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ハイスクールD×D イッセーと小猫のグルメサバイバル

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第61話 小猫達の命を懸けた覚悟!激戦の終わり!

side:イッセー。


「フライング・ナイフ!」


 左腕から複数の飛ぶナイフを放つがトミーロッドはそれをかわして突っ込んでくる。俺は動かない右腕に赤龍帝の鎧を部分展開して防御を倍加させて身体を振るう、そして遠心力で振るわれた右腕に奴の牙が喰らい付いた。


「ぐわあっ!?」


 防御を何回も倍加させたのに易々と鎧を貫通して骨まで牙が貫通した。だが食い千切られてはいねぇ!


「おらぁぁぁっ!!」


 左手で奴の頭を掴み地面に叩きつける。そして馬乗りになって何度も奴の顔に拳を叩きつけていく。


「舐めるなッ!」


 だがトミーロッドは腹筋の力だけで俺を宙に跳ね上げる。そして俺の体を雁字搦めに捕らえるとそのまま氷の壁に叩きつけた。


「ぐうっ……!?」


 それだけでは終わらず更に上昇すると回転しながら地面に向かっていき俺の体を地面に強く叩きつける。


「ごほっ……!」


 そのまま地面に倒れる俺、だがトミーロッドは俺の髪を掴むと無理やり立たせてくる。


「仕上げと行こうじゃないか、お前の首を噛み切って終わりだ」


 トミーロッドは俺の首を噛み千切ろうと牙を放つ。だが俺は最後の力を振り絞って炎を吐き奴の顔に浴びせた。


「コイツ……!」


 流石に焼かれるのには答えたようで俺から距離を取るトミーロッド、俺は力を振りしぼり奴に向かっていく。奴の背後に回り込み片腕だけのバックドロップで先程の意趣返しと言わんばかりに地面に叩きつけた。


 俺はローリングソバットで奴の腹部を攻撃して追撃にハイキックで顔を蹴り飛ばそうとするが奴の牙に止められてしまう。


 だが食い千切られる前に腹部に数回フォークを打ち込む怯ませて奴の牙から足を離す。だが傷は深く足から血がダクダクと流れ思わず膝をついてしまう。


 その隙を見逃さないトミーロッドは牙を向けて襲い掛かってきた。だがブーステッド・釘パンチを受けた腹部にローリングソバットとフォークを当てられた事で痛みが生まれたせいか一瞬だけ動きが鈍くなった。俺はその隙に奴の攻撃をジャンプして回避する。


「ナイフ!」


 そして素早くナイフを放ち奴の片方の羽根を切断した。


「……!?」


 体勢を崩したトミーロッドは地面に転がるようにして落ちる。


「お前の羽、もぎ取ってやったぜ……!」


 これで奴の機動力は大幅に低下したはずだ、後は牙にさえ気をつければ……!?


(な、なんだ……この威圧感は?)


 倒れていたトミーロッドがゆっくりと立ち上がるがその表情からは怒りなどは感じない。だが凄まじい殺気と闘氣が身体から漏れ出しており俺は思わず身震いをしてしまった。


 すると奴の体から凄まじい熱が放たれ辺りを震わせる、それは大気を歪ませるほどの熱量だった。


「シバリング!?なんて熱量だ……!」


 トミーロッドの行動に警戒を強めるが不意に笑った奴の口から何かが高速で発射される。それが俺の体に当たると破裂するように爆発した。


「な、なんだ!?」


 痛みで顔をしかめるが更に奴の口から何かが放たれて俺の体を爆発させていく。


(これは水蒸気爆発……!!)


 奴は体内に残っていた卵を孵化させずにシバリングで発生させた熱で高温高圧で口から発射したんだ。沸騰気化した卵の水分が俺の体の中で弾けて爆発する……シバリングをこんな使い方するなんて恐ろしい奴だ……!


