緋弾のアリア 〜Side Shuya〜
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第2章(原作2巻) 堕ちし刃(デュエル・バウト)
第19弾 交錯する事象(オーバーラップ)
前書き
第19話です。
夕暮れを背に、俺と佐々木は互いに刀を構えて佇んでいた。
「……」
「……」
只々、静寂のみがその場を支配している状況が続いた。
「……先に来たらどうだ?」
俺は佐々木に問いかけた。
「そうですか……では」
そう言った佐々木は鞘を傍へと捨てた。
……初っ端から来るのか?
「一撃で終わらせましょう。秘技———『燕返し』」
物凄い速度で、言葉と共に物干し竿の刃が俺へと襲いかかってきた。
対する俺は、太刀筋を予測していたため、その一振りを避けた。
は、速え……!
『燕返し』がどういうものなのかってのは聞いてたが、ここまで速いとは思わなかった。
「如何でしょうか」
「それが『巌流』の奥義……か。噂より速くて驚いたぜ。本当、『百聞は一見に如かず』だったな」
俺は正直な感想を述べた。
「ま、お前の攻撃は終わったわけだし———こっちから行かせてもらう!」
俺は左右の刀を構え直すと、佐々木へと突っ込んでいった。
もちろん、策を練った上で、な。
俺は、左手の刀を逆手持ちすると飛び上がり、佐々木に右の刃を落下の勢いと共に振り下ろした。
「———『落雷』———ッ!」
佐々木は俺の太刀筋を読んだらしく、軽く後退することにより攻撃を避けた。
———だが、これでいい。
「———『激流』———ッ!」
逆手に持った左手の雷鳴で佐々木に追い討ちをかけた。
「……ッ!」
佐々木は2撃目の激流にも対応した。
「……流石だな。今の連撃に対応するなんて」
「こんなの序の口ですよ」
……マジかよ。大抵のやつは取れるんだがな。
「流石は巌流の継承者。俺の予想の上を行く」
「先輩の方こそ。ですが———」
佐々木は再び、居合の構えをとった。
「———勝つのは私です」
「どうだかな」
俺と佐々木の間で火花が散った。
お互いの刃が斬り結んだ証拠だ。
俺はそのまま、左手の雷鳴で2撃目を繰り出す。
だが佐々木は、またしてもそれを回避した。
それを追撃するために、再び右手で霧雨の刀身を佐々木へと振りかざす。
佐々木はそれを受け止めると、押し返しバックステップを行なった。
そして、3回目のバックステップの直後、こちらへと侵攻方向を変更して突っ込んできた。
そして、横薙ぎに刀を振るってくる。
俺は両方の刀で物干し竿の一撃を受け止める。
そして、その勢いを流す様にしながら後退する。普通に強い……!
そんな俺に対して佐々木は追撃をかけてくる。
「これで決めます———」
そう言った佐々木は、ほぼノーモーションで『燕返し』を繰り出した。
「何ッ———!?」
あまりのことに、俺は対応することができなかった。
同時に俺は、負けを確信した。
だが、自身の奥深くに眠るそれは、敗北を認めなかった。
いや、認めてくれなかった。
「———ッ!?」
瞬間的にだが、全身の血液が沸騰した様な感覚に襲われる。
そして、俺の視界はスローモーションの世界へと変化していく。
———見えるッ、太刀筋が。
俺は左手の雷鳴を、物干し竿の軌道と同じ位置に刃を置き、『燕返し』を受け止める。
「……!?」
刃が受け止められたことに気づいたらしい佐々木は、再び間合いを広げた。
……まさか、タイバースト———俊バスになるなんて。
この俊バスとは、バーストモードが瞬間的に行われる状態のことで、生死を分ける事態の時に無意識的に発動するものである。
まあそれは置いておいて、一時的とはいえバーストモードにまで追い込んだ佐々木は賞賛に値するな。
俺は両手の刀を鞘へと納めた。
「……なんの真似ですか」
「……とっておきだよ」
俺はそのまま右足を引いて、左肩が若干前に出る体勢になった。
「……こいよ。お前の———巌流の奥義、打ち破る」
「ならば———その言葉、取り消させます」
そういった佐々木は、先程同様にほぼノーモーションで『燕返し』を繰り出した。
来な———見せてやるからよ。
対燕返し用の秘技ってやつをよ!
