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戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

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防人の歌唱(うた)を信じ護る者

 
前書き
サブタイをおがつばらせたかったんです!(唐突)
って事で、シンフォギアも遂に最終回を迎えてしまいましたね……。ちょっと寂しいです。
でもまだXDは終わってないし、ポータルサイトも出来てるので、劇場版とかOVA期待して待ちましょう!

しっかしXV、最後までひびみく大正義でしたなぁ。
双方彼氏持ちの伴装者じゃ、ああはならないでしょう。……って事はこれ、シェム・ハの器が未来さんじゃないって可能性……身内だし爺も手を出しやすいんだよな……。


七つの惑星、七つの音階。そして七つのシンフォギアって所で手を叩きましたよ!締め括りとして上手すぎるわ!
でも鍵盤に直すと、あと五音残ってるよね。つまり伴装者を混ぜても、矛盾はしないですね。これは。

それでは、おがつば推しの皆さーん!お待たせしました、おがつば回ですよー! 

 
 出会ったのは、僕が学生服に身を包んでいた頃。彼女がまだ、6歳の少女だった頃の事だ。
 お互い、将来を決められている身ではあったけれど、この頃の彼女はまだ、その事実を深く気にするような歳でもなかった。
 七並べや将棋で遊んでは、負ける度に「もういっかい!」とむくれながら挑んでくる姿が可愛らしかったのを覚えている。
 そういえば、結局一度も勝てた事はなかったなぁ……。手加減するのも失礼かと思って、僕が一度も手を抜かなかったのが理由なんだけど。
 
 やがて彼女を護る役目を与えられてからは、僕は遊び相手だった彼女との距離に、一線を引く事にした。
 僕の役目は、風鳴の後継者を護る事。そこに私情を挟む事は、忍びの刃を曇らせる。
 だから僕は、彼女を護る刃でいられるように。この感情が、迷いを生むものに変わってしまう前に……。
 
 それからこの仕事を始めて、もう三年になる。
 彼女が歌手となってからずっと、僕はマネージャーとして彼女を支え続けてきた。当然、風鳴の後継者を、そしてこの国を護るという使命の一環として。
 護国とは、なにも人々の生命を護る事だけを示す言葉ではない。
 人々が穏やかに笑い、未来へ希望を抱き続けることが出来る──そんな生活を護る事こそが真の護国だと、僕は信じている。

 だから、彼女がアイドルとして歌うと言うのなら、それを支える事こそが僕の使命だ。……そう、ただの使命だと思って始めた仕事だけど、実の所、僕はこの仕事を心の底から楽しんでいた。
 風鳴翼……彼女の歌を世界に届ける事は、忍びとして闇の中で活動するより、何倍も刺激的で、とてもやりがいのある天職だ。
 あの頃から、翼さんはとても楽しそうに唄う女の子だった。翼さんがアイドルを目指したのも、きっと運命だったのだろう。

 でも、翼さんは歌女である一方で、ノイズから人々を守る防人でもある。
 ステージの上と戦場。相反する二つの場所で唄う翼さん。
 ノイズと戦う事が出来ない僕に出来るのは……せめて、翼さんが歌い続けられるように、護ってあげる事ぐらいだ。
 翼さんがステージの上だけで唄っていられる。そんな明るくて、平和な日が来るまでは……。いや、その日が来て、そして翼さんが普通の女の子としての幸せを掴む日までは。
 
 そして今、翼さんはまた夢に向かいつつある。
 どうかまた、翼さんの歌がこの国の人々を……この国の未来を明るく照らしてくれるように。
 そんな願いを胸に僕は、今日も伊達眼鏡をかけ、彼女の隣に向かうのだ。
 
 ∮
 
「リハーサル、いい感じでしたね」
 翼のリハーサルを終えて、緒川は翼と共に楽屋から出る。すると、そこへ拍手をしながら一人の人物が現れた。

 スキンヘッドに豊かな髭、優しげな顔の外国人。それを見て、緒川は驚く。
「トニー・グレイザー氏!以前、翼さんに海外進出を持ちかけてきた、メトロミュージックのプロデューサーです」
「中々首を縦に振って頂けないので、直接交渉に来ましたよ」
「Mr.グレイザー、その件に関しては先日正式に……」

 緒川の言葉を遮るように、右腕を横に伸ばした。
「翼さん?」
「もう少し、時間を頂けませんか?」
「つまり、考えが変わりつつあると?」
 翼はただ、真っ直ぐにグレイザーを見つめる。

