戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~
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戦姫絶唱してないシンフォギアG~装者達の日常~
装者達のハロウィンパーティー
前書き
ハロウィン当日に間に合わせたって証も、今や作者自身と古参読者の思い出の中ですね……。寂しいような、懐かしいような。
どちらにしろ、お菓子貰えるイベントだからって砂糖を気持ち多めにして、なんならR指定がお望みな皆さんの期待にもある程度答えたよ!
さあ、ノマカプ大好きな私からのお菓子……もとい、砂糖そのものを受け取れぇぇぇぇぇい!
そんな自分はスタバでハロウィンレッドナイトフラペチーノ買って飲んでましたよw
苺×ミルク×生クリーム×チョコ=スーパーベストマッチ!!
「「「「「ハッピーハロウィーン!!」」」」」
特異災害対策機動部二課、移動本部の艦内食堂にて。装者達は各々、仮装した姿で過ごしていた。
今日は10月31日……ハロウィン当日だ。
この日の為に、各々衣装をちゃんと準備して来たのである。
幸い、今日はこれといって大きな任務もない。楽しむ余裕はしっかり確保されていた。
「お前達、楽しんでいるか?」
「さあ、あの言葉はまだかしら~?」
血糊付きホッケーマスクを被った弦十郎、黒いとんがり帽子とマントに星付きのステッキを持った了子が、お菓子の詰め合わせを両手にそう言うと、響は早速、例の言葉を言った。
「トリック・オア・トリート!お菓子くれないとイタズラしちゃいますよ~っ!」
「あらあら~、それじゃあどんなイタズラをしてくれるのかしら~」
「えええええっ!?了子さーん、それはズルいですよぉ~!」
お菓子を両手に持っていながらも、わざとらしくそんな事を言う了子。そこへ、翔が助け舟を出した。
「ほ~う。じゃあ、了子さんが仕事の合間に食べる為、食堂の冷蔵庫に置いてあるコンビニスイーツを……」
「あー、ウソウソ!冗談よ~!」
流石の了子も、休憩時間の楽しみを人質にされては敵わない。
素直に響と翔の手に、お菓子の袋を渡した。
「翔は響くんとお揃いか」
「折角なので揃えたい、と響に言われたので。どっちも人狼にしてみました」
「今日のわたし達はオオカミなんですよ~。がおーっ!」
「随分と可愛らしいワーウルフさんね~」
オオカミの耳と尻尾、そしてダメージ加工した古着を着た翔と響が、両手の指を曲げてポーズを撮る。
了子は記念に1枚、と二人の様子をカメラに収めた。
「でも、この会場にオオカミってもう1人いるわよね?」
「あー、あれは別ジャンルですよ」
首を傾げる了子に、翔は食堂の隅を見ながら答える。
響、了子、弦十郎も釣られてそちらを見ると……。
「クリスちゃん、もうちょっと純くんの方に寄ってくれない?」
「こ、こうか?」
「そうそう!ほら藤尭くん、レフ板もう少し左に傾けて!」
「これ手持ちだと結構辛いんだけどなぁ……」
「折角のハロウィンにボヤかない!後でハロウィン限定スイーツ、奢ってあげるから」
そこでは純とクリスにポーズを撮らせ、友里、藤尭を初めとしたスタッフ数名による撮影会が開かれていた。
ちなみにクリスの格好は、キュートでラブリーな赤いドレスに身を包み、ハートとリボンでデコレーションされたマイクを持つ魔法少女風の姿であった。
その隣では純が、同じくメルヘンチックなベストに狼耳といった出で立ちで並んでいる。ちなみに現在、眼鏡はしていない。
「あのコスプレって確か……うたずきん?政府がプロパガンダ目的で制作したやつよね?」
「そう。『快傑☆うたずきん!』の主人公、うたずきん。なんでも、モデルは雪音だと聞いて、じゃあ本人にコスプレさせたら似合うのでは?って言い出した職員さんが居たらしくて……」
『快傑☆うたずきん!』、それは現在某少女漫画雑誌にて人気急上昇中の魔法少女漫画である。
国連直轄組織「S.O.N.G」に配属され、秘密裏に様々な任務に従事することとなったシンフォギア装者達であるが、国による情報操作をもってしても、人々の間に装者の目撃情報は広まり続けていた。