俺は、左腰の雷鳴を左手で逆手持ちすると素早く、且つ軽く引き抜いた。
そして、刃が斬り結ばれた。
が、俺の刀は鞘から数センチしか出ていなかった。
その、僅かな幅で俺は物干し竿を抑えたのである。
そして、空かさず俺は右手で霧雨を逆手持ちし、刀の峰を佐々木の首元に突きつけた。
「勝負あり……だな」
俺はそっと間合いを開きながら、刀を仕舞いつつ言った。
「……ええ」
佐々木は返事こそしたが、その場で呆然と佇んでいた。
「……お前は強いよ」
俺はそっと言った。
「……ただ、俺がそれを上回っただけさ」
それを聞いた佐々木は、驚いた表情でこちらを向いた。
「……先輩は傲慢ですね」
「傲慢か。たしかにそうかもな」
俺は自嘲しながらそういった。
「だが、事実だろ? 今の戦いは俺の方が強かったわけだし」
「……ええ」
佐々木は事実をだと言うことを受け入れたらしく、弱々しい返事をした。
「———また挑みに来い」
「……え?」
俺の突然の言葉に、佐々木は困惑していた。
「お前はまだまだ伸び代がある。頑張れば、俺のことなんて容易く超えていく筈だ。だから、また強くなって挑みに来い。そんときは相手してやるからさ」
俺はそう言って扉の方へと歩いていく。
「あ、そうそう」
俺は佐々木の方へと振り返った。
「最後の奴種明かししとくけど、アレは対燕返し用の技」
「対燕返し?」
佐々木は首を傾げた。
「そ。燕返しを受け止めつつカウンターする技。アレの対処法立てとけばだいぶ楽になると思うよ」
俺はそう言って再び扉の方へと向き直った。
「……先輩は、なぜ敵に塩を送るのですか?」
佐々木は俺にそういった。
「簡単なことさ。後輩の成長が見たいからだよ」
俺は振り返って笑いながらそう言った。
「じゃあ、俺はこれでお暇するよ」
そういった俺は屋上を後にした。
扉が閉まる瞬間、微かにだが佐々木がお礼を言っていたような気がした———
「ただいま……」
フラフラになりながらも、何とか寮の自室にたどり着くことができた。
早く休みたいなどと思っている俺は、リビングに入って衝撃的な光景を目にした。
そこには、縦に積まれた段ボールがあった。
「……オイ、なんだこの段ボールは」
「私の荷物だけど?」
先に戻ってきた凛音が、そう答えた。
「多すぎるだろ……」
「これでも絞った方だけど」
「マジかよ……」
ため息をつきつつ、洗面所で手を洗い、うがいを済ませた俺は、自室の扉を開いた。
そこには———またしても段ボールが待ち受けていた。
「……え?」
あまりのことに、俺は素っ頓狂な声をあげた。
「あ、それは私の荷物」
そういったのは、何故か知らんがここに居座ることになった死角無しのマキ事、大岡マキさん。
「何故ここに入れた」
「凛音の荷物とごっちゃにならないように」
「アッハイ」
問いただすことを諦めた俺は、扉を閉めリビングのソファーに腰をかけた。
なんでこうなっちゃったのかな……。
自身の日頃の行いが悪いのかなどと考えながら項垂れていると、不意に凛音が言った。
「そう言えば、夕飯どうするの?」
その言葉で、俺はあることを思い出した。
「あ……買い出しに行ってない……」
「え、つまりそれって……」
マキが不安そうに言った。
「……冷蔵庫空っぽ」
「つまり食材が?」
凛音が尋ねてきた。
「Nothing……」
完全に忘れてた。
と言うか、こんなに増えることを想定していなかった。
「ど、どうするの?!」
凛音が慌てた様子になった。
俺はマキへと問いかけた。
「……買い出し頼んでもいいか?」
「いいよ」
そう言ったマキは玄関へと向かっていく。
「じゃあ、凛音のこと宜しくね」
マキはそう言い残して、買い出しに行った。
「……さてと、俺もちょっと作業しますかね」
俺はソファーから立ち上がると、再び自室へと向かった。
「あ、ねえ」
「ん? なんだ」
凛音に声をかけられた。
「その作業が終わったら、私の方手伝ってもらってもいい?」
「ああ、構わないが」
「ありがとう」
そう言って凛音は微笑んだ。
俺は自室へと入ると、背面に固定してある2本の刀を外した。
「……激しく斬り結んだから、整備しなきゃだな」
俺はそう呟きながら、刀を机の上に置いた。
その時、携帯が鳴った。
「……もしもし?」
『シュウヤ、今どこ?』
電話の主は……アリアだった。
「今は寮の自室だが」
『そう。ならいいわ』
「何がだよ」
『あんたがそこにいるなら、白雪の身に何かあった時でも駆けつけられるわね』
ああ、そういうことね。
「まあ、そうなるな」
『それだけよ』
「そうか。じゃあ、俺は作業があるからこれで」
そう言って、俺は電話を切った。
……さてさて、情報収集でもしていきますかね。
『妖刀』、並びに『魔剣』の。
俺はPCの前に座ると、情報収集を始めたが———正直何も見つかる気がしない。
ほぼほぼ裏社会の事象に当たるため、表社会の情報しか引っかからないネット検索では無理があるというものだ。
俺は10分程で検索をやめた。……後で情報科の奴に手伝ってもらお。
そう考えた俺は、自室から出た。
「あ、終わった?」
「まあ、粗方はな」
「じゃあ、私の方手伝って?」
「了解。で、この段ボールを開ければいいのか?」
そう言って俺は、段ボールを作業し易い場所へ移すため持ち上げた。
……うおっ?! なんだこれ、超重たいんだが?
