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ジェミニの夢

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【第3話】敵Pと救助活動Pと、友情P。

 
前書き
心操人使くん応援隊を設立したい。 

 
 ────おねーちゃん! アイツ、アイツすげーのです! バーンッて! 大爆発!
 ────ウンウン、前はちゃんと見ようネェ叶夢!

 おねーちゃんの【想像】を【具現化】させて、あのデカブツよりも可愛げのあるミニマムなロボたちを次々にスクラップにしていきます。

「今のPはッ?」
『20P!』

 ふむ! なかなかの好Pなのですよ!
 この調子であと数十Pは稼いで────。

「────あ」

 次のPを目指して視線を巡らせた、そのときでした。
 ひとりの、棒立ちしている男子を見つけたのは。



 ────叶夢?

 訝しむおねーちゃんの声を無視して、叶夢はそちらへ駆け出しました。



「……危ねーのですよ!」

 巨大で凶悪。この試験では何の得にもならない“ゼロP”のお邪魔虫。
 叶夢が昨日メテオをぶつけた、デカブツの腕がその男子に振り下ろされるところでした。

 ────叶夢、ソイツはゼロP……!

「カンケーねーのです!」

 腕を伸ばして、男子の手を掴み取ります。
 掴んだまま立ち止まることなく走り抜けた直後、デカブツの腕が背後の地面を抉っていきました。

「おいお前! ボーッと突っ立てんじゃねーですよ! 死にてーのですか!」
「な、なんなんだよ、お前……!」
「叶夢は叶夢なのです! 以後お見知りおきをなのですよ!」

 紫色をした髪の男子は、なんだか目が死んでいました。

「お前、ここに何しに来たですか! 雄英に入りたくてここに来たんじゃねーのですか!?」
「……あ、当たり前だろう!」

 途端に息を吹き返した目を見て、確信します。
 コイツは、叶夢と同じだと。ヒーローになりたいのだと。
 その目を守ってあげたいと、コイツに諦めてほしくないと強く思いました。



「じゃあこんなトコで死んでいる場合じゃねーでしょう!」



 死んだらダメなのです。
 死んじゃったら、何もかも終わってしまうのですから!



「諦めちゃダメなのです! お前もヒーローになりたいのなら、最後まで頑張らなくちゃダメなのですよ!」

 適当な場所で男子を離して、昨日と同じく空中へと足場を創り出します。

「記憶フォルダ“ワンダーランド”オープン! “メテオ”を選択! ダウンロード及び発動を、使用者権限で許可するのですよ!」

 ────叶夢!? アレを【記憶】していたノ!?

 おねーちゃんの驚愕する声が心身をつんざいていきますが、構っていられません。

「堕ちろなのです、“メテオ”────!」

 既視感どころではないまったく同じ動きで、デカブツへとメテオをぶつけたのでした。





『終了~~!!!!』





 デカブツがブッ倒れていくのを見ながら、プレゼントマイクの試験終了の声を聞きました。
 おねーちゃんのわざとらしい溜め息も聞こえます。

『ア~ア、時間切れだヨゥ。叶夢』
「うるせーのです!」

 呆然と座り込んでいる男子に近付いて、叶夢は手を差し出しました。

「叶夢は、眠瀬叶夢なのです! でも、お前の名前はまだ聞けてねーのですよ!」

 ────だから、教えろなのです。

 ドキドキ高鳴る心臓を頑張って抑えつつ、男子の名前を聞きました。
 紫色の目は死んでいるようで死んでいない。ヒーローに憧れてこんなところまでやってきた、命知らずの名前を知りたいと思いました。

「……心操人使、だ」

 叶夢の手を掴んで立ち上がり、男子はそう名乗りました。

「ひとし……人使ですね!」

 初めておねーちゃんとおかーさんとおとーさん以外の名前を覚えました!
 嬉しさのあまり、人使の手を両手で強く握りしめてしまいます。

「人使! お前、ヒーロー科はダメでも、雄英高校には絶対に行くのですよ!」

 ずいっと顔を近付けてそう言ってやります。

「はっ?」
「叶夢も一緒に行ってやるのです! お前、お友達少なさそうですから、叶夢がお友達になってやるのですよ!」

 だから。



「諦めんな、なのです! 一緒に────ヒーローになるのですよ!」







「ネェ、叶夢」
『はいなのですよおねーちゃん!』
「筆記ギリギリでごめんネェ」
『しかたねーのです。叶夢もおねーちゃんも、頭はあまりよろしくないのはおとーさんのお墨付きですからね!』
「嬉しくないお墨付きだヨゥ……」

 筆記試験を終えた帰り、家までの道のりをトボトボと歩いていた。

「……おい、あんた!」

 後ろからの呼び止める声に振り返る。
 そこには、心操人使が立っていた。

「あんた、眠瀬叶夢の親戚か……?」

 そういえば、この姿では初対面だった。

「初めましてだヨゥ、心操人使クン。私は眠瀬夢見。叶夢の双子の姉サ」
「双子の……姉?」
「先日は大切な片割れが要らない世話を焼いてしまったようだネェ。ごめんヨゥ?」

 ────要らない世話ってなんですか! お友達の世話を焼くのは全然要らなくねーですよ!