そこで政府は、人知れず悪と戦う存在をフィクション作品として大々的に取り上げることで、装者の噂を単なる都市伝説と誤認させようと考え、そのために生み出されたのがうたずきんである。
なお、プロパガンダ目的の強い企画であったために、当初はおおよそ子供向けとは思えないシナリオであったが、それが逆に幅広い年齢層にウケる要因となり、情報操作の成功に加え商業的な成功というオマケまでつく大成功を収めて今に至る。もちろん、自分達がモデルなので装者達は五人揃って読んでいたりするのだ。
「なるほど……。それで、どうして純くんの方はあの格好なの?」
「先月登場したばかりの新キャラですよっ!うたずきんの幼馴染、『うたおおかみ』ですっ!」
「巷では、俺達男性装者の噂もあるみたいで……。先月、新たに男性キャラが追加されたらしいんですよ。『うたおおかみ』と『うたおうじ』って」
「む?名前だけで判断するならば、モデルは……」
政府がそこまで考えているかはさておき、弦十郎の言う通り名前だけで見れば、うたおうじは明らかに純だろう。
となればもう片方、うたおおかみのモデルが翔である可能性が高い。
「オオカミか~……。気高くて、家族思いで。かっこいい動物だよなぁ」
「翔くん、存外悪い気はしてないのね~。よく男は狼だって言うけど、それって案外メルヘンなイメージが強いのよね。童話の中だと大抵悪役ってだけで、生態的にはとても感情豊かな動物なんだから~」
「ある意味では純くんも間違ってはいない、という事か」
「普段から王子様してる彼に王子様キャラの仮装ってのも、ちょっと面白味には欠けるものね~」
「翔くん。今のあの二人、すっごく楽しそう!」
「だな。撮影会終わったら、皆で菓子パしよう」
八年ぶりの季節行事を、心の底から楽しむクリス。
大切な“お姫様”と一緒に、八年ぶりの季節行事を過ごす純。
そんな二人の幸せそうな顔を、翔と響は微笑みながら見守っていた。
「クリスちゃん」
「ん?どうした、ジュンくん?」
「楽しいかい?」
「……ああ、悪くねぇ。……ジュンくんは?」
「僕かい?勿論。君と一緒に過ごせる時間が、楽しくないわけが無いよ」
大人二人と親友達に見守られる中、純とクリスはポーズを取り続けていた。
ちなみにこの時の写真は、S.O.N.G.の行事アルバムで専用のページが設けられる程に好評だったそうである。
∮
「つ~ばさっ!トリック・オア・トリート!」
「わっ!?も~、奏ったら~」
くの字に曲がった二本の角、黒い小さな羽と先端の尖った尻尾。
悪魔の仮装に身を包み、奏は翼の背後から声をかける。
「いいだろ別に~。今日ハロウィンなんだしさ」
「はい、これ。奏なら私にもお菓子をせびりに来ると思って、用意してたの」
「おっ、サンキュー。やっぱり翼はあたしの事分かってくれてるなっ!……それにしても──」
奏は翼からクッキーを受け取ると、改めて翼の仮装をまじまじと見つめる。
白い着物に身を包み、藍色の帯を締め、白足袋に草履を履いた翼の顔は、白粉で色白く化粧されている。
「翼のは雪女か。結構似合ってるな」
「これ、凄いのよ。職員さんの中に、小道具作りが得意な人が居るんだけど、どうせならこれくらいのクオリティは必要だ、って悪戯用の機能を付けてくれたの」
「へぇ、どんな?」
興味津々に聞いてくる奏に、翼は思いついたように言った。
「じゃあ奏、トリック・オア・トリート」
「えっ」
「さっきの仕返し。まさか用意してない、なんて言わないわよね?」
「いや~、その~……」
翼が想定外の発言に出たために、後退る奏。
その姿から案の定、自分にやり返されるとは思ってなかったのだと確信した翼は、悪戯じみた笑みを浮かべる。
「ふふっ。そんな奏にはこうよ!そーれっ!」
思いっきり袖を振りながら、奏の方へと手を向けた。
その瞬間、翼の着物の袖から冷風が吹き出し、奏は全身を震わせた。
「冷たッ!?なっ、なんだよそいつは!?」
「面白いでしょ?腕を曲げると、袖の中に仕込まれてる装置のスイッチが入って、腕を伸ばしたら冷風が出る作りになってるらしいの」
「なるほどな。ってか、ここの大人はやっぱり何かしら極めてる人しか居ないのかよ……」