「うん。で、少し中が崩れてるかもしれないからそれを整えて欲しいの」
「整えるだけでいいのか?」
「いいよ」
凛音の言葉に首を傾げていた俺は、段ボールを置いた。
そして、段ボールを開けて初めてその言葉の意味に気がついた。
「これ、段ボールの中がそのまま収納として使えるようにしたのか」
「そういうこと」
凛音は作業を止めることなく、俺にそう返答した。
よくこんなこと思いついたな……って、中に入ってるのは銃火器か。
どうりで重たいわけだ。
「ステアーAUGも入ってるのか……」
この前の作戦コード『/』の時に勝手に借りたあの銃だ。
その銃が、パーツ分けされた状態でしまってあった。
「もちろん!」
「……というかこの箱、整理する必要ないでしょ」
「そうね」
「ええ……」
あまりの事に俺は困惑した。
しばらくの間、静寂が時間を支配していた。
俺はその静寂を断ち切るために、口を開いた。
「……そういえばさ、凛音はこういうの気にしないの?」
「……こういうのって?」
「その……アレだ。男子と一緒に住むことだ」
「え、え、う、うん……」
慌てた様子の凛音は、顔を背けた。
「そ、そういうシュウヤは……どうなの?」
「俺か? 俺は……まあ、なんというか、問題は無い」
正直なところ嫌だけど。
「そ、そうなんだ」
……我ながら、振る話題を間違えた。
と言った具合に後悔していると———
「ねえ。1年生の時の4対4の事覚えてる?」
凛音が、そう尋ねてきた。
「もちろん」
「あの時の私たちは、何かと衝突してばかりだったよね」
そう言った凛音はクスッと笑った。
「そうだな……お陰で纏める身としては大変だったよ」
1年時の俺たちは、些細なことですら衝突していた。
今の状況からはとても想像ができないが、マキと凛音、マキと歳那は仲が悪かったのだ。
俺は立ち位置的には中立だったのだが、凛音と歳那からは、目の敵にされていた。
「お前と歳那、俺がなんかしたわけでも無いのに、しょっちゅう俺に対してキレてたよな」
「そ、そう……?」
凛音は若干視線を逸らしながら言った。
「そうだよ。しかも普段1対2とかで起こるから収集がつかなかったよ……」
俺はそのことを思い出しながら、溜息をついた。
「でも、実戦の時は不思議なくらい息ぴったりだったよね」
「そうなんだよな」
ここまで仲が悪かったのに、試験本番の時は恐ろしいほどの連携を行うことができていたのだ。
「で、気付いたら皆んな打ち解けあってたんだよな……」
「うんうん。今思うと、つまらない事で喧嘩してたよね」
「だな」
そう言って、俺と凛音は笑った。
「まあ、結果オーライってことにしておこうぜ」
「だね」
「ただいま〜」
話してる間に、マキが帰ってきた。
「「おかえり」」
俺と凛音は声を揃えて言った。
「なんの話ししてたの?」
「4対4の時の話さ」
「4対4か〜。懐かしいね」
「ああ。もう1年経ったよ」
「早いね」
「ほんとほんと」
このペースで行けば———今年1年なんてのも、あっという間なんだろうな。
俺は、立ち上がると台所へと向かった。
「さてと、夕飯の準備でもしますか」
「だね」
「ええ」
そう言って俺達は、夕飯を作り始めるのであった———
翌日の午後、狙撃科を訪れた後に、俺は情報科を訪れていた。
昨日探そうとしていた『妖刀』に関する情報集めのためである。
資料の在り処を探していると、不意に声がかけられた。
「アレ、シュウヤじゃん」
俺は咄嗟に、声のした方向へと振り向いた。
「……由宇?」
俺の視線の先には、身長155cm程で、茶髪をボブカットのようにした少女が立っていた。
彼女は、霧ヶ崎由宇。通信科所属のAランク武偵だ。
「何やってるの、こんなところで」
「ちょっと資料探しをね。そっちこそ、こんなところで何してたの?」
「私は、気分転換よ」
……なんだその理由。
「相も変わらず、だな」
「そっちこそ、いつも忙しそうだけど大丈夫なの?」
「慣れてるから平気さ」
「無理はしないでね」
「心配してくれるのか?」
「そりゃ……一応、一時的とはいえ組んでた訳だし……」
俺と由宇は、去年1ヶ月だけコンビを組んでいた。
「そっか。ありがとな」
と言った具合で会話している、俺の携帯が鳴った。