「そうですねぇ。今の君が出す答えであれば、是非聞かせて頂きたい。今夜のライブ、楽しみにしていますよ」
 そう言ってグレイザーは、二人の前から立ち去って行った。
 翼はその背中を見つめながら、自分自身に問いかける。自分の夢は何なのか、と。
 
 ∮
 
「あ、来た来た。おーい、翔!立花さーん!」
「おせーぞ!」
 遅れてやって来た二人に、純とクリスが声をかける。
「ごめん二人とも!」
「部屋を出た時間は完璧だったんだけど、途中で色々あってさ……」
「また、人助け?」
「お前ら二人とも、相変わらずお人好しだなぁ」
「えへへ……」

「やっと揃ったか!」
 既に先に来ていたUFZとリディアン三人娘、そして未来は既にケミカルライトを持って準備を終えていた。
「はい、二人の分ね」
「未来、ありがとう!」
「ありがとう小日向」
「これで会場入りできるね。皆、はぐれないようにするんだよ?」
 純の号令で、集まった面々はそれぞれ固まって会場へと入って行く。
 翔は響と手を繋いで。クリスは純の腕を掴んで。そして、恭一郎は未来の手を取って。
 それ以外の面々は三組を見て顔を見合せると、やれやれ、と言うように肩を竦めて歩き出した。
 
 ∮
 
 ……いよいよ、ライブの本番が迫る。
 今度のライブは、これまで以上にハードなものだった。スケジュールが一週間も遅れた分、その日程調整や関係者の皆さんへの謝罪周りなどが入ってしまったからだ。
 それでも何とか間に合わせることができた。それもスタッフの皆さんの頑張りと……なにより、緒川さんのサポートあっての事だろう。

(──緒川さん……。あんな事があっても、こうして変わらずにあなたは、わたしを支えてくれている。……そんなあなたに、わたしは何を返せているのだろうか?)

 ふと思い出すのは、月の欠片を破壊する為に宇宙へと飛んだあの時の事。
 この戦いで、私は死ぬものと覚悟していた。だから、翔や立花、雪音達を見て、私は後悔した。
 伝えておけばよかった……と。
「死を覚悟して過ぎる後悔がそれとは、我ながら随分と女々しいものだ……」
 ぽつり、と独り言る。
 そこまでしてようやく認めるだなんて、私は何処まで頑固なのだろう。
 
 ……ならば、もはや迷う必要は無い。この胸の内を伝える事こそ、わたしから緒川さんへ返すことが出来る、最大の感謝。
 よし、決めた。このライブが終わったら、わたしは……。
 
「翼さん、本番ですよ」
 楽屋のドアを開き、緒川さんがわたしを呼びに来る。
 わたしは椅子から立ち上がると、ステージへと向かうために歩き出す。
「緒川さん……」
「はい、なんでしょうか?」

 いつも通りの微笑みを見せる緒川さん。本番前に見るその笑顔が、これまで何回わたしを励ましてきたことか……。
「……ありがとうございます。ここまで来られたのも、緒川さんのおかげです」
「いえ。僕は自分の仕事を全うしたまでのこと。ここまで来られたは、翼さんの実力あってこそですよ」
「もう、またそうやって謙遜して……」
 そう言うと、緒川さんは困ったように微笑む。
 いつもは自分の感情を滅多に表に出さない緒川さん。たまには、素直に喜んでもらいたいのだが……。

「……それでは、唄ってきます。私の歌を、皆に届ける為に」
「はい、翼の好きなように、思いっきり唄ってきて下さい」
「……緒川さん。私が歌を聴いてもらいたい『皆』の中には、あなたも入っているんです。だから、最後まで聴いていてください。私の歌を……」
 緒川さんは一瞬、ハッとしたような表情をして……やがて、静かに答えた。
「……ええ、勿論ですよ。一番近くで聴かせていただきます」
 緒川さんの言葉に、わたしは頷いて。それから楽屋を後にした。

 これからわたしは、夢へと羽ばたくために歌を唄う。
 自分が本当に好きなものは何なのか、やっと分かったんだ。
 今となっては片翼だけど……今夜はきっと、飛べる気がする。
『さあ、続きましては、本日のメインイベント!』
 司会の声が、会場内に響き渡る。わたしの名前が呼ばれ、いよいよその時がやって来た。
 剣の代わりにマイクを手に、戦装束の代わりに衣装を纏って……わたしはスポットライトに照らされ、そして大好きな『歌』を唄い始めた。
 