ちなみに、この装置を作った職員さんはと言うと、食堂の隅で某蜘蛛男のスーツに身を包み、アクロバットしながらお手製のヨーヨーでストリングを飛ばしていた。地獄からの使者や鉄の意志を継いだ方ではなく、アメイジングな方だった所は本人の拘りだそうだ。
「お二人共、楽しそうですね」
「緒川さん!」
そんな二人の元に、緒川がやって来た。
記録係をやっているらしく、カメラを向ける緒川に向かって二人はピースサインを向けた。
「緒川さんは仮装しねーの?」
「僕には記録係の仕事がありますから」
「遠慮すんなって!こういうのは皆で楽しんでこそ、だろ?なあ、翼?」
「そうですよ。折角の季節行事、緒川さんも加わってくれなきゃ嫌です」
翼は緒川のスーツの袖を掴み、軽く引っ張る。
ようやく付き合い始めたものの、緒川はまだ少し遠慮しがちな所が抜けておらず、個人的な楽しみ以上に仕事を優先させがちな部分も残っているのだ。
「翼さん……」
そんな緒川も、翼にこう言われてしまっては断れない。緒川が少し困った様な顔をしたのを見て、奏は何かを思いついたように笑った。
「おっし翼!ここは緒川さんにもあれ、言ってやれよ」
「ッ!そうね……。参加出来ぬというのなら、こちらから引き摺り込むまでッ!緒川さん、トリック・オア・トリートッ!」
防人スイッチがオンになった時の口調で、緒川に菓子をせびる翼。
すると緒川は、スーツの胸ポケットに手を入れ、チロルチョコを一つ取り出した。
「任務中のカロリー補給用のものが、一つだけ余ってました。こちらで良ければ」
「意外に可愛いもん持ってた!?」
「うっ、さすが緒川さん……」
予想に反した結果にしょぼくれつつも、チロルチョコを受け取る翼。
それを見た緒川は周囲を見回す。すると視線の先には、いつの間にやら大人用の黒マントと、顔の半分だけを隠す真っ白な仮面を用意した男女二人の黒服職員がいた。
「──翼さん、少し待っていてください」
そう言って緒川は黒服職員二人の元へと向かうと、その衣装を受け取った。
「翼さん、僕の方からもいいですか?」
「緒川さん、その格好は……」
黒いマントに白い仮面。その姿は、歌姫を舞台の影から見守り、導きながらも、歪んだ愛からその手を血に染めた一人の男……オペラ座の怪人だ。
「トリック・オア・トリート。……まさか、僕に言うだけ言って、自分は用意していないなんて言いませんよね?」
「……しまった、奏にあげたので最後だ……あっ……」
「じゃあ、悪戯されても仕方ないですよね?」
そう言って緒川は、羽織ったマントを広げた。
「あ~……うん、しばらくそっとしておくか……」
奏は空気を読んでクールに立ち去り、黒服職員コンビはハイタッチを交わしていた。
遮るマントの向こう側、怪人が雪女に仕掛けた悪戯の内容は、きっとありふれたものなのだろう。
しかし、それでも。二人の心境がどのようなものだったのかまでは……二人の心だけが知っている。
∮
「楽しかったね~♪」
「ああ。来年には元F.I.S.の皆も参加出来たらいいな……」
「できるよ、きっと。師匠達が掛け合ってくれてるみたいだし、なんとかなる!」
「ああ、叔父さんと斯波田事務次官を信じよう。あの人達なら、何がなんでもあいつらを守ってくれるさ」
ハロウィンパーティーを終えて帰宅した翔と響は、風呂を済ませて寝間着に着替えていた。
時刻は既に11時を回っている。明日も早いのだ。あまり遅くまでは起きられない。
「もう遅いし、そろそろ寝るか」
「あっ、翔くんちょっと……」
寝室に向かおうとする翔を、響が呼び止める。
振り返る翔。響はすうっ、と息を吸い込むと……パジャマのボタンを外し始めた。
「ッ!?」
驚いた翔は目をそらそうとして……その下に着て来ていた衣装を二度見した。
「ひ……響?それは……」
「また姫須さんに貰っちゃってさ……」
響がパジャマの下から着ていたのは、とある人気ゲームのハロウィン限定衣装。その手の界隈からは『ドスケベ礼装』として名高い、紫色の人狼風アレンジマイクロビキニ……『デンジャラス・ビースト』であった。
狼耳を頭に付け、衣装を完全装備した響の姿に、翔の目は釘付けされる。
