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全く気付かなかった

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第一章

               全く気付かなかった
 八条義統はこの時八条学園高等部に通っていた、そこでは成績はクラスで四番位の優秀な生徒であった。
 背は高くスポーツも出来てしかもだった。
 顔もよかったのでもてていた、だが家では弟達や妹達にだ。いつも笑顔でこう言っていた。
「僕はもてないのだよ」
「もてないんだ」
「お兄様はもてないのね」
「そうなのね」
「もてそうなのに」
「そう、もてないんだよ」
 こう言うのだった。
「全くね」
「そう思えないけれど」
「そうよね」
「お兄様ならもてると思うけれど」
「どう考えても」
「全くもてないよ」
 弟や妹達、二人の弟と二人の妹達に言うのだった。
「本当に」
「そう思ってるだけじゃないかしら」
 妹の一人がこう兄に言った、眉目秀麗という言葉が実によく似合う貴公子然とした兄の顔をみながら。
「お兄様が」
「僕は嘘は言わないじゃないか」
「それでもね」
 そんな兄でもというのだ。
「気付いていない」
「そうしたことがあるから」
「それでよ」
 こう兄に言うのだった。
「お兄様はね」
「気付いていなくて」
「それだけじゃないかしら」
「僕はそうは思えないよ、とにかく学校ではね」
「もてないのね」
「友達は性別に関わらず多いけれど」
 このことは嬉しく思っているがというのだ。
「恋愛についてはね」
「無縁かな」
「そうなんだ」
 今度は弟の一人に答えた。
「本当にね」
「そうかな」
 彼の弟や妹達は兄が嘘を言わないことは知っているがそれでも信じられなかった。それで彼等だけでだった。
 兄のことを考えた、それで話した。
「絶対に違うよね」
「ええ、どう考えてもね」
「お兄様がもてないとか」
「それはないよ」
 絶対にとだ、四人で話した。
「お顔はあれでスタイルもよし」
「成績も優秀でスポーツも出来る」
「しかも性格も穏やかで公平で気さくで」
「一族の僕達の年代で一番の人格者なのに」
 八条家の将来の総帥の座が約束されているだけにそのスペックの高さが期待されてもいるのだ。連合屈指の企業グループの経営者一族である八条家のだ。
「それでもてないとか」
「お金持ちはもてるっていうし」
「実際に八条家は資産家なのは事実だし」
「そのことも考えると」
 絶対にというのだ。
「もてない筈がないから」
「お兄様の場合は」
「それこそアイドルみたいにもてそうよ」
「スポーツ選手か」
 そうした注目される人達の様にというのだ。
「もてない筈がないのに」
「どうしてそう言うのかしら」
「ご自身がもてないとか」
「気付いていないとしか」
 他ならぬ八条自身がというのだ。 
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