戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~
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第6楽章~魔塔カ・ディンギル~
第56節「守るべきものがある、それが真実」
前書き
遂に唄うよクリスちゃん。走れOUJI!彼女を救えるのはキミだけだ!
今回はサブタイに注目!もうお察しの方は何人かいるかと思いますが……別タブでBGMに、あの曲を検索しておく事を推奨します。
「うおおおおおおおおーッ!」
〈MEGA DETH PARTY〉
クリスの腰から展開されたポッドから放たれるミサイルの雨。
「はッ!」
しかし、フィーネは鞭の一振りでそれを全て撃ち落としてしまう。
その爆煙を突き抜けて、響と翼が飛び出した。
「「はあああああああっ!」」
響の連続蹴りをいなし、躱すフィーネ。
後退した響と入れ替わりで前に出た翼が、刀を振り下ろすも、フィーネは硬質化させた鞭でそれを受け止める。
鍔迫り合いが続き、火花を散らす両者の武器。次の瞬間、フィーネの鞭が硬質化を解かれ、翼の刀に巻きついた。
絡め取られ、空へと放られる刀。振るわれる鞭をバックステップで回避すると、翼は両腕でバランスを取り、両脚の刃を展開させながらブレイクダンスのように回転する。
〈逆羅刹〉
扇風機の如く回転して迫る刃を、フィーネは同じく鞭を回して防ぐ。
「はあああああッ!」
翼に気を取られている隙を突き、響の拳が繰り出される。
「そのような玩具が私に届くものかッ!」
だがその拳も、フィーネの左腕に防がれてしまい、2人は後退する。
「シュートッ!」
その直後、矢の雨がフィーネの頭上から降り注いだ。
〈流星射・五月雨の型〉
「チッ!小癪なッ!」
2本の鞭を交互に振るって全ての矢を防ぎ、バックステップで後退するフィーネ。
着地と同時に装者達との間合いを確認する。
最前線で接近戦を仕掛けてくる響と翼。後方から2人の動きに合わせ、的確な援護射撃で隙を埋める翔。
……ここで、先程まで弾幕を張っていたクリスが視界にいない事に気がついたフィーネは、慌てて周囲を見回す。
「本命は……こっちだッ!」
その目に飛び込んできたのは、背部から展開された巨大ミサイルを発射するクリスの姿であった。
跳躍し、空中で華麗に舞いながらミサイルを避けるフィーネだが、ミサイルはフィーネの背後をピッタリと追尾して逃がさない。
「ロックオンッ!アクティブッ!スナイプッ!──デストロイィィィッ!」
その隙に、クリスはもう1発のミサイルを、カ・ディンギルへと向けて発射した。
「ちいッ!させるかぁーーーッ!」
振り下ろした鞭で、カ・ディンギルへと向けて放たれたミサイルを真っ二つに両断し、破壊する。
カ・ディンギルの破壊を阻止し、次に自分を狙っていたミサイルを破壊しようとして、フィーネは周囲を見回した。
「もう一発は──はッ!?」
空を見上げると、そこには……先程までフィーネを追尾していたミサイルに乗り、まるでロケットのように月の方角へと向けて飛ぶクリスの姿があった。
「クリスちゃんッ!?」
「おい雪音!?」
「何のつもりだッ!?」
響、翔、翼も驚きの声と共に空を見上げる。
「ぐッ──だが、足掻いたところで所詮は玩具ッ!カ・ディンギルの砲撃を止める事など──」
デュランダルからのエネルギーチャージはほぼ完了。月のど真ん中へと標準を合わせ、それを穿つ一撃が今まさに放たれようとしていた。
フィーネがほぼ勝利を確信する、まさにその瞬間だった。……その唄が聴こえてきたのは。
「Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl──」