 ∮
 
 巻き起こる歓声の嵐。青のケミカルライトが、観客席で揺れる。
 喝采の中で、翼は胸の決意を語り始めた。
「ありがとうみんなッ!今日は思いっきり歌を唄って、気持ちよかったッ!」
 歓声は更に大きくなる。会場内は、興奮の渦の中にあった。
 客席に座るグレイザーもまた、満足気な微笑みを浮かべている。

「……こんな思いは久しぶり。忘れていた。でも思い出した。わたしは、こんなにも歌が好きだったんだッ!聞いてくれるみんなの前で唄うのが、大好きなんだッ!……もう知ってるかもしれないけど、海の向こうで唄ってみないかって、オファーが来ている。自分が何のために唄うのかずっと迷ってたんだけど、今の私は、もっと沢山の人に歌を聴いてもらいたいと思っている。言葉は通じなくても、歌で伝えられる事があるならば、世界中の人達に、私の歌を聴いてもらいたいッ!」

 暫くの間、口を閉じて翼の言葉を聞いていた観客達が、再び歓声を上げる。
 弟である翔や将来の義妹である響。純、クリス、恭一郎、未来、創世、弓美、詩織に、紅介、飛鳥、流星も拍手で応えた。特に紅介は感極まって泣いていたのだが、本人曰く「奏さんの代わりに泣いてやってんだよ!」とのことである。

「私の歌も、誰かの助けになると信じて。皆に向けて唄い続けてきた。だけどこれからは、皆の中に、自分も加えて唄っていきたいッ!だって私は、こんなにも歌が好きなのだからッ!……たった一つのワガママだから、聞いて欲しい。許して欲しい……」
 
『許すさ。当たり前だろ?』
 
(え──)
 何処からか、もうここにはいない彼女の声が、聞こえた気がした。
 三度、会場内の全ての観客から歓声が飛んだ。
 祝福の声が飛び交う中で、翼は静かに頬を濡らしながらその目元を拭って、少し涙声になりながら、会場の天井を見上げた。
「……ありがとうッ!」
 その声は、その歌は……彼女に届いたのだろうか?
 届いているのなら、彼女はきっと笑っているのだろう。
 そう願いながら翼は、泣きながら微笑むのだった。
 
「Mr.グレイザー」
 そして、その頃の会場ロビー。一足先に観客席を立ち、ライブ会場を立ち去ろうとしていたグレイザーを、緒川が呼び止める。
「ん?君か。少し早いが、今夜は引き上げさせてもらうよ。これから忙しくなりそうだからね」
「……風鳴翼の夢を、よろしくお願いします!」
「ハハハハハハハ……」
 丁寧に頭を下げた緒川に手を振りながら、グレイザーは会場を後にする。
 緒川は、翼がようやく自分の夢を見つけ、羽ばたくことが出来るようになったことを、心の底から喜んでいた。
 
 ∮
 
(……頑張れわたしっ!告白するって決めたじゃないか!)
 ライブが終わり、スタッフ達との打ち上げの為にやって来たホテルのワンホールにて、翼は自分の両頬を叩いて自らを奮い立たせる。
 緒川はすぐ目の前で、シャンパン入りのグラスを片手に、他のスタッフを労っている。
 チャンスは今しかない……しかし、いざとなるとどうしても、緊張で肩が震えてしまう。

(こんな緊張……ライブ本番でも感じた事ないのに……ッ!伝えなきゃ……でも……うううう……)

 緊張のあまり、一人悶々とする翼。すると、そこへ一人の男性スタッフが、二人分のグラスを手に、翼の方へと近づく。
「翼さん、お疲れ様です」
「えっ?あ、どうも……」
 男性スタッフは会釈すると、翼の視線の先を見る。
「何かお悩みのようだけど、よければ手を貸してあげようかい?」
「へっ!?いや、そ、その……」
「緒川さんに何か、言いたいことがある……でも、中々言い出しにくくて動けない。そんな所だろう?分かるとも」
「ッ!?なっ、何でそれを!?……って、あなたは!」
 驚く翼だが、スタッフの顔を見ているうちに、やがて納得した。
 何を隠そうこのスタッフ、正規のスタッフではないのだ。
 彼は二課の黒服職員の一人であり、『見守り隊』の一員……翼も何度か顔を合わせた事がある相手だったのだ。
「そういう事。俺がここに紛れてる事の意味を察したって事は……さては翼さん、()()したって事かな?」
「そ、それは……その……」

