戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~
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第5楽章~交わる想い、繋がるとき~
第46節「大人の務め」
前書き
各章のタイトル、ハーメルン時代から少し変えてるのは拘りです。
それでは原作9話編、どうぞ!
「うわぁ……学校の地下にこんなシェルターや地下基地があったなんて……」
二課の本部、その廊下を歩く2人の女子高生。
1人はガングニールのシンフォギア装者、立花響。
もう1人は、先日の一件で二課の協力者として配属される事になった、親友の小日向未来だ。
未来は自分たちの学校の地下に広がる秘密基地を見回し、驚いていた。
すると、響は前方の自販機前に立つ人物に元気よく声をかける。
「あ!翼さーん!翔くーん!」
「立花か。そちらは確か、協力者の……」
翔、翼、緒川、藤尭の4人がそこに立っていた。
「こんにちは、小日向未来です」
「えっへん!わたしの一番の親友です!」
「今日も元気そうだな、立花。それと小日向、ようこそ二課へ」
「翔くん、完全にここの人なんだね……」
本来なら司令である弦十郎辺りが言いそうなセリフだが、翔はそれを特に違和感もなくさらりと言った。
それほどまでに、彼が二課に馴染んでいる事が伺い知れる。
「では、改めて。風鳴翼だ、よろしく頼む。立花はこういう性格ゆえ、色々面倒をかけると思うが支えてやってほしい」
「いえ、響は残念な子ですので、ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」
「あー、否定は出来ないな。……まあ、そんな所も含めて彼女の良さだが」
「えぇ~、なに?どういうこと~?」
翼にぺこり、と頭を下げる未来。
翔も含めた3人で意気投合している様子に、響は首を傾げる。
「響さんを介して、3人が意気投合しているという事ですよ」
「むむ~、はぐらかされた気がする」
「ふふ」
緒川の言葉に、何処か納得出来ていない表情の響。
そんな響の表情に微笑む翼を見て、緒川は内心で呟く。
(変わったのか、それとも変えられたのか。響さんに出会い、翼さんは良い笑顔を見せてくれるようになりましたね……)
その表情はいつもと変わらない微笑み。しかし、その内心に気がつく者は、この中に一人もいない。
「でも未来と一緒にここにいるのは、なんかこそばゆいですよ」
「小日向を外部協力者として二課に登録してくれたのは、手を回してくれた司令のお陰だ。それでも不都合を強いるかもしれないが……」
念を押す翼に、未来は首を横に振りながら答える。
「説明は聞きました。自分でも理解しているつもりです。不都合だなんて、そんな」
「あ、そう言えば師匠は?」
「叔父さんなら、TATSUYAまで先週レンタルした映画返しに行ってるらしい」
「ああ……司令らしいですね……」
翔は弦十郎の席のモニターに表示されていた、外出中の表示と行き先を伝える。
藤尭はその行先に、納得したように呟いた。
「あら~、いいわね。ガールズトーク?」
そこへ、破天荒な嵐が通りかかる。
二課が誇る自称天才考古学者、櫻井了子だ。
「どこから突っ込めばいいのか迷いますが、取り敢えず僕を無視しないでください」
「同じく」
「了子さん?俺含めて男子も3人いるんですけど」
「シャラップ!細かい事は気にしな~いの♪」
呆れたような顔でツッコミを入れた緒川に便乗した藤尭、翔だったが、了子の一言にあえなく撃墜され、不服そうな表情を見せる。
しかし、了子は持ち前のマイペースさで特に気にせず、女子3人とガールズトークを始めてしまった
「了子さんもそういうの興味あるんですか?」
「モチのロ~ン!私のコイバナ百物語聞いたら、夜眠れなくなるわよ~?」
「まるで怪談みたいですね……」
苦笑いする未来に対して、響はテンションが上がっていた。
「りょ~うこさんのコイバナ~ッ!きっとうっとりメロメロおしゃれで大人な銀座の恋の物語~ッ!」
「今の一言でよくそこまで連想出来たな……」
「全くだ……」
翔と翼はテンション高めにうっとりしている響を見て、額に人差し指と中指を当てながら、やれやれ、とでも言うような表情になる。
姉弟揃って同じ表情、同じポーズという光景だが、翔の場合は口元が少しだけ緩んでいるのは内緒である。
「そうね……。遠い昔の話になるわねぇ……。こ~う見えても呆れちゃうくらい、一途なんだからぁ」
「「おお~ッ!」」
響と未来が揃って目を輝かせる。
「意外でした。櫻井女史は恋というより、研究一筋であると」
「俺は了子さんこそ、二課で一番の恋愛経験者だと思ってましたが……どんな話なんです?」
驚く翼と、予想を的中させつつ話にのめり込む翔。
