戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~
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第1楽章~覚醒の伴装者~
第15節「勇者の称号」
前書き
絶賛された前回の続きって事で、いつもの二倍は頑張って書いたんだよなぁこの回。
翔くんをかっこいいと思ってもらえたり、原作キャラが原作らしいって言われてたり、生弓矢でレクイエムるシーンに驚かされたりしているってのは書いてる身としてとても嬉しいです。これからも「響き交わる伴装者」をよろしくお願いします!
さて、生弓矢ギアの性能をご覧あれ!
それから今回はサブタイにも注目してもらいたいですね。以前の回のサブタイを遡り、気付いてもらいたいものです。
それではどうぞ、お楽しみください。
「まさか、本当に成功するなんてな……」
自分の身体に装着された装束を見ながら、翔はそう言った。
胸に突き刺した生弓矢は、彼の予想通りの結果を発現した。いや、予想はしていたが成功するかは五分五分だった、と言うべきか。
自らの五体と、胸に浮き上がった赤いクリスタル。そして、身体に漲る力から、翔は確信する。
自分は今、このRN式回天特機装束……シンフォギアtype-Pの装者になったのだと。
それが分かれば、やる事は一つだ。
周囲を見回し、再びこちらを向いて迫るノイズ達を見据えると、彼は構える。
今度は彼が、へたり込んだ立花響を庇う側としてそこに立っていた。
「立花、下がっていろ。今度は俺が戦う」
「う、うん」
力強く拳を握ると、翔は眼前のノイズへと向けて拳を真っ直ぐに突き出した。
「ハッ!!」
拳が当たった瞬間、ノイズの身体が土人形のように崩れ落ちる。
先程までのRN式とは、威力が桁違いだった。拳ひとつでノイズを粉砕する力、それは紛れもなくFG式回天特機装束……現行のシンフォギアと大差がない。
「フッ!セイッ!」
続けて右から迫って来たヒューマノイドノイズに左拳を突き出し、反対側から迫るクロールノイズにはそのまま肘鉄を食らわせる。
キュルルピッ!キュピッ!
頭上からの鳴き声と風を切る音に顔を上げると、鳥型個体が数体、狙いを定めているところだった。
「空か……。さて、どうするか……」
跳躍して叩き落とす……いや、それでは効率が悪い上に背後からの奇襲を避けられない。
ならば地上から何かを投擲して落とす……位相差障壁に阻まれるな。
せめて飛び道具でもあれば……。そう考えた刹那、両腕に力が集まる感覚があった。
両腕を見ると、腕を覆う手甲の側面には小型の刃のような突起物。
手甲に意識を集中させると、その刃は熱く輝き始めた。
「これを……ハァッ!!」
両手で手刀の構えを取り、それぞれ交互に横へ払う。
刃は空を切り、三日月形の光の刃がフライトノイズへと向けて放たれた。
フライトノイズらは光の刃によって真っ二つに切断され、消滅した。
「なるほど、こいつはこう使うのか」
そのまま数回、同じ動作を何度も続ける。
光の刃は次々とフライトノイズを切り裂き、あっという間に全滅させた。
キュピ!キュルルキュピッ!
だが、ギガノイズが更にノイズを追加する。さっきのノイズ達もまだ片付いていないのに、ここで追加しやがって!