「……図星か。よろしい、そんな翼さんには、このグラスを差し上げよう」
 そう言って男性スタッフは、翼にグラスを手渡した。
 中に入っているのは葡萄色の液体……もはや説明は不要だった。
「こっ、これは……まさか、酒の力に頼れと言うのですか!?」
「これくらいしないと翼さん、あと一歩のところでヘタレちゃうでしょ?」
「うぐっ……それは……し、しかし私はまだ未成年で……」
「大丈夫大丈夫、間違えて呑んだように細工はするから。安心してそれ飲んで、緒川さんの所に向かうといい」
 翼は悩んだ。これはある意味、悪魔の誘惑にも等しい。未成年でありながら、それもこんな事のために飲酒するなど、真面目な翼には到底受け入れがたかった。
 
 ……しかし、緒川に想いを伝えるには、ヘタレな自分に打ち克つしかない。
 迷った末に翼は、グラスに口を付けると、ゆっくりと傾けた。
 翼がグラスの中身を飲み始めた瞬間、男性スタッフはパチンと指を鳴らした。
 中身を飲み干し、空になったグラスをスタッフに渡すと、翼は緒川の方へフラフラと向かって行く。
 その様子を見て、男性スタッフは小声で呟いた。
「……それ、実はワインじゃなくて葡萄ジュースなんだけどね。まあ、頑張れ~」
 男性スタッフはもう片方の手に持っていた、本物のワインに口を付けると、それを味わいながらグラスをくゆらせた。
 
「おや、翼さん。どうかしまし──」
 振り向く緒川。その瞬間、翼は緒川の方へと倒れ込む。
 瞬間、緒川は一瞬でテーブルにグラスを置くと、翼を受け止めた。
「翼さん?」
「……緒川さん……」
「……翼さん?」

 とろん、とした表情で体重を預けてくる翼に、緒川は困惑する。
「もしかして、翼ちゃん……酔ってる?」
 スタッフの一人がそう呟き、緒川は周囲を見回す。
「緒川さん……翼は……翼は疲れましたぁ……」
「翼ちゃん!緒川さん困ってるから……って、硬ッ!?えっ、離れないんだけど!?」
 スタッフの一人が、緒川の背中に手を回した翼を引き剥がそうと引っ張ってみるも、まるでコアラのように強くしがみついた翼は、微動だにしなかった。
「うわっ!本当だ!緒川さん、どうしますか……?」
「緒川さん……夜風にでも当たりに行きましょうよぉ~……」
「すみません、一旦連れ出してみます」
 そう言って緒川は、翼にしがみつかれたまま歩き出す。
「緒川さん!?大丈夫なんですか!?」
「大丈夫ですよ、何とかしますから」
 緒川は翼を連れて、打ち上げ会場を出て行く。
 二人が部屋を出た直後、スタッフの何人かはこっそりと、ガッツポーズをしていた。
 
 ∮
 
「緒川さん……」
 腕を絡めてくる翼を連れて、緒川はホテルの庭園にある噴水まで辿り着く。
「どうしました、翼さん?」
「……翼は……緒川さん、言わなくてならにゃい事がありましゅ……」
 呂律の回っていない声で、とろんとした目で緒川をじっと見つめて、翼はしがみついたままそう言った。

「……翼は……翼は、緒川さんの事が…………好き、です……」
「僕の事が、ですか?……それは──」
「大好きです……。小さい頃からずっと……あなたの事が」
 緒川の脳裏に、幼い頃の翼が言っていた一言が過ぎる。
『大きくなったら慎次くんのお嫁さんになる』……その言葉が本気だった事を、緒川は今になって気がついた。
「……そうですね。勿論、翼さんの事は好きですよ」
「……本当、ですか?」
「ええ、本当です」
 緒川はいつもと変わらない微笑みを翼に向ける。

 しかし翼は、何処か不満げだ。
「……緒川さん……たまには、本当の事……言ってくださいよ……ぐすっ……」
「翼さん……?あの……」
 翼が突然、すすり泣き始める。
 困惑する緒川に、翼は涙目で言った。
「だって……緒川さん、いっつも自分の本音は言わないじゃないですか……」
「ッ……それは……」
 否定出来なかった。緒川はこれまで翼の言う通り、自分の内心を他人に打ち明けた事が無いからだ。
 それは、自分の心を他人に悟られる事で、隙を突かれないようにする為……。忍びとして強くある為に必要な事だったからだ。
「いつもいつも、自分の本音は隠して……たまにはわたしに、本音を聞かせてくれたって……ひぐっ……いいじゃないですか……っ!」
「翼さん……」
 