完全にガールズトークでは無くなっているのだが、それはそれである。
ちなみに空気を読んでか、緒川と藤尭は黙って話を聞いている。
「命短し恋せよ乙女ッ!というじゃなぁい?それに女の子の恋するパワーってすっごいんだからぁ!」
「女の子、ですか……」
次の瞬間、緒川の顔面に裏拳が飛んだ。
自販機に後頭部をぶつけ、倒れる緒川の眼鏡が外れる。
「緒川さーん!?」
翔と藤尭が心配そうに駆け寄る中、何事も無かったかのように了子は話を続ける。
「私が聖遺物の研究を始めたのも、そもそも──あ」
「「うんうん!それでっ!?」」
早く続きを聞かせろと言わんばかりにのめり込むJK2人。しかし、了子はそこで口を閉じると、誤魔化すように後頭部に手を当てる。
「……ま、まあ、私も忙しいからここで油を売っていられないわっ!」
「いや、了子さん自分から割り込んできたじゃないですk……」
次の瞬間、しゃがんで緒川の背中をさすっていた藤尭の顔面に蹴りが入った。サンダル履きの足で。
「藤尭さーん!?」
緒川同様、自販機に背中を強打する藤尭。口は災いの元、哀れ男性陣2人はたった一言突っ込んだばかりに、撃沈する羽目になってしまった。
「藤尭さーん!ダメだ、完全に伸びてる……。緒川さん、大丈夫ですか?」
「避けられなかった……。背中が、まだ……」
「とにもかくにも、できる女の条件は、どれだけいい恋をしているかに尽きるわけなのよっ!ガールズ達も、いつかどこかでいい恋なさいね?……特に響ちゃん、今、絶賛恋する乙女満喫中でしょ?」
「ええっ!?そ、そそそそんな事は……!」
「立花、無駄だ。お前と翔の事は、二課全体にバレてるからな」
「えええええ!?」
翼からの暴露に顔を耳まで真っ赤にする響。幸い、そのお相手は目の前にいるものの、了子から会心の一撃をもらってしまった2人を心配するあまり、気がついていない。
ガールズ3人、大人1人は声を潜めて話し合う。
「何か恋の悩みができたら、私に相談してねん♪んじゃ、ばっはは~い」
そして了子は3人に手を振りながら、さっさと研究室の方へと歩いていってしまった。
まさに嵐のような女性である。被害者が2名も出てしまった。
「聞きそびれちゃったね~」
「んむむ~、ガードは硬いかぁ。でもいつか、了子さんのロマンスを聞き出してみせる!」
「それより誰か医療班!藤尭さん気絶しちゃってる!」
盛り上がっている女子に対して、男性陣は死屍累々となっているのであった。
「緒川さん、大丈夫ですか?」
「不覚でしたね……。翼さんの前で、二度とこんな無様な姿は見せませんよ」
翼に差し伸べられた手を取り、緒川は眼鏡をかけ直す。
その姿を見ながら、翔は内心思うのだ。
やっぱり姉さんと緒川さん、付き合えばいいのに……と。
「……ハッ!黄色い花畑が見えた気がする……」
「藤尭さん、おかえりなさい……」
(……らしくない事、言っちゃったかもね。変わったのか……。それとも、変えられたのか……?)
誰もいない廊下を一人歩き続けながら、了子は考える。
さっき無意識に出かけた言葉も、あの時の少年に情けをかけたのも……。
自分の行動に何処か変化を感じながら、櫻井了子を名乗る者は考え込む。
果たして自分は、何を思ってあんな事を……と。
∮
「……それにしても司令、まだ帰ってきませんね」
「ええ。メディカルチェックの結果を報告しなければならないのに……」
響、未来、翔、翼、緒川の5人は、休憩スペースのソファーに並んで座っていた。順番としては緒川と翼、響と未来、その間に翔が挟まっている形だ。
「次のスケジュールが迫って来ましたね」
緒川は腕時計を確認しながらそう言った。
「もうお仕事入れてるんですか?」
「少しずつよ。今はまだ、慣らし運転のつもり」
「じゃあ、以前のような過密スケジュールじゃないんですね?」
「む?まあ、そういう事になるけど……」
未来にそう言われ、翼は頷いた。
「でしたら翼さん、明日の休日、私達と出掛けませんか?」
「私達……つまり、立花と小日向と一緒にか?」
「ちょっ、ちょっと未来!やっぱり……」
何やら顔を赤らめて慌てる響を他所に、未来は続ける。
「あ、翔くんは荷物持ちお願いね?」
「え?俺もか!?こういうのは女子3人水入らずが定番なんじゃ……」
「まあまあ。いいですよね、翼さん?」
未来の提案に、翼は何やら考え込む。
やがて翼は未来の意図を察して、手をポンと打った。
「いいわよ。こんな機会、初めてだもの。翔もそれで構わないわよね?」
「あ、ああ……俺も特に予定はないし……」
「じゃあ、決まりね!」
こうして翌日、未来の計画が実行される事になった。
そう……荷物持ちと称して響と翔を連れ歩きつつ、翼にも息抜きをさせる。
そんな一石二鳥のデート作戦が、翔に気付かれない所で進みつつあった。
∮
(……あたし、いつまでこんなとこに。これからどうすりゃいいんだ……?)