「イッセー、お前が体温調節にしか使えないシバリングも使い方次第ではこういう事も出来るんだよ」


 身体能力だけでなく技術の差を見せつけられる俺、確かに俺ではシバリングを他の使い方で生かす事は出来ないだろう。


「ぐはっ……!」


 まるで機関銃のように連射される卵の爆弾が確実に俺の命を蝕んでいく。近寄ろうにもあまりの攻撃の激しさに俺は成すすべがなくなっていた。


(赤龍帝の鎧を展開するのは駄目だ、トドメを刺せなくなっちまう……でもこの攻撃の嵐では動けないぞ……!)


 恐らく奴にトドメを刺せるのは左腕でのブーステッド・釘パンチしかない。それを使うためにも赤龍帝の鎧は温存しておかないといけないから今は使えないんだ。


「こうなったら、イチかバチかだ!」


 このままじゃジリ貧で俺の方が持たない、だからどの道このチャンスにかけるしかない!


 爆発の中を突っ切っていきブーステッド・釘パンチの準備をする、そして直前で地面の氷を踏み砕いて足の指で突き刺してトミーロッド目掛けて放り投げた。


(視界は封じた!爆弾卵も氷で阻まれてここまでは来ない、今決めるしかねえ!)


 素早く背後に回り込みナイフを当てる、奴が怯んだすきにブーステッド・釘パンチを放つ為に拳を突き出そうとするが一瞬早く奴の牙が拳に突き刺さった。


「があぁぁぁあ!?」


 鎧を展開したおかげで噛み千切られはしなかったが骨は砕けて拳がボロボロになる、呆気にとられた俺をトミーロッドが蹴りとばした。


「くそッ……!」


 体勢を整えようとするがそれよりも早く奴の牙が俺に向かってきていた。


(マズイ!この体勢じゃ防御も間に合わない……!)



 万事休すか、そう思った時だった。俺の眼前に剣が地面から現れてトミーロッドの攻撃を防いでくれた。


「なんだ、これは!」
「これは祐斗の魔剣……!」


 俺はその剣が祐斗の魔剣創造で作られたものだと直ぐに分かった。でも祐斗はかなり消耗していたから魔剣は作れないはずだ、一体どうやって……


 剣に阻まれて一瞬動きを止めたトミーロッド、そこにいくつもの落雷がトミーロッド目掛けて落ちてきた。雷をかわすトミーロッドの速さに驚くがそれ以上に今落ちてきた雷の方が問題だった。


(朱乃の雷か?だが今までの物とは比べ物にならない威力だ!しかもそれを一瞬で複数も生み出す事なんて今の朱乃にはまだ出来なかったはずだ……)


 雷をかわしたトミーロッド、だが奴の背後に一瞬で小猫ちゃんが現れて奴を衝撃で吹き飛ばした。だがその際に見えた小猫ちゃんの腕に浮かんでいた痣を見て俺は驚愕する。


「あの痣は……まさか!?」


 間違いない、小猫ちゃんの腕に浮かんでいるあの痣は……豪水を飲んだものに現れる特有の痣だ。


 豪水……このグルメ界側の人間界で手に入るグルメ細胞以外で唯一明確に強くなることが出来る食材だ。手に入れること自体はそこまで難しくはない、腕が立つ美食屋なら手に入れることが出来る。だが誰も決してそれを飲もうとはしない、何故ならその水を飲んでしまえば確実に死ぬからだ。


 一時の力の代償にしてはあまりにも大きなリスク、かつてIGOの研究機関がこの水を有効的に使えないか調べたこともあったが何をしても死というリスクを消すことはできなかった。


