戦国異伝供書
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第六十一話 一騎打ちその四
「遂に長尾殿が動いたわ」
「長尾殿も出陣されたのですか」
「この戦の場に」
「ご自身もうって出られましたか」
「総大将自ら干戈を交えるのは戦の常道でない」
強い声での言葉だった。
「それはな、だが」
「長尾殿にはですか」
「その常道が通じない」
「そうした方だというのですか」
「これまでを見るのじゃ」
謙信のそれをというのだ。
「長尾殿はそうした御仁であろう」
「そう言われますと」
「確かに」
「常では言えませぬ」
「そうした方です」
「だからじゃ」
それでというのだ。
「わしも今言うのじゃ」
「左様ですか」
「そう言われると我等もです」
「長尾殿のこれまでを見ていますと」
「どうにも」
「あの御仁はじゃ」
まさにというのだ。
「戦を知っているからこそな」
「常道に囚われぬ」
「兵法についても」
「そうした方だからですか」
「この度も」
「源次郎達の奮戦と援軍が来たことで我等は助かった」
軍勢自体はというのだ。
「それはな、しかしじゃ」
「それでもですか」
「長尾殿は」
「それでもですか」
「そこで終わる御仁ではない」
到底というのだ。
「だからな」
「これからもですか」
「仕掛けて来られる」
「我等の思いも寄らぬ方法で」
「そうだと言われますか」
「そうじゃ」
その通りだというのだ。
「だからわしも言うのじゃ」
「左様ですか」
「だからこそですか」
「我等にも言われますか」
「油断するなと」
「そうじゃ、このことはじゃ」
まさにとだ、信玄はここで言った。
「今は何よりも大事じゃ」
「この戦では」
「左様ですか」
「だからですか」
「我等もですか」
「油断するでない、そしてじゃ」
信玄はさらに話した。
「わし自身もじゃ」
「お館様もですか」
「そうされていますか」
「油断されていない」
「左様ですか」
「そうじゃ」
信玄の返事場変わらなかった。
「この場でな」
「山の様日ですな」
「動かれませぬな」
「そうされますな」
「山は時として何よりも強い」
信玄は己の兵達にこうも話した。
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