戦国異伝供書
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第六十五話 伊賀者その十一
「第一のな」
「だからこそ」
「これからもな」
「半蔵だけでなく」
「他の者達もじゃ」
「大事にして」
「していくがいい」
優しい声の言葉だった。
「よいな」
「わかり申した、そのことも」
「ならよい、しかしな」
「今度は一体」
「当家は麒麟を得た」
竹千代を見てだ、雪斎はこうも言った。
「有り難いことじゃ」
「麒麟ですか」
「うむ、麒麟じゃ」
竹千代自身にも話した。
「これだけ有り難いことはない、若しな」
「若しといいますと」
「そなたが他の家におるか大名なら」
そうであった場合もだ、雪斎は話した。
「当家はとてつもない敵を得ていた」
「まさか」
「そのまさかじゃ、頼もしい味方はじゃ」
彼等はというと。
「敵になればな」
「それはわかります、恐ろしい敵になります」
「そういうことじゃ、だからな」
「それがしがですか」
「今川家の家臣になってよかった」
まさにとだ、雪斎は言うのだった。
「まことにな」
「左様ですか」
「そしてお主は麒麟でも」
このことは事実でもというのだ。
「まだ小さい、小さいがこれから大きくなる」
「大きくなり」
「それと共に力もな」
「得ていきますか」
「そなたのその姿を見るのが楽しみじゃ。若しそなたが敵なら恐ろしい敵とであったであろうし大名なら」
その場合もだ、雪斎は話した。
「百万石、いや天下もな」
「まさか」
「いや、拙僧はそう見る」
「和上は」
「そなたは百万石どころかな」
「天下までもですか」
「手に入れるまでのな」
そこまでのというのだ。
「者となっておるであろうな」
「大名であれば」
「しかしお主にそのつもりはないな」
「大名になること自体が」
その時点でというのだ。
「とても」
「考えられぬな」
「ましてやそれがしが天下人なぞ」
「とてもじゃな」
「考えられませぬ」
到底という返事だった。
「まさか」
「そのまさかじゃ、しかしな」
「それがしは今川家の家臣なので」
「有り難く思う、ではな」
「これからも」
「宜しく頼むぞ」
雪斎の言葉は今回も優しいものだった、その目も。そうして元服と婚姻が近付いてきた竹千代をさらに育てていくのだった。
第六十五話 完
2019・9・8
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