局部こそしっかりと隠れているものの、ドスケベ礼装とあだ名されるだけあって、その衣装はほぼ紐だ。
肩は出てるし、脂肪が程よいお腹も丸見え。何より、谷間と太腿が強調されており、正直言って絶対外では着せられないデザインのこの衣装。帰った後で着るように、と渡した辺りに姫須の意図が見て取れる。
他の男に見られることなく、他の女性陣に咎められることなく、そして翔と二人っきりになれる自宅だからこそ、この衣装を着る事が出来、なおかつ横槍が入らない……。あとは翔の理性が何処まで保つかだ。
「翔くん……」
「なっ……なんだ……?衣装の感想ならッ、そのっ……目のやり場に困るというか、その姿で迫られると俺も困るというか……ッ!」
そう言いながらも、翔は響から目を離す事が出来ない。
響はそんな翔を見て、普段は見せない蠱惑的な笑みを浮かべ、その顔を覗き込む。
「トリック・オア・トリック、悪戯するか、悪戯されるか。好きな方を選んでね♪」
「ッ!!……どっ、何処で覚えて来たんだ、その笑顔……ッ」
「黒服の春菊さんが『こういう顔すれば、クールな翔くんもイチコロよ』って、稽古つけてくれたんだ~」
一瞬でいつもの無邪気な笑みに戻り、そのまま響は翔に迫る。
「まだまだ少しだけ、時間はあるよね~。翔くんはどっちを選ぶのかな~」
両手指をわきわきと動かしながら迫る響に、じりじりと追い詰められながらも、翔は葛藤する。
(落ち着け、冷静になるんだ、俺!アレはどう見てもアウトだろう!食いつけば最後、彼女をどうしてしまうかは俺自身にも分からない……。しかし……据え膳食わぬは男の恥!あそこまでしてくれた響に応えずして何が彼氏かッ!)
揺れる天秤。悶々として、目の前に迫る彼女を改めて凝視して。そして──翔は考えるのをやめた。
「……いいんだな?」
「もちろん。……場所、移そっか」
ハロウィン終了まで残りあと僅か。二人っきりで始める、夜の催し。
貪り合うのか、腹八分か。彼らの夜は、まだ終わらない……。
∮
──とある平行世界にて。
「響さん……?」
仮装のために被っていた真っ白いシーツの中、入って来た彼女に壁ドンされながら、翔は彼女の名前を呼んだ。
「お菓子を持ってる限り悪戯できないなら、持ってるお菓子が尽きるまで繰り返せばいい……。フフッ、これでもう逃げられないよ……」
響はそう言って、翔の顎に手を添えると親指で唇を撫でる。
捉えた獲物を弄ぶように、恍惚を浮かべた表情で目を細めた彼女は、人狼の衣装に身を包んでいた。
「一度、本気で翔を襲ってみたかったんだよね……。それが漸く叶う。だってハロウィンって、お菓子貰えなかったら悪戯し放題でしょ?御守りのお菓子を失った子は、悪い狼人間に食べられちゃって当然なんだから……♪」
今にも耳や尻尾が動き出しそうな程に、響が放つ雰囲気は妖艶さと野性味に溢れていた。
恋は人を変えると言うが、今の響もまた、そうなのだろう。
もしくは魔物の夜である今宵の空を照らす月が、彼女に魔性を目覚めさせたのか。
どちらにせよ、翔が響から逃げられないのは確実だった。
「さ~て、何処から食べよっかな~……。やっぱり最初は、その柔らかそうな唇からがいいかな~……」
そう言って舌舐めずると、響は翔の顔に自分の顔を思いっきり近付ける。
大通りがハロウィンを楽しむ人々で溢れる中、路地裏にいるのは二人だけ。月だけが二人を照らしている。雰囲気は十分だ。
まさにその時だった。翔の中の本能が首をもたげたのは。
「……トリック・オア・トリート」
「……え?」
「響さん、僕から貰ってばかりで、僕にまだお菓子渡してないよね?」
「あっ……えっと、それは……」
まさか逆転で返されるとは思わず、響は焦る。
それを見て翔は更に続けた。
「お菓子を渡せば、狼さんは僕を襲えない。拒否する事も出来るんだろうけど、そんな事をすれば僕からの“悪戯”を認める事になる。……そうでしょ?」
「ッ!?や、ややややれるもんなら、や、やって……みて、よ……。ヘタレの翔に、そそそんな事……出来るわけが……」
「出来るわけがないって?」
翔の両腕が響の背中に回される。
力強く抱き寄せられた瞬間、響は顔を真っ赤にした。