 非難の声が聞こえたが、無視する。
 この間の仕返しである。

「いや、おかげで今日は筆記試験に集中できたし……その……今更なんだけどさ、礼を言っておいてくれないか?」
「叶夢にカイ?」
「うん」

 直接言えばいいノニと思わず嘆息する。
 あの試験のすぐあと、この子は叶夢と連絡先を交換してくれた。
 お礼の一つや二つ、電話してしまえば直ぐだと言うのに。

 ────気恥しいんだろうナ。

 叶夢が言っていたように、あまり友達がいないのかもしれない。

「私からもお礼を言っていいカナ?」
「え?」
「叶夢とお友達になってくれて、ありがトウ」

 私の言葉に、心操クンの目が戸惑いに揺れた。

「……俺みたいなのと友達になって、本当に良かったのか?」
「ウン。叶夢、すごく喜んでたヨゥ?」

 ────人生初のお友達なのですよ!

 飛び跳ねて全身で喜びを体現する片割れを見て、喜ばない姉は居ない。

「まだ結果は分からないけどサ、仲良くしてあげてネ?」
「……ああ、分かった」

 神妙な顔付きで頷く心操クンの目は、確かに生きていた。

 ────良い目をしているネェ。

 叶夢と同じ、夢を諦めていない目だ。




「ただいマ〜」
『ただいまなのですよ!』
「おかえり!」

 我が家に着くと、玄関先でお父サンが出迎えてくれた。
 お父サンは仕事に行かなければならないとか何とかで、私たちも試験を受けるためにホテルに泊まっていて家を開けていたから、お互い数日ぶりの再会である。
 お父サンは俊敏な動きで私たちに近付き、頭に飛び付いたかと思えばわしゃわしゃと激しく撫で始めた。

「ワッ、ワッ! 何するのサ、お父サン!」
「HAHAHA! 試験お疲れ様!」

 そう言われて、やっとこれがお父サンなりの激励なのだと知った。

『ずっ、ずりーのですよ! 叶夢も、叶夢もー!』

 するりと【切替】が行われ、叶夢が無理やり【表】に出てきた。

「叶夢くんもお疲れ様!」
「えへへへ〜」

 【切替】後でもお父サンの手は止まることなく、叶夢はご満悦といった様子でそれを受け入れていた。

 ────まったく。

 心も身体も、他の人よりも成長している私たちなのに。
 お父サンにはいつまで経っても、甘えたがりである。



「試験はどうだった?」
「楽しかったのですよ!」
『筆記キツかったヨゥ……』

 私たちの報告を、お父サンは楽しそうに聞いてくれた。

「聞いてくださいおとーさん! 叶夢、人生初のお友達ができたのですよ!」
「へぇ、どんな子だい?」
「紫色で、目付き悪いです!」
「うーん、抽象的!」
『心操人使クン。ちゃんとお礼が言える良い子だヨゥ。雄英の試験を受けに来てたんダァ』

 名前を聞いたお父サンは思い当たる節があったのか、「ああ!」と手を打ち鳴らした。

「叶夢くんがゼロPの仮想ヴィランから助けた子だね?」
「み、見てたですか!?」
「もちろん! 審査員だからね!」

 胸を張るお父サン。
 そうだった。このひと、雄英高校の校長なんだった。
 そりゃ試験の審査員もやるよね。

「いやぁ、それにしてもゼロPから逃げずに倒す子が、二人も出るとはね」
『叶夢以外にもいたノ?』
「うん。その子は……1Pも取れなかったんだけどね」

 え?

『あのデカブツを倒せるくらいの力があるノニ、ゼロPだったってコト?』
「うーん、どうやら緊張していたみたいでさ。初めからなかなか動けなくて、最後の最後でゼロPに襲われそうになった他の受験生を助ける為に咄嗟に動いちゃったって感じかな?」
『ソレって……』
「叶夢と同じなのですよ!」

 パァッと目を輝かせて、叶夢が身を乗り出す。

「ソイツ、雄英に来るですか? 是非ともお友達になりたいのですよ!」
「HAHAHA、どうだろうねぇ? 入学できたら分かるさ!」

 意味深にお父サンが笑い、久しぶりになる家族揃っての夕食は終わった。





 ────叶夢が一緒に行ってやるのです!

 散々な試験の後、すぐに気持ちを切り替えて筆記試験に臨んだ。
 驚く程にひどく好調で、かなりの手応えを感じた。勘違いでなければ、高得点を取れたと思う。

 ────生まれて初めてのお友達なのですよ!

 スマートフォンに登録した自分の電話番号やメールアドレスを、それはそれは嬉しそうに見ていた。
 思い出している内に口端から笑い声が勝手に零れる。

「……変な奴」

 あれだけの“個性”があるのなら、俺なんかより上に行ってしまうだろうに。
 わざわざ振り返って手を差し出し、「一緒に行こう」と笑顔で宣ったソイツを、とんだエゴイストだと罵ることは何故かできなくて。


 ────無邪気なその声に誘われるまま、俺は眠瀬叶夢の手を握り返したのだった。 
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