 緒川は訝しむような顔で、自分たちから最も近い物陰に向かって声をかける。
「どうしてくれるんです?」
「あ、バレてました?」
 物陰から現れたのは、先程翼にグラスを渡した男性スタッフだった。
 緒川は呆れ気味に問い質す。
「翼さん、酔ってませんよね?アルコールの臭いがしませんよ」
「ご明察。そう、翼さんは酔っていない。ただ、酔っているという暗示にかかっているだけですよ」
「やっぱりそうでしたか……。その技能、任務以外では使わないのが、あなたの信条だったのでは?」
 緒川の言葉に、男性スタッフは苦笑いする。

「あなたが翼さんとの関係に一線引いてるから、こうして一時だけ心情を曲げて、手伝ってあげただけですよ。……ですが、そろそろいいでしょう」
 男性スタッフは再び指を鳴らす。
「緒川さん……彼女の願いを叶えてやってください。あなたが本当に、彼女を大事に思うのなら……」
 そう言って男性スタッフは、その場を去って行った。
「翼さんの願い、ですか……」
 緒川はぽつり、と男性スタッフの言葉を反復した。
 
「……あれ……わたし、どうして……?」
「翼さん、気が付きましたか?」
「緒川さ……ッ~~~!?」
 暗示が解け、翼は自分が緒川の腕にしがみついていた事に気が付く。
 更に、暗示にかけられていた間の記憶はバッチリ残っているため、さっきまでの自分を思い出し、翼は悶絶した。

「翼さん、大丈夫……ですか?」
「忘れてください緒川さん!いえ、むしろ忘れて!あんな私は居なかった!いいですね!?」
 耳まで真っ赤になった翼は立ち上がり、慌てて緒川に背を向けると、両手で顔を覆う。
 翼の羞恥心は既に限界を突破していた。穴があったら入りたい、とはまさにこの事だろう。
 そんな翼の様子を見て、緒川は……やがて、何かを決意したように息を吸い込み、噴水の縁から腰を上げる。
「翼さん……」
 翼の方へと手を伸ばし、一瞬だけ迷う。

(……いいのだろうか?僕は緒川の忍であり、彼女は風鳴の後継者。触れる事が、果たして許されるのだろうか……?)

 しかし、先程の翼の言葉を思い出す。
 暗示にかけられていたとはいえ、それは翼の本心を素直に打ち明けさせるためのものであり、決して嘘は無いはずだ。

(僕の使命は、翼さんを護る事。それはこの国を護る事と同じで、翼さんの生命を護る……というだけの意味ではない筈だ。……もし、翼さんの気持ちに応えることが、翼さんの心を護る事に繋がるというのなら…………いや、違う!これは家の使命だとか、国を護る為だとか、そういうものじゃない!もっと個人的な……僕自身がそうしたいんだ!)
 
 脳裏に浮かぶのは、幼い頃からずっと見守り続けてきた彼女の姿。
 泣いて、怒って、喜んで。そして、笑っている時の彼女は、とても愛らしい。
 
 自分が距離を置くようになってから……彼女が中学に通い始める頃だっただろうか。呼び方が『慎次くん』から『緒川さん』に変わった時、少しだけ寂しさを感じた事を思い出す。
 
 今は亡き、翼の無二の親友である天羽奏から、関係を勘繰られて狼狽える翼を見ているのは楽しかったし、奏から翼との距離をつっつかれる日々も、悪い気はしなかった。
 
 そして何より、翼の弟である翔が、自分を兄のように親しく思ってくれているのは、こそばゆいものの、少し嬉しかった。
『姉さんの事を任せられるのは、緒川さんだけなんですからね?』
 口癖のようにそう言っていたのは、姉の将来を含めての事だった事を、緒川はようやく認める。
 
(……翔くんも、響さんも、自分の愛に正直だった。だからこそ、それを強さに変えて、この世界を守り抜く事が出来た。純くんやクリスさんも同じ。……僕は……ただ、臆病なだけだ。自分が翼さんを護れなかったら……それを恐れて、遠ざけていただけだ。……でも、それで彼女を泣かせてしまったら、意味が無い!)
 
