魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~
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無印編
プロローグ
前書き
宜しくお願いします。
「もう知らんッ!? 誰が言うか、この馬鹿ッ!?」
「ハッハッハッハッハッ!」
顔を真っ赤にし、肩を怒らせながら立ち去る幼馴染の後ろ姿。彼女の後姿を、一人の青年が見送っていた。今し方一人の女性を怒らせてしまったというのに、その表情は何処か楽しげだ。
だがそれは決して彼が人を怒らせることを楽しむ様なロクデナシと言う訳ではない。彼と彼女の間ではこれが普通、この関係こそが彼『明星 颯人』と彼女『天羽 奏』にとっての日常なのだ。彼が笑顔なのは、何時もと変わらぬ日常を、何よりも失いたくない掛け替えのない存在が健在である事に安心したからであった。
奏が向かった先では、一つの大きな戦いが終わり、仲間たちが互いの無事を喜び合っている。日常が戻ってくる気配に、誰もが笑みを浮かべていた。
その中に、奏が混ざり直ぐに彼女も笑みを浮かべた。それを見て、颯人は一層笑みを深める。
眩しいまでの平和な光景、彼にとっての希望の存在。それが見れただけで、彼は報われる気持ちだった。
そして、そんな彼女の姿を見て、彼は不意に彼女との出会いの時を思い出していた。
***
―10年前―
彼、明星 颯人は天才マジシャンと称賛される父と優れた腕を持つ工芸家の母との間に生まれた。互いに手先の器用さを活かした職の両親から、彼はその才能を色濃く受け継ぎ幼くして様々な手品が出来るようになっていた。幼少期より父・輝彦に様々な手品を見せてもらい、それを積極的に自分も出来るように練習してきたからだろう。流石にプロには負けるが、それでもこの年齢であれば十分過ぎるほどその手品の腕は卓越していた。
ただ少々困ったことに、彼は無類の悪戯好きに育ってしまった。幼くして人を驚かせる技術を身に付けてしまった為に、手品で人を驚かせてそれを楽しむ悪戯小僧になってしまったのだ。
当然彼の父は事ある毎に手品で他人を驚かせる颯人を厳しく叱り付けたが、彼は全く懲りる様子はなく周囲に迷惑を掛けまくっていた。
そんな彼と天羽 奏の出会いは最悪の一言であった。
「皆、彼女が今日から皆の新しいお友達になる、天羽 奏さんです。奏さん、ご挨拶して」
「はい! 天羽 奏です、宜しく!」
その日、颯人が通う小学校に奏が転校してきた。元より明るく奔放な性格の彼女は、すぐさまクラスメイトと仲良くなっていった。姉御肌な言動もあってか、特に女子からはあっという間に慕われていった。
多くの女子と仲良くなっていった彼女であったが、その一方で男子からは疎まれることもあった。何しろどんな相手であっても気負うことなく、気に入らなければ男子が相手であっても食って掛かり時には喧嘩になる彼女は、この年頃の男子からしてみれば苦手な存在だったのだ。
だが颯人だけは違った。彼は転校後女子と仲良くなる一方で男子と疎遠になっていく奏に、自分から近づいて行ったのだ。
「よぉ! 俺、明星 颯人。宜しくな!」
「お、おぅ?」
あまりにも親し気に話しかけてくる颯人に、奏は最初面食らった。だが彼の屈託のない笑顔にすぐに警戒を解くと、彼が握手の為に差し出してきた右手を何の疑いもなく掴んだ。
それは、これ以上ないくらい迂闊な行為だった。彼を知る者達であれば、颯人に差し出された手を無防備に握り返したりはしない。これは、奏が颯人の事をよく知らなかったからこそ起こった悲劇でもある。
颯人の手を握り返した瞬間、奏はその右手の感触に違和感を感じた。妙に硬いのだ。まるで人の手ではないように。
だが彼女がその事を彼に訊ねるよりも、彼の右手が手首からスポッと抜ける方が早かった。
「わぁぁぁぁぁぁぁっ?!」
「ひゃぁぁぁぁぁぁっ?!」
右手が取れたことで颯人は目を見開き悲鳴を上げ、彼の右手が取れたことと彼が上げた悲鳴に奏はひっくり返りながら悲鳴を上げた。
「ぁぁぁぁぁっ…………な~んちゃって」
驚きのあまり腰が抜けたのかその場に座り込む奏。その彼女の前で、抜けた筈の颯人の右手が袖の中からにゅっと伸びた。これは簡単な手品だった。奏が最初に握ったのは人形の手首、彼女が掴んだと同時に彼は隠していた右手が掴んだ人形の右手を離したのだ。
種明かしをすればその程度だったが、やられた方の彼女からすれば自分は何もしていないのに突然彼の右手が取れたのだ。ただ事では済まされない。
結果──────
「あははっ! びっくり、し……あ」
「う、うぅ……」
座り込んだ奏の下に広がる真新しい水たまり。驚愕のあまり、思わず失禁してしまったのだ。
その光景に颯人は思わず気まずそうな顔になり、肝心の奏自身は羞恥に目尻に涙を浮かべながら顔を赤くする。
そして────
「バカヤロォォッ!?」
「ぐっほぉっ?!」
暴れる感情のままに奏は颯人に飛び蹴りをかました。
これがこの二人の出会いであった。
後書き
感想その他お待ちしています。
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