魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers
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Duel:28 あの日得られなかった答え
――side響――
「え? いやいや、自分は弱いよ。勝てたのは10回やって1回勝てるかどうかって勝負を拾っただけだし。キリエさんには完封されたし」
「……えぇ。だけどレヴィさんに勝ったり、旅館での試合も基本的に勝ってたような」
なんとも言えない様子でディエチが言うけど、あぁ、なるほど。最初の印象が強いから……って、小さいスバルとティアナは居たけど、中島姉妹は居なかったはずだが。
話が膨らんで広まったと取るべきかな?
「レヴィ……さんとの勝負は、お互い初見だったからっていうのがあるね。次サシでフリーバトルしたらもう勝てないよー。
旅館でのフリーバトルに関しては、きちんと見極めてたし。これはさっき説明した戦術と戦略の違いだね」
割と難しいこと授業の内容にしたかな? と思ってたけれど、存外皆着いてきてて驚いた。大きい方の二人も関心してたのはどうかと想うが。
「また言うけど、戦略は机上の論理。相手の情報……特徴や戦闘スタイル、チームの中での動き、各競技での使用される魔法を踏まえて、セオリーとなる行動を計画的に決める事。
極端に、言葉通りに言えば勝つためのシナリオ。
対して戦術は、実際の戦闘時、その日の傾向とか相手の様子から考えてそれに合わせて対応していくこと。こちらも言葉通りに言えば実際のプレイ動作だ」
中島姉妹の上三人は理解出来てるようで頷いて、下三人はカクンと首を傾げてるなー。
そんな中でウェンディが元気よく手を上げて。
「戦略とか、戦術とかは分かんねーっすけど、自分の出来ることを頑張るのじゃ駄目っすか?!」
この言葉に、ノーヴェとスバルも首を縦に振ってるあたり。理解しようと頑張ってるのが分かる。
よし。ならば、
「それも大切。と言うより極端に言えば皆それしか出来ないよ。戦略戦術作戦行動……皆が出来るって信じてることが大前提だもん」
言うは易く行うは難し。
信じるとは、期待の押し付けでもある、でも。
「各ゲームでこうしよう、ああしようって提案する人たち。T&Hではすずかさんとアリシアさん、八神堂でははやてさん、マテリアルズでは王様がそれらだよね。
そういう人たちって、考え方も何もかも早いし、傍から見れば分からないかもだけど。
思いは一緒だよ。どうやって楽しんで、皆の良いところを発揮できるかって。皆が頑張る事を、出来ることをやると信じて立ててる以上、それを少しでも汲み取ることができれば、もっとゲームを楽しむことが出来るよ」
きっと、いつか突き詰めてゲームであることを忘れて、勝つことだけに集中する人たちも現れるだろう。
と言うか既に居るだろうし。
「それに、強い人をどうやって倒すかって前もって考える時点で戦略を立ててるしね。そこまで深く考えなくてもいいよっていう」
そもそも、最初から結果を出せる人たちはすぐにコツを掴むか、掴んでるかだし。
だけど……正直そんなコツ、いつも精一杯やってりゃ自然と掴むだけだ。これが実戦だったらまだしも、ゲームだもん。ぶっつけで何でも試せるし、間違えたら正してくれる環境もある。
ゆるく、でもしっかりと学んで遊べる環境だもん。下手に乱したくはない。
そうなってくると、先駆者の面々はそこん所どうなってるか気になるけど、それは俺が関われる領域ではない。
「そしたら次はね!」
「ほらほら順番だ順番」
まだまだ授業は続くなー……というか、デカイ方のスバルも手を上げてるのはなんでかなぁ!?
――――
気がつきゃ夜も更けて、寝る時間を大幅に超えてたらしく全員纏めて叱られました。
まさかこの歳になって叱られる日が来るとは……。いやまぁ高校生程度の歳っちゃ歳だけども。
時刻も既に真夜中。あまり丑三つ時に起きたくはないけれど……科学が発展した現代でそんなもんは――
がたん、とラップ音と共に反射的にごめんなさいと言ってしまう己の情けなさよ……!
とりあえず皆が眠ってるのを起こさないように抜け出して、夜中の内に震離達からもらったアルコール入の飴をなめまして……っと?