 グルメ細胞を持つ俺でもそれは例外でなく飲んで死なないのは親父くらいの実力者ぐらいだろう。


「先輩、大丈夫ですか?」


 そんなことを考えていたら小猫ちゃん達が俺の側に駆け寄ってきた。祐斗と朱乃にも同じ痣があり二人も豪水を飲んだことに更にショックを受けてしまう。


「お前ら、どうして豪水を……!」
「先輩、ごめんなさい。勝手なことをした私達を許してください」


 震えながらそうつぶやいた俺の言葉、それに対して小猫ちゃんは慈愛を感じさせる笑みで微笑み俺の手を握った。


「私達はイッセー先輩を死なせたくありません。先輩が私達を守ってくれるように私も貴方を守りたい……だって貴方の事が大好きだから」
「小猫……ちゃん……」


 小猫ちゃんはそう言うと俺の手を放して戦闘態勢に入った。


「僕達じゃ足手まといにしかならないけど、今の状態なら隙を作るくらいならできるかもしれない」
「祐斗……」
「ごめんね、イッセー君。君がこんなことを望まないって知っていたのに僕達は自己満足でそれを選んでしまった……でもこのまま君や皆が殺されるくらいなら僕は自分が死ぬことになっても最後まで戦いたいんだ」


 祐斗は聖魔刀を創み出して俺をかばうように前に出る。


「イッセー君、わたくしは死にませんわ。だってまだ貴方と契りをかわしていませんもの。それじゃ死んでも死にきれないじゃない」
「朱乃……」
「わたくし達が奴の隙を作ります。だから後はお願いしますわ……」


 朱乃は小悪魔風にほほ笑むがそれが強がりだと俺には感じた。だが彼女も武器を構えて前に出る。


 バ、バカな……皆は死ぬ気か!?そんな事を俺は望んでいない!なのにどうしてそんな選択をしたんだ……!


「バカ野郎どもが……!」


 辛うじて出た言葉はソレだった。違う!バカなのは俺じゃないか!俺が弱いから皆を追い詰めてしまったんだ、しなくてもいい覚悟をさせてしまったんだ……!!


(どうすればいい!?どうすれば皆を助けられるんだ……!?分からない!どうすれば……!!)


 豪水を飲んで助かった人間は今のところ存在しない、人よりも頑丈な悪魔でも耐えることはできないだろう。そして飲んでしまった人間を助ける方法も見つかっていない。


 予想もしていなかった事態に俺はどうすればいいか分からなくなってしまった。だがそこに頭の中にドライグの声が響く。


『何をしている!戦え、イッセー!』
(ドライグ、お前!皆を見捨てろっていうのか!!)
『今そんなことを考えている時じゃないと何故分からん!お前は小猫達の覚悟を踏みにじるつもりか!?』
(……ッ!?)
『奴を倒さねばどのみち全員殺されるだけだ!ここで自分の弱さを嘆く暇があったら奴を倒す事だけを考えろ!じゃなければ本当に何も救えなくなってしまうぞ!!』


 ドライグの叱責に俺は自分の愚かさに頭にくる。そうだ、ここで後悔しても何も解決しない。皆を助けるためにも今は勝たなければならない……!


 俺は左手の指の爪が食い込んで血が出る程拳を握り覚悟を決めた。


 小猫ちゃんに吹き飛ばされたトミーロッドは何事もなかったかのように立ち上がる、そして豪水を飲んだ小猫ちゃん達を一瞥してあざ笑うように笑みを浮かべた。


「馬鹿な奴らだ、豪水を飲むなんてね。もって後数分の命かな?自分で命を捨てるなんて愚かにもほどが……」
「止めろ」


 皆をバカにしたトミーロッドに思わずそう呟いた。死というリスクを背負い俺と共に戦おうとしてくれる仲間を侮辱される、それは自分がバカにされるよりも遥かに気分が悪くなるものだった。


「バカなのは俺だ、そいつらにそんな選択をさせてしまった……こんなバカな俺が憎い!」


 俺は雄たけびを上げながらトミーロッドに向かっていく。


「うおォォォォォォッ!!」


 トミーロッドは再び爆弾卵を発射するが祐斗の作った魔剣が俺の盾になってくれた。


「うぶっ!」


 だが魔剣を生み出すと祐斗は口から血を吐き出した。


(祐斗……!)


