| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

戦国異伝供書

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第六十一話 一騎打ちその九

「深追いはせずにな」
「決着を言われていましたが」
 山本は信玄に問うた。
「もうそれは、ですか」
「今ではなかった様じゃ」
 これが信玄の返事だった。
「だからじゃ」
「それで、ですか」
「今はよい」
「左様ですか」
「またの機会とする、しかし」
「時が来ればですな」
「その時に決着をつけ」
 そうしてというのだ。
「その時こそな」
「長尾殿を家臣とされますか」
「そう考えておる、ではな」
「これで、ですな」
「長尾殿が去れば」 
 その時にはというのだ。
「もうそれでじゃ」
「我等もですか」
「退くとしよう」
 こう言ってだった、信玄は今は深追いはせず上杉の軍勢を下がらせた。そして謙信も素早く兵を退かせ。
 越後まで退いた、そこで自軍を見て思わずこう言った。
「多くの兵が死に、傷付きましたね」
「六割以上の兵がそうなりました」
 兼続が答えた。
「残念ですが」
「ここで武田殿を降したかったですが」
「お心察します」
「しかしこれも運命でしょう」
「運命ですか」
「はい、武田殿を降す時ではなかった」
 こう言うのだった。
「そうだったのでしょう」
「左様でありますか」
「ですから」
「今は、ですか」
「引き分けもです」
 そうなったこともというのだ。
「仕方なきこととして」
「それで、ですか」
「終わらせましょう」
「それでは」
「時をあらためて」
 そうしてというのだ。
「戦いましょう」
「そうされますか」
「そしてその時こそ武田殿をです」
 甲斐の方を見て言うのだった。
「降しあらため」
「そのうえで」
「わたくしの家臣とします」
 こう言うのだった。
「そうします」
「左様ですな」
「はい、それでは暫くは」
「甲斐には」
「進みません」
 こう言って謙信も今は様子を見ることにした、だが彼も信玄も信長が急に動くのを見てだった。
 信玄は唸ってだ、家臣達に言った。
「まさかな」
「織田殿が、ですな」
「今川殿に勝ってじゃ」
 嫡男の義信に答えて述べた。
「そうしてじゃ」
「伊勢及び志摩を一戦も交えず手に入れられ」
「美濃も手に入れてじゃ」
「上洛もされ」
「二十国以上の主となられるとはな」
 このことを言うのだった。
「流石にじゃ」
「思いも寄りませんでしたか」
「全くな」
 このことを唸って言うのだった。
「そこまでとは思わなかったわ」
「お館様、今の織田殿ですが」
 馬場が言って来た。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