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ジェミニの夢

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【第1話】夢見と叶夢、そしてお父サン。

 
前書き
眠瀬双子とお父サンとの出会いです。 

 
 この世界の人口の八割には“個性”と呼ばれる能力が確認されているらしい。
 私たちも例に漏れず、時期尚早と。難産に苦しむ母の胎内で、“個性”を発現させた。


 私たち────眠瀬夢見と、眠瀬叶夢は双子だ。
 瓜二つの身体を持って生まれるはずだった、一卵性双生児。
 けれども私たちの出産は、私たち自身と、母親さえも危険に晒してしまった。

「たすけなくちゃ」

 必死だった。
 母を、片割れを。助けたいと強く願った。
 母が、片割れが。私を助けたいと強く願うのを、確かに「聞いた」。

 私たち双子はその結果として────二人で一つに成ったのだ。






 白い服を着た大人たちの声は、よく聞こえていた。
 ひどく、ひどく────耳障りだったのを、よく覚えている。

「非常に珍しい例です」
「互いの命を助ける為に」
「母親か子どものいずれかが死ななければならない状況下で」
「本能によるものなのか定かではありません」

 奇跡的な生還を果たした私たちが目を覚ますと、そこは母親の腕の中ではなく、どことも知れない研究所だった。
 辺りをいくら見渡せど、愛する母の姿は見当たらない。
 怯える私をよそに、研究者たちはまるで珍獣でも観察するかのようにガラス越しに私たちを見ていた。

『ごちゃごちゃとうるせーのです!』

 口が悪かった母の言葉を真似て、叶夢が暴言を吐いた。
 私たちを命からがら生んでくれた母。胎内から聞こえていたその口調は荒々しかったけれど、いつだって私たちを元気づけてくれていた。
 だからこそ、叶夢はそれを真似ているのだと理解した。

『かなむたちは、かなむたちなのです。さっさとおうちにかえせなのです! おかーさんにあわせろなのです!』
「なんと」
「言葉を理解して発するのか」
「実に興味深い」

 普通の赤ん坊では有り得ない知性をも見せた為か、大人たちはますます私たちに執着した。

「カナム……」
『だいじょーぶなのですよ、おねーちゃん! かなむが、おねーちゃんをまもってやるのです!』

 縮こまって怯えるだけの情けない私とは反対に、叶夢はとても抗戦的だった。
 そして、母に負けない明るい声で私を励ましてくれた。

『かなむが、たたかうのですよ! あんなやつら、ケチョンケチョンにしてやるのです!』
「だ、ダメだヨゥ……カナムがケガしちゃうヨゥ……」

 一つの身体に同居する片割れを心強く思う一方で、失うことを私は何よりも恐れた。

「カナムまでいなくなっちゃったらワタシ……」
『ああああ! なかないで、おねーちゃん!』

 すぐに泣いてしまう私を、叶夢はいつも慰めてくれた。
 そんな叶夢に甘えてしまう自分が、もっと嫌だった。

「カナム、カナム……ワタシ、強くなりたいヨゥ……」
『おねーちゃん……』
「あんなやつらやっつけて、はやく、おかあサンのところに、かえりたいヨゥ……!」

 そう強く願った、そのときだった。



「やあ!」




 初めてソレを見たとき、驚きで声が出なかった。

 ────ネズミが、二本足で立って喋っていたから。




「ね、根津!? 何故ここに……!?」
「HAHAHAHAHA! なに、ちょっとした散歩だよ! ついでにヒーロー活動もね!」

 発作的な笑い声とともに、ネズミは手にしていたスイッチのような何かを押した。



 ────Booooooooooom!!!!



 どこかで、何かが爆発する音が聞こえてきた。





「やぁ! 君たちが眠瀬くんの子どもたちだね?」
「あ、アナタは、ダレ……?」
「僕は根津! 君たちを迎えに来た――――ヒーローさ!」



 HAHAHAHAHA!とやっぱり発作的な笑い方をするそのネズミ――――もとい根津サンは、私たちの小さな身体をそのふさふさな腕で抱き上げてくれたのだ。









「というわけで、今日から僕が、君たちのパパだよ!」

 怒涛の救出から数日後、私たちは再び根津サンのふさふさな腕の中にいた。

『なに勝手なこと抜かしてるですかこのネズ公』

 私たちをあやしながらサムズアップする根津さんに対し、叶夢が辛辣なセリフを吐く。
 ここしばらくたくさん本を読んだおかげで、私たちの言葉は前よりもはるかに上達していた。

『叶夢たちにおとーさんなんていらねーのです』
「その声は眠瀬叶夢くんだね? 初めまして、僕は根津だよ。パパだよ!」
『人の話を聞けなのです! 何なんですか、このびっくりアニマルは! 親を名乗るなら種族からやり直せなのです!』

 何気に話すのが初めてとなる叶夢は、ここぞとばかりに暴言を放つ。
 叶夢が覚えたての言葉をわあわあと好き勝手に言っている間、私はただただ呆然としていた。

「おとう、サン?」
「なんだい?」
『ちょっとおねーちゃん!? この生物を親だと認めちゃうのですか!? 叶夢はぜーったい嫌なのですよむぐぅ!』

 元気に喚いている片割れを、一度黙らせる。
 申し訳なく思うが、話が進まないので致し方ない。

「根津サンは私たちのお母サンを知っているんデスカ?」

 行方知れずとなった、私たちの母親を。
 生まれたばかりの私たちの前から消えてしまった人のことを。

「君たちのお母さんは、僕の友達なんだ」
「……お母サンは、私たちを捨てたんデスカ?」

 それは、周囲の大人たちに怖くてずっと訊けなかった質問だった。
 
 このひとなら、真実を話してくれるかもしれない。
 このひとの口から語られた事実なら、受け止められるかもしれない。

 ────何となくだけれど、そう思えた。


「いいや、君たちは託されたのさ!」

 根津さんは私たちの目をじっと見つめて、力強く答えた。

「託サレタ……?」
「君たちのお母さんは、君たちに未来を託した。そして君たちを託された僕には、君たちを見守る義務があるのさ!」

 HAHAHA! と軽快に笑い声を立てて、あの日のように手を差し出してくる。




「夢見くん、叶夢くん! 不束なパパだけど、よろしくね!」 
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