雪音クリスは廃アパートの一室にて、古ぼけた毛布に身を包み、体育座りしながら考え込んでいた。
周囲にはカップ麺やコンビニ弁当の容器、バーガーショップの紙袋、空になったペットボトルが散乱している。
ノイズを介して渡された食費。それは純が生きている事を証明したばかりではなく、あの時自分を守る為に残った純が、何らかの理由でフィーネの手駒になってしまった事を意味していた。
どうにかしてその真意を確かめたい。出来ることなら助けたい。
でも、やっぱりどうしても怖気付いてしまう。もしも、純と戦う事になってしまったら……。そうなれば彼女はきっと、引き金を引くどころか、銃口を向ける事さえ出来なくなってしまうだろう。
(ジュンくん……)
もう夕方だ。嫌でも腹の虫が鳴いてしまう。
しかし外は雨だ。傘も着替えもないのに外出すれば、きっと風邪をひくだろう。
どうしたものか……と考えていたその時、金属が軋む音と共にドアが開く音がした。
(──ッ!?誰だ、ここ、空き家じゃねーのかよ!?)
毛布から出ると、壁の影に隠れて拳を握る。
(怪しい奴だったらぶん殴って──)
近付く足音。様子を見ようと顔を覗かせた、その時だった。
「──ほらよ」
差し出されたのはコンビニのレジ袋。入って来たのは先日、彼女をノイズから救った男……風鳴弦十郎だった。
「えっ……?あっ……」
「応援は連れて来ていない。……君の保護を命じられたのは、もう俺一人になってしまったからな」
「どうしてここが……?」
ファイティングポーズで警戒を解かないクリスを真っ直ぐに見ながら、弦十郎は腐りかけの畳に腰を下ろした。
「元公安の御用牙でね。慣れた仕事さ。……ほら、差し入れだ。腹が減っているんじゃないかと思ってな」
そう言って弦十郎は、レジ袋を差し出した。
断ろうとするクリスだったが、タイミング悪く腹の虫が鳴いてしまう。
弦十郎はフッ、と笑うとレジ袋の中からアンパンを取り出して袋を空け……ばくり、と一口齧り付いた。
「……何も盛っちゃいないさ」
「……ッ!くッ!はぐ、もぐもぐ……。──あぐ、もぐッ!」
弦十郎の手からひったくるように奪い取ったアンパンに、ガツガツと齧り付くクリス。
その様子を弦十郎は、静かに見つめていた。
「……バイオリン奏者、雪音雅律と声楽家のソネット・M・ユキネが、難民救済のNGO活動中に戦火に巻き込まれて、死亡したのが8年前。残った一人娘も行方不明になった。その後、国連軍のバルベルデ介入によって、事態は急転する。現地の組織に囚われていた娘は、発見され保護。日本に移送される事になった──」
そこで弦十郎は牛乳パックを空け、一口飲む。
クリスはまたしてもそれを受け取ると、ごくごくと一気に飲み干した。
「ふん、よく調べているじゃねぇか。……そういう詮索、反吐が出る!」
「当時の俺達は適合者を探す為に、音楽界のサラブレッドに注目していてね。天涯孤独となった少女の身元引受先として、手を挙げたのさ」
「ふん、こっちでも女衒かよ」
「ところが、少女は帰国直後に消息不明。俺達も慌てたよ。二課からも相当数の捜査員が駆り出されたが──この件に関わった者の多くが死亡。あるいは行方不明という最悪の結末で幕を引くことになった」
当然、捜査員達はフィーネに始末されたと考えるのが妥当だろう。
それほどまでに、彼女は自らの存在が明るみに出るのを徹底して防いでいたのだ。
「……何がしたい、おっさん!」
「俺がやりたいのは、君を救い出すことだ」
「えっ……?」
「引き受けた仕事をやりとげるのは、大人の務めだからな」
「はんッ!大人の務めと来たか!余計な事以外はいつも何もしてくれない大人が偉そうにッ!」
そう言ってクリスは、中身の空になった牛乳パックを部屋に投げ捨て、窓の方へと突っ込んでいく。
弦十郎が振り返った時には、クリスは宙返りしながら、ベランダへと続く窓ガラスを背中で割って飛び降りていた。
「──Killter Ichaival tron──」
シンフォギアを纏い、そのままクリスはビルの屋上から屋上へと飛び移りながら、何処かへと去ってしまった。
「……行ってしまったか」