「本気で主導権を握りたいなら、わざわざハロウィンに乗っからずとも行けるはずなのに……。まったく、随分と可愛らしい狼さんだ。このまま首輪を付けて飼い慣らしたいくらいに……」
「くっ、首輪ッ……!?」
「そう……僕から二度と離れないように……君は僕のものなんだぞって、君の心と周りの皆に知らしめるために……ね」
耳元で囁かれ、響の顔が更に耳まで赤くなる。
先程までの雰囲気は何処へやら。今の彼女は完全に、スイッチが入った翔のペースに呑まれてしまっていた。
「まあ、今のは冗談だけど。そういやさっきなんて言ったっけ?最初は唇、だったかな?……奇遇だね、僕もそれが良いと思ってた」
今度は翔が、響の顎に手を添えて、逸らそうとしていた響の顔をクイッと上に向かせた。
翔に真っ直ぐ見つめられ、響の心臓は高鳴っていく。
「ッ!!ちょっ、ちょっと待っ……」
抵抗する暇も与えられず、響はその柔らかな唇を彼に奪われる。重ねられた唇を通して入ってきたものに、彼女は大層驚かされた。
暫くして、離れる唇。密着して離れた二人の唇は透明に煌めく糸を引いていた。
「翔ッ……今、舌……ッ!?」
「中々美味しかったよ。……でも、これくらいじゃまだまだ満足は出来ないな……」
口元を手の甲で拭いながら、翔は彼女の顔を覗き込み、口角を釣り上げた。
立場を完全に逆転され、響は翔の表情を見て確信する。
やっぱり自分は、彼に敵わないのだと。
普段は気弱そうな雰囲気を放つ翔だが、一度スイッチが入れば抵抗する事さえ許さない攻めに転じてくる。
そんな彼のスイッチが何処にあるのかを、響はようやく理解した。
普段通りに接していれば、彼は普段と変わらない。
だが、ひとたび押せば、彼は反撃するように押し返してくる。
彼のスイッチは、自分自身の態度だ。こちらが攻めようとする姿勢を見せるから、向こうもそのつもりになる。それが翔なのだ。
(受け身な姿勢が一周回ってる、か……。……でも……優位に立ってた状態から、主導権を握り返されて弄ばれるこの感覚……。ちょっと、クセになりそう……♪)
二人の姿は被り物のシーツが覆い隠している。大きな物音さえ立てなければ、気づかれる事もないだろう。
そう意識すると、自然と昂る己に気付き……やがて、響は翔に体重を預けてもたれ掛かる。
「食べられたのはわたしの方……って事?ヘタレなオバケさん……♪」
「どうかな?もしかしたら、君に乗せられたのかも知れないね。可愛い一匹狼さん♪」
まだ夜はこれからだ。楽しむ時間は山ほどある。
「好きにしたら……?今夜は負けないから」
「望むところだよ。でも、まずは皆の所に戻ろうか……。続きは家に帰ってからって事で」
「あ……。そう、だよね……」
だが、そう言って翔はお預けを宣言した。
今頃、自分達を探しているであろう友人達に心配をかけさせないためだ。
自分達が友人達と離れてここに来たのを思い出し、響は渋々と翔から離れる。
「もしかして、お行儀よく食卓で戴かれるより、この場で今すぐ貪られる方が好みだった?」
「バッ……!バカ、そんなわけ……!」
クスクスと、揶揄うように笑って。翔はいつもの表情に戻った。
「帰ったらいくらでも可愛がってあげるから、今は普通にハロウィン楽しもう。ね?」
「……うん。折角、皆で来たんだもんね。勿体ないし……」
シーツの中から出た響の手を、翔はしっかりと握る。
はぐれないように、夜道に迷う事がないように。しっかりと握った手からは、秋の夜の木枯らしに負けない温もりが伝わる。
同じ歩幅で、二人は同じ道を歩いて行く。
向かう先には祭りの喧騒、そして賑やかな友人達。
艱難辛苦を乗り越えて掴んだ幸せを、二人はこれからも大事に生きる。
手を取り合って。同じ未来へと。
「翔、前から気になってたんだけどさ……。“その気”になった時の、やたらアレな語彙力って何処から来てるの……?」
「それは僕にも分からないなぁ……。自然と出てくるんだよ」
「……天然たらしの才能……」
「ん?何か言った?」
「何でもない……」
──同じ空の下、もしくは違う世界の何処かで。唄い奏でる者達は、今日も誰かを想っている。
後書き
ハロウィン回!如何だったでしょうか?
