戦国異伝供書
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第六十二話 赤と黒から黄へその十二
「気にする程でもないか」
「そうですか」
「うむ、ではやがて飲もうぞ」
その茶をというのだ、そうしてだった。
竹千代は実際に彦五郎と共に雪斎が煎れた茶を飲んだ、彼ははじめて読んだその茶についてこう言った。
「これは実に美味い」
「そう思うか」
「はい、飲みますと」
竹千代はさらに話した。
「目が覚めますし」
「拙僧の言った通りじゃな」
「これは学問にもよいですな」
「その通りじゃ、それでじゃ」
「仏門の修行の時にもですか」
「飲むのじゃ」
その目覚ましの為にというのだ。
「元々はその為に入っておった」
「そうでありますか」
「しかもでおじゃるな」
ここで彦五郎が雪斎に言った。
「これが道にになっている」
「左様であります」
「茶道でおじゃるか」
「上方の方で出来てきております」
「上方でおじゃるか」
「堺に千利休殿という方がおられ」
そうしてというのだ。
「その御仁が茶の道を固めておられます」
「そうでおじゃるか」
「それで、です」
「その茶道もでおじゃるか」
「それがしは今川家に伝えたいと思っております」
「そこまで考えているとは」
「茶がいいと思いますので」
それ故にというのだ。
「ですから」
「そうでおじゃるか」
「そしてです」
雪斎はさらに話した。
「茶は高いですが」
「それはどうするでおじゃるか」
「茶の葉を多く植えればいいのです」
雪斎は火驕ろうに即座に答えた。
「そうすればです」
「高い茶の葉も安くなってでおじゃるか」
「そしてです」
「多くの者が飲める様になるでおじゃるか」
「そうなります」
「ではです」
ここでまた竹千代が言ってきた。
「どの様なものも多くあれば」
「左様、味噌も昔より安いな」
「今も贅沢なものですが」
「それでもじゃ」
「昔はより、ですか」
「高かったのじゃ」
「しかし多く作る様になり」
それでというのだ。
「安くなったのじゃ」
「それで茶もですか」
「うむ、安くなっていく」
茶の葉を多く植えればというのだ。
「多くなればな」
「では味噌も」
「他の豆から作るものもな」
味噌だけでなく、というのだ。
「納豆等もそうじゃ」
「左様ですか」
「このことも覚えておく様にな」
「わかり申した」
竹千代は雪斎に素直な声で答えた。
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