それを弦十郎は、やはりただ静かに見つめている。
彼女の心を開くにはどうすればいいのか……。ただ、それだけを考えて。
曇天覆う空の下、降り注ぐ雨の中で濡れながら、電柱の上で立ち止まったクリスは俯く。
(……あたしは、何を……)
本当はもう分かっているはずだ。あの男、風鳴弦十郎が心の底から自分を気遣っている事は。
しかし、クリスはやはりどうしても、彼を信用する事が出来ずにいた。囚われの5年間の中で育ってしまった大人への不信感が、どうしても邪魔をするのだ。
弦十郎を頼れば、自分は逃げ続けなくてもよくなる。なんなら、純を助けられるかもしれない。
でも……やっぱり信じて裏切られるのが怖い。
(……本当に、何やってるんだろうな、あたしは。逃げて、隠れて……こんなんでジュンくんを助けられるのかよ……)
本当に心の底から信用出来る人は、フィーネに捕まってしまった。
このままでは、彼は自分の為に手を汚してしまうかもしれない。もしかしたら、自分と同じ十字架を背負わせてしまうかもしれない。
そう思うと恐ろしい。今すぐあの館へ、助けに戻りたい。でも、やっぱり怖い……。
(それに比べてあのおっさんは……)
弦十郎にかけられた言葉を、もう一度思い出す。
『俺がやりたいのは、君を救い出すことだ』
(あたしが、やりたかった事……)
『引き受けた仕事をやりとげるのは、大人の務めだからな』
(やりとげる……。……そうだな。逃げてるなんて、あたしらしくないか)
弦十郎は、これまで見た事のない大人だった。自分の責任を果たすため、前を向いて行動している。
大人が嫌いな自分が、その大人に求めていた事を実行している。クリスから見た弦十郎は、そういう珍しい在り方をした大人として映っていた。
「いいさ、やってやるよ。これ以上、あんなおっさんに好き勝手言われてたまるかッ!」
降り注ぐ雨の中、クリスは曇り空を見上げて胸に誓う。
(待っててくれよ、ジュンくん!必ず助けに行くからなッ!)
自分を迎えに来てくれた王子様が、逆に魔女の手に捕まってしまった。
それなら今度は、お姫様が助けに行く番だ。
言葉使いはぶっきらぼう、纏うドレスは鉄より硬く、その手に持つのは鉄の弾吹く魔の弩。
お姫様と呼ぶには程遠いけれど、彼女の心には誰よりも熱く純粋な、彼への恋心が燃え盛っていた。
後書き
クリス「ん?あたしにお便りだぁ?どれどれ……『クリスちゃんに質問です。原作9話といえば司令がクリスちゃんにアンパンを差し入れしてくれるシーンですが、あれよくよく考えてみれば間接キスですよね。純くん以外と関キスして大丈夫なんですか?』……はああ!?い、いや、その……ほ、ほら!あれはそういう意味じゃねえし!毒味させただけだし!そういうんじゃねーよ!!だ、大体ほら、直接キスしたわけじゃねーから!セーフだセーフ!」
純「うん、ノーカンだよね。あれは100%の善意でやってる。やましさストロングコ〇ナゼロ。だから無問題だよ」
クリス「じゅ、ジュンくんいつからそこに!?ってか、〇つける所意味なくねーか?」
純「まあまあ。それにクリスちゃんのファーストキスがたとえ無意識の事故で奪われてしまっていたとしても、問題は無いよ。だって僕のファーストキスは、まだ誰にも渡していないからね」
クリス「じゅ……ジュンくん……」(トゥンク)
純「それで……クリスちゃん、どうするの?」
クリス「えっ!?」
純「僕の唇、欲しいのかい?」(顎クイ)
クリス「えっ、あっ、いやっ、その……こっ、こここここ!本編じゃねぇから!そういうのはここでやるべきじゃないっていうか……!」(真っ赤になりながら)
純「まあ、そうだね。それじゃあ、この先は本編でのお楽しみということで」
クリス「あっ、あんなふざけたお便り寄越しやがったやつ、後で覚えてやがれよ!」
このお便りの主は確か、クロックロさんだったかな……。
また読みに来てくれるかな……。
次回!翔ひび初デート!(姉と親友同伴)
行くぞ甘党王、カメラの準備は十分か!!
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