 元々祐斗はこの氷山にたどり着いた時点でかなり消耗していた、そして美食會の幹部との戦いで限界を迎えたはずだったんだ。


 だが豪水を飲んだことで無理やり精神力を引きずり出して魔剣を創ってくれている……祐斗は死ぬ寸前まで俺のサポートに徹してくれているんだ。


(祐斗だけじゃない、小猫ちゃんも朱乃も死ぬ覚悟で戦っている……絶対に勝ってやる、この戦いだけは何があってもな……!)


 俺の渾身の左ストレートが奴の腹部に炸裂してトミーロッドの体をくの字に曲げる。


「ごほッ……!」
「ナイフ!」


 俺の攻撃で怯んだトミーロッドに追撃のナイフを放つ、だがトミーロッドは即座に起き上がりバク中して俺の攻撃をかわす。


「死ね……!」


 そして至近距離から爆弾卵を俺に発射してきた。駄目だ、これはかわせねぇ……!


「先輩!」


 だがそこに小猫ちゃんが割り込んでその身で爆弾卵を受けた。バカな、唯でさえ体はボロボロのはずなのにあんな攻撃を受けたら……!?


「小猫ちゃん!?」


 身体から血を流し倒れる小猫ちゃん、俺は思わず駆け寄ろうとしたが彼女の目が行けと伝えようとしているのが分かり踏みとどまる。そしてトミーロッドの頬に強烈な一撃を浴びせた。


「ぐうっ……!」
「コイツで決める……!」


 よろけたトミーロッドに目掛けて必殺のブーステッド・釘パンチを放つ。トミーロッドはそれを驚異的な反応速度と身体能力で回避しようとするが電気の纏った魔力の鎖がその全身を絡めとり動きを封じた。


「なんだ、これは……鬱陶しい!」


 トミーロッドは鎖を無理やり引きちぎろうとするがビクともしなかった。


「文字通り命を懸けて作った鎖です、そう簡単に壊されてたまるものですか……ぐふっ!」
「朱乃ォ!!」
「うっ…ううっ……イッセー君!行って……ください……!!」
「ぐっ……うおォォォォォォォォ!!」


 祐斗と同じように血を吐きながらも朱乃は必至で足止めしてくれた。彼女のサポートを受けた俺は骨の砕けた左腕をトミーロッドの顔面に叩きつけた。


「10×2で20連!ブーステッド・釘パンチ!!」


 左手の甲や腕から折れた骨が突き出て親指以外の指がちぎれ飛んだ。だがそれでもかまわずに拳を振りぬいていく。俺の一撃に朱乃の作った鎖が引きちぎられてトミーロッドの体が浮かんだ。


「吹っ飛べ、トミーロッド!!」


 そのまま拳を振りぬいてトミーロッドを吹っ飛ばそうとする、だが奴は顔がひしゃげているという状態で俺の腕を掴んだ。


「コイツ、なんて力だ……!」


 倍加された一撃はトミーロッドと俺を巻き込んで吹き飛んだ。不規則な軌道を描きながら俺達はグルメショーウインドーまで吹き飛ばされ俺はそこに背中から叩きつけられた。


「がはっ!」
「うぶっ……」


 叩きつけられた俺は左足を使ってトミーロッドの首に回し蹴りを放つ、だがトミーロッドはそれに耐えると俺の腹部に重い一撃を喰らわせた。


「ごはっ……!」


 口から大量の血があふれ出て意識が朦朧とする、だがトミーロッドの攻撃は緩むことはなく両腕でのラッシュを放ってきた。


「ちゅあぁあぁ!!」


 体がどんどんグルメショーウインドーにめり込んでいき亀裂が走っていく。俺は必至の思いで頭を動かすと奴の顔面に頭突きを喰らわせた。


「ぶふっ!」


 怯んだトミーロッドの顔に更に一発膝蹴りを喰らわせた。そして奴の首に両足をひっかけてフランケンシュタイナーで脳天を地面に叩きつけた。


「ぐはっ!」


 チラリと小猫ちゃん達の方を見てみるが全員が倒れているのが見えた。もう皆も限界だ。


(俺の両腕はもう使い物にならねぇ……このまま締め落とさなければ俺に勝ち目はない!)