アルコールの匂いが部屋に広がっちゃまずいと思って、一階に降りる階段で舐めてたけど。不意に玄関から風が入ってくるのを感じて、思わず下に降りてみれば。
不用心に少しだけ開いているのが見える。自然に開いたわけは無く、誰かが開けたにしては気配も感じなかったから……。
そこまで考えて、音を立てないように玄関まで来て外を覗いて……すぐに納得した。
ゆっくり、静かに扉を開けて――
「こんな夜にどうしたんですか。ギンガお姉さん?」
月光の下で佇む彼女へ、おどけてながら声を掛ける。
――side花霞――
世界を超えても、月は変わらずそこにあって、変わらないというのは不思議なものだと思う。
ミッドチルダの月は複数ありますが、主たちの世界も、この世界も月は一つ。
今は月の光で見えないけれど、天の川……いや、この時期ならば銀湾と呼ばれてたはず。
ミッドチルダにも星の別名、空模様の呼び方もあるけれど……この世界に比べると、季語とかに比べると途端に数が減る。
データとして日本語や、言葉の意味を取り込んだけれど。その言葉の雅さはまだまだ覚え足りない。風情の言葉の意味を知っていますが、風情をまだ感じたことは無いんですよね。
ふと、私を――いや、刀身としての体を取り出して。ココには居ないマイスターであるシャリオ様を思い出す。
私の刀身を打った刀匠……お父さん? にあたる人はとても気難しくて、刀身をマスターに渡すまでかなり手間取っていたらしい。
シグナム様曰く、ベルカ式、ミッド式が中心のミッド人に刀は扱えない。ちゃんと修行もしてない日本人風なミッド人では無理だ、と突っぱねられていたらしい。
……いくら地球出身の人だと説明しても、自分が見てないから知らんわからんの一点張りだったそうですし。
そんな中で、私と主が引き合う切欠になったフェイト様との一騎討ち。
その映像を見て、ようやく刀身を仕上げて主に渡してくれたらしい。久しぶりに刀使いを、自分が仕上げて渡す道場の人以外を見たと喜んで。
それをベースに私という人格を作り上げて、主のデータを入力されて初めて完成して、そしてようやく主と出会えた時……あれが私が仕える人だと喜んで、それ以降あまり使われなかったことが悔しいと思っていた。
……まだ調整が足りないという事もあったとは言え、不満しかありませんでした。
魔力還元システムがあるというのに、いきなりはちょっととか、まだ出してない手だっていっぱいあるとまで言われたし。
……実際主の居合抜刀術は、私では現状受け止めきれなくて罅が入ってしまうんですよねぇ……。主が敗けたあの時も、主とユニゾンした時の最後の打ち込みも罅が入って……あれ? 私ってば足ばかり引っ張ってる?
魔力刃を展開してならば、特に問題は無いんですが……それは主には厳しい問題……いや、私とユニゾンすればまだしも。
まだまだ課題しかありませんね。ですがそれはこれから修正していけばいいんですが。
……先に生まれた先輩、マッハキャリバー様やクロスミラージュ様は姉と兄に当たるんですが、AIコンセプトの違いからあまり似ている所も、何もかもが違うんですよね……。
加えてリイン様の蓄積データやモーションを頂いた結果、性格変わったと言われてますがあまり自覚は無いですし。
現状の最優先事項があるとすれば――
「やぁはな君。こんばんは」
「……あ、こんばんは、ドクター」
思わず驚いてしまったけれど、すぐに優しそうに微笑んだと思えば持っていたマグカップを差し出して。
「君が起きているのが見えてね。よかったらと思ってね」
「あ、ありがとうございます。頂きます」
2つの内の1つを頂いて、一口いただけば……あ。ミルクココアだ。
「おや七緒と同じ濃さにしてみたんだが、やはり濃ゆかったかい?」
「い、いえ。美味しいです。ココア……チョコよりかは甘さが柔らかいんですね」
リイン様から聞いていましたが、優しく甘くて美味しいです。
「……流君や震離君から聞いてたが、本当なんだね」
何を? と思いましたが、直ぐに思い至って。
「えぇ。そう言えばデフォルトのフレームサイズは見せてませんでしたね。まだ体を得てからは日が浅いんです」
戻しましょうか? と視線を向ければ、静かに首を横に振られる。
「万が一があったら、皆に合わせる顔が無くなってしまうからね。せっかく出来た七緒の友人だ。大切にしたいんだ」
「……私もです。ですが、思い上がり……になるんでしょうか、私の場合は」
「そんな事はないさ。君も人を思いやれるのだから」
……驚いた、と言うより。やっぱりイメージが……というか。やっぱり変わらない。
ならば。
「――ドクタースカリエッティ?」
「なんだい?」
静かに、優しげに微笑むあの人を見据えて。
「心とは、なんですか?」
あの日得られなかった答えを、今なら。
後書き
相変わらず短い投稿ですが楽しんでいただけたのなら幸いです。
更新が安定せずに、申し訳ないです……知り合いの家に仮住まい等などありましてなかなか安定しておりません。
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
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