「なら、こっちもアームドギアで対抗してやるさ!」
両腕から、こんどは両手の掌に力を集中させる。
使用者の心象が聖遺物に反映された武器、それがアームドギアだ。
果たして俺の心象は、生弓矢をどんな武器へとアレンジするのか……。
両手の中に宿った光は、やがて形を得て実体化した。
この手に出現した武器は、身の丈近くの大きさを誇る大弓だった。
弓束を握った瞬間、灰色の縁取りが青く変化し、右手には光をそのまま矢の形にしたようなエネルギー体が出現した。
ギガノイズの頭部のド真ん中へと狙いを定め、弓に矢をつがえる。
弦が張り詰め、矢を的へと飛ばすのに必要な力が集まる瞬間に右手を離した。
ヒュッ、という風を縫う音の直後、ギガノイズの頭部が吹き飛ぶ。吹き飛んだ頭部から順にその巨体は炭化し、崩れ始めた。
「ギガノイズを一撃か。荒魂を鎮めたその力、伊達じゃないらしいな!」
そのまますぐ近くに居たノイズを次の的を定め、矢を放つ。
一体、また一体。正確に的を射抜き、一体を貫けばその後方の何体かが連鎖するように貫かれる。
どこまでも真っ直ぐに、その矢は飛んで行った。
「だが、まどろっこしい!並んだ敵を一掃出来る貫通力は確かに強いけど、近場の雑魚相手にする時に使う武器じゃないな!」
引っ込めて再び格闘戦に持ち込むかと迷った瞬間、脳裏に何かのイメージが浮かぶ。
弓とは違う、二つの器物。共に語られし三位一体の聖遺物。その真の姿を、胸の鏃は示していた。
「まさか……!?」
弓束を確認すると、人差し指部分にトリガーが存在する。
脳裏に浮かんだイメージを信じ、トリガーを引くと弓を構成する上下2つのブレードパーツが分割され、2本の剣へと変わった。
残った大弓のパーツはそのまま光に戻り、手甲の中へと戻っていく。
「次はこいつだ!生太刀!」
柄を握った瞬間、縁取りを赤く変色させた2本の剣を構え、ヒューマノイドノイズを斬り伏せる。
姉さんのアームドギアと比べて半分ほどの長さの剣が2本。次々とノイズを屠っては、空間に鮮やかな赤い軌跡を描いていく。
しかし、ここまでやってもまだノイズは残っていた。ギガノイズめ、雑魚を残せるだけ残していきやがって……。
「翔くん!危ない!」
「ッ!?」
背後に迫るクロールノイズ。振り返ろうとした瞬間、飛び込んで来たのはオレンジ色の弾丸。
咄嗟に飛び出した立花が、クロールノイズを殴り飛ばしていた。
「大丈夫!?」
「……ちょうど猫の手でも借りたいと思っていた所だ。立花、手を貸してくれるか?」
そう言うと、立花は軽く笑って答えた。
「もちろん!私の手で誰かを助けられるなら、いくらでも!」
「なら、遠慮なく借りるとしよう。背中は任せるぞ!」
「じゃあ翔くんも、私の背中をよろしくね!」
互いに背を向け合い、目の前の敵だけを見据える。
伸ばした手を取るだけじゃなくて、今度は互いに手を貸せる……か。
どうやら、俺の手はようやく彼女に届いたらしい。これ以上に喜ばしい事があるだろうか?
であればこの喜び、表さない他に手はない筈だ。
浮かんだイメージの最後の1つ、恐らく最もシンフォギアに向いている形態のアームドギアを起動させた。
∮
「どうなっているのだ!?」
ヘリから翔の戦いを見守る弦十郎は、翔のアームドギアが三種類の形状へと変化する事に驚いていた。本部の2人もまた、映像と音声を頼りに状況を整理する。
『最初は弓、次は剣、そして今度は弦楽器……』
『もしかして、翔くんが纏っているシンフォギアには生弓矢だけじゃなくて、生太刀と天詔琴の力も宿しているんじゃないでしょうか!?』
「三つの聖遺物の力を宿しているだとぉ!?しかし、そんな事が……」
『それがどうも違うみたいよん?』
「了子くん?違う、とは一体……?」
了子からの通信が割り込み、弦十郎は疑問符を浮かべて彼女に問いかける。
『それがね、そもそも私達の認識が間違ってるみたいなのよ』
「どういうことだ?」
『出雲三種の神器は三位一体とは伝わっているけれど、それぞれ1つずつだなんて記述はどこにもないわ』
『それってまさか、遺跡から生太刀と天詔琴が発見されなかったのは……』
友里の言葉を次ぐように、了子はハッキリと宣言した。
『1つで聖遺物3つ分の機能を有する、可変型聖遺物。それがあの三種の神器の正体よ』
「1つで3つ分の聖遺物……だと……!?」
死者をも甦らせる弓矢と、生命の力を司る剣。そして神への祈りを捧げる琴。それらが元々は、1つの聖遺物だった。
弦十郎の一言は、その場にいる誰もの言葉を代弁していた。
∮
「鳴り響け、天詔琴!」
先程、手甲の中へと収納されたアームドギアが左腕に出現する。
弓束の部分を上に向け、弓状態で使用していた時とは逆さに持って顎を乗せる。今度は枠の色が黄色に変わった。
琴という名前だが、どちらかと言えば電子バイオリン「MULTI」に近い形状をしているのは、俺の心象が影響しているのだろうか?