 即座に両足での首4の字を仕掛けてトミーロッドの酸素の配給を遮断した。以下にタフでも生物である以上呼吸できなければ意識は保てないはずだ!


(堕ちろ……堕ちてくれ……!)


 必死の思いで首4の字を続けるがトミーロッドに振りほどかれてしまう、そして奴の一撃を喰らった俺は氷の壁まで吹き飛ばされる。


「はぁ……はぁ……イッセェェェェェ!!こんな戦いはヴァーリ以来だ、ゾクゾクするよ……!」」


 トミーロッドは何故か嬉しそうに笑みを浮かべていた。俺は虫を使った戦闘などを見ていてトミーロッドは効率のみを優先する男かと思っていた、だが今のトミーロッドからはそんなものは感じず、寧ろヴァーリやグリンパーチと戦った時のような清々しい気持ちにすらなってきた。


「こんな時に何を考えているんだろうな……でも!」


 ボロボロの体を起こして力の入らなくなった両腕を無理やり動かして拳の形にする、俺も負けられない理由がある……だから何があっても勝って見せる!


「来い、トミーロッド!戦いはここからだぜ!」
「……」


 トミーロッドは腕に付けていた腕や腰に付けていたバネのような物をすべて外した。すると衣服が破れてしまうほどに筋肉が膨張して戦闘力が飛躍的に上昇する。


「なっ……!?」
「イッセー、お前という一人の美食屋に敬意を表し……全力で息の根を止めてやろう」


 俺はその言葉を聞いてトミーロッドは今まで全力じゃなかったという事実に言葉を失ってしまった。


 全力を出したトミーロッド、その攻撃は速さも重さも全てがケタ違いだった。成すすべもなく攻撃を受ける俺はこんな状況だというのに意識がボーッとしてしまう。


(こりゃ死ぬな……ヴァーリにも驚いたがトミーロッドは本当に強かった……どれだけ鍛えたらこんなにも強くなれるんだろうな……)


 過去に何度も感じた死の一歩手前、だが今回はよりリアルに感じ取っていた。あまりにもかけ離れた実力の差に俺は絶望よりもこんなに強い男がいたんだなと感心してしまった。


(ああ……俺は死ぬんだな……小猫ちゃんや皆と過ごした思い出が……あれ?浮かんでこないな……)


 人は死ぬ寸前に走馬灯を見ると聞いたことがあるが俺の頭には何も浮かんでこない。おかしいな、あれだけ楽しくて最高な思い出が何一つ浮かんでこないぞ?


(あれっ……トミーロッドの首に切傷がある?俺、あんな場所にナイフで攻撃したっけ?祐斗の魔剣でもなさそうだし……)


 挙句には付けた覚えがないトミーロッドの首の傷を気にしてしまう始末……死ぬ時だっていうのに何考えているんだろうな、俺は……せめて小猫ちゃんの事を考えて死にたかったよ。


(そういえばさっき蹴りを首に当てたな……でもそんなんでナイフみたいな傷を付けられるかな……?)


 足……蹴り……ナイフ……ッ!!


