魔法少女リリカルなのは~とある4人の転生者~
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第10話 聖痕~スティグマ~
前書き
謎の仮面の閃光に倒れた朔也。
命は拾ったものの、その身には赤い刻印が刻まれていた。
これは一体…
「なんだよこれ…」
胸に刻まれた赤く血で描かれたような刻印をまじまじと見つめる。あの仮面から受けた閃光の痕。
「…」
「…」
ちぃさんもレオ神父も一言も発せず何かを考え込んでいる。その場には自然と沈黙が下りるが、この得体の知れない刻印への疑問が勝った俺が口火を切る。
「ちぃさん、これがなんだか知ってるの?」
「聖痕…」
しかして俺の問いの答えはレオ神父によってもたらされる。
「聖痕?」
「聖痕とは言うなれば『神の力』そのものを持つ者の証。もっとも広義的には聖痕そのものが力であると言う説もあるが、問題はその聖痕がお前に宿っていると言うことだ」
説明をするレオ神父の表情に苦いものが混じっている。
「問題、なにが?」
「現在この世界において生存している聖痕を持つ者…『聖人』は10人といない。お前が聖人であると知られれば多くの機関、組織がお前の身柄を狙うだろう」
なんと…
「しかもそれ以上に厄介なのは聖痕という存在、ひいては聖人に注意を傾けている『星辰の七王』がこぞってお前に接触してくる可能性があることだ」
「『星辰の七王』?」
「お前には真祖のことは話したな?」
「名前だけは…」
島に着く前に少々だけど。
「現在は生命の樹で深い眠りについているが真祖とは生まれたそのときから死徒としての呪いを受けた創世期から存在する原初の異形だ。俗に『起源の異形』とも呼ばれる。その『真祖』から直に死徒化の呪いを受けた7体の死徒の『王』を『星辰の七王』と呼ぶ」
…めちゃくちゃ物騒な方々だぁ!ようするに死徒の王様で最強の死徒ってことだよな?
「そいつらは死徒としての能力は元より真祖からの遺伝でその能力をそれぞれが一部ずつ引き継いでいる、死徒の中でもっとも危険にしてもっとも真祖に近い存在だ」
「『星辰の七王』のことは分かったけどなんで聖人を?」
そんなすごい連中が何故狙う?
「それは簡単。聖痕に秘められた力を異形の本能として恐れているからよ」
応えたのは先程まで沈黙を貫き通していたちぃさん。
「異形の本能?」
「そう。聖痕とは本来滅することが出来ないはずの真祖などの不死性を持つ異形すら打ち滅ぼすことが出来るほどの力を有している。いくら最強の死徒と言われる『星辰の七王』にとってもその身が命ある異形である限り脅威でしかないのよ。だから接触を図ろうとする。尤も、敵対行動をとるというわけではないの。ただ好奇心で、っていう輩もいるわ」
ってなるともしかして厄介ごとに巻き込まれるような体質になったのか?
「でも、何で俺に?」
「朔也、たしか仮面をつけた何かに襲われたのよね?」
「そうだよ。そういえばさっきちぃさん幻想卿って、」
先程ちぃさんから洩れた単語の意味を再び問うことにする。
「聖痕には未だ謎が多い。分かっていない部分のほうが多いというのが現状」
「?」
「朔也が接触した『仮面』それこそが今回の事件の発端であり、朔也に刻まれた聖痕『そのもの』なのよ」
「どういうこと?」
よく分からんが、あの仮面が現状の原因と言うことか?