「……誰だろうか」
俺は、懐から携帯を取り出すと応答した。
「はい?」
『シュウヤ、今から第2女子寮最上階、角の部屋に来て』
……んー? 聞き間違いだろうか?
今一瞬、女子寮って聞こえたんだけど。
「今、女子寮って言った?」
『言ったわよ。今から30分以内に来なさい。いいわね!』
「あ、おいッ」
そこまで言ったアリアは、電話を切ってしまった。
……なんなんだ、一体?
「どうかしたの?」
「ああ、知り合いから呼び出しだ」
「何処に?」
「女子寮の……最上階だとさ」
「私も一緒に行っていい?」
由宇の突然の発言に、俺は驚いた。
「え、なんで?」
「私の部屋、その階だから」
初耳だな。それ。
「わかった。じゃあ、今から行くがいいな?」
「了解」
そう言った俺は、資料を探す手を止めると、由宇を引き連れて情報科を後にした。
そして、20分程かけて指定されていた女子寮へと辿り着くと、由宇と共に最上階へと向かった。
「あ、私の部屋ここだから」
俺が目指す角部屋の少し前で、由宇の部屋に着いた。
「そうかい。じゃあな」
「うん。じゃあね」
そう言った由宇は、部屋の中へと入っていった。
「さてと……俺は向こうか」
角部屋の前に立った俺は、インターホンを鳴らした。
しかし、反応がない。
「……何か御用でしょうか?」
俺が、応答を待っていると突然、レキが現れた。
「……ビックリした。いや、アリアに呼ばれたんだが……なんか知らないか?」
するとレキは、懐から鍵を取り出して、扉を開けた。
「……まさかここ」
「私の部屋ですが」
そこで俺は納得した。
「じゃあ、アリアになんか頼まれてるんだな?」
レキはコクリと頷いた。
「どうぞ」
そう言ってレキは、俺を中に招き入れてくれた。
「お邪魔します」
そう言って中に入ってみたレキの部屋の第一印象は、『無機質』だった。
コンクリートの壁が剥き出しになり、家具などは、見た限りでは一切なく生活感を感じられなかった。
「お前、ここに住んでるのか?」
「はい。何か変ですか?」
「いや、なんでもないさ」
俺はレキにそう告げると、流しを拝借して手を洗った。
「遅かったわね」
俺が顔を上げると、鏡越しにアリアの姿があった。
「色々とやってたもんで、な」
俺はそう言って、アリアの方へと向き直った。
「単刀直入に聞く。俺を呼び出した要件は?」
「白雪の護衛の手伝いよ」
やっぱりか。だが、1つ引っかかる。
「なんでこんな離れた位置から護衛をするんだ?」
「目標を誘き寄せるためよ」
「なるほど」
それを理解した俺は、携帯を取り出し、マキに電話をかけた。
マキは、5コールの後に応答した。
『もしもし?』
「あ、マキ。悪いけど、今日帰れないから凛音の事任せていいか?」
『いいよ。雪ちゃんの護衛の件でしょ?』
「ご名答。悪いな、丸投げする感じになっちまって」
『しょうがないよ。どっちも依頼なんだから』
「ありがとな。後、何かあったらすぐに連絡してくれ」
『うん。じゃあ、おやすみ』
「ああ、おやすみ」
そう言って俺は電話を切った。
「マキと電話してたのね」
俺の目の前に立つアリアがそう言った。
「ああ。こっちも護衛やってるんでな」
「そうだったわね」
そう言って俺とアリアは、リビングへと向かった。
レキはと言うと、台所で何やら開けていた。
「……何してるんだ?」
俺はレキへと問いかけた。
「食事の用意を」
その手には、栄養食品が。
「お前、普段からそれしか食ってないのか?」
「はい」
マジかよ……。
「お前はそれでいいかもしれないが、俺とコイツは多分足りんぞ?」
「そうね……流石の私でも、それだけじゃ足りないわ」
俺はため息をついてから、口を開いた。
「……買い出し行ってくるわ」
「なんか作ってくれるの?」
「ああ。『腹が減っては戦はできぬ』って言うだろ?」
「そうね。じゃあ、お願いするわ」
「はいよ。レキも食べるか?」
コクリ、とレキは頷いた。
「じゃあ、行ってくる」
そう言い残して、俺は玄関を出た———
なんだかんだあって食後。やることが無くなった気分だ。
「しかし、2人してよく食うな……」
5人前とか作った筈の料理が、完売するってどう言うこと?