これ、書き終わったのハロウィン前日なんですよ。企画から三日以内でホントに仕上がりました……。自分の筆の速さに驚いてます。
いやー、皆大好きマシュケベ礼装大好きですね!
なので前半はいつもの通り健全に、後半は少しR寄りに書い…つもりです。
この後のお楽しみは、皆さんのご想像にお任せします。
そしてトリック&トリート。グレ響とヘタ翔くんは本文書き終わった後、余った時間で急遽追加しました。言うなればデザート枠です。何処まで進展してるのかはもう会話から察して下さい(ニッコリ)
ちなみにグレ響は攻めに見せかけた誘い受けです。
グレ響の供給が不足している皆さん、そしてヘタ翔くんとのイチャラブがまた見られるのを待ってた読者に届け!
次に読者は、「奏さんが生きてる!?」と言うッ!
ええ、G編本編始動に先駆けて、皆さんには希望を担保にしておきます。
期待でワクワクしつつ、不安でドキドキしながらG編をお待ちください!
没ネタ、他作品コス
純「フゥーッハッハッハッハッハ!我が名は狂気のマッドサイエンティスト……鳳凰院凶真ッ!ブァサッ!そして彼女は助手にしてラボメンNo.004!クリスティーナッ!」
クリス「ティーナ付けんな!……ってか、ジュンくんノリノリだな」
純「何か意外としっくり来るんだよ」
響「沖田さん大勝利~!」
翔「ここがァァァッ!新ッ!撰ッ!組だァァァァァッ!」
翼「二人とも、今度はもっと背中を寄せて……そう、それからその刀を……そうだ!よし!緒川さん、お願いします!」
緒川「撮りますよー」
奏「弟と義妹の和服と刀でここまでテンション上がるのか……w」
今回、尺の都合で出番を切られたメンバー
キョンシー未来、黒猫創世、魔法少女弓美、ピクシー詩織。
デュラハン恭一郎、フランケン大野兄弟、カボチャ紅介。
本日のキャラ紹介
・姫須晶:例のケモナー女性職員さん。取り敢えず動物なら何でも好き。モコモコしてるとなおよし。動物好きがケモナーに発展したタイプであり、犬、猫、兎、狐、狼、竜……獣耳ならそれがどの動物でも構わない守備範囲の広さを誇る。名前の元ネタはメフィラス星人とフジ・アキコ隊員の名前から。メフィラス星人の耳って猫耳っぽいよね。
・尾藤春菊:黒服Bさん。黒服Aのツッコミ担当。普段はクールな女性職員だが、実は男を落とす技を幾つも持ってる。黒服Aに並んで情報部の主力を担う一人であり、戦闘力も高いクールビューティ。名前の元ネタはピット星人(初期案での名前はマーガレット星人)。
職員さんの名前はウルトラ系列の星人で縛ろうと思います。
残るは職員AとB、黒服Aですね。彼らに名前がつくのはいつになるのやら。
今度はネタの浮かばない未来さん誕生日回を諦め、天道コラボの執筆だ!
それでは、次回もお楽しみに!
最後に皆様、HAPPY HALLOWEEN!!
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