まさに傲慢
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第一章
まさに傲慢
大貝勝一は浅墓新聞政治部の記者だ、東大法学部を出てそのうえでこの新聞社に入社して今に至る。
入社してからこの新聞社のエースとして活躍している、細い顔にいつもサングラスをかけていて豊かな白髪を右で分けている。
彼が書いた記事は多い、それでこの新聞社で彼を知らない者はいなかった。
相手がどんな大物政治家でも大企業の経営者でも臆しない、そうして彼の『気に入らない』相手には容赦なく筆誅を加えた。
「マスコミは社会の木鐸なんだよ」
「まさにですね」
「ああ、そうだ」
後輩の筑紫栄一郎にも言う、細い顔で黒髪を整えたいつも胸を踏ん反り返らせている男だが大貝には謙虚だ。
「だからな」
「相手が誰でもですね」
「書くんだよ、若しな」
「抗議をしてきても」
「マスコミの力はわかってるだろ」
筑紫もというのだ。
「お前も」
「はい、俺達こそがです」
「一番の権力なんだよ」
こう言い切った、二人は今赤坂の料亭で会社の金で最高級の懐石料理と大吟醸を飲みつつ話をしている。政治化や経営者なら叩くが自分達はいいのだ。
「その権力を使ってな」
「取材をしてですね」
「何かあったらな」
「すぐにですね」
「書いてやるんだよ」
「そしてその記事も」
「書き方は色々だろ」
飲みつつの言葉だった、その大吟醸を。
「もうな、事実でなくてもな」
「いいですね」
「ブン屋が嘘書いたらアウトってのはな」
「違いますからね」
「嘘書いてもそれが言われてもな」
「俺達の発行部数なら」
「数は力なんだよ」
自分達の新聞社が全国規模、何百万もの発行部数を誇ることからの言葉だった。
「そうそう週刊誌で叩かれてもですね」
「平気ですからね」
「週刊は一週間に一回で百万もいかないさ」
その発行部数はというのだ。
「それに叩かれてもな」
「毎日何百万、夕方も発行している俺達とは」
「全然な」
「力が違いますね」
「それにテレビ局もだよ」
こちらもというのだ。
「系列であってな」
「思いきり報道してくれますね」
「だからな」
それでというのだ。
「俺達は無敵なんだよ」
「誰も俺達に逆らえないですね」
「マスコミってのは第四の権力じゃないんだよ」
「第一の権力ですね」
「それこそ立法、行政、司法以上にな」
この三権を超えてというのだ。
「俺達が嘘書いてもな」
「数で押し切れて」
「警察も脅せるだろ」
「ですね、何でも書くぞって言えば」
「その辺りのお巡りどころかな」
「キャリアでもですね」
「黙らせられるからな」
法の番人ですらというのだ。
「黙らせられてな、同調してくれる弁護士もいてな」
「学者さんもいますね」
「そっちの権威もあるからな」
「俺達は余計に盤石ですね」
「誰も俺達に何か出来るか」
とびきりのご馳走を会社の金で食いながらだ、大貝は豪語した。
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