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戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

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戦姫絶唱してないシンフォギア~装者達のサマーバケーション~
  それぞれの同棲生活~純クリの場合~

 
前書き
短編その1。「クリスちゃん原作だと一人暮らしだけど、いっそ純くんと同棲するべきなんじゃない?」、「グレ響ルートみたいに同棲する2人が見たい」といったリクエストから、同棲する翔ひびと純クリをお届けします。 

 
 時刻は日が暮れてそこまで経ってない時間帯。
 とあるマンションの一室には、濃厚なソースの香りが漂っていた。
 食卓には、茶碗に盛られ湯気を立てている白いご飯と、アルミホイルから覗く包み焼きハンバーグ、そして付け合せの蒸し野菜とコンソメスープが並んでいた。
「こ、これ……全部ジュンくんが作ったのか……!?」
 クリスは目を輝かせながら、純の作った夕食を見る。
「王子たるもの、最高のもてなしが出来ないとね。クリスちゃんに食べてもらいたくて、何年もかけて研鑽して来たんだ」
「あたしの……ために……そっか、ジュンくんずっと待っててくれたんだもんな……」
 微笑む純からの言葉に、クリスは目元を拭った。

 紛争地域で両親に先立たれ、身勝手な大人に振り回され、ようやく日本に戻れたと思ったらフィーネに攫われ……。8年経ってようやく平穏を取り戻したクリスを、ずっと待ち続けていた純。身寄りもないクリスの帰る場所は、彼の傍に残されていた。
 今、クリスはずっと待ち望んでいた瞬間に居るのだ。

「それじゃあ、冷める前に召し上がれ」
「うん……っ!いただきます……!」
 クリスは夕食を前に手を合わせると……手元に用意されたナイフとフォークを握って、純に一言聞いた。
「右手がナイフで、左手がフォークだったよな?」
「そうそう。ちゃんと覚えてるね」
 クリスはナイフとフォークの握り方を始めとして、純に教わったテーブルマナーを確認しながら包み焼きハンバーグを一欠片、咀嚼する。

「ん~ッ!美味ぇッ!なんだこれ、フィーネにも食わせてもらった事ないぞ!?」
「僕の得意料理、特性包み焼きハンバーグさ。お米と合うように、ソースは研究を重ねてるんだ」
「あむっ……はむっ……うめぇ!」
 一口ごとに、クリスの顔に笑みが広がっていく。
 その様子を純は、とても温かな目で見守っていた。

「クリスちゃんのテーブルマナー、随分良くなったね。僕も教えた甲斐があったよ」
「そっ、そりゃあ……あんな行儀の悪い食い方、ジュンくんの……その……こっ、恋人として恥ずかしい……っていうか……」
 恋人。頬を赤く染めながらそう言ったクリスは、誤魔化すようにコンソメスープを啜る。

 そう、この暮らしが始まるちょっと前まで、クリスのテーブルマナーは壊滅的だったのだ。
 何を食べさせても食器から零れたり、飛び散ったりしたソースや細かい具がテーブルを汚す有様。それを見兼ねた純は、クリスとの食事の度にテーブルマナー講座を開き、その汚食事っぷりをどんどん矯正していったのだ。
 ぶっきらぼうな口調とは裏腹に、とても真面目なクリスはあっという間にそれらを覚え、今ではちゃんとテーブルを汚さず、上品に食事できる所までになっていた。
 
「……ジュンくんの教え方が上手だから……あたしも、ここまで来れたんだと思う。……ありがと」
「どういたしまして。じゃあ、次は言葉遣いをもう少しだけ、丁寧にしないとね」
「こっ、こいつばっかりはそう簡単には……」
「分かってる。最近、ぶっきらぼうなクリスちゃんも悪くないなって思ってるから、そこは別にいいんだ。……でも、せめて友達を名前呼びしないで、『バカ』って呼び続けてるところはちゃ~んと直してもらいたいな」
「うっ……ど、努力するよ……」
 そんなたわいもない会話をしながら、二人は同じ時間を過ごす。
 
 爽々波純。現在、雪音クリスのマンションに同棲中。
 
 ∮
 
 遡ること1週間と何日か前。
 フィーネによって引き起こされた一連の騒動は、『ルナアタック事変』と名付けられ、装者五人による月の欠片の破壊は、各国政府の目に触れてしまったことで波紋を呼んだ。

 機密を守らなくてはならないため、装者五人はしばらくの間、政府の監視の元で監禁生活を送る羽目になってしまった。
 もっとも、本来ならば3ヶ月間のところを司令である弦十郎、そして翔と翼の父親である外交官、風鳴八紘(かざなりやつひろ)氏の働きかけにより短縮されての1週間だ。

 その間に弦十郎は、クリスがちゃんと生活して行けるように手配していたらしく、監視が終わる日に、マンションの鍵を渡してくれた。
「純くん、君には合鍵を渡しておこう」
「いいんですか?」
「ああ。クリス君一人では、彼女が寂しがるからな。君が支えてやるといい」
 そう言って弦十郎は、純の肩を軽く叩いた。
 
 それから、純はアイオニアンの学生寮を引き払い、荷物をまとめてクリスの部屋へと移り住んだのだ。
 一人暮らし用にしては少し広い間取りは、弦十郎からの気遣いだと気がついた時、純は舌を巻いたらしい。
 
