お前への想いすらも嘘かもしれないんだぞ?」
「そうかもしれない。でもあたしが好きになったのはヨシュアっていう一人の男の子なの、その気持ちの嘘なんてないわ」
「エステルさん……」


 エステルは迷いなくそう言った。その姿は同じ女の子として輝いて見えてクローゼも同じことを思ったのか感銘を受けた表情でエステルを見ていた。


「嘘なら嘘で十分よ!その時はあたしに惚れさせてやるんだから!だからあたしはヨシュアを追いかけるの、だって世界で一番ヨシュアが好きだから!」
「……好きか。そうなることを願っていたとはいえ父親として複雑な気分だな。これが親離れというものか」
「ごめんね、父さん。父さんはあたしの事を想って止めてくれたのに我儘言って……」
「良いんだエステル……これ以上は俺のエゴだ、お前の覚悟を知った以上もう俺がお前を止めることはできない。すまなかった、俺の甘さのせいでお前に迷惑をかけてしまった」
「迷惑だなんて思ってないわ。だって父さんのお蔭であたしはヨシュアに出会えたんだもの」
「……そうか」


 カシウスはそう言ってほほ笑むとエステルの頭を優しく撫でながら抱きしめた。


「ちょっと父さん、恥ずかしいってば……」
「これくらい許せ。大事な娘が旅立とうとしているんだからな」


 エステルは恥ずかしそうにしているがカシウスは構わずに頭を撫で続ける。微笑ましいね。


 それからしばらくしてカシウスはエステルから離れると彼女の方に両手を置く。


「俺は軍を立て直すため身動きが取れなくなってしまう。だからエステル、不甲斐ない俺の代わりにどうかあの馬鹿息子を連れて二人で帰ってきてくれ」
「約束するわ。あたしはヨシュアと一緒に父さんの元に帰ってくるから……」
「頼んだぞ」


 エステルは覚悟を決めた表情で力強くそう答えを返した。


 そしてこの日、わたし達は新たな一歩を踏み出す事になる。新たな戦いと新たな出会い……そしてその先にある未来を目指して……

 
 

 
後書き
 次回から空の軌跡SCに突入します。 
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