「聖痕について分かっている機能に、『担い手のいない聖痕は自律的に行動して自ら担い手を探索する』というものがあるの。その機能を指して『|幻想卿』というのよ」
「じゃあ、俺が戦った仮面が…」
「幻想卿よ。今回の件もそれで説明がつくわ。幻想卿の行動規範はたった二つ『担い手の探索』と『異形の殲滅』。大方朔也の聖痕の幻想卿が今回の事件の首謀者たちを攻撃してそれから身を護るために近場にあったこの島全体を死徒化したっていうのが大体の筋でしょうね」
なんて傍迷惑なモンだ。自律行動する上に行動規範が殺戮とか。ハル辺りが利いたら目を輝かせそうで怖いが…
「それで?教会所属の特務審問官様はこの件を如何にするつもり?」
不意にちぃさんが殺気を纏う。敵と相対する時のソレがレオ神父に向けて放たれている。
「…別に俺は何もしないさ」
「『教会』は聖痕を持つ聖人にご執心のようだけど?」
ちぃさんの問いにレオ神父が笑みを浮かべる。
「フッ…元々お前と我々との間に結んだ協定に従ったまでだ。あんな権力欲にまみれた枢機卿共の言うことなど聞くつもりは毛頭ない」
「…はぁ、ならいいわ。こんなところでアナタと殺し合いなんて私としてもご遠慮願いたかったし。でも、いいのかしら?教会指折りの実力者の審問官が上の命令に逆らうなんて」
ちぃさんの纏う殺気が霧散していく。軽口を叩いているし、どうやら修羅場は抜けたようだ。
「問題ないさ。確かに枢機卿どもからは強引な回収を命じられてはいたが、俺が元々教皇から受けた命は『事件の解決と原因の調査』だ。俺個人としても組織の一員としても教皇の言葉を優先する。もっとも、この件の顛末に関して教皇に報告するつもりではあるがな」
「そう」
そっけない反応だったが、わずかにだがちぃさんがホッとしているようだったのは気のせいではないだろう。なんだかんだ言ってずいぶんと優しい人だ。
「護衛のほうも教皇が何か手を打つだろう。俺もこの町にいることだししばらくは問題ないはずだが、町の退魔師達が口を出してきそうではある」
海鳴の退魔師…トウカん家の神咲家の方々か。
「そちらのほうは私が手を打っておくわ。レオが行ったんじゃ門前払いされるのが目に見えてるし」
苦笑を隠さずにちぃさんが告げると不機嫌そうにレオ神父が口を開く。
「ム、仕方がないだろう。元々教会と退魔師とは仲がよくないんだ。いくら俺個人としてなら入ることが出来ても審問官として訪ねたら最悪蜂の巣だ。こういうことはお前のようなフリーの人間がやるに限る」
「かく言う私の家族、っていうか姉さんもその『教会嫌い』の1人なんだけどね」
ちぃさんの姉さん…母さんのことか。なんか俺親の話を聞いたことあまりないから気になるなと思ったが、母さんはちぃさんを超えると言う猛者だ。何をやらかしたか分かったもんじゃない事にこのときはまだ気づいていなかった。
「『あの人』の場合正確に言うなら『枢機卿嫌い』だろう。馬鹿共のせいで何度『あの人』との戦いを強いられてきたことか」
「今更ながらに思うけどアナタ、姉さんと戦ってよく生きてたわね」
「運がよかっただけだ。少し間違えば間違いなくあの世行きだった。アレは人の手に負えるようなものじゃなかった。もはや龍とか『星辰の七王』並だぞ…」
なんか、俺の母親がすげー迷惑をかけていることを垣間見た気が…
「『あの人』も十分恐ろしいがそれに加えて『奇才』の血も引く朔也は尚のこと恐ろしいな」
「もうその片鱗を見せてくれてるようだしね」
ちぃさんとレオ神父、二人そろって俺の方を見てくる。
「…なんかスイマセン」
「別にいいさ」
「そうそう」
釈然としないがまあ、いいか。
「さて、さっさと引き上げましょうか!」
「え、もう終わったの?」
「いいや、まだ全て殲滅したわけじゃない」
「ならなんで?」
放っておくのだろうか?
「私は異端狩りの審問官であると同時に1人の神父だ。きちんとこの国の伝統に則って…」
なんかオチが読めてきたぞ…
「火葬にするのさ。島ごとな。事件原因の調査も終了したわけだしわざわざここで戦ってやる必要はもうないからな。まとめてドカンだ」
だと思ったよ畜生!
「さて、さっさと船に引き返そう」
「そうね。ホラ、行くわよ朔也!」
「…幻想卿との戦いで体力気力共に使い果たした人間にソレはないって」
結果、レオ神父の棺桶に重火器他の危険物と共に押し込まれたこととレオ神父によって島一つが丸々火葬にかけられたのは忘れられない思い出として心に焼き付けられた。以降、入学式の写真を見るたびに東堂朔也がこのことを思い出したのは言うまでもない。
後書き
教会や異形などの説明を近いうちにあげようと思います。
次回もよろしくお願いします。
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