しかも俺、1人前食べたかどうかぐらいだよ?
2人は胃の中にブラックホールでも飼ってるのではないか、と疑い始めた時、アリアに呼ばれた。
「ねぇ、シュウヤ」
「ん?」
「このケースは?」
「ああ、そいつはな」
俺は立ち上がり、ケースの側へ行くと、ケースを開いた。
中には、パーツ分けされた狙撃銃が入っていた。
「M110狙撃銃。俺の使ってる狙撃銃さ」
俺は、中身を取り出すと、素早く組み立てた。
「そういえばあんた、狙撃科でAランクだったけど、どれくらいの腕なの?」
そう来たか……。
「……見たいの?」
「ええ」
俺は立ち上がると、アリアに言った。
「なら、屋上に行くぞ」
そう言って、俺とアリア、そしてレキも屋上へと向かった。
「で、どうするの?」
「本当なら———アリアにこの9mm弾をもって、400m四方を適当に移動してもらいたかったんだが……流石にそれは悪いから」
俺は、狙撃銃からスコープを外すとアリアに渡した。
「それで覗いて、適当な位置でも示してくれ。それに細かい注文をつけてくれても構わない。但し、半径1.6km内で頼むよ」
「わかったわ」
そう言ってアリアは、四方を見渡し始めた。
「じゃあ、向こうに見える公園の木が密集してる所の真ん中の木で、且つ1番上の葉の真ん中を撃ち抜いて」
「了解」
俺は思考を研ぎ澄ませる。
それにより徐々に徐々に自身の感覚が、深い所まで沈んでいく。
———よし、なれたみたいだ。沈黙の解答者に。
俺は、両手でM110を構えると、引き金にそっと手をかけた。
そして、自身の視力のみでの補正をかけ始める。
風は……ほぼ無し。空気抵抗による影響も配慮しなくていいな。
あとは、地点と、目標物までの距離。
感覚だが……1471mってところか。
俺は、最終補正をかけると引き金を引いた。
M110から放たれた7.62mm弾は、アリアが指定した木の葉へと吸い込まれるようにして当たった。
スコープを覗いていたアリアは、驚きの表情を隠せないようだった。
「腕は確かね。伊達にAじゃないわね」
「そいつはどうも」
そう言いながらアリアは、俺にスコープを返してきた。
受け取った俺は、スコープを取り付け用としていた。
しかし、久々にあんな大胆な狙撃をやったものだ。
我ながら、よくあんなことができるなとか思っちゃうよ。うん。
「そういえばあんた、絶対半径幾つなの?」
突然アリアに思考を遮られた。
「え、ああ、絶対半径か。俺の絶対半径は、1684m。狙撃科の中じゃ短い方だよ」
自嘲しながら俺は言った。
「それでも私は凄いと思うけどね」
「そうか? まあ、そう言うことにしておくよ」
俺はそう言って、屋上を出ようとしたが……先程から何やら視線を感じる。
「……さっきからずっと俺のこと見てるけどさ、なんか言いたいのかレキ?」
俺は、視線を向けていた張本人であるレキの方を向いて尋ねた。
「シュウヤさん、私と———」
次にレキの口から出た言葉に俺とアリアは戦慄した。
何せ、普段のレキからは考えられない発言だったからな。
「———決闘してください」
後書き
今回はここまで。
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