まあ、バイオリンも日本に伝わった頃は提琴と呼ばれていたらしいから、間違ってはいないと思うのだが。
「それでは1曲、ご傾聴」
2本の剣を合わせると一瞬で可変し、一本の細長い弓へと形を変える。戦場にて装者の歌を伴奏する俺は、さしずめ伴奏者ならぬ"伴装者"といったところだろう。
鎮魂歌の演目は、そうだな……では、今背中を預ける太陽の如き少女の歌を、この手で盛り上げると致そうか。
指を弦に添え、弓を構えて弦へと触れさせる。雑音を消し去り誰かを救う、災厄への鎮魂歌が幕を開けた。
「翔くん、この曲って!?」
翔くんの方から聴こえてきた旋律に驚いて振り返ると、翔くんのアームドギアはまるでバイオリンのような姿に形を変えていて、翔くんがそれを突然演奏し始めた事にもう一度驚かされた。
しかも、翔くんが弾いているのはなんと、いつもガングニールを纏っている時、私の心の中から響いてくる歌の前奏だ。この何秒かの間に3回も驚かされちゃうなんて、私の寿命は何年縮んだんだろうか。
私が驚いて振り返っている事に気付いた翔くんは、バイオリンを弾く手を止めること無く、ただ楽しげに笑いながら答えた。
「歌え立花!心の歌を!」
その言葉と、その表情はとても自信に満ちていた。
私達ならやれる、と。このノイズ達を倒せると、疑いもせず信じているのが伝わる。
そんな翔くんを見ていると、私もそんな気がしてきた。
行ける!私達二人が力を合わせれば、乗り越えられる!
さっき戦っている途中に貰ったアドバイスを思い出し、拳に力を込めて構える。
もうさっきまでの不安も、恐怖も、何処かへと飛んで行ってすっかり消えてなくなっていた。
「分かった!最後まで聞いてて、私の歌!」
「絶対に離さない、この繋いだ手は!」
飛び掛ってきたクロールノイズに、真っ直ぐ拳を突き出す。
突進の勢いで拳を避けられないクロールノイズは、そのまま炭になって四散した。
「こんなにほら温かいんだ、人の作る温もりは!」
左から迫って来ているヒューマノイドノイズを、右脚で蹴りつける。
地面に脚が付いた瞬間、背後から飛んで来たフライトノイズを、右足を軸に身体を反転させて躱し、フライトノイズに続いて迫っていたもう一体に、もう一度右手を突き出して殴り付ける。
難しい言葉を使わず、素早く丁寧なアドバイスをしてくれた翔くんのお陰で、ちゃんと戦えている。
さっきまでヘトヘトだったはずの体に力が漲るのは、きっと翔くんの演奏が私に力を与えてくれているから。細かい理屈はわからないけれど、今、分かるのは私の歌とこの全身で感じている旋律が……私の心と、翔くんの心が強く共鳴しているのは確かだって事!それだけで充分だ!
ぐっと漲っていく力と、止めどなく溢れていくこの思い。繋がり合う音と音が生み出すエナジーが今、2倍でも10倍でもなく、100万倍のパワーで爆発する!!
さあ、ぶっ飛べぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
「解放全開!イっちゃえHeartのゼンブで!」
「進む事以外、答えなんてあるわけが無い!」
静かに演奏に徹するつもりだったが、立花の歌声を聴き、この旋律に込める感情が昂って来ると、どうにも黙っているだけではいられなくなった俺は、遂に立花の声に合わせて斉唱し始めた。
今俺が奏でているのがただの音楽ではなく、確かな力を持つ曲だというのは肌で感じていた。
根拠は弦を弾くとその音で、妨害しに近付いてきたノイズが微塵切りになる所だけじゃない。一音一音が風に波紋を作る度、全身が何かに震えるからだ。
無論それは恐怖を初めとしたマイナスな感情ではなく、とても暖かいプラスの感情。
これは……そう、生きる事への喜び。生命への感謝を天へと捧げる天詔琴が奏でる音は、聴く者の心を高揚させるのだと見つけたり。
では、最後まで奏でようか。この心が叫ぶ限り!帰るべき場所へと辿り着く為に!
二人の、全身全霊の思いを込めたこの歌を!!
「「響け!胸の鼓動、未来の先へぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」」
∮
「チッ!今日の所はここで引き上げてやる!覚えとけ、勝ちは預けただけだかんな!!」
翔と立花のいた地点でギガノイズが崩れ落ち、更には強い烈帛音が響き渡り始めて、しばらく経った。
一際大きな烈帛音が鳴り響くのを聞くと、鎧の少女は身を翻して立体道路を飛び降りた。
「待て!まだ決着は!」
「あばよへちゃむくれ!次はその顔、地面に叩きつけてやっからな!」
最後まで挑発的な捨て台詞を残し、鎧の少女は撤退して行った。
追いかけようと側壁に登ったが、既に少女は雲隠れしてしまっていた。
「ネフシュタンの鎧を着た少女……一体何者なのだ……」
深追いするのを諦め振り返ると、烈帛音は止んでいた。
まさかとは思うが、立花があのノイズ達を……?
