戦国異伝供書
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第六十一話 一騎打ちその三
「あえてな」
「そしてですな」
「我等が来たことを知らせる」
「本軍にも長尾家の軍勢にも」
「そのどちらにも」
「そうせよ、ではな」
ここでだ、武田の別動隊はこれ以上はないまでに声をあげた。そうして自分達が戦場に着いたことを知らしめた。
その声は謙信も聞いていた、だが彼は冷静にだった。
周りの兵達に落ち着いた声で言った。
「ではです」
「出陣されますか」
「殿も」
「そうされますか」
「はい」
まさにというのだ。
「これより」
「ですが」
旗本の一人がここで謙信に言った、政景も宇佐美も今は自分達の軍勢を率いて既に出陣してしまって本陣にいない。
「今は」
「敵が来ましたね」
「はい」
まさにと言うのだった。
「ですがそれでもですね」
「だからこその車懸かりです」
この陣だというのだ。
「この陣はあらゆる方に戦えます」
「では」
「はい、最初からです」
まさにというのだ。
「敵の別動隊が来るとです」
「わかっておられて」
「この陣にしました」
「左様ですか」
「そして」
謙信はさらに話した。
「わたくしはです」
「これよりですね」
「出陣して」
そしてというのだ。
「そのうえで」
「さらにですね」
「仕掛けます」
「出陣されて」
「そうします」
「そのうえで、ですか」
「武田家との戦を終わらせます」
こう旗本に言うのだった。
「何があろうとも」
「左様ですか」
「だからこそです」
「敵の別動隊が来ても」
「わたくしは出ます」
「わかりました、では」
「出陣です」
こう言って実際にだった。
謙信も出陣した、だが援軍は上杉の軍勢に迫り。
攻めはじめた、それを見て武田の兵達は言った。
「遂に来てくれたか」
「これで我等は助かった」
「うむ、これまで辛抱した介があった」
「これで我等は勝てる」
「そうなるぞ」
「いや、喜ぶのはまだ早い」
信玄はその彼等に座したまま話した。
「まだ敵の軍勢は目の前におるのじゃ」
「戦は続いている」
「だからですか」
「喜ぶには早い」
「そう言われますか」
「車懸かりは止まっておらぬ」
謙信が敷いたこの陣の動きはというのだ。
「だからじゃ」
「まだですか」
「まだ油断せず戦うべき」
「そう言われるのですか」
「その通りじゃ、それにじゃ」
信玄は敵陣の動きを見てさらに言った。
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