 ∮
 
「ごちそうさま!」
「お粗末さまでした」
 二人で手を合わせて食事を終える。
 席を立ったクリスは、食器を片付けながら言った。
「食器はあたしが洗っとくから、ジュンくんは休んでなよ」
「いいのかい?」
「ああ。これくらいのお礼はさせろよな。……あたし、ジュンくんからは色々と貰いっぱなしだし……」
 帰る場所、美味しいご飯、優しい言葉と、そして温もり。
 クリスは純から多くを貰った。それこそ、何度感謝してもしきれないくらいだ。
 純はクリスが幸せならそれで充分だと言うが、それで物足りるクリスではない。同じだけのものを返したい。そうして初めて、自分は心の底から満ち足りる。クリスはそう思っていた。
 
 食器を洗い終わり、クリスは純の方へと向かう。
 リビングを見ると純は、ソファーに座って寛ぎながらテレビを見ていた。
「ジュンくん、食器片付いたぞ」
「ありがとう。お風呂沸かしておいたから、お先にどうぞ」
「マジかよ手際良すぎんぞ!?」
 驚くクリスに、純は一番風呂を促す。

(ようやく少しは返せたかなと思ったのに……。ダメだ、あたしが全然追い付けてねぇ!どうすりゃいいんだ……。どうすりゃあたしはジュンくんに、貰った分だけ返してやれるんだ……)

 純へのお返し。自分に何が出来るのかを、クリスは必死で考える。
 自分の為に、純は自分の人生を8年も費やして待ってくれた。だったら、待たせた8年分の何かを、自分は純に与えたい。
 何を返すのか。どう返すのか。
 散々悩み抜いた末にクリスは、自分が最も貰えて嬉しかったものを思い浮かべる。
 少し恥ずかしさはあったが、今のクリスが思い付く精一杯がそれであった。

「な、なあ……ジュンくん……」
「ん?どうしたの?」
 クリスは深く息を吸い込むと、少々遠慮がちに、頬を赤らめながら提案した。
「その……折角だし、さ……一緒に…………入らない、か……?……お風呂……」
 
「……………………ッ!!??」
 純が慌てて立ち上がった。その顔は、珍しく真っ赤になっていた。
「ちょっ!ちょ、くっ、クリスちゃんッ!?」
 普段は余裕のある態度を崩さない純が、真っ赤になって慌てる姿に珍しさを感じながらも、クリスは続ける。
「なっ、なんだよッ!あああ、あたしだってめちゃんこ恥ずかしいんだよッ!……でも、それぐらいしか浮かばねぇんだよ……あたしが……ジュンくんに返せるようなものなんて……」
「いや、流石にそれは……ッ!僕だって男なんだよ!?そんな、何かあったらどうするつもりなんだッ!?」
「構わないって言ってんだよッ!……あたしは、ジュンくんになら何されたって……」
 クリスは勇気を振り絞り、前へ出る。純の目の前まで近付くと、クリスは純の顔を見上げながら言った。

「……欲張りなのは分かってる……。でもあたしは、ジュンくんに貰った温もりを同じだけ返して、それでようやくあたしは満足出来るんだよ……」
 純の背中に手を回し、クリスは頭一つ分の差がある純の胸に顔をうずめる。
 弦十郎ほどではないが、しっかりと鍛えられた身体は硬過ぎず、フィーネとの決戦にて彼女に届いた声量の出処を証明していた。
 
「……クリスちゃん……」
「……ジュンくんなら、ヤバくなる前に踏みとどまってくれる……。そうだろ?……あたしの王子様……」
 信頼を込めて、クリスはそのワガママを口にする。
 純は困ったような顔をしてしばらく黙り込み、やがてクリスの背中に手を回すと、いつもより低めの声で囁いた。

「そこまで言うなら……何かあっても知らないよ?」
「ッ……!……ジュンくんなら大丈夫だって、信じてる……。それに、何か間違いがあっても……ジュンくんになら……いいよ……」
 クリスは純の顔を見上げてそう言うと、ゆっくりと首元に腕を回した。
 スカイタワーの下での事を思い出す。
 何度も阻まれ続け、ようやく再会を果たした瞬間。8年越しに想いを伝え合い、互いに唇を捧げ合った日の事を。
 直後にカ・ディンギルが発動してしまい、雰囲気はぶち壊されてしまったが……今なら、互いの8年間を埋め合わせ(イチャイチャす)るのに邪魔が入ることはない。
「クリスちゃん……」
「ジュンくん……」
 
 やがて、二人は唇を重ねる。
 この後の二人は、きっと互いの背中を流している事だろう。
 純がクリスの髪を手入れして、二人でテレビでも見て笑い合い、そして今夜は初めて同じベッドに転がる。そうやって二人っきりの夜を満喫して、互いに抱き合いながら眠りにつくのかもしれない。

 一線を超えるのはまだ先だ。しかし、その未来もそう遠くはないかもしれない。
 時が経つのはあっという間だ。少年少女はいつの間にか、大人になるのだから。
 その時まで。もしかしたら、それよりちょっと先に。
 王子と姫は慎ましやかに、階段を登っていくのだった。 
 

 
後書き
歌う職業の皆さんも筋トレって必須なんですけど、鍛え過ぎて硬くなると逆に声が響きにくくなるので、適度な筋肉量が大事らしいです。

それはさておき、短編第一回は純クリ回!
ちょ~っとだけ、R指定されそうな気がしなくもないですが、これまでの二人を振り返れば順当だと作者は思います!うっかり砂糖の分量ミスったとかじゃないんだからね!?

次回は本編翔ひびの同棲ですね。
こっちはビッキーのおかげでただ純粋に甘えてる感じになりそう。
それではまた次の回にて。 
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