「あ──」
辺り一帯の空間がピンクに染まる。クリスが何をしようとしているのかを察し、フィーネの表情に焦りが浮かんだ。
「この歌……まさかッ!?」
「絶唱──」
「あいつ……ッ!」
ミサイルが到達する限界高度まで上昇し、それを飛び降りたクリスは、スカート部分からエネルギーリフレクターを展開する。
「Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el zizzl──」
アームドギアを二丁拳銃へと変形させ、リフレクターへと撃つと、本来は広域拡散されるはずのエネルギーベクトルは、リフレクター同士の間を反射して収束されていく。
それはまるで、彼女の背後に巨大な蝶の羽を形成するかのように広がった。
絶唱を唱え終わると同時に、クリスの持つ二丁拳銃は超ロングバレルのキャノン砲へと変わる。
それを連結すると、クリスは自身のギアに残るありったけのエネルギーを銃口へとチャージした。
やがて、地上から緑色の強烈な光が月へと目掛けて発射された。
それと同時にクリスも引き金を引く。背後に広がっている、月明かりに照らされた蝶の羽からの光線も、キャノン砲から放たれたビームへと一点へと集中され、ピンク色の眩い閃光を放つ。
月と地球の間でぶつかり合う、2色の光。
「なっ……」
その光景に翔も、響も、翼も……そして、地下で見守る二課の面々も目を奪われた。フィーネでさえもが、驚愕の声を上げる。
「一点収束ッ!?押し止めているだとぉッ!?」
バレルが徐々にひび割れていく。
纏うギアに亀裂が走る中で、クリスは口角から血を垂らしながら独白した。
(ずっとあたしは……パパとママの事が、大好きだった……ッ!だから、2人の夢を引き継ぐんだッ!パパとママの代わりに、歌で平和を掴んでみせるッ!あたしの歌は……──その為にッ!)
徐々に押し返され始める、イチイバルの一点収束砲撃。
このままカ・ディンギルの砲撃を受け止め切れなくても、展開させたエネルギーリフレクターの機能を応用させれば、威力を拡散・減衰させる事はできる。そうすれば、月の破壊は防ぐ事ができるのだ。
目に浮かぶのは父と、母と、そして二人に手を繋がれて歩いて行く幼き自分の後ろ姿。
もう、彼女に後悔はない。だって自分は今、両親から確かに受け継いだ夢を叶えようとしているのだから。
(ごめん、ジュンくん……。これは、これだけはあたしにしか出来ない事なんだ……。ここであたしがやらなきゃ、フィーネの思うツボだからな……。だから、ごめん……あたし、『ただいま』は言えないかも──)
「Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl──」
「……え?」
大地を駆け抜ける力強い足音と共に聴こえたその唄に、翔が驚いて振り向くと、そこには……RN式アキレウスを起動し、カ・ディンギルの壁面を全力疾走で登って行く親友、純の姿があった。
「純ッ!?」
「爽々波のやつ、何を……ッ!?」
「あれって、絶唱……!?」
「馬鹿なッ!RN式に絶唱は使えないはず……」
そう。プロトタイプとはいえ、RN式は響や翼のシンフォギアとは違い、フォニックゲインを用いない設計だ。大元が同じとはいえ、そのコンセプトが異なっている以上、その歌に意味は無い。
だが、それでも純はそれを歌い続け、人類最速の名を持つその脚で、カ・ディンギルの途中まで駆け上がると、その壁面を足場に跳躍し、空中で宙返りしながら、踵部のブーストジャッキを最大伸縮させる。
「Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el zizzl──」