 俺は思うがままに足を振り上げた、すると凄まじい斬撃が放たれてトミーロッドの片腕を斬り飛ばした。


「な……」


 斬られた腕を見て戸惑うトミーロッド、俺は休む間もなく今度は足の指を前に伸ばして突きをするように攻撃する。すると奴の体に穴が開いた。


「ま、さ……か……!」
「へへっ、最後の最後に一矢報いることが出来たぜ……」


 足を使ったフォークとナイフ……『レッグフォーク』と『レッグナイフ』ってところか……俺はそう思いながらグルメショーウインドーにもたれかかった。


 もうダメだ、体が動かない……ここまでのようだな……勝つって約束したのに本当に情けない…ぜ……


「イ…ッセェ……イッセェェェェェェェェ!!」


 トミーロッドは俺にトドメを刺すべく攻撃を仕掛けてきた。だがその攻撃は俺の真下から生まれた植物の幹によって遮られてしまった。


「何が……」
「それはやり過ぎだぜ、美食會」


 俺達ではない第三者の声が聞こえた。俺は霞む目を動かして誰が来たのかを見てみるとそれはリーゼントの男性のものだった。あっ、あの男はまさか……


「再生屋……鉄平!?」


 そう、俺を助けてくれたのはあのノッキングマスターの血を引く男だった。


「ようイッセー、こうやって会うのは初めてだな」
「どうしてアンタがここに……」
「詳しい事情は後で話すよ……さて」


 鉄平は俺との会話を終えるとグルメショーウインドーをジッと観察し始めた。


「これは……何とか形は保てているが酷いな」
「鉄平ィ……なんでてめェがここにいる……」
「たくっ……おたくら暴れすぎなんだよ。中にある食材の再生は出来なくてもその形は芸術品として完成した自然の美……いずれグルメ世界遺産にも認定されるかもしれないコイツをよくもまあここまで……」
「無視するんじゃねえ!答えろォ!」


 マイペースな感じでグルメショーウインドーを見る鉄平に自身に関心を向けないことに苛立ったのかトミーロッドがキレていた。


 俺との戦いで結構テンションが上がっていたし大きな傷を負った事で冷静になれないのかもしれないな。まあ俺も鉄平が現れたという驚きで何とか意識を保てているが今にも死にそうだ……げほっげほっ!


「……」
「何とか言え!コラァ!!」
「喋れば喋る程言葉の重みは減り、やがて空気のようにフワフワとした重みの無いモノになってしまう。だから俺は喋らない。お前も少しは落ち着いたらどうだ?」
「言い方がイラつくんだよ……!さっきも言ったが何でてめぇがここにいる?誰かに美食會(ボクら)の捕獲でも依頼されたか!?」
「いや美食會に用はねえ、俺の目的は別にある。だが俺の仕事の邪魔をするなら捕らえたっていいんだぜ、美食會副料理長トミーロッド」


 鉄平は一度目を閉じると静かながらも闘気をだしながらトミーロッドに忠告する。すげぇな、構えてはいないのに隙が見当たらない。


「あァ?上等だぁ小僧がぁア!!誰を捕らえるだってぇえ!?」


 その言葉に激高したのかトミーロッドは鬼のような形相で鉄平に襲い掛かった。もう既にボロボロだっていうのに何というスピードなんだ!?


「鉄平!危ない!」
「……インパクトノッキング」


 鉄平はユラリと腕を構えると滑らかな動きでトミーロッドの腹部を攻撃した。


「おっ……おお……!?」
「ミディアム……」


 攻撃を受けたトミーロッドの動きが止まった。まさかノッキングしたのか!?


 だがトミーロッドの動きは完全に止まっていなかった。体を震わせながらも拳を握って鉄平を殴ろうと徐々に動き始める。


「ム……神経の節が多いな、昆虫の神経節か。ならもっと深く内部まで届かせる」


 だが鉄平は慌てなかった。相手の体の構造を一瞬で見抜くと鮮やかな動きでトミーロッドの全身を攻撃していく。


「ウェルダン……」
「ぎっ……が……かっ!?」


 トミーロッドの動きが今度こそ完全に止まった。まさかトミーロッドをノッキングできるなんて……これが再生屋でも屈指の実力者だと噂される鉄平の実力か。すげぇぜ……


「お前がここまで手負いの状態じゃなかったらノッキングなんて悠長な選択は出来なかったな。コイツをここまで追い詰めるとは流石あの四天王の一人なだけはある」
「よしてくれ、俺がここまで戦えたのは仲間達のお蔭だ……はっ、そうだ!鉄平、アンタなら……」