いや待て、逆の可能性だって……その割には妙に静かだ。それに、先程まで立花の歌も聞こえていた。
何にせよ、まずは現場を確かめなくては……翔、立花、無事でいてくれ!
「翔!立花!無事か!!」
と、全速力で角を曲がり駆け付けた私の目に入って来たのは……。
「「イエーイ!!」」
見た事も無い新たなシンフォギアを纏う弟と、辺り一面に散らばる炭の山。
そして、満面の笑顔で弟と2人ハイタッチを交わす立花の姿だった。
「やったね翔くん!私達勝ったよ!」
「ああ、よくやった立花!君のお陰だ」
「ううん、翔くんが助けてくれたから、私も頑張れたんだよ。ありがとう」
「そ、そう言われると……なんだか照れ臭いな」
あまりにも多過ぎる情報量に頭が追いつかず、私の中に困惑が訪れる。
何がどうなってこうなっている!?何故、翔がシンフォギアを?どうやってあの数のノイズを?
それに何より……お前達2人、前から思っていたが距離が近くないか!?
「……これは一体……」
「あ、姉さん!」
「翼さん!見てくださいよこれ!このノイズ、実は私達が……」
「これは一体どういうことなんだ!?誰か……説明してくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「ね、姉さーーーーん!?」
「つ、翼さーーーーん!?」
情報量の暴力に思考回路がオーバーヒートした翼は、ようやく日が出てきた空へ向かって力の限りに叫ぶのだった。
彼女がようやく落ち着いたのは、ヘリから降りてきた弦十郎達と合流し、聖遺物研究施設へと向かう途中の車の中だったという。
後書き
ようやく一区切り、ですかね。次回はふらわーでゆっくりしてもらいます。
アームドギアはこんな感じ。楽器モード用に本体もう一個描くのが面倒で弓だけになってるのは是非もないと思ってください。
翔「姉さん、大丈夫か?」
翼「ああ……。すまない、どうも根を詰め過ぎたらしい」
翔「気を張りつめ過ぎると体に障るよ?もっと肩の力抜かないと」
翼「剣は疲れたりなどしない!」
翔「そういう防人根性はいいから。今日はゆっくり休むといいよ」
翼「……そう、だな。このままでは奏にも心配されてしまう。今日は1日休むとしよう」
翔「よかった。ああ、ところで実は姉さんに報告があるんだけど……」
翼「報告?何のだ?」
翔「俺達!」
響「私達!」
翼「立花!?」
翔・響「「付き合う事になりました!」」
翼「やっぱりお前達そういう仲だったのか!!」
翔「うぉっ!?ビックリした!?姉さん、大丈夫か?」
翼「ん?……なんだ、夢か」
翔「どんな夢見てたんだよ……珍しくデカい寝言なんて口にして」
翼「いや、なんでも……」
翔「疲れてるんでしょ?今日はもう、ゆっくり休むといいよ」
翼「そうだな……。私も疲れて……ん?この流れさっきも……もしや無限ループ!?」
翔「姉さん、本格的に疲れてるのかな……」
RN式回天特機装束②:翔がノイズによって炭素分解される瞬間、RN式は保護膜を展開する程の出力こそ発揮出来ていなかったものの、その性能の根幹……使用者の精神力によって聖遺物の力を引き出す機能そのものは、僅かながらに発動していた。
それが炭素分解の瞬間、翔の精神が一時的とはいえ“ある強い感情”によって補強された事で、RN式は生弓矢の鏃を起動させるに至り、更に翔が生弓矢の鏃を自らの体内に取り込む事で融合症例となるきっかけを作った。
現在のRN式は、暴れ馬の如き聖遺物の力を抑え込み、擬似シンフォギアとして制御する役割を担っている。
融合症例としての、融合した聖遺物から引き出される強力な力を、RN式の保護膜で覆う事で、生弓矢のシンフォギアはその形を成しているとも言えるだろう。
融合症例第1号、立花響に続く希少なケースに様々な偶然が重なり生まれた融合症例第2号。それが現在の風鳴翔である。
ちなみに翔本人曰く、起動した鏃を胸に突き刺す事で融合症例になれるかの個人的見込みは五分五分で、融合症例になれなくても生弓矢の力で炭素分解の影響をリセットするくらいは出来ただろう、との事。
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