唄いきると共に、先程までフィーネが立っていた、崩れ残っている校舎の屋上を足場にすると……残っていた校舎が完全に崩れ落ちる程のブーストをかけて、天高く跳躍した。
「「跳んだッ!?」」
「いや、あれは……ッ!」
跳躍した純は左手を天へと掲げる。その左腕に装備された盾は次の瞬間、その形をブースターへと変えた。
聖遺物『アキレウスの鎧』は、鎧だけでなくその盾も含めてワンセットの防具型聖遺物である。世界そのもの、そして万物の対極を表す『アキレウスの盾』は使用者の意思を反映し、その形を変える装備だ。
本来ならばこのブースターは、その推力でパンチの威力を引き上げるためのもの。しかし、純はそれを最大限まで引き上げたジャンプ力と併用する事で、クリスの元へと届かせようとしていた。
「跳んだんじゃない、飛ぼうとしてるんだ!」
「馬鹿め!改良されたとはいえ、RN式は所詮、玩具以下のガラクタ!届くはずが──」
「届かせる……!届けてみせるッ!この鎧が、僕の思いを力に変えるものならば……僕は絶対にッ!クリスちゃんの元へと辿り着くッ!」
純がそう叫んだ時、その場にいる全員の耳に歌が聞こえ始めた。
声なき歌。前奏のように響くそれは……爽々波純の胸の内から溢れていた。
「fly high──ッ!」
瞬間、ブースターの推力が上がり、純の身体はどんどん空へと登って行く。
「なッ!?馬鹿な、届くというのかッ!?」
「まさか……純の歌が、RN式の性能を引き上げている……!?」
精神力で稼動するRN式は、装者の歌で力を発揮するFG式と違い、機能的に見れば歌う必要性は皆無とも言える。
しかし、それでもやはり歌には力がある。純は、クリスの絶唱を真似して唱えたその唄で、自らの精神を強く持つことで、自らが纏うRN式の力を引き上げていた。
また、RN式という名の"シンフォギア・システムそのもの"には意味が無いとしても、コアに使われている聖遺物の欠片そのものに全く効果を及ぼしていないわけではない。
聖遺物は元々、フォニックゲインで起動する。12年前の翼がそうであったように……または、2ヶ月前の響がそうであったように。純の唄った真似事の絶唱が、聖遺物そのものに影響を及ぼしうるフォニックゲインとなり、胸の内より歌を呼び起こしたのだ。
そして、引き出された聖遺物の力はRN式の性能を向上させ、今、現行のシンフォギアと並ぶ力となって、純の身体を包んでいた。
「届けぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」
やがて、カ・ディンギルからの砲撃を追い抜き、イチイバルの全力射撃を超える。盾の形状を円形に切り替えると、裏面のグリップを左手で握った。
負荷に耐え切れなくなったアームドギアがとうとう破壊される。しかし、純はその瞬間を逃さず、一瞬でクリスの前に飛び出すと盾を構えた。
「ッ!?……ジュン……くん……?どうして……」
隣に並んだ純に驚くクリス。すると純は、いつもの爽やかな笑みと共に答えた。
「約束したからね……迎えに行くって。クリスちゃんが、自分のやるべき事を見つけたって言うのなら……それを隣で支える事こそ、僕のやるべき事だッ!」
「ッ……!!」
円形……即ち、神話通りの形状となったアキレウスの盾を中心に、黄緑色のバリアが広がる。
永劫不朽の刃のエネルギーにより放たれる、月穿つ一射。
それに立ち向かうは、ギリシャ神話最高の鍛治神が造り出した盾。
叙事詩に語られる対戦カードで、持ち主を変えた聖遺物同士がぶつかり合う。
それでも、単純な防御性能のみで防ぎきれない事は、純も承知している。現に今、まだ10秒と経たない内から押されつつある。
だから彼は、その盾に願った。大事な人をこの手で、守りきるだけの力を。
(頼む、RN式アキレウス!僕に……クリスちゃんを守る力をッ!)