 俺は鉄平に豪水を飲んだ小猫ちゃん達について何か助ける方法がないか聞こうとする、だがその時トミーロッドの口から何かが吐き出された。


「な、なんだありゃあ!?」


 俺が目にしたのは今まで見たこともない怪物だった。クモやサソリ、カマキリやクワガタなどあらゆる昆虫を合体させたような姿……ゲームに出てくるキメラそのものだった。


「パ…『パラサイトエンペラー』……ボクの体内で生まれたがっていた問題児……漸くその時が来たよ、存分に……あば……れ…な……」


 パラサイトエンペラー!?もしかするとコイツはトミーロッドが自分で作った混合生物か!?あれだけ立派になった体格が老人のように細くなっちまいやがった。トミーの栄養をほぼ奪って生まれたこの怪物……かなりヤバそうだ!


「チュー!」


 パラサイトエンペラーが鉄平に目掛けて息を吐き出した。鉄平はそれをしゃがんでかわすが後方の壁に当たると大きな氷の塊が生まれた。


「氷点下の息だと!?」


 俺が対峙したツンドラドラゴンと同じ攻撃をするとは……だが驚くのはまだ早かった。今度はさっきとは真逆の高温のガスを吐き出して鉄平に攻撃しやがった。


 鉄平はそれをかわすが鋭い鎌で多彩な連続攻撃を仕掛ける、鉄平の来ていた服が少し切り裂かれるが鉄平は傷を負うことなくそれをかわしていた。だが俺はその時パラサイトエンペラーの口から糸が吐き出されるのを目撃してしまった。


「鉄平!クモの糸だ!」
「なに……?」


 鉄平の足に絡みついた糸は鉄平を自身の元に引き寄せていく、そして紫色の液体を濡らせた鋭い尻尾を突き刺そうとした。



 鉄平は刺される直前にクモの糸を斬って攻撃を回避する。しかしあの生物、一体どれだけの攻撃手段を持っているんだ?


「いくら鉄平が強くてもアレを一人で相手するのは……ぐっ!」


 俺は体を動かそうともがくが植物の幹に挟まって動けそうにない、それでも何とか体を外に出そうとしていたんだけどその際に倒れていたボギーとバリーが起き上がっている光景が見えた。


「くそっ、ようやく鬱陶しい剣を抜けたと思ったら再生屋が現れる、トミー様はノッキングされる、オマケにパラサイトエンペラーは生まれるしでヤバイ状況じゃねえか!」
「こんなとこはさっさと逃げてスープを……ん?」
「どうした、バリー?」


 バリーが何かもじゃもじゃした物を取り出した。あれは確かグリンパーチが使っていた通信機のようなものか?


「!?ッ……なるほどな。ボギー、スープは手に入ったようだ、アルファロ様が手に入れたとユーから連絡があった」
「アルファロ様が!?まさかあのお方がここに来ているなんて……」
「ああ。だが悪い知らせもある、あの節乃もここに来ているらしい」
「美食人間国宝の!?そりゃヤベイじゃねえか!?」
「節乃がいるならトミー様もヤバイぜ、ここはパラサイトエンペラーに任せてズラかるとしようぜ!」


 あいつらは何を話しているんだ……?万全の状態ならまだしも今は意識を辛うじて保っている状態だ、流石に聞こえないぞ。


「おらァッ!」


 ボギーは腕を伸ばしてトミーロッドを拾うとバリーと共に逃げていった。


 マズイ、奴らがスープを取りに行ったのならリアスさん達が危ない!でも俺は動けないし鉄平はあの化け物を相手しているしどうすればいいんだ……!


「シュラアアアアッ!!」


 その時だった、壁をぶち壊していくつもの頭を持った不気味な生物が現れたんだ。でもそのデカさはハンパじゃない、パラサイトエンペラーよりデカイじゃないか!?


「来たな、かつてこの氷の大陸の支配者だった生物『ヘルボロス』。100年ぶりの空気は美味いかい?」


 ヘルボロスだって?こいつがこのアイスヘルの生態系のトップなのか!?確かにそれを納得させる威圧感を放ってやがる。でも今までこんな奴がいるなんて聞いたことが無いぞ?