 緒川は伸ばしたその手を……翼の腰に回した。
「ッ!?おっ、緒川さん……!?」
「……僕が翼さんのことをどう思っているのか、でしたよね?」
「そっ、それは、その……」
 恥ずかしいから、緒川に顔を見せたくない。
 でも、この瞬間の緒川の表情が見たくて、翼は振り返ろうとする。
「……何に替えても護るべき、大切な人。この国の未来を照らす人。そして……闇に忍ぶ僕にとって、何よりも眩しい光……でしょうか?」

 その答えに翼は喜ぼうとして……しかし、舞い上がりそうな気持ちを抑えて問いかける。
「……緒川さん……それは、”緒川の忍”としての言葉ですか?」
「まさか。これは僕の本心です。……12年間、ずっと蓋をしていた、僕自身の言葉ですよ」
 翼は目を見開いて……そして、再びその両目から涙を落とした。
「……ご迷惑でしたか?」

「いえ……そんな事は……。むしろ……遅過ぎます……ッ!」
 緒川は腰に回した両腕を離す。次の瞬間、翼はくるりと振り返り、緒川の顔を見た。
 いつも通りの微笑みで、しかし少し照れ臭そうに、目線を逸らしながら頬を搔く。

 きっとこの瞬間だけしか見られない、緒川の貴重な表情。翼はそれをその目に焼き付け、やがて数歩早足で勢いをつけて緒川に抱き着いた。
「緒川さん……。これから、わたしの前でだけは……もう少し、自分を隠さずにいてください……」
「……善処しますよ。それで翼さんが、泣かずに済むというのなら」
 
 だって、あなたに似合っているのは──
 
 砕けた月が照らす中、護国の忍びは刃であると同時に、防人の剣を()()為の鞘であろうと誓う。
 
 自分にとっての光は、自分の手で守り抜け。
 きっとここに、彼女の弟がいたらそんな事を言うのだろう……と、確信しながら。
 
 
 
 
「でも、酔ってる翼さんも、中々可愛らしかったですよ」
「だからそれは忘れてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」 
 

 
後書き
全然短編になってねぇ……だとぉ!?
おがつば意外に長引いたなぁ……。でもこれまでを顧みれば、これくらいでも問題ないでしょうw
剣と鞘。この関係、staynightは士剣推しな自分の好みが出てますねw

え?スキャンダル?そんなの無いよ。だってスタッフも見守り隊職員だもの。黒服の皆さんが許しませんとも。

黒服A「これにて一件落ちゃ……」
黒服B「グッジョブ&なーに本編に顔出してるの!」
黒服A「いったぁ!?い、いいだろ別に!まだ名前は貰ってない!」
黒服B「でも『暗示かけるのが得意な見守り隊職員の黒服』ってキャラ立ってるじゃないの!」
黒服A「作者が『いかがわしいやつ書く時に便利なキャラ欲しい』って言うから……」
黒服B「つまり、あの子らがあの歳で行為に及んだら、それはアンタが原因って事かッ!」
黒服A「いだだだだだッ!ギブギブギブ!悪用なんてしないし、むしろあの子らへの善意しかないってのにぃぃぃ!」

名無し黒服職員さんに、また何処かで出番がありそうな人が一人……。

さて、次回は……セレナの誕生日も近いですし、G編に登場する新キャラ『ジョセフ・ツェルトコーン・ルクス』の紹介も兼ねて、マリアさんのアイドル活動を書きますかねぇ。
あと夏休み、翔ひびと純クリの水着デートが見たいって声にも応えたいです。

そしてもう一つの企画は……。

デッデデデッ

──奇妙な縁で重なる、二つの世界。

響「翔くん、この緑色の虫っぽいのって!?」
翔「こいつら、ワーム!?いや、ネイティブか!?」

──地球征服を企むネイティブの一派が、翔と響に襲いかかる。

擬態翔「さあ、とっとと楽になれ……」
翔「ぐッ……」
響「翔くんッ!!」

──二人の危機に駆け付けたのは……。

天道響「キャストオフ」
『CAST OFF』
翔「()()()()()()()()()!?でも、その色は……」
響「それに、その声って……わたし!?」

──二人の響が出会う時、翔と響の愛が試される!

天道響「あの人が言っていた……”本物を知る者は偽者には騙されない”。彼女はきっと、大切な人を言い当てる」
響「わたしの翔くんは……ッ!」

天の道を往き、総てを司る!
『特別編 響き翔く天の道』

そう、通りすがりの錬金術師さん作「天の道を往き、総てを司る撃槍」とのクロスオーバー企画!なおかつセレナ誕生日記念やらハロウィン回やら上げてからの執筆になりますが、気長にお待ちください!
あと、G編は月内には始められるように頑張ります!

それでは次回も、お楽しみに! 
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