「燃え上がる太陽になって!ヒカリで照らし続けていこう!いつまでも、傍にいる!それが運命ッ!」
限りない愛を胸に、彼はその盾を支え続ける。
「ジュンくんッ!」
その姿を見て、アームドギアを破壊されたクリスは、空いた両手で盾と、純の身体を支える。
月明かりが二人を照らし、優しく包み込む。
やがて、盾の表面に亀裂が走り始めようと、純は諦めずに歌い続ける。
展開されたエネルギーリフレクターが限界を迎えて消滅を始めようと、クリスは純の身体をもう離そうとはしなかった。
大事な人に支えられ、純は最後の一節を力の限りに叫んだ。
「この想い、永久に刻めぇぇぇぇぇぇッ!!」
〈Zero×ディフェンダー〉
次の瞬間、カ・ディンギルの一撃がバリアを押し切り、純とクリスの姿は閃光に包まれる。
それと同時に、ようやくカ・ディンギルからの砲撃が止んだ。
固唾を飲んで空を見上げる地上の装者達。
やがて……見上げていた月に亀裂が走る。しかしその亀裂は月の中心部ではなく、そのほんの端……。カ・ディンギルの砲撃は、月の3分の1程を掠めただけであった。
「仕損ねたッ!?僅かに逸らされたのかッ!?」
フィーネの声が驚きのあまり上ずっている。翔は慌てて通信を、純のRN式へと繋いだ。
「おい純ッ!生きてるよな!?おいッ!」
『……がはッ……ああ……翔かい……』
吐血音と弱々しい声。絶唱の負荷が、純を襲ったのだと気づくのにかけた時間は一瞬であった。
「お前……」
『ごめん……後は、任せる……』
「おい……おいッ!純ッ!?」
「翔!あれは……ッ!」
翼の声に顔を上げると、そこには光の粒子をまき散らしながら真っ逆さまに落ちていく、2つの人影があった。
白い粒子を散らせているのは、口角から血を垂らし、ぐったりとした様子のクリス。
そしてもう一人……プロテクター各部が破損し、耳あて部分のタイマーを赤く点滅させ、黄緑色の粒子をばら撒きながらも、クリスをその腕にしっかりと抱き締めているのは……その顎を吐血で赤く染めた純だった。
二人は、その命を燃やして月の破壊を防ぎきり、真っ逆さまに墜ちて行く。
リディアンの裏にある森の中へと落下する2人。その直後、大きな激突音が響き渡った。
「あ……あ、あ────」
膝から力が抜け、へたり込む翔。言葉を失う翼。
そして……
「ああああああああああああああああああァァァァァッ!」
響の悲鳴が、虚しく戦場にこだました。
後書き
マモ様主演作のネタ2つも入ってるじゃないかって?
ナンノコトカナー。ナンチャラ粒子が出てたとか自分には何の話やら(すっとぼけ)
クリスちゃんだけに唄わせない!純くんにも唄ってもらわねば!というのが今回の目的でした。
設定的にはクリスちゃん1人で逸らす所まで持ち込めたのは分かる。ぶっちゃけ、純くん乱入が蛇足になるかもしれないとも思いはした。
ですが……「独りぼっちは、寂しいもんな……いいよ。一緒にいてやるよ」というわけですよ。
1人でカ・ディンギル受け止めて、1人で真っ逆さまに落ちていく。あのシーンのクリスちゃんには、たとえ同じシーンになるとしても純くんと一緒に居てもらいたかったのです。
思い込みの力:あらゆる人間の持つ不確定要素。悪い方向へと働けば、周囲をも巻き込み、己を含む誰も彼をも不幸にしてしまう力。しかし前向きな方向へと働けば、どこまでも突き進む為の強い力となって人を支え、不可能をも可能とする。いわゆるプラセボ効果。
いつかの未来、風鳴翼が論理の刃を突破した際に見せるものであり、立花響に神をも殺す拳を与えた力の源流でもある。
今回のケースでは、フィーネに掻い摘んだ説明しかされていなかった事で、FG式とRN式の概要や細かな差異を聞かされていなかった純が「シンフォギアとは歌う事でその力を発揮する」と解釈していた事で、真似事の絶唱から引き起こされた奇跡。
歌は人の口から口へと伝達される事で、やがて世界へと広がって行く。
次回──
翼「やめろ翔!もうよせ立花!それ以上は、聖遺物との融合を促進させるばかりだッ!」
翔・響「「があああああああああああッ!」」
第58話『男なら……』
翔(──響が……泣いている……。なら、俺は……ッ!)
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