「シュラアアアアアア!」
「ブギャアアアアアア!」


 大きな獲物を見つけたヘルボロスはパラサイトエンペラーに襲い掛かった。パラサイトエンペラーも怯むことなくヘルボロスに向かっていった。


 な、なんて戦いだ……まるで映画で見た大怪獣バトルそのものだな……


「ようイッセー。大丈夫か?」
「鉄平、アンタは大丈夫なのか?」
「奴がヘルボロスに気を取られたから難なくここまで来られたぜ」


 パラサイトエンペラーがヘルボロスに向かったため、フリーになった鉄平が俺の側に来ていたようだ。


「しかし凄い生物だな。アイスヘルにあんな生物がいたなんて知らなかったぞ」
「あいつはかつてこのアイスヘルを支配していた生物さ。酔ったジジイがノッキングしたことで長い間氷漬けになっていたんだ」
「ジジイって次郎さんの事だよな?まさか彼が関わっていたとは……うん?なら何でノッキングされていたアイツが復活したんだ?」
「俺が復活させた」
「えっ?あんな危険そうな生物をか!?」


 呑気そうにそう言った鉄平に俺は思わず驚いてしまった。


「ああ、取り合えずノッキングを解除したんだけど駄目だったか?」
「偶々パラサイトエンペラーがいたから良かったものの下手すりゃあいつに喰われていたかもしれないんだぞ!?」
「まあいいじゃないか。結果オーライさ」


 意外と考え無しなんだな……あっ、そうだ!こんな呑気に会話をしている暇じゃねえんだ!


「鉄平!俺の仲間を助けてくれ!皆、豪水を飲んでしまったんだ!」
「豪水を……?どいつらだ?」
「あそこの金髪の少年と黒髪をポニテにした女性と白髪の女の子だ!」


 鉄平は俺が教えた仲間達の元に向かうと状態を確認する。どうだ、鉄平?頼む、皆を助けてくれ……!


「……無理だ。俺にはどうしようもない」
「そんな……」
「本来ならもうとっくに死んでいるはずなんだ、今生きていることが奇跡だ。だがそれでも後数分の命だ」
「そんな……」


 恐らく悪魔だからまだ生きているのだろうが鉄平でもどうしようもないのか……


「小猫ちゃん……」


 祐斗が、朱乃が、そして小猫ちゃんが……白音が死ぬという現実に俺は心が折れそうになってしまう。そんなのは嫌だ!皆と……白音と永遠に別れる事になるなんて俺には耐えられない……!!


「頼む鉄平!俺にできる事なら何でもするから!金だろうと食材だろうと俺の命だって渡す!だから仲間を……俺の最愛の人を助けてくれ……!頼むぅ……!」
「イッセー……」


 分かっている、こんなことを言っても鉄平を困らせるだけだと……それでも俺には何もできないんだ。小猫ちゃん達を救うことが出来ない……


「神様でも魔王でも何でもいい!皆を助けてくれ……」


 俺には最早神頼みしかできなかった。唯みっともなく泣きわめくことしかできないんだ……


「諦めるのはまだ早いじょ、イッセー」
「!?」


 突然聞こえたその声は、俺が良く知る人の声だった。


「節乃お婆ちゃん!?」


 そう、そこにいたのは美食人間国宝の節乃だったんだ。



 
 

 
後書き
 
 鉄平だ……ってかマジかよ!何でここにセツ婆がいるんだ!?ヤバイな、師匠に怒られる……あっ、別に俺は怒られねぇか。だって元々師匠の受けた依頼だもんな、あー良かった……


 ……ん?どうした、イッセー?なに、良い訳ないだと?こっちは仲間が死にかけているんだぞ?……あっ、そうだった。セツ婆のインパクトでうっかりしていたわ……


 まあ節乃さんなら何とかしてくれるだろう、なにせ俺のジジイのパートナーだった人なんだからな。


 次回第62話、『命を奪う水と命を癒す水、救うための鍵はグルメ細胞!?』で会おうな。 
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